さらばサムライ野球

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  • Amazon.co.jp ・本 (399ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062042451

感想・レビュー・書評

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  • 80年代後半に日本で活躍した助っ人外国人選手のウォーレン・クロマティの自伝。

    もちろん、当時の巨人軍の選手や指導者のことが書かれており、野球の本としても面白いのだが、日米比較文化論としても非常に優れており、とても勉強になった。

  • 印象に残った所のメモ。


    -- 俺はなんて幸せ者なんだろう。地球の反対側の日本料理店で、世紀の大打者から秘密のバッティング・セミナーを受けている。(P31)
    -- 王のことは親友みたいに感じている。だから四月にアメリカで二番目の息子が生まれたときには、王の名前にあやかってコーディ・"オー"・クロマティと名付けた。(P132)
    -- 王には二面性があると言っていた。外面は温厚な紳士だが、内面的には激しい獰猛な性格を秘めている。だからナインとうまくコミュニケーションができないという。(P138)

    この本を読んでいて一番印象に残ったのは、クロマティの王さんに対する尊敬の念。
    本の中で何度も王さんに対する好意的な気持ちを述べている。
    ただ王さんに関して、好きだからただ通り一遍に褒めているのではなく、
    いろいろ人間的な欠点があり、チームが上手くいってなかった事についても触れており、
    あくまで正直に他人に対する素直な評価を書いているのが伝わってきた。



    -- 原が鏡でうっとりとおのれのすがたにみとれているのを、俺は何度も目撃した。(P122)
    -- 「奥さんに何もかもしゃべってはダメだよ。ある程度、秘密をもっていたほうがいい」 原のやつ、どんな秘密をもっているんだろう。(P211)
    -- 原は大リーグで通用するかと聞かれれば、はっきり言って答えは「ノー」だ。スイングに欠点が多いし、守備もけっしてよくない。大リーグでも通用するのは、うちの選手では吉村ぐらいだろう。(P298)
    -- 心から打ち解けることはない。たぶん嫉妬心が邪魔をするんだろう。お互いに、だ。(P380)

    この本でクロマティ以外の中心人物を挙げるとしたら、王さんと原さんの二人。
    原さんに関しては基本的に否定的なトーンで、本のいたるところでネタにしている。
    たぶん四つ目の引用文にある、互いに嫉妬し合っていたという一文がすべてなんだと思う。
    個人的に一番笑ったのは、その後の1億円スキャンダルを予期したかのような二つ目の引用文。



    -- 一番苦手なピッチャーは、大洋ホエールズの遠藤という右投手だ。なんともいやらしいフォークを投げてくるし、ストレートも百四十五キロ級だ。あれなら大リーグでもスターになれる。(P46)

    この本で吉村以外に大リーグでも通用すると言及してたのが大洋の遠藤。
    苦手だった事によるリップサービスもあるかもしれないが。
    バラエティ等でもMLBで通用した選手を聞かれると必ず遠藤の名を挙げていますね。



    -- だから弟には俺しかいない。友達であると同時に保護者だし、一つベッドに裸で寝た仲だ。パジャマなんか買えなかった。ネズミにも二人でよくかじられた。(P62)

    アメイカの貧困街で複雑な家庭に生まれ、弟は何度も逮捕されている。
    クロマティがこういう生い立ちなのは知らなかった。



    -- ふと見ると、桑田が隅っこに一人ぼっちで立ち、自分で自分の体にビールをかけている。(P363)

    クロマティ自身は桑田のことを気に入っていると言及しているが、
    どっかの球団の元社長と重なるこの一文には笑った。
    当時のチームでの桑田の立場を如実に表している。



    -- ジャイアンツのコーチ陣がなぜあんなに権力をもち、選手たちから敬意を払われるのか、アメリカ人にはなかなか理解できない。(P154)

    王さんを慕っていた一方で、コーチ陣に関しては基本的にネガティブ。
    特に皆川や柴田の事はボロクソに書いている。
    好意的に書かれてたのは末次と須藤ぐらい。



    -- 「クロマティ、ボールはいつも両手で捕れ」おいおい、よしてくれよ!(P116)
    -- 日本のコーチの中に、「ゴロは体の正面で捕るのが正しい」と主張する奴がいるからだ。三塁ベースラインすれすれに飛んできたボールは、バックハンドで捕るのが一番いいに決まっているじゃないか。(P199)

    外野の両手捕球や内野の正面捕球など、最近やっと指導の仕方が見直されてきた感があるが、クロマティは既にこの頃からおかしいと主張していた。
    桑田がよく野球教室で旧来の指導法を強く否定しているのは、クロマティやガリクソンらと仲良くしていた影響もあるのかもしれない。



    -- ジャイアンツ・ナインの「シャミー・ベスト5」を紹介しよう。シャミヅカ、シャミクラ、シャミガワ(だから引退した)、シャミハラ、それからシャミマティ。(P299)

    クロマティ選出の巨人の手抜き名人ベスト5。
    篠塚と江川は特にサボり魔とのこと。まさにイメージ通り。
    逆に山倉は真面目な印象があったけど、割と手を抜いていたという話は意外だった。
    捕手は大変だから仕方ないとのフォローもあったが。
    シャミハラは説明無かったけどたぶん槙原かな。
    そして最後はもちろんクロマティ。



    -- 日本に行くべきかどうかは、人生で一番難しい決断だったが、来てよかったと思う。(P391)

    この一言で締められると、数多くの批判意見も真摯に受け止めたくなる。
    いろいろ物議を醸した本らしいが、一人の貧困街生まれの黒人がバブル期の日本で野球をした時の思い出を素直に綴った良書だと思う。

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著者プロフィール

1953年9月29日生まれ、アメリカ・フロリダ州出身。1974年にMLB・モントリオール・エクスポズに入団し、1977年からレギュラーに。1984年にNPB・読売ジャイアンツに入団すると1年目から35本塁打を放つなど活躍。1989年にはシーズン途中まで打率4割をキープし、最終的には.378で首位打者を獲得。MLB通算1104安打、NPB通算951安打と日米両リーグで一流の成績を残す。2019~2020年は読売ジャイアンツでアドバイザーを務めた。

「2021年 『ONE MOVE 最強バッティング教室』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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