トーマス・クックの旅: 近代ツーリズムの誕生 (講談社現代新書 1309)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061493094

作品紹介・あらすじ

大英帝国での"レジャーとしての旅行"誕生の様を、創始者の生涯とともに活写する。

感想・レビュー・書評

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  •  一度は夢見る世界一周旅行。生みの親をご存知だろうか?実業家、
    トーマス・クック。大航海時代に世界一周を果たした船長と同じ名
    の男は、薄利多売や男女対等の考えのもと、遠隔地への旅行を大衆
    でも楽しむことを可能にした。ある日、そんな父の使命感と息子の
    上流階級向けの経営哲学は衝突する。ここでたじろぐわけにはいか
    ない。これは、パックツアーというイノベーションを社会実装した
    男の情熱の遺伝子である。


    引用1:地元参加者の帰着を迎えるため、駅には大群衆が待ち構えていた。まるで戦場から帰還する英雄を迎えるといった雰囲気である。

    引用2:トーマス・クックが薄利多売の原則を的確に実行していたことが、これらの値段を見ると実によくわかる。

    引用3:つまり、低価格による大量仕入れと薄利多売の原則を旅行の分野に適用することにより、それまでは上流階級に限定されていた旅行―特に海外旅行に代表される遠隔地への旅行―を一般大衆でも楽しむことを可能にしたのである。

    引用4:彼女たちのエネルギー、勇気、苦難に耐える力(中略)に関しては、男性と全く対等です。それどころか、女性の多くは女々しい男たちをしばしばしのぐほどです。

    引用5:眼以外はベールで隠した女たち、白いターバンやワイン・レッドの回教帽を頭に載せた男たち、狭くて汚いうえに迷路のようにややこしい道とその両側に連なるたくさんの小さな店々、金銀細工・革細工・宝石・野菜・果物・民族服などでいっぱいの店々から通行人に呼びかける店員たち、荷を積んでいくロバやラクダ、子供に追われて歩む山羊や羊の群れ、所々で出くわす回教寺院、そして小銭をもらおうと群がり寄せる子供や乞食の群れ。イギリス人のツアー客にとってはすべてが物珍しく、好奇心を刺激する。

    引用6:招待されたトーマス・クックは、なんと運河の開通式参加ツアーを組織した。

    引用7:スエズ運河の開通と大陸横断鉄道の完成によって、世界周遊ツアーを企画・実行する条件が揃ったことになる。

    引用8:そして今や私たちはもっと広く展開するようにと、これらのオリエントへの努力をインドへ、中国へ、オーストラリアへ、カリフォルニアへ伸ばすようにと迫られています。それから同じ名前の人が昔やったように『世界周遊』をと

    引用9:しかも一般大衆の間に旅行を広めることを使命としていた父親とは違って、息子の方は上流階級に焦点を合わせていた。

    引用10:旅というものは、目的地に到達するまでの道中が大変であればあるだけ、印象深いものとなり、目的地についてからの感激も大きいという面がある。



    ふりかえり

    キーワードを三つ選んで本の解像度を上げてからセンテンスを抜きました。


    キーワードは、トーマス・クック、ツアー、顧客、の3つです。

    パックツアーの発明、実行者の足取りをたどりながら、その成り立ちや現在の旅行との違い、顧客の視点などに関する記述を引用してみました。


    引用後に、年号をマーキングして、情報の歴史と併読してみました。

    なんだか、クック社の企画した「タイムトラベル+パックツアー体験」の旅行をした気がして、面白い体験になりました。ツアー国と歴史背景の関係が重層化してきます。

    二代目経営者の息子とトーマス・クックとの対比から経営思想と歴史背景の関係も浮き出てきました。

  • トーマスクックの才能にただただ感嘆する本。団体旅行、海外旅行の先駆けの人。先見の明があって、勇気と行動力があって、素晴らしい。いつの時代そういう人が歴史を作っていく。

  • この本を今手に取る、というのはある種皮肉ですよね。
    もう彼が起こした会社は2019年に破産が申請され、
    消滅してしまったのですから。
    (ただし実を言いますと最初の時代にも破産しています)

    原点はお酒に変わる楽しみの手段を。
    そして旅という手段をあらゆる階級に。
    それは彼の願い通りのものになりました。

    その手腕はやがて、王国御用達にもなるのです。
    難題でもかなえるその手腕。
    親と子ではどうも経営に違いはあったものの
    現代ツーリズムの元祖といっても過言ではないでしょう。

    今はそれもネットで当たり前に買える時代。
    残念ながら彼の会社はそれに押されてしまいました。
    これもまた、変化なんでしょうね。

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