夏の終わりに君が死ねば完璧だったから (メディアワークス文庫)

著者 :
  • KADOKAWA
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784049125832

作品紹介・あらすじ

片田舎に暮らす少年・江都日向(えとひなた)は劣悪な家庭環境のせいで将来に希望を抱けずにいた。
 そんな彼の前に現れたのは身体が金塊に変わる致死の病「金塊病」を患う女子大生・都村弥子(つむらやこ)だった。彼女は死後三億で売れる『自分』の相続を突如彼に持ち掛ける。
 相続の条件として提示されたチェッカーという古い盤上ゲームを通じ、二人の距離は徐々に縮まっていく。しかし、彼女の死に紐づく大金が二の運命を狂わせる──。
 壁に描かれた52Hzの鯨、チェッカーに込めた祈り、互いに抱えていた秘密が解かれるそのとき、二人が選ぶ『正解』とは?

感想・レビュー・書評

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  • あなたは、病気療養中の人に『私の死体は三億円で売れるんだ』と『微笑を浮かべ』られたらどう思うでしょうか?

     (*˙ᵕ˙*)え?

    人が死ねば火葬に付された後、遺骨になって埋葬されます。もちろん国によって異なるでしょうが、この国にあっては法律の定めに従って、あなたも私も同じ運命を辿ります。愛する人の遺骨であればそれは何者にも代え難いものと言えるかもしれませんが、それでも遺骨は遺骨です。遺骨を売買するといったようなことは当然ありませんし、残念ながら売れるものでもないでしょう。

    しかし、そんな当たり前の考え方では整理できない事ごとがこの世には数多あります。 例えばあなたは、『金塊病』という病気のことを知っていらっしゃるでしょうか?その病気の症状はこんな風に語られます。

     『発症時から少しずつ筋肉が硬化し、骨に侵食されていく。この侵食する骨が、極めて金に近い物質へと変異する』

     (*˙ᵕ˙*)え? (*˙ᵕ˙*)え? (*˙ᵕ˙*)え?

    そう、この世にはあなたが今まで知らなかった奇想天外、奇妙奇天烈、摩訶不思議な事ごとがあるのです。

    さてここに、『金塊病』という不治の病に侵された女性と偶然に出会った一人の中学生を描いた物語があります。『金塊病』という言葉を聞いて一瞬読む気が萎えそうになるこの作品。その一方で『死体は三億円で売れる』という言葉に目が止まってしまうこの作品。そしてそれは、夏の終わりの出来事を回想する主人公の想いを感じる物語です。

    『弥子さんと過ごした時間には一銭の価値も無いのに、彼女の死体には三億円以上の価値がある』と弥子との『思い出を回想する』のは主人公の江都日向(えと ひなた)。そんな江都は『最初の間違いは、僕が昴台サナトリウム ー とある病気の為に建てられた特別な療養所 ー に隣接する道を通ったことだった』と『144日前』のことに思いを馳せます。『山に囲まれた小さな集落で、人口は千人程度』という昴台という地に暮らす江都は学校からの帰りに『サナトリウム近くの細道』を通ります。『かつては白い壁』だったのが、『今は落書き塗れの壁』という壁面には『奇病専用終末医療病棟の癒し』と記事にされたこともある『二月の鯨』と呼ばれるアートも描かれています。その一方で、『サナトリウム反対』といったビラも貼られている壁面を見る江都。そんな時、強い風が吹いて『朱色のマフラー』を手にした江都。『拾ってくれてありがとう。よければ返してくれるかな』という声に顔を上げると、『長い髪の女の人』の姿がありました。『サナトリウムの、人ですか?』と『馬鹿げた質問をしてしまった』江都に、『そうだよ。私は中の側の人間さ』と『悪戯っぽい笑顔で笑う』女性は『返したいなら私の病室まで来てよ』、『投げるなんてことはしないで欲しいな』と言うと姿を消しました。『私は津村弥子(つむら やこ)!…受付で私の名前を言ったら、多分通してくれるよ!』と声を残していなくなった女性。結局、『マフラーを鞄の中に押し込ん』で家に帰った江都は『金塊病患者新規受け入れ反対!』のビラがプリンターから出力されているのを見ます。『かれこれ四年も昴台サナトリウムに対する反対運動を行っている』母親。夜になって帰ってきた母親、そして、少しして現れた義父の北上と揃った中に、『国は大切な事実を隠している…昴台はおぞましい実験場にされる…』と『滅茶苦茶な陰謀論を語』る母親。そんな翌日、再び『サナトリウム』を訪れた江都は『都村弥子さんのお見舞いに行きたいんですが』と受付で言うと病室のある六階へと通されます。そこには、『広い病室の出窓に座』る弥子の姿がありました。『ねえ君、名前は?』と訊く弥子に『江都日向です。中学三年生』と答える江都。弥子は自身が大学三年であること、そして、『金塊病を発症して、半年前からここに入院している』ことを説明します。『通称「金塊病」と呼ばれている』その病気は『患者が死後、文字通り「金」へと変質すること』から名付けられました。『発症時から少しずつ筋肉が硬化し』『侵食され』た『骨が、極めて金に近い物質へと変異する』というその病気によって『算出された金』は、『現代の科学では』天然算出品と『区別する術はない』とされています。『人間の身体が金塊に変わるなんて、およそ信じられない話だ』と思う江都に、『私はそう遠くないうちに死ぬ』と弥子は語ります。そして、『エト、私を相続しないか?』と続ける弥子は、『私の死体は三億円で売れるんだ』と『微笑を浮かべ』ます。『ただし、私にも条件がある』と続ける弥子は『チェッカーというゲーム』に江都が勝つことが『条件』と説明します。『三億円。それだけの大金があったら一体何が出来るだろう』と思う江都。そんな江都が『金塊病』という病魔に侵された弥子と『チェッカー』の『駒』を戦わす日々が描かれていきます。

    “片田舎に暮らす少年・江都日向は劣悪な家庭環境のせいで将来に希望を抱けずにいた。そんな彼の前に現れたのは身体が金塊に変わる致死の病「金塊病」を患う女子大生・都村弥子だった。彼女は死後三億で売れる『自分』の相続を突如彼に持ち掛ける…しかし、彼女の死に紐づく大金が二人の運命を狂わせる”と内容紹介にうたわれるこの作品。

    正直なところ、

     ”ちょっと何言ってるか分からない”

    というのがこの文面を読んだ私の率直な感想です。この世に刊行された数多の小説の中にはさまざまな病気に侵される登場人物の姿を描いたものがあります。往々にしてそれは不治の病という場合が多いように思いますが、それは難病とされる類のものです。もちろん中には加納朋子さん「トオリヌケキンシ」に描かれるような『奇病』が描かれる場合もあります。しかし、いくらなんでも”身体が金塊に変わる致死の病「金塊病」”というのはかっ飛び過ぎだと思います。私の想像力の飛翔限界を超えたものと感じてしまいます。

    とは言え、女性作家さんの小説を全て読む!のが私の目標ですので頑張って読み始めました。そうしたところ、予想外の変化が自分の中に生じてくるのを感じました。奇想天外な病気の設定が何故か全く気にならなくなってしまう、それどころか作品世界に入っていってしまう…これは読み始める前に感じた醒めた感情からの変化でもありました。

    そんなこの作品は兎にも角にもこの『金塊病』というものを整理しないことには始まりません。これがどんなものかを抜き出してみたいと思います。

     ● 『金塊病』とは?

      ・『その病気の特徴の最たるものは、患者が死後、文字通り「金」へと変質すること』
       → 『発症時から少しずつ筋肉が硬化し、骨に侵食されていく。この侵食する骨が、極めて金に近い物質へと変異する』
        → 『二つ並べれば、どちらが天然産出品の金でどちらが金塊病の患者の身体から産出された金なのかは判別出来』ず、『現代の科学では、その二つを区別する術はない』。

      ・『金塊病こと「多発性金化筋線維異形成症」は、原因の全く分からない感染性の奇病だというデマを流されていた』
       → 『やがて、病が伝染性でない』と明らかになった

      ・『政府はこの病気を極めて特殊な難病に指定し、専用の収容施設を建設すると宣言した』。
       → 発症した『七人の患者の内、二人が昴台サナトリウムに送られ』た。

    こんな風に書くとなんだかリアル社会に実際にある病気のようにも感じてしまいますが、当然ながら”身体が金塊に変わる致死の病「金塊病」”というかっ飛んだ病はあくまで空想上の産物です。しかし、『継続的に患者を受け入れ』ることで、『その度に昴台の経済は回る』という考え方などなかなかにリアルにも感じられます。というより、上記した通り、読み進めていううちにこの強烈な設定がウソのように気にならなくなっていくのがこの作品なのです。

    そして、もう一つ触れておかなければならないのが、『チェッカーというゲーム』についてです。『極めてシンプルなゲーム』という『チェッカー』は『金塊病』と違って、もちろんリアル世界でも人気のゲームです。

     ・『駒は十二個あって、基本は斜め前にしか進めない。もし行く先に敵の駒があったら、こうして飛び越えて取ることが出来る』。

     ・『チェッカーの駒が相手の端に到達したら、それは王になるの。王になったら斜め後ろにも進める』。

    そんな風にルール説明が作品内でもなされますが、ご存知ない方にはこれだけでは少し厳しいかもしれません。何故なら、私がそうだからです(笑)。そう、『チェッカー』を知らない私…。とは言え、この作品は『チェッカー』を主題とした物語ではありません。江都と弥子が幾度も対戦する場面は登場しますが、ルールを知らなくてもなんとかなります!はい、ルールを何も知らない私が保証します(笑)。

    そして、そんな物語の中心にあるのが、学校からの帰宅途中に、たまたま、『サナトリウム』に隣接する細道を江都が通ったことで動き出す物語です。強い風に飛ばされた『朱色のマフラー』を手にし、それが施設に入所している弥子のものと知った江都が弥子の元を訪れることから物語は始まります。そんな場で主人公の江都は、『金塊病』に侵された弥子からこんなことを告げられます。

     ・『単刀直入に言うよ。エト、私を相続しないか?』、『相続相手に君を指名したい』

     ・『私の死体は三億円で売れるんだ』

    マフラーを届けただけの間柄でいきなりそんなことを言われて戸惑う江都。そんな江都に弥子は条件を突きつけます。

     『三億円を君に譲る、条件』

    いきなり、『相続』の話を持ち出され、これまた、いきなり『条件』を突きつけられるという江都。『チェッカーというゲーム』を教えられた江都は、

     『一度でも勝てば三億円だ』

    そんな弥子の言葉に困惑します。その一方で、家庭に複雑な事情を抱える江都は悩みます。

     『殆ど無いだろうけれど、僕に三億円が入る可能性も、ゼロじゃない。三億円。それだけの大金があったら一体何が出来るだろう。そもそも、それだけの大金があって出来ないことがあるんだろうか?』

    今の世にあって『三億円』という金額は一攫千金の一つの指標のような数字だと思います。宝くじなどでもよく聞く数字ですし、生涯賃金という言葉とともに語られる数字でもあります。もちろん、そんな大金を一夜にして手にすることができたなら、その人の未来は確実に変化するでしょう。その瞬間以前と以後では見えてくるものも違ってくるはずです。この作品の主人公である江都は中学三年生ですからその未来に与える影響は計り知れません。この作品では、そんな『条件』を突きつけられた江都のその後が描かれていきます。冒頭に記述した通り、『弥子さんと過ごした時間には…』という書き出しから始まる以上、弥子の結末は提示されています。そして、物語は、『144日前』、『143日前』、『140日前』、『137日前』、『136日前』、『106日前』…とランダムな日付に飛びながら、結末のXデーに向けた江都と弥子の姿が、そしてその関係性が描かれていきます。

     ・『もっと知りたいです。弥子さんのこと』。

     ・『私もエトのことがもっと知りたいんだ』。

    江都と弥子に力強い光が当てられていくこの作品。そんな物語の結末には、『金塊病』という奇想天外な設定に対する違和感が雲散霧消する先に、江都と弥子、それぞれが選んだ答えが待つ結末が描かれていました。

     『金塊病っていうのはね、文字通り金になるわけだから、売れるんだよ。…私の死体は三億円で売れるんだ』

    『金塊病』という奇想天外、奇妙奇天烈、摩訶不思議な病を患う女性と偶然にも知り合ってしまった一人の中学生の姿が描かれていくこの作品。そこには、『回想』という形で二人の日々を振り返る主人公の物語が描かれていました。読む気が萎えそうになる『金塊病』という設定に戸惑うこの作品。読み進めるうちにそんな戸惑いが雲散霧消するこの作品。

    “最愛の人の死に価値が付けられてしまった人間は、その価値にどう向き合えばいいのか”、この物語のテーマをそんな風に語る斜線堂有紀さん。そんな斜線堂さんの物語作りの上手さを感じさせる、そんな作品でした。

    • さてさてさん
      なんてひださん、
      こちらこそ恐れ多いお言葉ありがとうございます。なんだかんだ言っても2019年11月までは本は一冊も読んだことがなかったの...
      なんてひださん、
      こちらこそ恐れ多いお言葉ありがとうございます。なんだかんだ言っても2019年11月までは本は一冊も読んだことがなかったので、人は変わるもんだと我ながら感心はします(笑)。
      文章は単にくどいという声も聞こえてきそうですが(涙)、精進してまいります。
      今後ともよろしくお願いします!
      2024/02/01
    • なんてひださん
      2019年かぁ〜ってコロナの武漢の年っ。そんな最近ですか、いやいやコロナにリンクすると変な感じに行ってしまう。すみません、継続は力なりですね...
      2019年かぁ〜ってコロナの武漢の年っ。そんな最近ですか、いやいやコロナにリンクすると変な感じに行ってしまう。すみません、継続は力なりですね。イメージではうず高く廊下とかトイレとか本が溢れているかと。自分寝てる部屋が4畳で本棚7個置いて本に囲まれ寝てます→危険であるし。あー2019年にその部屋作りました。
      2024/02/01
    • さてさてさん
      なんてひださん、
      結果論でコロナ禍があったから読書&レビューの今があります。コロナ禍がなければ今ここにはいなかったと思います。コロナ禍には...
      なんてひださん、
      結果論でコロナ禍があったから読書&レビューの今があります。コロナ禍がなければ今ここにはいなかったと思います。コロナ禍にはメリット・デメリットがあったと思いますが私にとっての一番のメリットでした。ちなみに本はほとんどないです。売っては買いで資金を作る日々です。いずれにしても継続は力なり、そうですね。私には似合っていたのかもしれません。取り敢えずの目標1,000レビューまではなんとしてでも…と思っております。ちなみにお気づきかもしれませんが例えばこの作品の読了日ははるか過去です。レビューは熟成出しをしております。ということで、800レビューは間違いなく超えることができております。
      2024/02/01
  • 二人の想いと信念が胸を切り裂く 甘く切ない恋愛ミステリー #夏の終わりに君が死ねば完璧だったから

    切ないですねぇ…
    恋愛というのは華やかで美しい。しかし、背景や環境によっては残酷なものです。

    若い男女が不幸な環境な中で懸命に生きた記録。自分が若いころに感じた「覚悟」を思い出させてくれました。

    本作は特殊な病をベースに、男女の恋愛と感情の価値をミステリータッチで綴られた作品です。ちょっと設定が強引な気もしますが、起承転結をバランスよくまとめおり、さすがは斜線堂先生といったところ。

    キャラクターもよく描けており、特に病に侵されている女性のセリフや言動がリアル。完全に私の心はわしづかみにされてしまいました。先生お得意の恋愛ミステリー、面白く切ない作品でした。

    ■推しポイント
    やっぱり、恋愛のなんたるかについて問うているところですね。
    正直、青臭い問いではあるのですが、真正面で書ききったところが激アツでした。

    かつて私は、結婚式で誓いをたてました。
    「健やかなるときも、病めるときも、喜びのときも、悲しみのときも、富めるときも、貧しいときも、妻を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、その命ある限り真心を尽くすことを誓いますか。」

    答えはもちろん「はい」。
    しかしこの誓いを守れたかは、寿命を全うする時までわかりません。

    どんなことでも未来のことは、約束や証明はできない。
    実績を積み上げることによって、約束を果たしていく。その過程が証明となっていきます。

    主人公はよくやった。
    夏の終わりに二人の幕は閉まりましたが、主人公は自身の未来に向けて、ひとつ実績ができました。これからです。

  • 「金塊病」という、体の一部が金に変化する難病を患った女性 津村弥子

    金塊病患者を受け入れるサナトリウムのある町に暮らす、中学三年生の少年
    エトはサナトリウム反対派の活動をする母と、地域振興事業に失敗した義理の父と暮らす。母からは連日罵詈雑言を浴びせられ、義理の父とも一定の距離感で付き合っている。

    町の活気はなく、子供がいないため、中学校は生徒が少ない。
    閉塞感が漂う小さな世界
    ある日、エトは弥子に偶然出会い、落とし物をサナトリウム内に届けることになる。ボードゲームの「チェッカー」で勝負してエトが勝ったら弥子は、三億円として売れる自分の身体を相続させると言う。

    彼女に勝てば、三億円が手に入り「町から出る事のできない希望のない未来」を変えることが出来る。
    だが、エトは次第に彼女に惹かれていく…

    どの様な方向に転ぶのかがわからず
    少しそわそわしつつ、二人の関係が深まっていく過程を追う。
     側から見てしまうと「遺産目当ての結婚」の様に見えてしまい、二人の想いは無視され周りは受け入れない。
    その気持ちをどの様に証明するのか?が主題とのこと…

    チェッカーの仕組みについて触れている。良手、悪手(失敗)を繰り返して「二人なりに最善の解答」にたどり着けるのか、結末を想像してしまうからこそ「その先」が気になった。

    そして読み終えたが、納得したが
    まだ答えを考え続けている。
    スラスラと読み終えた分、二人のことが儚く思えてしまう。

    余談:一冊前に読んだ「シカゴ・ブルース」の主人公は「エド」今回のエト(江都)君と名前が似ている。
    同じく少年の成長物語でもあるし、自分は無意識にそういう本を欲しているということなのか?

  • ・愛する人の死に値段がついたら、その価値とどう向き合うか
    ・愛する気持ちを証明する方法
    このテーマで描かれていく、体が金になっていく難病の弥子と、彼女に向き合っていく江都の物語り

    正直、読み始める前はこんなに深いテーマであることを知らなかった
    読み進めていくにつれ、もっと2人に時間をあげて欲しい…と苦しい気持ちになりました

    「主人公のどちらかが病に侵され余命をどう生きるか」
    といった、よく見かける内容に更に「死の価値と向き合う」という難題がのったことでグッと深さが増した気がした
    最愛の人の死に、誰かが決めた価値なんか受け入れられない
    弥子と江都の弱さをぶつけ合わない姿や苦悩に胸を打たれた一冊でした

  • 斜線堂さんの作品は「恋に至る病」を初読し、次にこちらの作品を読ませていただきました。二作品目です。

    潮風の香りと、波の音。脳内に生み出される海の情景が途切れないまま一気読みしました。
    主人公と、特殊な病を患った女の子が「愛の証明を探す夏のお話」です。何が正解で、何が不正解なのか。唯一、ふたりが行っていた「チェッカー」だけは、盤面で正解を選び抜いていく。
    病室の中で何を話そうとも、どんな気持ちであろうともチェッカーで勝負しようと言えば隣に居られる。そんな免罪符を持った「チェッカーで勝負しよう」という一言は、二人にとって愛のひとつだったんだなぁと思うと中学生も大人もあんまり変わらないように見えて、恋とはやはり惹かれるものだと感じました。

    夏に読むことができて良かったと思えた作品。みなさんもぜひ、夏の間にこちらの作品を読んでみてください。心が澄んだような気持ちになれると思います。

  • 「君の世界が平らになりますように」を読もうと思っていたおり、古本屋で見つけて先にこちらを読みました。

    私は「読むことに痛みをともなうライトノベル」の原体験が「砂糖菓子の弾丸は撃ち抜けない」だった世代です。

    私にとっては桜庭一樹だったもの。

    それは、少し下の世代には、ある時期以降の竹宮ゆゆこだったかもしれないし。

    今、思春期を生きる人たちにとっては斜線堂有紀なのかもしれないと思いました。

    この物語に没入して感涙したり、痛みを感じて読後も放心したりするには、自分は少し歳をとってしまいました。

    でも、中学や、高校の、教室の片隅で1人。
    誰とも分かち合うこともなく胸にしまい、今もなおかさぶたになっている「あの時の読書体験」を思い出す、とてもエモい作品でした。

    願わくばこの本が、教室の片隅で1人本を読む誰かのもとへと、届きますように。

  • 余命が短く且つその死に価値がある少女に恋をする切ない物語。

    登場人物が全員自己中で読んでいて気持ちはよくなかった。
    タイトル詐欺で内容も薄いから何故こんなに評価が高いのかよくわからない。

    わかりやすい内容ではあるから何も考えずにサラッと読む分にはオススメできるかも、
    ☆1.3

  • 人間の感情は証明できるのか。

    愛などの感情の証明の難しさを強く感じた。加えてこの
    作品では大金が絡んでくるのでより一層難しいだろう。どれほど言葉で想いを伝えようとしても、言葉には限界がある。

    周りの人からは理解されなくともエトと弥子のお互いの気持ちは通じ合っていたと思う。2人はお互いに『感情の証明』ができていた。

    死ぬのを期待され、生きている自分より死んだ後の自分の方が価値があるのはとても悲しく辛い…

  • 『金塊病』という、死後に身体が金へと変わってしまう病に侵されているいる女性と、
    金塊病サナトリウム近辺に住む中学生男子の話。

    愛だ恋だはお金という価値の前ではどう姿を変えるのか。

    自分が金塊病だったら、と想像すると難しい。
    死ぬのをウキウキ待たれるのはムカつくな。
    さっさとお金に替えて欲しい気もするし、海へドボンも良いなー。

  • 面白かった。感動した。
    世の中お金が全て。でもお金だけじゃどうしようもないものもある。
    お金だけじゃ動かない心をもつ人もいる。
    ほんと感動する。

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著者プロフィール

2016年、『キネマ探偵カレイドミステリー』で第23回電撃小説大賞メディアワークス文庫賞を受賞してデビュー。楽園とは探偵の不在なり』『恋に至る病』『コールミー・バイ・ノーネーム』ほか著書多数。

「2023年 『百合小説コレクション wiz』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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