「ことば」ほどおいしいものはない

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (237ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062120975

作品紹介・あらすじ

いい人生に「おいしいことば」あり。ことばの"味覚"を磨くと、人間関係も、生き方もステキに広がる。

感想・レビュー・書評

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  • NHKアナウンサーの山根基世さんのエッセイ集です。
    短いものがたくさん収められていますが、感じるものの多いエッセイ集です。
    付箋だらけになってしまいました。

    「もっと愛語を」
    愛情から発せられる言葉を愛語というということです。
    無責任な言いたい放題、相手を理解しようという愛情に基づかない「自分の主張」が蔓延していると山根さんは言います。

    「ほんの一手間」「真の知識人にりなさい」
    仕事の過程にどれほど心を込めるかということで、山根さんのところに「ラジオ深夜便」について取材したいと言ってきた雑誌記者は、一度も放送を聞いた様子もなく、「山根さん、お生まれはどちらですか」が第一声だったとのことです。

    だれかにインタビューする時、アナウンサーは可能な限り相手についての資料を読みあさるそうです。
    具体的な知識が具体的な言葉を引き出し、互いの関係を結ばせると山根さんは言います。
    自分の身体の中に入り込んでいる知識をもとに、自分の言葉で語ることが大切だということです。
    受験のためでなく、人間が人間らしく生きるために知識は必要だと学校で教えてほしいと山根さんは訴えています。

    「大人の知恵」
    幸せになりたかったら、けなしあいはしない。
    ダメなところは自分が一番よく分かっている。

    「ことばを飲みこむ」
    日田の小鹿田焼のことが取りあげられています。
    ここはわたしも行ったことがあります。
    2007年の暮れに訪れました。
    小鹿田は、割に閑散としていました。
    そば屋さんがありますが、閉まっていました。
    酒屋さんの前に自動販売機がありますが、ホットは売り切れでした。
    人がいないように見える釜もたくさんあります。
    商売気があまりないような感じです。
    川の流れを利用し、杵で陶土をひく唐臼の音は「日本の音風景百選」の一つなのだそうです。
    雨の中、清澄な音に聞き入りました。
    棚田の風景、野面積みの石垣の風景も良かったです。

    山根さんは「日本人の精神の原風景」「ことばを飲み込むことによって成立する昔と変わらぬ幸せな暮らし」「戻ることのできない遠く美しい世界」と記しています。

    「よい夫婦の作法」
    別れる夫婦と別れない夫婦の差は、別れない夫婦が配偶者の愚痴を避雷針のように聞いているのに対して、別れる夫婦はお互いに愚痴が言えない、言うと喧嘩になる関係だということです。
    愚痴が言えないと一度の喧嘩で別れることもあるとあります。
    「定年後」に夫が家で過ごす時間が増えるのがよいかどうかと言うことにも触れられています。

    「ことば一つで」
    山根さんが名古屋に講演に行った際に冷や水を浴びせられるような質問を受けます。
    山根さんが講演の中で「ほんとに」を40回も使ったと言うのです。
    こんなふうに人の話を聞くのかとショックを受けます。
    あとで、他の聴衆から慰められ、「名古屋を嫌いにならないで」と言われ、心が和みます。
    ことばの力はすごいとしみじみと感じます。

    「至福の読書体験」
    山根さんの子ども時代からの読書体験が語られます。
    中学生の頃、数学の授業を聞かずに「風と共に去りぬ」を読みふけったそうです。
    高校生、大学生の時は、太宰治、カミュ、ベケット、日本文学全集などを読みあさったそうです。
    膨大な量の本を読んだのですが、いま内容をほとんど覚えていないということです。
    覚えていないから読書は無駄だという意見もありますが、その読書のおかげで脳の神経細胞が刺激され、記憶力が高まり、思考力が向上しているとも言われます。
    本を読んでおいてよかったと山根さんは振り返っています。

    「聴き合うことで癒される」
    昼間の出来事を報告しているのに、新聞を読みながら生返事をしている夫のことから始まります。
    自分のことばが相手の胸に届いていないと感じるのは淋しいことです。
    山根さんは別のところで、観念のことばはいらない、身体のことばが聞きたい、身体のことばで話したい、とも言っています。

    「当たり前」という幸運
    熊野詣でに出かけた山根さんは、飛行機の欠航のために無事に帰れるかどうか気を揉みます。
    翌日講演の予定があるのです。
    飛行機や列車が時間通りに動くのは当たり前なのですが、そのことに感謝します。
    待ち時間に読書をしていて、時間が遅れると読書の時間が増えたと言って喜んでいる姿は共感します。

    「歌う極楽、聞く地獄」
    歴史ガイドボランティアについて、無知な人に教えてやるという姿勢はよくないといいます。
    知っていることをありったけしゃべる気持ちよさ、聞いている人がいてこんなにもものを知っている自分を吹聴できる気持ちよさはカラオケの楽しさと似ていると言います。
    自戒を込めて読みました。
    わたしも注意したいです。

    「若き日の絶望を超えて」
    山根さんは1971年に大学を卒業し、NHKに入ったそうです。
    東京のアナウンス室には鈴木健二アナウンサーとも同室だったそうです。
    社会に出た山根さんは、すっかり自信をなくしてしまいます。
    この夏休みに、山根さんは鈍行列車で大阪から山口県防府市に帰省します。
    傷だらけの自分をなんとか立ち直らせたという思いがあったということです。
    倉敷で下車して、大原美術館に寄ります。
    そこで見たルオーの絵に感動します。
    立ち尽くすほどの感動を覚えます。

    いま、大阪から防府まで鈍行で行くと、8時間ほどかかります。
    山根さんが「青春18きっぷ」を使ったかどうかは定かではありませんが、私も真似してみたいです。
    途中駅で美術館に入るというのも粋な話です。

    「生きるってそういうこと」
    2000年3月に山根さんは「ラジオ深夜便」の最後の放送をします。
    最終回は詩人の石垣りんさんにインタビューしています。
    山根さんはこの「ラジオ深夜便」で、志高く自分らしい生き方を貫いている女性たちの身体から出る「本当の言葉」を聞きたいと思って、思い通りに話を聞くことができたといいます。
    石垣りんさんは2004年に亡くなっています。
    最後を飾るにふさわしい放送だったということです。

    このほかにも、平田オリザさん、河合隼雄さんのこと、太宰治「斜陽」や松尾芭蕉「不易流行」、村上鬼城の俳句「生きかわり死にかわりして打つ田かな」や蜷川幸雄と白石加代子のこと、土佐日記の話題など、読み応えのあるものが並んでました。
    再読したいエッセイでした。

  • 『「ことば」は切実な信念の籠った「声」で語られる時、言葉の意味を超えて、大きく人の心を動かす力を持つものだ。』

        山根 基世 「「ことば」ほど美味しいものはない」

    この方は、以前新日曜美術館の司会をやっていたNHKのアナアウンサーです。

    「ことば」ひとつで、人間はいかようにも変わりうるということを、心に刻み込んでおかなければいけませんね。

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著者プロフィール

早稲田大学卒業後、NHKに入局。ニュース、ナレーション等多くの番組を担当。退職後は、子どものことばを育てる活動を続けている。著書に『感じる漢字』『山根基世の朗読読本』、翻訳絵本に『このてはあなたのために』『きっときっとまもってあげる』『ちっちゃな木のおはなし』など。

「2020年 『山根基世の朗読読本2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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