- Amazon.co.jp ・本 (397ページ)
- / ISBN・EAN: 9784054037748
作品紹介・あらすじ
決して忘れないユニコーンのことを!続編「ふたつの心臓」、ヒューゴー賞・ネビュラ賞受賞。不滅の名作、37年ぶりに完結全面新訳+続編最終章。
感想・レビュー・書評
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この世で最後の一頭となってしまったユニコーンが仲間を求めて旅立つ。続編となる中編『ふたつの心臓』も収録。
どこか寓話性を感じさせる大作ファンタジー。不老不死のユニコーンが、魔術師や英雄と関わり、大いなる悪と戦う冒険の末、人間の愛を知ってどう変化したか。永遠と刹那の対比。優れたファンタジーにある、深い真理を示す文章やセリフの数々も印象深い。
魅力的な登場人物たち。
主人公であったはずのユニコーンは、いつしか象徴のような存在になり、人間らしさを強く残すリーア王子とのコントラストを示す。
どこか頼りないイメージのあったシュメンドリックが、賢者にクラスチェンジしたかのように、王となったリーアを諭し導くシーンはカッコいい。
モリーの女性としての視点は、物語と世界を俯瞰しているところがある。
黒幕とラスボスの存在感も大きく、彼らにまつわる謎も物語の引力を高めている。
本書には何十年もあとに書かれた続編が付属しており、これがヒューゴー賞・ネビュラ賞の中編小説部門を受賞したとか。実際、少女視点で過去作の人物と触れ合う展開はとても面白かった。
長くて読みごたえのある本格ファンタジー、その読後の清澄感は相当なものだった。繊細な作風なため、どこか女性作家のイメージで読んでいたけど、調べてみたら男性。そりゃピーターですしね^^;。
P252 「あの時計は正しい時刻なんて打たないぜ。昔、ハガードがぜんまいや歯車をだめにしちまった。あるとき、振り子といっしょに動きつづける時間を手でつかもうとしたんだ。だが、おまえらにとって重要なのは、時計が次にいくつ打とうが関係ないってことを理解することだ。十打っても、七つ打っても、十五打っても、そんなことはどうでもいいんだ。おまえはおまえの時間を打てばいい。好きなところから数えはじめればいい。それがわかったら、いつどんな時だって、おまえにとっては正しい時間になる」詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
ハヤカワで新版が出たというのを目にし、学研版を手に取りました笑。今度、Two HeartsとSoozの二編が組み込まれた新刊が出るとのことで、「ふたつの心臓」の方は読んだけれど、スーズ読みたい!!となっているので楽しみです。
久しぶりにファンタジーというものを読んだ気がする。ファンタジー・もどきはいくつも読んでいたけれど、その世界が世界として確立していて(設定が緻密であればいいということではなく)、言い換えればその世界に流れる律がしっかりとあり、読みだすとその世界にいるかのような、そんな気持ちにさせてくれた。最初の方は現代が舞台なのか?と思ったし、ところどころメタ発言・メタ描写があってなんとも不思議なファンタジーだった。ファンタジーの世界に住んでいることがわかっている住人たちのファンタジーは、ゲド戦記を読んでいた小学生の頃の感慨に近い気がする。決してのめりこむようなエンターテインメントではないし、淡々と進んでいくのだけれど、読了感は紛れもないファンタジーの重みがあって、やっぱり言葉にするなら「不思議」というのがしっくりくる。この文章がと指し示す文章があるわけではないのだが、物語が全体として「不思議」を構成している。そういう意味では言語化できない領域を体現した素晴らしい作品の一つだと思う。これは書こうとして書けるような物語ではない。
王道の、物語の型を追いつつ、こうして物語は生まれ、引き継がれていくのだ、という形式美を追うような…。悲しくてでも愛おしいと思う人々の物語、それは紛れもなく語り継がれるタイプの英雄譚なのだな。 -
『最後のユニコーン』と正統続編『ふたつの心臓』の2編。ファンタジーの名作とのことで手に取る。地球で最後のユニコーンとなったユニコーンは仲間探しの旅へ。『ふたつの心臓』まで読むことで、胸の中の靄は晴れる気がする。
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地球上で最後の一頭になってしまったユニコーンをめぐる物語。魔法の力を持ちながらも意のままにできない魔術師シュメンドリック、かつてユニコーンを見る事が出来た奔放で裏表のない女性モリー、何かを追い求めるかのような憑かれた王ハガード、その息子の英雄リーア王子。登場人物それぞれに深みがあり、魅力が感じられます。なかでもシュメンドリックの世界が好い。あまりに無能なるゆえに、師匠から一人前になるまで不老の呪いをかけられてしまう。「死ぬことのできるものは、すべて美しい。永遠に生きることのできる、世界で最も美しい生き物であるユニコーンよりも美しいのです」そんなセリフが心に残る。そして、シュメンドリックの魔法が、要所要所で物語の鍵となってゆく。しかし、その力は来るべき時に来るべき形で発揮されるというように、運命的・宿命的なものとして描かれている。物語全体にもそういう空気が纏っていて、登場人物たちが自らの運命を切り開いていくというよりは、自然な流れに沿い静かに運ばれていく。「最後のユニコーン」から37年後に書かれた続編的な「二つの心臓」。グリフィンのもつライオンとワシそれぞれの心臓は、英雄リーア王子の若き心と今のリーア王の年老いた心、両方の隠喩と捉えることができる。死んだライオンの身体を引きずりながら瀕死で向かってくるグリフィンと、老いた心を引きづりながら対峙するリーア。お互いを鏡の様に写し出すシーンは儚くも美しい。実はこの続きが書かれているようですね、楽しみに待つことにします。
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読んでおかなければならなかった超有名ファンタジー。
シルクのような手触り感のする、透明な印象の作品だった。
特に最後の海の波の泡沫がユニコーンとなって押し寄せる
ところは圧倒的でありながら繊細に美しい名シーンだと
思う。だがこの完全版では続編の「ふたつの心臓」の方が
印象深かった。本編の方がこの続編を書くために書かれた
のではないかと思うほど。どちらにしてももっと若い頃に
読んでおきたかった本であるのは確か。こういう本にこの年
になって出会うと、人生ずいぶんと損してきている気がする
のだった(苦笑)。 -
形而上学的ファンタジーの古典。とくに導入部の衒学趣味はものすごい。解説にも書かれているが、クライマックスシーンのカタルシスは凄絶。あの美しさは読書ならでは。どれほどCGに凝っても映像ではムリだと思う。
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表題の「最後のユニコーン」と、その続編である「二つの心臓」を収録。
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良かった!
神話調のファンタジーのようであり、もっと現代的な幻想文学のようでもあり、しかしアンチファンタジー部分もあって不思議な感触。
正直よくわからない場面もたくさんあって読みやすくは無いのだけれど…でも良かった。
「二つの心臓」の方は本編の何十年か後のストーリーで、お話としてはこちらの方が分かりやすい。
ファンタジーなのに現実的。
終盤の場面は、身近に老人がいる身としては余計に悲しくなってしまった。英雄も年老いるのだ。 -
ユニコーンが、仲間を探して旅をする話。途中、見世物屋の魔女に捕まったが、魔術師に救われる。その魔術師と旅を続けるが、今度は彼が、盗賊に捕まる。それをユニコーンが助け、盗賊の女をつれて逃げ出す。三人は、ユニコーンの仲間を探して、暴君ハガードの屋敷に辿り着くが、そこでユニコーンは、運命の出会いをする。
ありがちな「勇者が魔王を倒し、姫を助け」、なんて話じゃないところが、この作品のよさ。人間はなぜ、真実をみようとしないのか?と、人間をばかにして、自分こそ正しい、と言っていたユニコーンが、現実逃避に走ったり、盗賊が、一番まともな発言をしたり、勇者が片想いに悩んだり…。複雑な親子関係も描かれているし、老いていく悲しさが伝わってくる場面も。昔から、人間の最大の苦悩は、変わっていないのだろうか?