- Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
- / ISBN・EAN: 9784046529398
作品紹介・あらすじ
死刑判決を受けたあさま山荘事件のことや、獄中から見た世の中をせつせつと詠いあげる。おのれのためでなく死刑廃止を願う真意とは。〈あらざるにわが子の名前を考へをり死刑囚にして独り身のわれが〉。
感想・レビュー・書評
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室のなかに吾が子ゐるがに捨てしかの包み紙よりチョコの香立てり
坂口 弘
作者は、1972年のあさま山荘事件の中心人物。仲間へのリンチ殺人に関与した罪で死刑判決を受け、現在、死刑確定囚として、20年以上東京拘置所に収容されている。
2007年、最初の歌集「常【とこ】しへの道」が刊行され、この度、佐佐木幸綱による選歌で2冊目の歌集「暗黒世紀」が世に出された。
坂口は、東京水産大(現、東京海洋大)中退後、労働運動を経て、連合赤軍に参加。10数人もの仲間を死へと追い込んだその胸中を、簡潔な短歌形式に盛り込むことは、かなり難しいものだろう。けれども、日々の環境と、新聞などを通して抱いた現在の日本に対する不安を、タイトル「暗黒世紀」に込めたという。
朝目覚めいかばかりわれら世の人を痛まさせしかと項【うなじ】垂れをり
「世の人を痛ま」させた当事者が、歌を作る行為を通して、みずから「人」として生き直そうとする心の動きがある。
坂口の原風景には、大学の課外実習で目にした、過酷な環境下の水産労働者の姿があった。「人」が、重要な歌語である。
あらざるにわが子の名前を考へをり死刑囚にして独り身のわれが
すでに年齢は70歳に近く、「独り身」で子どももいない。掲出歌は、想像力の中で、もしかするといたかもしれない「吾が子」に思いを馳せている。
あり得たかもしれない、もう一つの人生。「チョコの香」は、甘くはなく、苦い。
(2015年6月14日掲載)詳細をみるコメント0件をすべて表示