生態と民俗 人と動植物の相渉譜 (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (424ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061598737

作品紹介・あらすじ

食料や燃料を恵み、道行く際の標となり、また神の依り代となる樹。肉として薬として、あるいは害をなし、時に神の使者ともなる動物。人は自らをとりまく自然から何を享受し何を守ってきたのか。植物の活用と生命力への崇拝、動物との敵対とその霊性への畏怖。自然と相渉る人々の民俗事例と伝承を集め、培われてきた相利相生の思想の有効性を検証。

感想・レビュー・書評

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  • 文化や民俗は、その土地にあった生活様式、環境とのかかわり方を教えてくれる。特に、伝説や物語にもそうしたメッセージが隠れているという最後の部がおもしろかった。伝説・民話は、言わば先人達が長い時間をかけて獲得してきた教訓や知識。侮るなかれという読後感だった。

    焼畑の輪作を終えて休閑させるとき、根粒菌が共生する榛の木(ハンノキ)の苗を植えて土地の肥沃化を図った。榛の木を山の神の足として伐採を禁じた地もあった。墓に植えられた木に、枇杷の木、センダン、カツラがある。コナラの台木の先端に伸びるヒコバエを刈り取った刈敷を水田の緑肥として利用することが昭和30年代まで行われてきた。

    遠野市や岩泉のシシ踊りは、害獣としてのシカとそれを防ごうとする人間との対立を演じるもの。日本の古典に登場するワニはサメを意味している。

    伝説の中には、その地に生きた先人たちの環境とのかかわり方に関するメッセージが込められている。サケの大助伝説には、サケの大助の遡上を語ることによって、種の保存・資源の保全を図ろうとした共同体の意図を読み取ることができる。ウミガメの産卵位置をその年の台風の大きさの指標として、その位置より上に船を移動する風習があったため、漁師たちはウミガメを助けたことが浦島太郎の物語を生んだ。灰を撒く花咲爺は、灰の再生促進力を語っている。野焼き・山焼きは、屋根材(カヤ)、肥料、飼料など農民の暮らしと深く結びついていた。野焼きの後に焼けた小動物を狙ってやってくるイノシシも狙われた。

  • [ 内容 ]
    食料や燃料を恵み、道行く際の標となり、また神の依り代となる樹。
    肉として薬として、あるいは害をなし、時に神の使者ともなる動物。
    人は自らをとりまく自然から何を享受し何を守ってきたのか。
    植物の活用と生命力への崇拝、動物との敵対とその霊性への畏怖。
    自然と相渉る人々の民俗事例と伝承を集め、培われてきた相利相生の思想の有効性を検証。

    [ 目次 ]
    神の山と人の山
    1 共生の民俗(人と燕の相渉;巨樹と神の森;クロマツの民俗;アマカツの民俗)
    2 共存の葛藤―ディレンマの動物誌(ハブの両義性;鹿;猿;鼠;蛙;狼;鮫)
    3 資源保全と再生の民俗(曲物師と木地屋;山椒魚の谷;「旬」の思想;再生と民俗)
    4 伝説・昔話の環境論(伝説と環境思想;鮭の大助―資源保全と種の保存;浦島太郎;桃太郎;花咲爺;猿蟹合戦)

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • 民俗学

    我々の生活にはあらゆるところで、脈々と受け継がれる風習がしみ込んでいる。それは各地域ごとに違うこともあれば、不思議と遠く離れた地域で同じような文化が受け継がれていることもある。
    本書は動植物と我々とのつながり、自然から何を享受し、我々の生活にどう結びついているかを、市井の人々から聞いた話をまとめ、考察している。実に地道な、丁寧な本である。

    受け継がれている民間の伝承が消えていっている今、このような本が多く残されるのを希望したい。

    タイトルとなっている「相渉」という言葉は造語であるそうだが、実にぴったりと当てはまっている。

  • 事例が豊富であり、なおかつ非常に読みやすいので、描かれている世界にグングン引き込まれる。しかし、野本作品にありがちな、全国各地の事例を無秩序に紹介しているので読みながら頭の中を整理するのが大変であるし、「観念」的な研究をする同業者に謁を入れている割には、民俗例を古代の世界に半ば無理矢理結び付けるなど(それはお前の不勉強、と言われそうだが)、読みながら不満に感じた。

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著者プロフィール

1937年 静岡県に生まれる
1959年 國學院大學文学部卒業
1988年 文学博士(筑波大学)
2015年 文化功労者
2017年 瑞宝重光章

専攻──日本民俗学
現在──近畿大学名誉教授

著書──
『焼畑民俗文化論』『稲作民俗文化論』『四万十川民俗誌──人と自然と』(以上、雄山閣)、『生態民俗学序説』『海岸環境民俗論』『軒端の民俗学』『庶民列伝──民俗の心をもとめて』(以上、白水社)、『熊野山海民俗考』(人文書院)、『山地母源論1・日向山峡のムラから』『山地母源論2・マスの溯上を追って』『「個人誌」と民俗学』『牛馬民俗誌』『民俗誌・海山の間』(以上、「野本寛一著作集Ⅰ~Ⅴ」、岩田書院)、『栃と餅──食の民俗構造を探る』『地霊の復権──自然と結ぶ民俗をさぐる』(以上、岩波書店)、『自然と共に生きる作法──水窪からの発信』(静岡新聞社)、『生きもの民俗誌』『採集民俗論』(以上、昭和堂)、『自然災害と民俗』(森話社)、『季節の民俗誌』(玉川大学出版部)、『近代の記憶──民俗の変容と消滅』『井上靖の原郷──伏流する民俗世界』(以上、七月社)、『自然暦と環境口誦の世界』(大河書房)、『民俗誌・女の一生──母性の力』(文春新書)、『神と自然の景観論──信仰環境を読む』『生態と民俗──人と動植物の相渉譜』『言霊の民俗誌』(以上、講談社学術文庫)ほか

「2022年 『麦の記憶 民俗学のまなざしから』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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