聖書VS.世界史 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 30
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  • Amazon.co.jp ・本 (254ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061493216

作品紹介・あらすじ

天地創造から6000年で人類は終末を迎えると聖書はいう。では、アダムとエヴァより古いエジプトや中国の歴史はどうなるのか。聖書と現実の整合性を求めて揺れ続けた西欧知識人の系譜。

感想・レビュー・書評

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  • 聖書をどう読んでも、天地創造からイエスの誕生までの間は5000年しかありません。
    聖書に矛盾しないように「歴史」を記述しようとするとき(普遍史)、イエスの誕生以前のイベントをその5000年に収納しなければならないという問題が発生します。
    この「5000年問題」に例外はありえません。
    なぜなら、天地創造以前には「時間」そのものが存在しないから。

    ところが、新たな文献の発見、地理的交流範囲の拡張(中国や北米)、自然科学の興隆、啓蒙主義の登場といった事件が突きつける、時間を遡るべき”新証拠”が、「5000年問題」を揺るがします。

    かくして、「聖書年代学というベッドにあわせて…(歴史)の時間を切り詰めよう」とする(「科学vsキリスト教」p204)、普遍史サイドの苦闘が展開されることになります。
    聖書ではご丁寧にもキリストの復活という「お尻」も決まっているので、過去のイベントを余裕をもってパッケージングしていると、すぐに「終末」が来てしまうことになります。
    あちらを立てればこちらが立たず、並大抵の工夫では収まりません。

    連続する王朝を並立していたことにする(鎌倉・室町・江戸の各幕府が同時に存在していたことにするような無茶な話)ぐらいは可愛いもので、都合の悪い国はなかったことにする、大した事業を行わなかった王を抹消する「ファラオの大虐殺」(本書p165。しかも犯人はあのニュートン)、◯◯王と☓☓王は実は同一人物だった、バージョン違いの聖書をもってくるなど、なんでもあり。
    しかもそこへカソリックvsプロテスタントの闘争も影を落として、大論争となります。

    21世紀に、しかもキリスト教化外の地に生きる者にとっては単なるつじつま合わせのための荒唐無稽な話に見えるかもしれません(実際、必死の辻褄合わせですが)。
    しかし、普遍史論争における両陣営のプレーヤー達はいずれも、当時の宗教・思想・科学界のスーパースターであり、そこから文献学などの学問が発達し、我々が使っている暦が生まれ、さらには始まりも終わりもない無限の「時間」が承認されたことも考え合わせると、ヨーロッパの思想風土の分厚さを再認識することになります。

    18世紀の終わりとともにヨーロッパにおいては普遍史は止めを刺されますが、話はそこでは終わりません。
    メイフラワー号とともに普遍史の残り火は新大陸を目指し、その構造を変えながらアメリカにおいて命脈を保ったのです。
    してみると、アメリカにおいて進化論教育の是非がいまだに論争のタネになることの遠因は、はたしてこれであったかと、想像を逞しくしたくもなります。

    さらに。
    アメリカでしぶとく生き延びた普遍史(的なるもの)は、翻訳歴史教科書の形を借りて、こんどは太平洋を越えて我が国へ渡ってきます。
    筆者の言葉を借りれば、「神代の歴史から叙述を開始する日本史の記述と『パーレー萬國史』(引用者注:アメリカで書かれた普遍史ベースの歴史書)は、神話を歴史に組み込むという点では同じ構成を有しており、両者は、共通の精神構造に基いているといえる」(本書p251)。
    この精神構造が妙な形で発現して、「(皇国史観を)取り戻す」ことにならなければ良いのですが…。

    人間の知性がキリスト教を乗り越えてゆく、歴史学における聖俗革命をめぐる一大ロマン。
    自然科学リーグの大奮闘を描いた姉妹編「科学vsキリスト教」とあわせて読むと、楽しさ3倍です。
    (本書に紹介されているキテレツな地図も良いですが、「科学vsキリスト教」に紹介されている穴居人や野蛮人のイラストは最高。)

    2冊合わせて、星4つ。オススメ。

  • 神様が七日で世界、そしてアダムとイブを作った。
    そこから始まる聖書の中の「歴史」観がどのように広がり小さくなっていったか。そんな本。
     だいたいの流れ
         ↓
    キリスト教の黎明期、キリスト教の正当化のために
    聖書より(古い)エジプトやメソポタミアの歴史をこねくり回しながら聖書に入れる
    そんな教父たち。
         ↓
    「海の向こうには何があるの?」「アジアの向こうはどうなってるの?」
    アジア人は首無しふたなり人間なのぉ!←(やや語弊あり)という世界観を
    最近の欧州人の心に植えつけた偉大なる聖書ベースの地図の話
         ↓
    大航海以後、欧州人の「世界」が広まった。新大陸を聖書的にはどうみなすか?
    中国の歴史ってめっちゃ古!という矛盾を解決してきた人たち。それに納得できなかった人たち。
    宗教改革やルネサンスを経た欧州に!聖書的歴史観の危機が訪れる!!!!
    パスカル、ホッブス、モンテーニュ!あなたの歴史観きかせてね!
     ニュートン「エジプトの歴史長すぎ、大して何もしてない王様は省く。異論は認めない。」
         ↓
    エジプトのこととか聖書のバージョンによって年代違う。マジで泣きそう。
    聖書は聖書、歴史は歴史。そんなアウトな考えをし始めた時から、「世界史」のはじまりはじまり

     聖書ってどれだけ西洋人の思想を支配してきたんだろう。凄いと思う

  •  著者は現さいたま大学名誉教授。本書は古代ローマ時代に発した聖書を絶対視する史観(「普遍史」)が、伝統的西欧世界がその外部の受容を余儀なくされた中世以降、中国史やエジプト史などの聖書と不整合な史実からチャレンジを受け変容していく過程を詳述したもの。

     ホップス、スピノザ、シモンらの文献批判による聖書記述の相対化、ニュートンが発展させた理神論による時間・空間の「無意味化」などの〈外からの圧力〉だけでなく、著者の専門である18世紀ドイツ・ゲッティンゲン学派が展開したカトリック/プロテスタントの対立を巻き込んでの〈内からの圧力〉により普遍史観が自己崩壊した、というのは中々説得力があって面白かった。

     中世以前の普遍史観による異郷の生物や文化(中国・日本も当然ここに含まれる)の想像力たくましい描写がいかにもエキセントリックで、ここを読むだけでも結構楽しめる。なお本書が執筆された90年代は、記紀などの神話を義務教育に取り入れようという保守的機運が高まった時代であり、本書終章で神代の記述が歴史学から排除されずに残っていた19世紀日本の状況に触れるのはこういった背景もあってのことと推察。

  • OK2b

  • 中世の修道院を舞台にした映画を見てたらよく、えらい修道僧などが一本のろうそくの光だけをたよりに、夜っぴてせっせと何か書きつけている。あれはいったい何をしているんだろうとかねて疑問に思ってたら――歴史を改竄してたのね……とほほ。
    その必死さはまさに『1984年』のビッグブラザーなみ。なにしろ聖書の設定ありきで人類史を矛盾なく説明しようとしたら、アタマ(人類創生)が決まっちゃってるもんだから、それより古いエジプトや中国の正史も、無理からにその中に詰め込まなくちゃならない。それからおシリ(その6000年後の終末)も特定されていて、そうなるともうローマ時代末期の時点でさえ、人類の終末は目と鼻の先に迫ってきちゃってるのだ。Oh,my God!

    ……今回のレビューは、本書でも登場する啓蒙思想家ヴォルテールの言葉で締めておこう――われわれの歴史とは公認された作り話に過ぎない。

  • 興味深いが、少々マニアック。

  • 20190130

  • 第一章 普遍史の成立
    第一節 聖書の描く人類史
    第二節 キリスト教年代学と普遍史の成立
    第二章 中世における普遍史の展開
    第一節 キリスト紀元の発生
    第二節 中世における普遍史叙述
    第三節 中世の化物世界観と普遍史
    第三章 普遍史の危機の時代
    第一節 ルネサンスと普遍史の危機
    第二節 宗教改革と普遍史の危機
    第三節 大航海時代と普遍史の危機
    第四節 中国史の古さの問題と普遍史の危機
    第五節 科学革命と普遍史の危機
    第六節 年代学論争
    第四章 普遍史から世界史へ
    第一節 啓蒙主義的世界史の形成
    第二節 普遍史の崩壊
    第五章 普遍史と万国史
    第一節 『史畧』と『萬国史畧』
    第二節 明治政府と万国史

  • 新書文庫

  • 聖書の記述に基づいて書かれた「普遍史(Universal History)」はいつから「世界史(World History)」となったのか。年代学そのものの歴史を辿る。それは、ヨーロッパの人々が世界をどう理解してきたかを辿るということ。
    ローマ期には、"人類史6,000年間"の観念が定着し、年代には創成紀元が使われるようになる。
    キリスト紀元は、もとは復活祭の日を決めるという教会行事上の必要から、525年に発生した。
    聖書の記述と矛盾するエジプトや中国の歴史の古さの問題は、やがて年代学論争に繋がった。
    18世紀頃には普遍史の息の根は止められ、世界史の叙述がなされるようになる。

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