帝国陸軍の〈改革と抵抗〉 (講談社現代新書 1859)

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  • Amazon.co.jp ・本 (194ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061498594

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  • 現代人の仕事に於いても、プロジェクトを成功に導き、狙った目的を達成するためには、方針、目標設定、進め方が明確かつそれを実行可能なリソース(体制や資金)が充分に揃っているかに掛かってくる。勿論後者のリソースがいつも必要十分であるとは限らないから、その時々の会社の状況だけでなく、社会情勢などの正しい把握と認識がなければ、プランはいつも絵に描いた餅となってしまう。私のような小心者は何をするにも反対・抵抗勢力にプラン自体を邪魔されたくないから、なるべく平時は大人しく下手に振る舞い、自身の身(時間や体力)を削ってでも、周囲に協力的に活動し続け、その時が来れば温めていた考えを一気に解放する、といった動き方を徹底している。それが必ずしも上手くいくとは限らないが、特に緊急事態における対応では、中々上手くいっているように思う。とは言え平時の企画や構想では慎重になり過ぎて、時間をかけ過ぎた挙句、いざ実行のタイミングを見計らって表に出そうとした際には、多くは時勢を読み違えて機を逸しているなんて事も多くある。要は機動力に欠けている。
    話は逸れたが、現代の会社組織に於いても、会社の方向性をよく理解し、それに必要な自身の組織の在り方や方向性を定め、期間とリソースを配分しながらタスクを着実にこなしていく為には、それに見合う能力のある人材を集め、意思統一された状態を如何に作るかが常に課題となる。特に中期計画などに改革的な要素を盛り込む必要があれば、既得権益に侵された抵抗勢力や反対派をどの様に処理・対処出来るかがプランの要となる。
    我が国が先の大戦で敗北し、多くの国民に悲しみや痛みを強いる結果となったその背景には、不統一な軍部の動き方と、国民理解を醸成する為に嘘偽りの情報を流し続けた政治の在り方に大いに問題があったことは明確だ。それに至る明治維新後の国づくりに於いても、前述した様な自己保身や既得権益への執着など、凡そ国家戦略に関係の無い一部の人間の思惑がマイナスに作用してきた事は間違いない。近代国家が戦争を用いてその発展を遂げてきたのは間違いないから、日本も日清・日露戦争、満州事変にあたるまでの軍部の在り方などが国家の命運を分けてきたとも言える。
    近代国家に必要な戦争能力とは何か。どこを仮想敵国とみなして、どの様な対応戦略をベースに置くか。積極的に打って出るか、保守的に守りを固めるか。その実現にはどの程度の軍隊を設置し、その構成、兵力、武器は何を用いるか。更には国家の経済、産業、技術力、資源確保をいつ迄にどのレベルにしておかなければならないか。国家総力戦という言葉が、第一次大戦以降に重要なキーワードとなってくるが、正に国家総動員体制ともなれば、軍の在り方だけでなく、それを支える経済や国民の意識なども改革が必要となってくる。
    本書はそうした明治維新以降の我が国主要な戦力を構成してきた「帝国陸軍」の改革と、前述したような抵抗勢力について紐解いていく。結論を出して仕舞えば、誰もが理解する様に、無謀にも太平洋戦争で圧倒的国力差のあるアメリカに挑み、最後は原子爆弾まで投下される日本の同組織の改革は上手くいっていなかった、という話になる。その流れは我が国が近代国家を目指して近代的な軍隊を作ってきた当初から遡ってみていくのが理解への近道である。
    本書を読み進めると最初に私の実例にもみえるように改革への抵抗勢力へ如何に対処していくかが鍵となる様だ。さらに時期を逸せず、当初の目的をぶらさずに成功に導くには、圧倒的に高い能力を持つリーダーの存在が欠かせない。少し間違えば実行しても玉虫色的で効果の薄い(時には意味が無い)施策に陥ってしまう。そうならない為にはリーダーの信念や勇気がものを言う。本書で主に採り上げる改革は3つ。それぞれ桂太郎、宇垣一成、石原莞爾の3人を中心に進められていく。個別には書籍などでよく知る人材ではあるが、明治大正昭和と続く陸軍改革の大きな流れの中で、それぞれがリーダーとしてどの様に小舟を漕いでいくのか、連綿と続く我が国の歴史の水の流れを、もっと大きな世界情勢の大河と合わせて理解するには良い。
    またここで述べられる内容は今まさに会社組織で働く私たちの行動にも十分生かされると思う。

  • 『文献渉猟2007』より。

  • 2006年刊。改革は難しい。本書は「官僚制度・運営の改革」の成否に関して、歴史的な参考例を見出すべく、戦前陸軍の改革のうち、成功例①山県有朋、桂太郎主導の軍令・軍政改革、失敗例②宇垣一成の軍政・粛軍改革、失敗例③石原莞爾の参謀本部改革を挙げ、その成否の分かれ目を描述しようとする。内容はそれほど新奇ではないが、改革成否の実例分析をまとめているのが本書の特徴か。ただ、小泉改革礼賛のきらいがあり過ぎ、その功罪を分析なく手放しで是としているのは、どうかと思う。著者は武蔵野学院大学国際コミュニケーション学部講師。
    本書の長所は、各改革の前座を割合詳述している点と関係性に意を払っている点か。ちなみに、小泉改革も同様で、その前座たる橋本行政改革、小渕政権の功罪を念頭に置くべきはず。なお、著者は元防衛庁戦術研究所教官。

  • 弟くんの本棚からの強奪品。

    とりあえず、読み終わった、ッて感じ?
    とにかく、人の名前と所属派閥が覚えられん!
    要再読。
    ただしもう一度読むときは大学入試勉強並みにノート作って暗記力を最大限発揮せねばならない…。

  • ・軍部の拡大=悪、というステロタイプを外し、あくまで組織管理論から説いている。筆者は、確かに「幕僚統制」により参謀本部が政治の手を離れたことには批判的であるものの、各時代の「改革派」にはそれぞれ好意的。
    ・陸軍省外局の参謀局が後の参謀本部(M11=1878)か。「幕僚統制」とは、単に幕僚たる佐官級が指揮官を動かすということではなく、参謀本部自体天皇の幕僚として陸軍を統括する意。
    ・陸はM17から10年、海は同10から8年計画で軍拡。清の影響力が増す一方親日派衰退の朝鮮半島を見て、だそうだ。甲申事変はM17。また清仏戦争、英の巨文島占領、ロシアの南下も。そういう緊迫した情勢だと軍拡に走るんだ、ってのが、頭ではともかく、肌感覚ではわからない。
    ・山県、桂ら「改革勢力」の国防論は外征&機動的防御&主権線より外の利益線防御、って今のPLAか?現在の価値観では、「抵抗勢力」の主権線防御の専守防衛論が望ましいように思えるけど、ローカルな護郷軍中心って事だからたしかに守旧だ。
    ・M19に、組織上は陸海軍が同格の統合参謀本部が実現していたんだ。でも2年後に参軍なる皇族ポストの下に両参謀本部が分かれ、更に1年経たずして海軍参謀本部は海軍参謀部として海軍省の隷下に。陸は陸軍主導の参謀本部が望ましく、海軍は陸の参謀本部長の下に入りたくなかったと両者の利害一致。
    ・明治の陸軍改革の成功要因は、1.国是の「開国進取」にマッチ、2.体系的な改革政策あり、3.権力抗争に勝利、の3点。但し参謀本部と独立と幕僚統制システムは後々災いの種となる。
    ・WWIを見て。田中義一と宇垣一成が総力戦へ対応できる陸軍へと改革志向。しかし国力が持たない現状下で一旦現状維持派が強力に。その後田中陸相の下で宇垣次官は軍制改革を断行、陸軍主導の総動員国家を志向。やがて宇垣は陸相となるが、田中と決別。
    ・伝統・保守的思想の皇道派(精神主義)vs改革志向の統制派(合理主義の総力戦志向)。元々両派とも陸軍内で近代化の遅れや政府の政策への不満から革新勢力が台頭し、満蒙分離を構想していた一団だったが、やがて分裂・対立。
    ・石原の満州事変は満州問題を一気に解決し、流れを革新勢力側に変更。中央でも革新勢力は暗黙の了解でこれを援助。
    ・2.26以降、統制派中心の陸軍は政府内の権限拡大へ。石原は参謀本部で組織改革、1部(作戦)を強化し、情勢判断を2部(情報)から移す。これに2部は不満、反石原に。
    ・石原は国防計画体系にも着手。S11の5閣僚了解の「国策の基準」は陸海軍両論併記の玉虫色のため、同年陸軍独自で米を対象とする「国防国策大綱」を作り、それに基づく一連の計画体系を構想するが、結局頓挫。その失敗は、中堅幕僚の下克上的手法に頼ったことや、盧溝橋事件の処理で拡大派の武藤・田中課長から反発を受けたこと。

  • 日本陸軍というと、精神主義の権化のようなイメージが強いが、改革の機運は何度かあった。が失敬して結局、敗戦・解体への道を進んでしまう。多くの示唆に富んでいる本である。

  • 卒論の時にちょっとだけ読んで、今回ちゃんと全部読んでみました。
    私が体系的智識を持っていなかったこともあって、少しわかりにくかったです。

    この本は昭和陸軍における、三つの改革に焦点を当てて書いてあるんですが、
    一つは桂太郎(明治期の改革。創設期)、二つ目は宇垣一成(大正期の軍縮)、最後に石原莞爾(昭和期の参謀本部の改革)。

    陸軍創設期の改革はまさに改革という感じですが、宇垣のように軍縮期の改革はあまり改革という感じがしませんでした。
    また、石原莞爾も改革をした人というイメージが無く、なぜ改革の一つになっているのだろうなあと思っていたらやっぱり空中分解した改革でした・・・
    できることならギュッと的を絞ってほしかったです。まあそういう本を探して読めばいいんですがw

    山県有朋の陸軍創設はなかなか面白かったです。

  • [ 内容 ]
    『参謀本部と陸軍大学校』『「戦争学」概論』の著者が人類普遍のテーマ「改革」の条件を近代日本陸軍史に見いだす意欲作三大改革の一つはなぜ成功し、二つはなぜ抵抗勢力に屈したのか、その教訓は現代にも生きつづける―。

    [ 目次 ]
    第1章 陸軍の創設(治安維持軍の建設 山県の陸軍掌握と国防軍への脱皮)
    第2章 桂太郎の陸軍改革―明治期の改革(対立する国防像 陸軍改革の始動 第一の衝突―統合参謀本部をめぐる攻防 第二の衝突―陸軍紛議 最後の衝突―月曜会事件 陸軍改革の完成)
    第3章 宇垣一成の軍制改革―大正期の改革(第一次世界大戦の衝撃 軍制改革への反動 軍制改革の断行と衝突 軍制改革の頓挫)
    第4章 石原莞爾の参謀本部改革―昭和期の改革(陸軍内の革新運動 革新という名の保革対立 陸軍による政治支配 石原莞爾の改革と挫折)

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