風のアジテーション

著者 :
  • 角川書店
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感想 : 2
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  • Amazon.co.jp ・本 (198ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784048735506

作品紹介・あらすじ

1968年に青山学院大学に入学した源太郎。大学はつまらなくバイトとジャズ喫茶通いに精を出す毎日。そんなある日、路上にてヒッピー風の男・光介に出あう。光介は「アジテーション研究会」を独りで主宰しているらしい。謎めいているが魅力的な光介に惹き付けられ、二人は動乱の街へと向かった…。新宿西口、フォークゲリラ、ウッドストック、機動隊、マリファナ、ロック…。日本が一番熱かった1969年東京がリアルに体感できる青春小説。

感想・レビュー・書評

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  • 橘川幸夫の小説第2弾。
    前作「やきそばパンの逆襲」にはがっかりした。

    そちらのレビューにも書いたが
    “作者の操り人形がグーグル以前の世界でウンチクを語る”
    という内容が、
    “グーグル以降”の時代に生きている人間からすると
    時代認識のずれ具合がものすごく気になった。
    さらに
    その認識を操り人形がしたり顔で語っているのが
    読んでいて辛かった。

    あまりに残念だったので、第2作も読んでみることにした。
    これは面白い。
    '69年東京、若者風俗観光小説という趣だ。

    「やきそば~」の発表されたのは2004年。
    2011年時点から遠くない時代にあった分
    書かれている時代・社会認識のズレが目出つのに対して、
    こちらは42年前。遠すぎて違和感を感じることはない。

    すでに現代からかけ離れた確定した過去となっているからだろう。

    小説の形態をした風俗観光ガイドとして楽しめた。
    得意のウンチクも大昔すぎて、違和感を抱くより
    へーそうなんだ
    で済むものになっているし、
    事実知らなかったことも非常に多く
    トリビアネタの小説としても読めた。

    ただ、あとがきを読んで非常に違和感をもった点がある。
    “本を純粋に読むことが出来るのは若い時だと思う。社会に出てからは、いろんな意味で功利的な読者にならざるを得ません”
    という言葉。
    “いろんな意味で”と留保はあるが、
    著者は社会人は本を功利的に読んでいると語っているのである。
    ビジネス本、マネー本、ハウ・トゥ本が書籍で大きな売り上げを占めていることは事実だが、
    小説の読者は作品を功利的に読んでいるのだろうか?

    著者には基本的に、読書の喜びみたいなことが念頭にないのか、と残念な気持ちになった。

    ただ、このような著者だからこそ
    小説は情報を、誰でもわかるように伝える入れ物でしかない
    として書くことができるのだろう。

    といいつつも、著者は
    オリジナルコンテンツを作ることが重要と語っている。
    “この本を読むことによって「あなたも小説を書きたくなる」という呪文を込めたいと思う”
    と語っている。
    時代風俗情報を小説の形にして流し込むのがオリジナルコンテンツ?

    この発想もがっかりです。
    さらにそれって発想自体は'80年に田中康夫が発表した
    「なんとなくクリスタル」と同じような気もするのですが。
    こちらは語って「はい、おしまい」であるのに、
    「なんとなく~」ではインデックスさえ付けていた。
    この小説も、申し訳の年表程度のものでなく、もっと徹底したものをつける発想もありだと思うのだが。


    物語には“叡智”を物語に封じ込めるものという面もあると思うのですが
    功利性を求める著者が書いたこの小説には“物語”はなかった。
    「やきそば~」と同じ手法ですね。

    これはこれでありかとは思うけど
    仕上がりが中途半端なところも含めて
    釈然としないものがある。

  • この本に“物語”を求めてはいけない。この本は、時代のスケッチブックなのだから。

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著者プロフィール

1950年2月4日、東京生まれ。'72年、渋谷陽一らと音楽投稿雑誌「ロッキング・オン」創刊。'78年、全面投稿雑誌「ポンプ」を創刊。その後、さまざまなメディアを開発する。'83年、定性調査を定量的に処理する「気分調査法」を開発。商品開発、市場調査などのマーケティング調査活動を行う。80年代後半より草の根BBS「CB-NET」を主催、ニフティの「FMEDIA」のシスオペを勤める。'96年、株式会社デジタルメディア研究所を創業。インターネット・メディア開発、企業コンサルテーションなどを行う。アーツカレッジ・ヨコハマ(旧神奈川情報文化専門学校)のマルチメディア科を立ち上げプロデュースを行い専任講師。武蔵野美術大学非常勤講師、日本デザイン専門学校講師などを経験。現在、多摩大学経営情報学部客員教授。キーマン・ネットワーク「コンセプト・バンク」を運営。
〈著作〉
『企画書』『メディアが何をしたか?』『なぞのヘソ島』『一応族の反乱』『生意気の構造』『暇つぶしの時代』『やきそばパンの逆襲』『ドラマで泣いて、人生充実するのか、おまえ。 』『希望の仕事術』『森を見る力』ほか共著、編著多数

「2016年 『ロッキング・オンの時代』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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