「レアメタル」の太平洋戦争: なぜ日本は金属を戦力化できなかったのか

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  • 学研プラス
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  • Amazon.co.jp ・本 (247ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784054057081

作品紹介・あらすじ

仮に当時の日本に資源が潤沢にあったとしても、やはり太平洋戦争には負けているだろう。それは「いかに金属を戦力化するか」、つまり「金属で優れた兵器を効率的にたくさん作る」という根本的な戦争の手段において、日本は太刀打ちできなかったからである。

感想・レビュー・書評

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    ★★★★☆ 星4つ

    [感想]
    タイトルに偽りありだな。勿体無いと思うよ。
    全6章の内、レアメタルについて書かれているのは1章のみでレアメタルを含め、銅鉄アルミなどのベースメタルも含む金属関連が4章分、残りは国産兵器の問題点と日本の総力戦体制の問題点を解説している。金属関連のデータを元にしているだけで結果はタイトルから離れていたと思う。
    あとがきにも書かれていたけど、金属資源に関する問題は現代でも同様で国内で鉱物資源が取れなくなった日本にとっては当時よりも気を配る必要がありそうだよね。

  • 当時の日本の国力、軍事力というものが、裏付けのない、いかに張り子の虎だったか、というのがよくわかる一冊。
    であるがゆえに、資源獲得のために南方に進出しないといけなかったにしても、その資源を国力に結びつけるグランドデザインがなければ、短期決戦だろうと、長期持久だろうと、ただのスローガンにすぎない。
    それにしても、本書で挙げられた日米の資源量の差は、装備や作戦では覆しようもない、莫大な差であることをあらためて実感した。

  • 一昨日(2013.8.15)、68回目の終戦記念日を迎えました。毎年、この日に合わせて太平洋戦争を学ぶために数冊の本を読もうと決めています。今年読んだ本では、私にとっては「目からウロコ」の記憶に残る本となりました。

    太平洋戦争に負けた原因として様々な解説がなされていますが、資源面では「石油」がなかったからと私は理解していましたが、この本を読むことで、兵器や戦闘車両・飛行機を作るために必要である、鉄をはじめとするベースメタル及び、合金を作るためのレアメタルが徹底的に足りなかったことが良くわかりました。

    かなり細かい解説がなされていたのですが、幸いにも私は大学で金属工学を専攻していたので、その内容が理解でき、大学卒業して数少ない良い経験をしました。戦争とは、究極的には「資源の奪い合い(p162)」なのだなと痛感しました。

    はじがきと後書きに述べられているように、金属を「戦力化」できないと満足に戦うこともできないことを真に理解していなかったところに日本の敗因があった(p5、242)ようです。

    以下は気になったポイントです。

    ・金と銅の融点はほぼ同じだが、銅の存在量は金の1.3万倍もあるので、人類が銅を手にしたときに文明が生まれた(p12)

    ・最近の区分けでは、Al,Fe,Cu,Zn,Pbの5元素をベースメタルとするのが一般的、レアメタルは32元素、金と銀は貴金属として別扱い、レアアース(希土類)は15種17元素(p14)

    ・アメリカは、鉱山・製錬所・軍需工場・そして第一線までを一本の太い線でつなげたので、弾薬を無制限に使用できた(p31)

    ・ミッドウェー海戦で4隻の正規空母を失ったが、いずれも大火災が生じて手が付けられなくて放棄された(p37)

    ・第一次世界大戦で、ドイツ軍は5億発、フランス軍は3億発の砲兵弾薬を射耗した、日露戦争で日本が使ったのは、89万発、多くが薬莢式の弾薬なので黄銅はいくらでも必要(p41)

    ・第一次世界大戦の前後まで、日本はアメリカに次ぐ世界第二位の産銅国、別子・足尾・日立・小坂の4銅山は世界にしられていて輸出もされていた(p43)

    ・昭和19.7から開発が始まった局地戦闘機「秋水」は、20.6にロケットエンジンが完成したが、燃料の生産設備に、銅が多量に必要であった(p46)

    ・錫はアメリカでは殆ど算出しない(ボリビア鉱山を開発)が、イギリスは算出する、ブリテンは「錫の島」からきているほど(p50)

    ・日本の占領地帯で使われていた紙幣は、連銀券(中国連合準備銀行券)、南京政府系の儲備券、国民政府(重慶政府)の法幣、日本銀行券、朝鮮銀行券、さらに軍票があり複雑だった(p57)

    ・鉄が銅よりも地殻に銅の10倍以上あるのに、使用が遅れたのは、融点が500度も高いから、炭素を入れると鉄の融点が下がることがわかり、るつぼによる製鉄が可能となった(p60)

    ・ドイツは、ベルギー・ルクセンブルク・フランスの製鉄設備を手に入れたので、年産1000万トンができて連合国との消耗戦ができた(p70)

    ・八幡製鉄所の発祥地がなぜ釜石かというと、珍しく磁鉄鉱の鉱山、開山は将軍綱吉、閉山の平成5年まで日本最大の鉱山であった(p87)

    ・ドイツが粘り強く戦えた理由の一つに、ボーキサイトの産地がその勢力圏(ハンガリー、フランス、イタリア)にあったことがある(p115)

    ・航空機を生産するにあたり、資財として、普通鋼材・アルミニウム・電気銅に加えて、工作機械、武器・爆弾の生産、パイロットの養成等、大きな壁がたくさんあった(p120)

    ・戦争のビタミン(マンガン、クロム、モリブデン、バナジウム、タングステン、ニッケル)の殆どを、米英で抑えていた、これではドイツや日本は勝てない(p154)

    ・アメリカに乏しかったのは、マンガン・クロム・ニッケルというレアメタルであった(p157)

    ・日本が占領すると鉱山の生産能力は極端に落ちた、経営する能力に欠けていたから、鉱山に通じていた人は招集されて、本来の能力を発揮できていなかった(p164)

    ・三式中戦車は170両ほど生産されたが、本土決戦の切り札として温存されて投入されなかった(p187)

    ・陸軍がほぼ独自で潜水艇を造ってしまった一方、海軍は戦争の終始を通して戦車に執心していた(p223)

    ・石油石油と視野が狭まり、全体のシステムを見渡して(石油、タンカー、鋼鉄、鉄鉱石、他の金属)管理運営することを疎かにしたのが日本の敗因であった(p242)

    2013年8月17日作成

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著者プロフィール

軍事史研究家。1950年、神奈川県生まれ。
中央大学法学部法律学科卒業。国士舘大学大学院政治学研究科修士課程修了(朝鮮現代史専攻)。著書に「日本軍とドイツ軍」、「レアメタルの太平洋戦争」、「日本軍の敗因」(学研パブリッシング)、「二・二六帝都兵乱」、「日本の防衛10の怪」(草思社)、「陸海軍戦史に学ぶ負ける組織と日本人」(集英社新書)。「陸軍人事」、「陸軍派閥」、「なぜ日本陸海軍は共同して戦えなかったのか」(潮書房光人社)、「帝国陸軍師団変遷史」(国書刊行会)がある。

「2020年 『知られざる兵団 帝国陸軍独立混成旅団史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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