「頭脳国家」シンガポール―超管理の彼方に (講談社現代新書 1135)

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  • Amazon.co.jp ・本 (210ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061491359

作品紹介・あらすじ

遺伝子主義、エリート教育、強制貯蓄、言語改造…。選び抜かれた頭脳集団による合理主義の「君子政治」。都市国家が生き残るために強要された「超管理」の現実。

感想・レビュー・書評

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  • 1993年刊。著者は下関市立大学経済学部助教授。


     NIES諸国の一として80年代以降、顕著な経済発展を遂げたシンガポール。
     しかし、人口僅か300万人なのに、多言語国家。華人中心のシンガポールとは民族構成の異なるマレーシア・インドネシアなどの地域大国に囲まれつつ、地政学的に有利な位置を活用できる交易・商業国家でなく、製造業の拡大で発展を実現した。
     そこに何か特別な理由はあるか。本書はこれを読み解こうとする書である。

     ここで見えてくるのは、「超管理」というより「過剰管理」。つまり非共産主義なのに、独裁国家以外の何物でもない自由の抑圧だ。
     その中でも報道機関の活動と報道内容の禁圧が顕著。勿論、反対勢力は共産党のみならず、政権交代すらしそうもない弱小勢力・個人への逮捕・拘禁(治安維持法と訳語付けした著者の見立てが振るっている)。

     一方で、高学歴者への多産奨励・支援と、低学歴者への避妊推奨という政策を真顔で実行している様に流石にドン引きする。
     その上で、エリート教育を推進するため、10歳での進路の基本的固定化。エリート路線流入にあたっての語学力の偏頗的重視政策(バイリンガルではなくトリリンガルまで要求。なお結局は90年代までは英語化の推進に帰着)。
     そして、この点での極めつけは、とある政府関係者の非公式ではあるが、「人的資源だけのシンガポールにおいては、大器晩成型はいらない」と言い切る様だ。


     この尊厳も何もない抑圧された社会の有り方は、毎年人口の0.3%の海外脱出者の存在を生んでいる。しかもそれは、所謂エリート層(大卒グループ)が多くを占めているのが現実である。
     ところが、この対応策は儒教精神の流布。これは女性、特に大卒女性(国が多産を奨励している人々)の総スカンを食い…。


     何とも言い難い国家像を見せられた気分である。

  • 学歴重視。単純労働者(本国民にも移民にも)に厳しい。エリートが国家を担う。自由よりも秩序・安定を優先。が,統制が厳しすぎて,それを嫌うエリートの海外流出に歯止めがかからないとも 日本はどうする?20年前の本だが参考になった

  • シンガポールを知るのに良本!

  • 4061491350 210p 1997・5・27 4刷

  • 脳の国の歴史

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著者プロフィール

北九州市立大学法学部教授(国際関係論、東南アジア地域研究)。九州大学大学院法学研究科博士課程修了。博士(法学)。
主要業績:『多民族国家シンガポールの政治と言語――「消滅」した南洋大学の25年』(明石書店、2013年)、『マラッカ海峡――シンガポール、インドネシア、マレーシアの海峡を行く』(編著、北海道大学出版会、2018年)、『東南アジアと「LGBT」の政治』(共編著、明石書店、2021年)、『20世紀の東アジア史Ⅲ――各国史2(東南アジア)』(共著、東京大学出版会、2020年)

「2022年 『変容するアジアの家族』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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