食べもの俳句館 (角川選書 219)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (275ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784047032194

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  • 草間時彦さんは、1920(大正9)年〜2003(平成15)年の俳人で、
    俳句協会理事長も務めた方。

    一月から十二月にわたる、食べ物にまつわる俳句を紹介しながらのエッセイで、楽しく品よく、適度に諧謔味もあり、内容は濃い。
    芭蕉や一茶などの古い句や、草間さん自身の句も載っている。

    気取った料理は出てこない。
    ワインに合うちょっとおしゃれな食べ物は登場するけれど、どれも家庭的。
    食べ物と、それに乗せる「気持ち」が大切なのだ。
    楽しい思い出だけでなく、「戦争中、嫌というほど食べさせられたから、カボチャだけは嫌い」という年代の人も多いようだ。

    草間さんは、特に子供の頃お母様が作ってくれた料理が懐かしいようだ。
    卵焼き、五目ずし、父が急に子供を連れての山歩きを思い立った時の焼きむすびの焦げ加減、運動会のお弁当の海苔巻き。
    最近(と言っても、1990年頃だろう)の運動会をのぞいたら、ホカ弁やハンバーガーの子がいた。少しかわいそうに思ったのかもしれない。
    そして、句会でうっかり「子供の運動会のお弁当は母親の手作りにして欲しいですね」と言ってしまって、若い女性に「私の家ではパパが作ります。パパの方がうまいのですもの」と言い返されたりしているのもご愛嬌。
    大正生まれの方のジェンダー意識は、まあ大目に見てあげたい。

    「本当はメグレ警部を読んでいたのだけれど、字数の関係でクリスティにした」などとカミングアウトしてしまう楽しい人でもある。

    一月、小学校の頃の、アルミの弁当箱をストーブで温めた醤油の匂いから始まる。
    十二月、終戦の翌年の暮れ、蕎麦が食べられる平和が戻ったことを「海苔の艶(つや)」と詠んだ句の紹介で終わる。

    気候が変わって食べ物の旬が変わり、季語にも影響が出ていること。
    風習が変わって、季語が死語になっていくことも時代の移り変わりである。
    食べ物や年中行事の謂れも詳しく書かれている。
    丹念に読ませていただいた。

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