孟子 (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061596764

作品紹介・あらすじ

聖人の孔子と並ぶ賢者として孔孟と呼ばれ、その著述は『論語』と同様に四書のひとつとされる孟子。魏、燕、斉などの七強国が覇を争った戦国時代に、小国鄒に生まれ、諸国をめぐって説いた仁政とは何か。人材登用の要諦などあるべき君子像の提言や井田制など理想国家の構想から、人間の本性を考察したうえの修身の心得まで、賢者の教えを碩学が解説する。

感想・レビュー・書評

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    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/740446

  •  これまで孟子に対しては、性善説や井田制の知識から、現実を無視した復古主義者の印象があった。しかし、『孟子』で描かれる孟子の姿は、隅々まで商品社会の行き渡った都市生活を謳歌する野心あふれるブルジョワ的知識人であり、同時にその社会の矛盾に正面から向き合う社会運動家であった。時の覇者である遼や斉の王に対し一歩も引くことなく自説を展開するその堂々たる姿、議論の相手をねじ伏せていく巧みな弁論術は、現代の読者をも魅了するだけの力がある。当時の『孟子』の編纂態度も、そうした巧みな弁論術のテキストを期待する読者に応えようとするものであったのであろう。理論的な部分は断片的でしっかりとした体型的な議論となっていない。確かに弁論術は組織の中で個人が一定の影響力を発揮するためには重要な能力であるが、単に『孟子』を弁論のレトリック集として読む態度は、知らず知らずのうちに「今の人は、その天爵を脩めて、以て人爵を求む」(告子章句上)ことになりかねない。読者は孟子の情熱を我が物としながら、常に目指すところを失わない態度を求められる。『孟子』はビジネス書としても最低限の品位を保っていると言える。
     さて、本書の議論を仔細に見ていくと、孟子は表面的な素朴さ、理想主義的な装いとは裏腹に、意外なほどに実践的な議論を展開していたことがわかる。試みに、本書の最重要テーマである仁政についてその背後にある理論を再構成してみようと思う。
     孟子は幾度となく仁政に言及しているが、その内容は文脈に応じて様々であり、かえって意味が定まらない印象を受ける。いくつか引いてみると、「天下の民至らん」(梁恵王章句上)、「仁にしてその親を遺つる者あらざるなり」(同)、「天下の仕うる者、皆王の朝に立たんとし欲し、耕す者皆王の野に耕さんと欲し、商賈皆王の市に蔵めんと欲し、行旅皆王の塗に出でんと欲し、天下のその君を疾う者をして、皆王に赴げ愬えんと欲せしめん」(同)、「生を養い死を喪して憾みなきは、王道の始めなり」(同)、「人殺すことを嗜まざる者、能くこれ[天下]を一にせん」(同)、(民を)「駆りて善に之かしむ」(同)、「王百姓と楽しみを同じく」する(同 下)、「人に忍びざるの心を以て、人に忍びざるの政」(公孫丑章句上)、「天下のために人を得る」(滕文公章句上)と言った具合で、一見すると仁政の定義のようであるが、細かく見ていくと仁政の必要条件や結果、王の振る舞いを示すものであり、仁政がどのような内容を持つか直接的に示すものは実はひとつもない。反対に、仁政と対立するのは、「義を後にして利を先にする」(梁恵王章句上)ことや、「我能く君の為に土地を辟き、府庫を充たす」(告子章句下)であり、これは仁政に伴う利益のみを目的とすることである。
     つまり、仁政とは、十分な食糧があることでも、儀礼が守られていることでも、人々に同情心があることでも、能力に基づいて登用が行われることでもない。それらは仁政の徴標でしかないからだ。ましてや、そうした目的を達成するための政策でもない。それこそ、まさに孟子が軽蔑し、批判の対象としているところだからである。ここから言えることは、仁政とは、王が人民を支配している客観的な状態に過ぎないということである。しかし、優れた支配のために必要なのは優れた支配である、というトートロジーに陥っていると見てしまうのは拙速であろう。では、これは何を意味するのであろうか。
     ここで、議論を深めるために、ヨーロッパの主権概念を参照してみたい。主権概念を確立したジャン・ボダンは主権を「国家の絶対的で永続的な権力」、「法律の拘束を受けない権力」と定義した。ここで「絶対的」というのは支配権は国家主権にのみ帰属するということであり、「法律の拘束を受けない」というのは自然法(または神の法)にのみ拘束されるということである。紛らわしいが、ここでいう神の法は教会法のことではなく、ローマ教皇や神聖ローマ皇帝からも主権は独立である。
     翻って、孟子は、「天子に得られて諸侯となり、諸侯に得られて大夫と為る」(尽心章句下)とし、王にのみ権力を認めている。君臣の関係は孔子においても論じられているところであるから、孟子で特に重要なのは権力と権威を明確に区別して論じている点である。「仁を賊なう者これを賊と謂い……一夫紂を誅するを聞けるも、未だ君を弑するを聞かざるなり」(梁恵王章句下)というのは、王の権力は天による正当化を得られなければ、決して「丘民に得られて天子と為」(尽心章句下)ることはできないということである。つまり、単なる暴力である王の権力が民を支配し、民が王の支配に従うのは、権威であるところの天によって王の権力が正当化されていることによる。孟子は天について、「天物言わず、行いと事とを以てこれを示すのみ」(万章章句上)とし、それゆえ「天子は天下を以て人に与うること能わず」(同)と、権威としての天と主権の絶対性を簡潔に述べている。
     以上から、仁政とはヨーロッパにおける主権と同様に、権力の永続性・絶対性を示す概念であるということができる。「仁者は敵なし」(梁恵王章句上)についても、主権の絶対性を説いたものと読んだほうがその趣旨に合うであろう。
     易姓革命についても、以上の趣旨を踏まえて理解しなければならない。譜代の大臣は「君、大過あれば則ち諫む。これを反覆して聴かざれば則ち位を易う」(万章章句下)とされるのは、王と臣の関係は相対的であるかのようにも読める。しかし、天子によって諸侯となり、大夫となった臣が、天子に「大過」あるかを判断することはできないし、天子である君を易えることも論理上不可能である。したがって、これは王が権力の掌握に失敗したという事実を示すに過ぎない。
     仁政という概念によって王の権力の絶対化に成功した孟子にとって、その現実かはどのように構想されたであろうか。実際の統治においては、王の任命とは独立に、直接民を支配する大土地所有者をはじめとする諸侯が存在する。仁政の実施には臣からの抵抗が伴うことになる。孟子は得意とするところの比喩によってこの実現の過程を示した。ユートピア的な社会像は中間団体の支配権が剥奪された姿である。井田制もまた、土地を公田と私田に分け、公田をすべて王の支配下とすることで、中間団体の支配の排除を図式的に示したものだと言える。
     ところで、「丘民に得られて天子と為り」(尽心章句下)や「これをして事を主らしめて事治まり、百姓これに安ず『是れ民これを受くるなり』」(万章章句上)を以て孟子が民主主義的思想を示したとする解釈があるようである(訳者の貝塚茂樹もこうした立場をとる)。しかしこれは大きな誤りである。天は王をして天子とするのであって、民を天子とするのではない。民が王の権力を正当化することは理論上ありえない。民が王の支配を受け入れるのは、王が民を支配していることの裏返しととるべきである。したがって、あくまで天による権力の正当化が先にあり、その結果民が支配に服するという事実があるのであって、その逆ではない。
     ここまで孟子の仁政について思い切った解釈をしてきたが、『孟子』の中での孟子はここまで概念を洗練させておらず、比喩も討論のための比喩であることは否めない。編者の力不足で理解が全く追いついていない上に、編集の意図も全く違うところにあったためであろう。その意味では比較的言及の多い仁政のような概念については整合性を手がかりに体型的に解釈することが可能であるが、その他の概念については、かなりどうとでも読めてしまう。例えば、有名な性善説については、道=客観法則(物自体)、気=無意識を含む世界の認識構造(理論理性)、同情心=気とは異なる規範認識の構造(実践理性)、意志=気から自由なもう一つの認識構造(実践理性によって規定される意志)、これらの一体としての浩然の気(超越論的観念論を前提とした実践理性の適切な使用)、などとカント哲学の概念を当てはめればそれらしく見えてしまう。孟子自身にはかなり高度な体系的理論があったと思われるが、それを『孟子』から取り出すことは不可能であることが何より残念である。

  • 貝塚茂樹さんによる孟子の思想解説と『孟子』抄訳です。貝塚茂樹さんは、やや孟子の考えに否定的な見解を持っているように感じました。やや否定的な立場からの思想解説と抄訳となっています。

  • 四書のひとつということで、期待しましたが、期待ほどではありませんでした。
    言っていることが綺麗ごと過ぎるのが気になるところです。


    ひとことでまとめると
    孟子のダイジェスト版

    よかった点
    ・仁義の徳(p65)
    ・誠は天の道(p209)
    ・人間の欠点(p214)
    ・五十歩百歩、自暴自棄、人事を尽くして天命を待つ

    突っ込みどころ
    ・第十一巻 告子章句の議論
    ・著者の孟子びいき過ぎるところ

    議論したいこと
    ・徳治主義(性善説)は絵空事なのか
    ・中国で孟子の考えは広まっていないのか?

  • 孟子の抄訳と簡潔な解説。課題のために読んだ。彼の運命論者としての側面に目を向けないと(そういう課題だった)、あまり面白くなかったのではないかと思う。
    「天は人の上に人を造らず」が「今ある差は学問に励んだかどうかの差だ、勉強しろ(大意)」と続くように、「人の本性は善である」もまたその一文だけでは孟子の思想は曲解しかできない。『孟子』はこの抄訳だけでも「折角天から授かった善という本性も場合によってはだめになる。だからこそ人事を尽くして天命を待て。堕落した人生のために死ぬことは天命ではない(大意)」と幾度か述べており、そちらに目を向けたほうが彼の思想は理解しやすいのではなかろうか。
    偉そうに言ったけど課題の合否出てないから根本から解釈間違ってるかもしれない。ごめん。

  • [ 内容 ]
    聖人の孔子と並ぶ賢者として孔孟と呼ばれ、その著述は『論語』と同様に四書のひとつとされる孟子。
    魏、燕、斉などの七強国が覇を争った戦国時代に、小国鄒に生まれ、諸国をめぐって説いた仁政とは何か。
    人材登用の要諦などあるべき君子像の提言や井田制など理想国家の構想から、人間の本性を考察したうえの修身の心得まで、賢者の教えを碩学が解説する。

    [ 目次 ]
    1 孟子思想の時代背景―孟子の生きた戦国時代(渾沌とした時代;新しい文化の息吹き;孔子の歴史的位置と諸子百家)
    2 孟子の人と思想(孟母三遷;孟子の生涯;孟子の性善説)
    3 『孟子』という著作(梁恵王章句;公孫丑章句;滕文公章句;離婁章句;万章章句;告子章句;尽心章句)

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • ブックオフ、¥600.

  • 孟子の生涯と『孟子』の解説。私のような初心者にも分かりやすい。孟子が人間味がある感じで面白かった。

  • 孟子の思想を知るには解説もついているので非常によい。

  • 孟子ってなんだろ。というときに読む本。読みやすいのでマル。

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著者プロフィール

2022年4月現在
武蔵野大学教育学部・同大学院教授

「2023年 『総合的な学習の時間の新展開』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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