首塚の上のアドバルーン (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 95
感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (250ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061976832

作品紹介・あらすじ

マンションの十四階から語り手は、開発によって次第に変化する遠景の中にこんもりとした丘を見つけ、それが地名の由来となった馬加氏の首塚と知る。以来テーマはひたすら首塚の探索となり、新田義貞の首塚から、さらに『太平記』『平家物語』のすさまじい首級合戦へとアミダクジ式につながり、時空を越えて展開する。第四十回芸術選奨文部大臣賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 著者自室の窓から見える首塚から、どんどん話が逸れていくエッセイ風連作短編。
    話といっても、過去の書物や口伝を調査しレポートしたものに所感を加えたような内容が大半を占め、
    興味深い内容もあったが、はぐらかされすぎて集中出来なかった印象。
    ただ私が敬愛する小島信夫臭が漂い、中々嫌いになれない作者でもある。

  • 人口音声により始まる遍歴が『太平記』『平家物語』などの引用をもとに肥大していくのだが,結局は現実世界で何も起きない。話のまとまらないオタク語りといった感じで,話す姿の可笑しさを堪能する作品だと読み取った。

  • 「ピラミッドトーク」
    マンションへの引越し祝いに、ピラミッド型の時計をもらった話
    文字盤がないのだけど
    頂上部をプッシュすると声を発して時間を教えてくれる
    セイコーから実際に販売されていたもので
    80年代にはそういうのが目新しかった
    なおかつその形状が、使用者になんらかの神秘性を期待させる
    もちろんただの時計にすぎないものなのだが…

    「黄色い箱」
    マンションのベランダから黄色い箱が見える
    その、黄色い箱みたいなテニス練習場の裏には森のような丘があって
    丘の上には馬加康胤という人の首塚がある
    どうもそれが地名(幕張)のもとになった名前のようなんだが
    くわしいことはわからない

    「変化する風景」
    新田義貞の首塚に出会ったときの記憶と
    パウル・クレーやモンドリアンの世界が
    マンションの一室に同居している

    「『瀧口入道』異聞」
    「瀧口入道」は高山樗牛が「平家物語」をベースに書いた近代小説
    大筋は同じだが、根底にある思想が異なっている
    しかしそれらはたしかに、同じ瀧口入道を書いているのである

    「『平家』の首」
    平家物語に記された殺しの場面には、なぜか現実感が足りないのだ
    それは食道癌の手術後、まるで実感を持てなかったことに
    なにか関係があるのかもしれない

    「分身」
    筆者は、「太平記」の作者とされる小島法師を
    複数の人物による合同ペンネームと推察した上で
    兼好法師についても言及する
    「徒然草」の作者として知られる兼好法師だが
    太平記における、高師直の艶書(ラブレター)代筆を皮切りに
    さまざまな役回りで、さまざまな文学作品に顔を出しているのだった

    「首塚の上のアドバルーン」
    なんとなく三年にもわたって、馬加康胤の首塚のことを調べたが
    基本的な情報・文献が乏しいうえ
    資料ごとの食い違いもあって、はっきりした事実はわからない
    しかしそれを調べていくにつれ
    思いもよらない知見が手に入ったりするごとに
    首塚を中心としたもうひとつの世界の存在が、実感されるのだった

  • 転居した先で見つけた首塚。それの来歴を自分の記憶から思い浮かぶあれこれと組み合わせて連想していく短編たち。
    平家物語、太平記、仮名手本忠臣蔵、古典をあちこち連れ回されて、気が付いたら出発地点の首塚に戻っていた、という印象。
    私の貧弱な読書力ではとても楽しめる作家ではありませんでした。
    ただ、平家物語での首打ち取りの描写は盛り上がる、と言っていたことと、出てくる幾多の「平家の首」には不思議な印象がある、と言っているくだりはとても面白かったです。
    平家物語を読ませることが目的かと思うほど興味を掻き立てられました。

  • 「小説を読んだから、小説を書く」著者は、本作では『太平記』、『平家物語』に多く言及しているが、そのそもそものきっかけが転居先のマンションの部屋からの眺め。現実がフィクションを呼び寄せ、何と、「首」をめぐるフィクションが現実(著者にとってはあまり嬉しくない)を呼び寄せる。両者の境を浮遊しているような感覚にとらわれながら面白く読んだ。とはいえ、正直なところ『太平記』とか『平家物語』には別段興味もないし、教養もない自分にとっては、そこのところの興奮は味わえず、飛ばし読みしたところもある。戦前戦中の教育を受けた世代ならばもっと楽しめる内容だと思った。

  • 自宅マンション14階ベランダからの景色に端を発する。そこからアミダクジ式に派生する数々のテキストの大コラージュ。太平記、平家物語などからの引用と急速に開発されゆく東京湾岸地区の現況とが重なりあい圧縮され、緻密に構成されながらも少しずつ蠢くけったいな鳥瞰図が我々読者の眼前にさらされる。ひとつの視線を定点に偶然と必然を掘り起こし、変容して連なるグラデーションがやたら面白い。実験的とか前衛だとかと衒わず、自分のやるべきことを愚直かつ真摯に、小説に托する姿勢を私はリスペクトする。

  • 墓の傍に住む。住み心地や如何か?

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著者プロフィール

●後藤明生(ゴトウ・メイセイ)1932年4月4日、朝鮮咸鏡南道永興郡永興邑生まれ。敗戦後、旧制福岡県立朝倉中学校に転入。早稲田大学第二文学部露文学科卒。博報堂を経て平凡出版(現マガジンハウス)に勤務。67年、「人間の病気」で芥川賞候補。翌年、専業作家に。「内向の世代」と呼ばれる作家として注目を集め、代表作に73年発表の『挾み撃ち』が高く評価される。77年に『夢かたり』で平林たい子文学賞、81年に『吉野大夫』で谷崎潤一郎賞、90年に『首塚の上のアドバルーン』で芸術選奨文部大臣賞を受賞。89年、近畿大学文芸学部の設立にあたり教授に就任。93年より同学部長。99年8月2日、逝去。

「2020年 『四十歳のオブローモフ【イラストレイテッド版】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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