お金の流れで探る現代権力史 「世界の今」が驚くほどよくわかる

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784046017628

感想・レビュー・書評

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  • 「お金の流れ」を軸にして近現代の歴史を整理。歴史を眺めることでこれから先の流れもうっすらと見えてくる。アメリカの衰退と中国の覇権獲得、その中での日本の立ち位置や役割など、色々と考えさせられます。

  • 歴史を経済的な側面から見直して分かりやすく解説をするシリーズの現代史版。いまの我々に繋がっている現代史なだけにいままでの中でもっとも参考になった。

    現代史を経済の側面で見ると、「基軸通貨」、「石油」、「イギリスは悪い」の3点に集約される印象を持った。現代史は覇権国家の時代であり、覇権国家の力の源泉は軍事力と基軸通貨であった。とくに基軸通貨を押さえると国際貿易を押さえることとなり、基軸通貨国家はお札を刷りさえすれば価値を無尽蔵に作り続けることのできる極めて大きなメリットを有することになる。03年のイラク戦争も実はアメリカの石油決済における基軸通貨を守るための戦いであったことがこの本でつまびらかにされている。

    現代は石油動力、石油化学の時代とも言え、石油の権益を巡る狂騒の歴史とも言える。現代史の殆どの紛争や混乱は石油を巡るものであったと言うことがこの本でわかる。21世紀は何を巡る紛争の歴史になるのであろうか?

    そして、そういった基軸通貨による貿易の支配、石油権益を巡る混乱、直近で言うとタックスヘイブンという鬼っ子、これらすべてを発明したのがイギリスであり、現代史はイギリスの悪巧みによる歴史と言えなくもないなと思えた。

    経済なら経済、という軸一本で歴史を見ないとなかなかこういうシンプルな本質は見えてこないので、とても勉強になった。

  • この本の著者は元国税調査官の大村氏で、今までは金持ちの人たちの資産形成方法等を解説する本を私は読んできました。お金持ちの思考方法は、私のような一般人とは違うのだなと感じています。その彼による、現代世界史の解説版です。

    今まで多くの本において現代史を読んできましたが、それと比較して特徴的なのは、出来事を「お金の流れ」の観点から解説してあることです。

    お陰様で、なぜ二回の世界の世界大戦が起きたのか、それまで争っていた、ドイツとフランスが仲直りをして、EUの基礎をつくれたのか、覇権を失ったイギリスは、どういう方向に向かったのか。今、問題になっている、タックス・ヘイブンを作ったのは大英帝国であり、それが現在も力を握っていること、国際金融は、ニューヨークではなく、まだロンドンに握られていることも初めて知りました。目から鱗が落ちまくった、記念すべき本でした!

    以下は気になったポイントです。

    ・イギリスは産業革命を成し遂げたから世界覇権を握ったのではなく、産業革命以前にスペイン無敵艦隊を破り、スペイン・ポルトガルの持っていた植民地を横取りし、その資本により産業革命がなされた(p14)

    ・ドレイクは海賊航海を成功させ、一航海でイギリスに60万ポンドをもたらし、エリザベス女王に半分渡した。当時の国家予算が20万ポンド、女王はこれにより債務をすべて返済して、残金を地中海貿易へ投資(p16)

    ・イギリスは海賊行為と並行して、国家の経済システム(税・銀行)の近代的合理的制度を整えた、1694年にイングランド銀行(中央銀行)をつくり、政府の国債を引受ける代わりに同額の銀行券=紙幣を発行する権利を持った(p17、18)

    ・イングランド銀行は資本金を民間から公募したことから、ライバルのフランスよりも低利(5-6%に対して3%)で資金調達ができたので、軍事力の強化につながった(p20)

    ・広大な植民地から原料を取り寄せ、近代化した工場で工業製品を大量生産、それを世界中に売りさばく、このビジネスモデルによりイギリスは繁栄して、19世紀には世界の超大国となった(p20)

    ・アメリカが、フランスからルイジアナ州を買収したときは、イギリスのベアリング銀行がアメリカ国債を引き受けている、ニューメキシコを購入した時も同様、アメリカ大陸鉄道の大半もイギリス投資、アメリカを始めとして、アジア・アフリカなど世界中に投資を行った(p26)

    ・イギリスは第一次世界大戦時、ドイツの潜水艦による海上封鎖で輸出入ができずにダメージを受けた(p28)

    ・大戦前は、イギリスはアメリカに対する圧倒的な債権国であったが、大戦後には逆転した。アメリカはイギリスに対して債権をびた一文負けなかった(p29)

    ・アメリカは、1803年の独立から20年後、フランスからルイジアナを購入、1819年にはスペインからフロリダ、原住民からは、オハイオ・インディアナ・イリノイを購入、1845年にはメキシコ領だったテキサスを併合、カリフォルニア・ニューメキシコ入手した(p31)

    ・第一次世界大戦では、戦闘機・戦車・潜水艦などの新兵器が投入された、これらを動かしていたのは石炭ではなく、石油(p34)

    ・アメリカ経済は大きく成長して、大量の金が入ってきたが、それを投資に回そうとせずにインフレ警戒のため、金の溜め込みを行った(1922.8以降に流入した金を連邦準備銀行の金準備に含めなくした)、これが世界大恐慌の要因の1つとなった。(p37)

    ・マーシャルプランは、1948-51年まで、102億ドル(90億ドルは贈与)の経済援助をした、年間予算の20%に相当する。この理由は、アメリカの輸出:160億ドルの半分が貿易黒字で相手は欧州国、彼らにはドルも金もなく、輸入が不可能な状態となっていた。輸入が止まればアメリカ経済もダメージ(失業問題)を受けるため(p45)

    ・第二次世界大戦は、ドイツがポーランドに侵攻したことが発端、ポーランドを守るために、英仏がドイツに宣戦布告した。このとき、ソ連もポーランドに侵攻し、ドイツ・ソ連で秘密条約を結び、ポーランド分割をしようとしていた。ソ連がフィンランドに侵攻したとき、国際連盟はソ連を除名したが、軍事的制裁は行わなかった。しかし英仏はソ連には宣戦布告しなかった、戦う余力がなかったから(p53)

    ・アメリカはソ連に対して、合計113億ドル分の武器をほぼ無償で提供、軍用機15000機、戦車7000輌、軍用自動車40万台、これを利用してソ連は東欧を占領しつつ、ドイツを自力で駆逐した(p55)

    ・第一次世界大戦後に、中東で採算にあう油田が発見された、1908イラン、1927イラク、1932バーレーン、1938サウジアラビア、クウェート(p71)

    ・1945.2ヤルタ会談直後に、ルーズベルトと、イブン・サウド国王の極秘会談があり、石油取引をドルで行う代わりに、アラブ王国が脅かされた場合、軍を出動させて守る確約をした(p72)

    ・ユダヤ人が最も多く住んでいるのはイスラエルでなくアメリカ、大航海時代にスペイン・ポルトガルはユダヤ人を追放したが、イギリスはしなかった、そのため世界中のユダヤ人がアメリカ大陸へ流れ込んだ。(p75)

    ・アメリカのユダヤ人団体がイスラエルに寄付金を送るときには税金はかからない、他国の場合へは税金がかかるが、これもユダヤ人のロビー団体が強い影響力を持っているから(p76)

    ・マーシャルプランの西ドイツへの額は少なかった、更には、連合国が占領している経費は西ドイツもちであった、西ドイツの占領経費と防衛費は、歳出の20-40%、GDPの5%超、しかし西ドイツの復興は日本の10年の半分で成し遂げた(p79、80)

    ・二度の世界大戦は、ドイツが「英仏米から叩かれた戦争」であった(p83)

    ・明治維新から第二次世界大戦前までの70年間で、日本の実質GNPは約6倍、実質賃金は3倍、実質鉱工業生産は30倍、農業生産は3倍、これは戦後の経済成長よりも凄い(p92)

    ・明治10年には封建制度的な規制はほぼ撤廃した、封建から近代への改革をたった10年足らずでやり遂げた(p92)

    ・職業選択の自由、交通の自由、居住の自由は、明治4年(1871)の戸籍法など、土地の売買の自由は明治5年の、地券渡方規則、により確立された、これは大変な改革であった(p94)

    ・自動織機とは、材料の糸が切れたときに自動的に補充する機能がついた機械のこと(p97)

    ・世界貿易における綿製品など繊維製品の割合は20%、この綿製品の貿易シェアはイギリスがダントツであったが、これを1928年にはイギリスの37%、1932年には92%となり、1933年には追い越した、それで日本製品を締め出すためブロック経済に踏み切った(p99、100)

    ・日本の鋼材の生産設備は、敗戦時も戦前の水準である約1100万トンの生産能力があった、いわれているほど産業へのダメージがなかった(p101)

    ・イランでは1953年にパーレビ国王が政権に返り咲き、イギリス独占であったが、アメリカに恩義を感じたパーレビ国王は、アメリカ企業:40、イギリス:40、残りをフランス、オランダに配分した(p105)

    ・サウジアラビアの石油を独占していた、アメリカ企業のアラムコ(エクソン、モービル、シェブロン、テキサコの合弁会社)は1949年にはサウジアラビア政府に払う鉱区利用料の3倍もの収益を上げていた、1950年には石油収益を1:1に分配するように変更した(p112)

    ・イランイラク戦争において、1982年に戦況がイランに傾くと、フセイン政権であるイラクに武器支援を始める。(p130)

    ・国民党政権の腐敗がひどく、国民党軍の多く(半分以上)が共産党軍に寝返った、そしてアメリカが国民党に支援した武器の8割以上が共産党に渡っていた(p138)

    ・日本と中国との戦後賠償は、台湾国民党政府との間でかわされた、日華平和条約で、中国側が賠償請求権を放棄することになっていた(p148)

    ・1991年12月、ソ連の中核となる、ロシア、白ロシア、ウクライナの3か国代表が秘密会談を行い、ソ連からの離脱を決定し、ソ連は崩壊した(p171)

    ・2000年11月、フセイン大統領は石油取引をドル建てからユーロ建て(フランス、ロシアの会社)に変更した、これがアメリカの尻尾を踏んだことになった(p197)

    ・バーボンウィスキーとは、アメリカが独立戦争時に、フランスの支援に感謝して、ブルボン王朝から取った名前(p209)

    ・ベルリンの壁ができたのは、1949-1960の間に、250万人もの東ドイツ国民(4分の1)が西ドイツへ亡命したから(p212)

    ・ドイツの屈辱は、東西分断、ベルリンの飛び地、ルール工業地帯の連合国管理(英、米、仏、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)があった、そんなときにフランスから持ち掛けられたのが、欧州共同体計画であった、これは、フランス・西ドイツ・イタリア・ベルギー・オランダ・ルクセンブルクの6か国の鉄鋼業、石炭業を統合し、ルール工業地帯も共同管理しようとするもの(p213)

    ・AIIB(アジア・インフラ投資銀行)と同様の趣旨を持つ、アジア開発銀行は、出資比率が日本:15.7%で筆頭、アメリカが15.6%、なので日米は参加していない(p227)

    ・タックスヘイブンで一番被害を受けているのは、アメリカ政府、ケイマン諸島の半分はアメリカの関連企業(p237)

    ・イギリスでは植民地への投資を増やすために、植民地の企業の税金を安くしていた、なので植民地には多くのイギリス企業が移転してきたのが始まり(p242)

    ・イギリス領の島々であれば、自治領なのでイギリスの責任外をいう言い訳が可能、アメリカはマーシャル諸島で行い始めた(p243、245)

    ・ウォール街の金融取引量は世界一だが、大半は国内取引、アメリカの市場が大きいということ。しかしマネーゲームの総本山はロンドンシティ、イギリスの外為取扱量は、1日2.7兆ドルで、2位のアメリカは半分以下(p247)

    2017年5月1日作成

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著者プロフィール

1960年生まれ、大阪府出身。
元国税調査官。主に法人税担当調査官として10年間国税庁に勤務。
現在は経営コンサルタントの傍ら、ビジネス・税金関係の執筆を行なっている。フジテレビドラマ「マルサ!!」監修。著書に『脱税のススメ』シリーズ(彩図社)、『完全図解版 税務署対策最強マニュアル』(ビジネス社)、『サラリーマンのための起業の教科書』(小学館)などがある。

「2023年 『正しい脱税』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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