- Amazon.co.jp ・本 (309ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061833272
感想・レビュー・書評
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佐野洋氏の『推理日記』シリーズの第1巻が彼の地フィリピンの片隅で見つかるとは思わなかった。『小説推理』誌上で続いていた長寿連載の第1回目とはいかなるものだったのかと興味津々で読んでみた。
まず面白かったのは『推理日記』の名の下、当初は○月×日なる日付が付いていた事。しかしこの趣向もたった5回で終わっており、作者自身もあまり必要も無いので止めたと述べている。
そして本作は佐野洋氏の推理小説界に一迅の風を起こそうとかなり張り切っている様子が伺える。
というのも思いっきり各作家の力作、乱歩賞受賞作、好評な作品に噛み付いているからだ。終いには当時の人気ドラマ『太陽にほえろ!』までにも噛み付く始末。
これがなるほど、さすが佐野氏だと唸らせるものならばまだいいが、この頃は若気の至り(とは云ってももう四十路を迎えているのだろうが)が先行して、自分の云いたい事をいいながらも、論理が成立しにくくなると逃げる傾向が強く見られる。
例えば各作家の作品を褒めつつも、実は1つ―2,3の場合も多々あるが―気になるところがあると開陳し、それが何もそこまで・・・といったような具合である。
特に視点に関しては敏感で、
「私は文中、誰某の主観が入ったので、ははあん、ここがミスリードなのだなと注意深く読んだが、果たして真相は予想に反して普通に展開し、○○については全く触れられなかった」
という文章の多い事、多い事。
議論を吹っかけるのだが、なかなか抗議も来ず、他の作者の意見と佐野氏の考えが違う事もしばしばなのも興味深かった(まあ、そういうことを正直に書いている事もこの人らしいのだが)。
特に西村京太郎氏のベストセラー『消える巨人軍』に対する重箱の隅の突きようはちょっとベストセラーに対する嫉妬すらも伺えた(他人の作品を作品の質に関係のないところで粗探しをするのは自分を貶める事になると思うのだが)。
特に生島次郎氏が
「佐野洋は一見論理的に見えるんだけど、その論理が非常に独善的なんだよなぁ。特に私怨が混じると」
という風な事を云った件は一番傑作だった(よく書いたね、佐野さん)。
以上のように、推理小説の厳しさを感じさせてくれたⅣやⅤに比べると、独善的な我の強さが目立ったエッセイだった。
この連載が始まったのが1973年で私は当時1歳か。これだけ暴れまくって平成18年の今までよく続いたなぁと、驚いた次第である。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
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