なまみこ物語・源氏物語私見 (講談社文芸文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061983663

作品紹介・あらすじ

贋招人姉妹によるいつわりの生霊騒動等、時の権力者・藤原道長の様々な追い落とし策謀に抗する、中宮定子の誇り高き愛を描いた女流文学賞受賞作「なまみこ物語」、『源氏物語』の現代語訳の過程で生まれた創見に満ちた随想「源氏物語私見」の二作を収録。円地文子の王朝文学への深い造詣と幼い頃からの親和に、現代作家としての卓抜な構想力が融合した二大傑作。

感想・レビュー・書評

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  • 「なまみこ物語」と「源氏物語私見」、昔は別々の本だったが、今は一冊になっているのね・・・。
    「なまみこ物語」の方は、おどろおどろしいタイトルだけど、偽巫女のような意味らしい。
    握った権力を盤石たらんとする藤原道長の容赦ない陰謀に、若き一条帝と中宮定子の愛はどうなってしまうのか、中関白家の命運は?と、ほぼ全編通じて目が離せません。道長の攻撃がクライマックスに達するところを、電車の中で読んでいたんですが、思わぬ展開に落涙してしまった。
    同じ著者の「源氏物語」現代語訳同様、言葉の使い方など雅やかで、馥郁たる平安宮廷の世界に浸れます。
    また、本作は著者が子供の頃に読んだ鎌倉か室町期の写本?と思われる古い書物「生神子物語」の内容を記憶を辿って綴ったという体裁が取られており、(実際のところは巻末の解説を読んでください)、その凝った作りがますます物語の魅力を高めている名作である。

  • 雑感。


    ■なまみこ物語
    ・抑制の筆致
    易しくない文章に耐えながらじりじり読んでいると急に面白くなる。え?いまなにかたいへん重要なことが起こらなかった?と思って数行戻って読み直してみると、深遠なる策謀が成し遂げられたところだったり、思いもよらぬ裏切りによるどんでん返しのシーンだったり。恋人の背信だとか、愛の奇跡だとか、なかなかにドラマチックな要素がてんこ盛りなのに、アップもなし、BGMもなし、のようなストイックさ。不親切といえばそうだが、その媚びなさにしびれる(なんて、ちょっと背伸び)。

    ・話の内容
    も、すごく面白かった。まとめると、悪役道長の策謀と、それに負けなかった定子と一条天皇の無垢な愛、という陳腐なワードになってしまうが、政争に勝ったのは道長・彰子サイドだけど果たして本当の幸せとは?という問いかけも良かった。行国が道長のもとを去っていくところもなんか好き。


    ■源氏物語私見
    ・だらだら古文
    源氏物語的文体というものがあるらしい。谷崎潤一郎が「文章読本」のなかで日本文学の文章を、源氏的と非源氏的とに分類しているらしい。なんとなくわかる。やっぱりそうなんだ。もうちょっとそこんところわかりたい。味わいたい。

    ・萌えのすべてはもうここにあった
    源氏物語をどう評価するのか、そこには千年の議論の蓄積があるわけだけど、今回これを読んで私が感じたのは、「腐女子も乙女も千年変わってないんだな」でした(円地文子がそう言ってるってことではないですよ)。光源氏がどう魅力的に描かれているかということはもちろん、夢のように素敵な源氏もいいけどその好敵手でありじゅうぶんに高スペックそれでいて努力家でもありながら話の都合上いつも源氏の引き立て役にさせられてしまい泥をかぶったり悔しがったりするものの決して陰気になることなく「次は負けないぜ!」と爽やかな笑顔で去っていく頭の中将もいいよね、みたいな感じとか。源氏の美貌を褒めて「女にて見たてまつらまほし」というところを、源氏を女に見立てて、こんな美しい女性がいたらすばらしいという意味にとらえる説と、自分が仮に女としてこんな美しい源氏を見たら恋してしまうだろうという意味にとらえる説とがあるらしいのだがいずれにせよ男が男の美しさを褒めており、男同士のそんなドキッもいいよねな感じとか。

  •  ドナルド・キーン氏の自伝に出てきたものである。タイトルの「なまみこ」という音にとても新鮮な、そして不思議な響きを感じた。「なまみこ」とはいったい何であろうか。40年以上も前、著者の父の蔵書の中に日本文学者チャンバレン博士から引き継いだであろうと思われる数多の本の中の一冊であるらしい。表紙には「奈万美古毛乃可太里」と万葉仮名で書かれていたそうだが、次頁に「生神子物語・栄華物語拾遺」とあるのを見て、初めて巫女についての話だと知ったのだという。

     一條帝の御時に二人の后、定子、彰子がおり、それぞれに仕えていた清少納言と紫式部の確執はつとに有名だ。この「なまみこ物語」は栄華物語をベースに書かれているそうだ。栄華物語は彰子に仕えた女房によって書かれているから、彰子の父藤原道長一門の側から見た宮中を描いている。(ただ私はまだ栄華物語を読んでいない。)

     栄華物語の原文をそのまま用いているところもあるという。しかしこの「なまみこ物語」は定子の側から見た一條帝の御代を描いている。二人の巫女の姉妹が登場し、道長によって宮中に送り込まれる。そしてそうとも知らずに道長の手先となり、定子や定子の実家である中の関白家一門の没落に手を貸すことになる。

     栄華物語は道長の側から一方的に書かれているものだから、この「なまみこ物語」の作者はその反対の立場から書き残したかったのではないか。

     原本は既に手元にないので記憶を頼りに書いたと筆者は言っている。少女の頃から数十年を経た後に、これほどしっかり記憶に残っているのだから円地氏の頭脳には敬意を表したい。ぜひこの「なまみこ物語」の原本が出てきてほしいと願う。

  • 円地文子の「なまみこ物語」と「源氏物語私見」が
    講談社文芸文庫で一冊になっていたんですね。
    どちらも名作中の名作。さっそく買って「源氏物語私見」から読みました。

    作者が「源氏物語」を現代語訳したあとの随想で1974年の作。
    今では源氏物語関連のエッセイは数限りなくありますが(特に去年は多かった)、
    六条御息所と藤壺など源氏をめぐる女性たちや、光源氏の性格など、
    それらのものの見方の根幹となっているような気がします。

    六条御息所というと、嫉妬深い年上の女という面だけクローズアップされがちな
    ところがありますが、彼女の教養の高さ、趣味の良さとともに、
    藤壺と並ぶ、源氏が見上げるべき高貴な二人の女性という見方は
    今でも新鮮だと思います。この二人はその身分の高さとともに、
    源氏の求愛をふりきって去って行ったことも共通します。
    藤壺の代わりとして源氏が求めたのが紫の上、
    六条御息所の代わりが明石の上・・・確かにそうかもしれません。
    さらに、六条御息所の経済的な自立にも目を配らせているのはさすがです。

    今回、読み直して、印象的だったのは、桐壺の更衣。
    桐壺帝との別れにあたって、彼女が残すのは帝への哀惜。
    一言も残していく愛児、光源氏に触れていないというところです。
    ただ愛されるだけの気の毒な人ではなく、更衣も強く帝を愛していた
    強さのある人だったと言っています。

    ほかの古典と比べて、特にあの平家物語と比べても、
    源氏物語の女性たちは際立って輪郭がはっきりしていますよね。
    それぞれに個性があり、リアリティがあります。
    こんなに女性たちがしっかり描かれている古典はほかにないように思います。
    だからこそ、自分は源氏に出てくる女性の誰に似ているとか、誰が好きか、嫌いか、
    なんていうことが語れるのだと思います。

    自分に似た誰かがいるようにも思うし、
    反対にどの人物にも自分に似たところがあるような気もします。
    やっぱり、奥が深いのだよなぁ、源氏は。

  • 定子中宮のそばに控え仕えた少女の目から見た世界とその覇権をめぐる、息を呑む作品です。

  • 中宮定子という人は、なんと「かなしき」人なんだろうか。平安時代、一夫多妻、通い婚の時代に、女は待つしかない。まして、帝に嫁したならなおさらである。常に、自分は誰かと比べられる、誰かの為に自分を否定される。自分を守るために、自分が自分らしくあるために、女性に必要なものは、「愛」のなにものでもない。でも、自分を否定されるのも誰かの愛ゆえなのだ。もちろん、「みこたち」も。言うまでもない。*「かなし」は「悲し」ではなく、「愛し」である。

  • 中宮定子という人は、なんと「かなしき」人なんだろうか。平安時代、一夫多妻、通い婚の時代に、女は待つしかない。まして、帝に嫁したならなおさらである。常に、自分は誰かと比べられる、誰かの為に自分を否定される。自分を守るために、自分が自分らしくあるために、女性に必要なものは、「愛」のなにものでもない。でも、自分を否定されるのも誰かの愛ゆえなのだ。もちろん、「みこたち」も。言うまでもない。*「かなし」は「悲し」ではなく、「愛し」である。

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著者プロフィール

円地文子

一九〇五(明治三十八)年東京生まれ。小説家、劇作家。国語学者・上田万年の次女。日本女子大附属高等女学校中退。豊かな古典の教養をもとに女性の執念や業を描いた。主な作品に『女坂』(野間文芸賞)、自伝的三部作『朱を奪うもの』『傷ある翼』『虹と修羅』(谷崎潤一郎賞)、『なまみこ物語』(女流文学賞)、『遊魂』(日本文学大賞)など。また『源氏物語』の現代語訳でも知られる。八五(昭和六十)年文化勲章受章。八六年没。

「2022年 『食卓のない家』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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