ポピュリズムへの反撃 現代民主主義復活の条件 (角川oneテーマ21 A 124)

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  • 角川書店(角川グループパブリッシング)
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  • Amazon.co.jp ・本 (221ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784047102569

作品紹介・あらすじ

ポピュリズム=大衆のエネルギーを動員しながら一定の政治的目標を実現する手法。私たちを自滅的な政治選択に導くレトリックの正体。ポピュリズムと言葉という切り口から、この10年間の日本の政治について考える。

感想・レビュー・書評

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  • 2010年10月初版発行。先日(2012/4/30)ドイツの週刊誌『シュピーゲル』Web版が、ドイツ海賊党をポピュリズムの運動のなかから生まれた「善いポピュリズム」であるとの論説記事を掲載していました(下記参照)。本書は、その記事を読んで、ポピュリズム概念と実際の政治過程の検証について関心があり、手にした新書の一冊です。
    本書はメディア勉強会での講義をもとに編まれたということもあって、読みやすいです。著者の(政治的な)立場にはすべては同意できないとしても、ポピュリズムの持つ両義性や、極端に単純化された政治問題の持つ「危険性」と有効性などについて、改めて確認することができました。ポピュリズムは多くの国々で広がりつつある現象ですので、そのことも視野にいれながら、本書での著者の処方箋を確認していきたいと思います。
    (参考)
    http://www.spiegel.de/politik/deutschland/0,1518,830552,00.html

  • 1〜2章、現在のポピュリズムまでの成り立ち
    3〜4章、当時の民主党政権の課題と展望
    戦後の昭和の時代はうまくやれていたのに、なんで今はうまくいかないんだろう?前と同じやり方で対処できないのかな?という、初心者な私の疑問を解決してくれた。
    シンプルにいけば資本家vs労働者の構図のはずだけど、小泉改革によってミスリード的線引き(政治家&市民vs中間団体)とされ、それに踊らされたという印象。
    裏表紙の「敵味方を正しく見極めよう!」という一見過激なキャッチコピーに慄いたけど、本来ありもしない対立構造を見せることで余計な分断を煽る人には気をつけよう、という教訓になった。

  • 政治

  • のっけから自民党打破を目指して、ガンバローなとこからスタートしててぶっ飛びましたが、講演内容をまとめたものなのね。フォーラムは言いたいことを言う場のようなものですから。こうしたところこそ、著者の論理のみならずそこに個人の心情みたいなものが立ち現れて興味深い作りではあるんですが。ネットでは香ばしい人と紹介されてますが、なんやかや政治と国民の間に発生するアクションの分析はちゃんとしてると思います。主な内容としてはポピュリズムの複雑な仕組みを語ったようなもので、解決するには普通選挙を止めるしかねーなこりゃ、という感じでした。

  • 立ち止まって、今の日本の政治状況を再考できる。皮肉なことに、本書だけに影響を受けると、その状況も悪いポピュリズムに陥ることもある。ジャーナリズム(主にテレビと新聞)の劣化が一番、気になる。マクルーハンではないが、「メディアはメッセージ」になっている。メディアは器ではない、メッセージそのものだ。

    自民党政権に戻っても、テレビ、新聞は相変わらずで、原発問題、集団的自衛権など扱いが、偏向している。政治家、官僚、マスコミが変わるように、有権者も変わらなければ。

    ・アメリカの場合、有権者登録の際、党籍も登録する。
    ・マンハイム:イデオロギーの虚偽意識への変化。自由の国アメリカでのマッカーシズムのように。救済の宗教団体が人を奈落に落とすような。
    ・ステレオタイプを共有することで、多数側に帰属し、迫害を逃れる利点もある。排除されるという機能は強いが。
    ・高齢者の家族内介護、夫婦別姓は伝統な問題ではない。きわめて近代的。
    ・中間層=中間組織の復活
    ・マニフェスト選挙:複雑性、曖昧性を受容しない、利便性の高い政治、商品としての政策の単純化。
    ・「リベラルー保守」「従来型ー改革」の2次元座標軸調査の浅はかさ。政策論議を貧困にする。
    ・消費だけではなく、生産、供給(労働?)も大事にする。
    ・ルール指向的に、政策的なサポートを公平に配分していくことに、日本人は慣れていない。口をきくみたいなもの、権威主義的な政治のとらえ方。
    ・民主党の政治主導は、丸山眞男の言う制度信仰。外形的な制度を変えれば中身も変わるという錯覚。
    ・政治的な選択は悪さ加減の選択。
    ・電話世論調査の落とし穴:時間をかけて考えない。質問間の整合性を考えない。
    ・企業収益と勤労者所得の1999年以降の乖離。
    ・みんなの党のいう、国家公務員10万人削減は、事務職員を全員首にしても追いつかない。治安や公衆衛生の職員も減らさざるを得ない。

  • これからの日本のために。

  • (「BOOK」データベースより)
    ポピュリズム=大衆のエネルギーを動員しながら一定の政治的目標を実現する手法。私たちを自滅的な政治選択に導くレトリックの正体。ポピュリズムと言葉という切り口から、この10年間の日本の政治について考える。

  • http://www.magazine9.jp/karin/101020/

    「自分より得・楽しているっぽい誰か」を見ると、条件反射的にイラッとくる気持ちはわかる。しかし、キツい言い方をすれば少なくない人の「条件反射」や「気分」がある意味でこの国の政治をグダグダにしてきた面も否定できない。ということで、私は自分に「条件反射」的反応を禁じている。とにかく、一度冷静になるように常につとめてはいるつもりだ。

  • 山口さんらしいのだが、それにしてもパンチ不足。あまり納得できなかった。

  •  ポピュリズム全肯定するわけでも全否定するわけでもなく、いかに向かい合うべきかを説いた本。

     「大衆主義」と訳されることもあるポピュリズムですが、その定義はイギリスの政治学者・クリックによると「政治指導者が多数派(政治統合体の外側に追いやられていると感じる人々)と信じる集団を決起させることを目的とする、ある種の政治のレトリックのスタイル」となる。

     ポピュリズムには単純な敵を設定してそれを攻撃するという形で民衆の不満に付け込んで支持を得るという側面もある。反官僚、猟官制を掲げて「普通の人」を積極的に政府の役職に登用しようとしたアメリカのジャクソン大統領のジャクソニアン・デモクラシーや「構造改革」に異を唱える者を「抵抗勢力」と見なして攻撃した日本の小泉政権はその例である。

     この他ポピュリズムに特徴的なのはステレオタイプである。これは「自分の周囲の秩序(平穏な日常)を犯罪などで乱されたくない」という秩序感覚、「人はステレオタイプを通してしか物事を見ることしかできない」(リップマン)という論に由来する。

     悪化すると、マンハイムの言う「虚偽意識」=ステレオタイプのイデオロギー、という形で体制批判を悪と見なすポピュリズムに発展する可能性もある。「自由な社会に異を唱える奴は自由の敵」と。あらゆる問題を市場や自己責任の問題に帰してしまう「社会的偏見」(バクラック&バラッツ)を正当化することにもつながる。

     著者はポピュリズムに対してはポピュリズムで反撃することを主張します。例えばプレカリアート(貧困)問題に取り組む雨宮処凛氏の活動はポピュリズム的な側面があるが、こうした活動を通じて若者が今置かれている不利益な状況を知らしめるという意味では当然であると言う。

     下手に「ポピュリズムなんて迎合はできるか」とお高くとまるより効果的でしょう。そうやっていい子ちゃんのように振る舞う人に限って体制批判をする人に攻撃的な気がする。

     昨年、政権交代が起きましたが、政治の迷走はまだ続く。民主党の体制や政策の問題点の指摘は他の本に譲るとして、この本では丸山眞男が言うところの「政治はベストの選択である、という考え方は『お上にお任せ』の権威主義から出る過度の期待に結びつきやすい」ということを主張する。

     今の日本はまさに政権交代への過度の期待が薄れ、「今気付いた。民主党は嘘吐きだ。騙しやがって」というような風潮がある。こういう前から予想されたであろうことを今更初めて知ったかのようにイノセントに驚いてみせることは罪深い。マスコミが作り出した虚像だろうが、これも権威主義がそもそもの源流か…

     同じ「よろん」でもその場の感情に流されやすい「世論」(popular sentiment)よりも熟議を経た「輿論」(public opinion)を語り、政党間対立の論点を明確化した上での政策協議をする必要がある。

     同じ著者の『若者のための政治マニュアル』のレビューでも書いたが、民主主義政治においては声を挙げなければ意見は反映されない。そもそも政治とは社会的資源、サービスの分配であり、その恩恵に与れない者が異議を唱えるのは当然である。

     その異議の内容の問題点を指摘するならともかく、「主張すること自体間違っている」というのは紛れもない権威主義である。異議を唱える過程がポピュリズム性を孕んでいたとしても、それ自体は責められるべきではないだろう。

     ポピュリズムを含めた政治を学ぶ上で大いに勉強になる一冊である。

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著者プロフィール

法政大学法学部教授・行動する政治学者
1958年生まれ。東京大学法学部卒、北海道大学法学部教授、同大学院公共政策学連携研究部教授などを経て、2014年より現職。最初の著作『大蔵官僚支配の終焉』(岩波書店)により、自民党と財務省による政治・行政支配の構造・実態を暴き、1990年代から2000年代に続く政治改革の深い底流のひとつを形作る。2009年の民主党政権成立をめぐっては、小沢一郎、菅直人、仙谷由人各氏らとの交友を通じて政権交代に影響を与える。立憲主義の立場から安倍首相を痛烈に批判、「安保法制の廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」の結成にかかわる。

「2018年 『圧倒的!リベラリズム宣言』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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