完全分析独ソ戦史: 死闘1416日の全貌 (学研M文庫 や 5-3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (382ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784059011958

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  • 世界史上最大で最後の陸上戦となった独ソ戦は、4年間で両軍2千万人という膨大な損害を出し、第二次世界大戦の帰趨を決めた。大戦開始当初欧州を席巻したドイツの最新鋭戦車による電撃戦術は、結果としてソ連には通用せず、ロシア、白ロシア、ウクライナの大地はドイツ機動部隊の墓場となった。ベルリンからモスクワまで約二千キロの広域で行われた総合陸上戦闘というのは例がなく、特にがっぷり四つの戦車戦として世界史に残る事例なだけにマニアには堪らないテーマだが、戦争とは政治の一手段であり、経済力などバックグラウンドも含めて四年間を語るのが本書の趣旨なのだろうから、それに即して読んでみようと思った。

    まずドイツ。世界最強の戦車軍団はなぜ敗れたのか。高等統帥教育を受けていないヒトラーが作戦に容喙したから、はたまた勝手に降伏する元帥がいたから、と様々に語ることができるが、これらは多かれ少なかれ、ソ連側にもあったこと。理由の一意に決めることはできないが、例えば、近代戦車戦の宿命である「消耗」に着目することもできるだろう。戦車軍団が電撃的に進攻を重ねれば重ねるほど、故障や損耗が募り、戦車の稼動率は下がっていく。そんな秋も深まった頃、ヒトラーはモスクワ、そしてスターリングラードと重要都市への進攻を命じ、その最後の一伸びが冬季反攻の余地を与えることになる。

    一方のソ連は、初期に壊滅的な打撃を被り、退却を重ねていく。そんなソ連に味方したのは国土の広大さと冬将軍だけではない。ドイツのハルダー参謀総長は言っている、「一ダースの敵を撃破しても、またすぐに別の一ダースが現れてくる」と。単に人口と国土でドイツを凌駕するだけではなく、ドイツにどれだけ殲滅されても、戦車と兵士を前線に供給し続けるだけの国力があった。ソ連の公刊戦史はフルシチョフのスターリン批判後に書かれている。ひょっとしたら、スターリンは再評価する必要があるのかもしれない。

    こうしてファシズムの時代は幕を閉じ、米ソ冷戦の時代へと移っていく。20世紀後半以降の歴史の中で、ここまでの大規模陸上戦は行われることがなかった。だからこそ戦車マニアたちは独ソ戦史を懐かしげに振り返るのだろうけど、一方で、多くの死と損害を謙虚に反省したからこそ現代があることに、感謝する必要もあるのだと思う。

著者プロフィール

山崎雅弘(やまざき・まさひろ) 1967年生まれ。戦史・紛争史研究家。

「2020年 『ポストコロナ期を生きるきみたちへ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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