大向うの人々 歌舞伎座三階人情ばなし

著者 :
  • 講談社
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感想 : 9
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  • Amazon.co.jp ・本 (234ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062156363

作品紹介・あらすじ

十七代目中村勘三郎、初代中村吉右衛門、六代目尾上菊五郎、六代目中村歌右衛門、十一代目市川團十郎、十五代目市村羽左衛門-昭和を代表する歌舞伎役者と大向うたちの"青春"時代。

感想・レビュー・書評

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  • NHK山川アナウンサーが、歌舞伎大向うについて語った本。山川アナウンサーは歌舞伎に関する造詣が深いことで知られているが、まさか学生時代から歌舞伎に通い詰め、大向うで声をかけていたとは思わなかった。
    私も歌舞伎ファンで声掛けを行っているが、こんなに奥の深いものだとは思わなかった。これからもっともっと研究して、上手く声がかけられるようになりたいものだ。

    「大向うの掛けはじめというのは誰でもそうだが、人物の出と見得の時、そして、セリフのあいだに入れる掛声をやる。所作事は三味線を常に意識して、きっかけをのがさないような掛声を必要とするからかなり慣れないとむずかしい」p38
    「2回3回と同じ芝居を観ていれば、すっかり登場人物の出入りの順番が頭に入っているから「成駒屋」と言えば、舞台正面の金襖がすうっと左右に開いて歌右衛門が出てくるし、「中村屋」と言えば揚幕がチャリンと鳴って勘三郎が出てくるといった具合で、「どうです、俺の言う通りに出て来るでしょう」と得意がり、まるで私は舞台監督にでもなったような錯覚に陥っていたのも今は恥ずかしい」p40
    「映画と違って、興行なら25日間、一日一日役者の演技が異なり、役者の好不調の波がよくわかる。ここに歌舞伎独特の面白さがあるのだ」p59
    「(日記)「初日の2日から今日で6日間、1日も欠かさず通い詰めたが、いささかバテ気味。一応、一人前の大向うともなれば、なかなかつらいことよ」p63
    「芝居はめっぽう好きでも金銭的には恵まれない生活者にとって「贔屓」は高嶺の花だ。そこで安い大衆席の大向うに陣取って大声で役者の屋号を叫び「あんたはすばらしいよ」とほめるのが精一杯、ということになる。これが本来の大向うの掛声なのであろう」p108
    「いい掛声はやっぱり一朝一夕には生まれない。芝居の筋を熟知し、役者の出入りのキッカケを正確につかむためには、一つの芝居を何回も観ることだ。また、下座音楽の鳴り物のキッカケや三味線の「マ」を会得することが大向うの必須条件なのだろう」p138
    「(昭和55年ごろ)「寿会」(森正次会長以下9名)、「弥生会」(小川孝次郎会長以下38名)、「声友会」(古木義治会長以下15名)という3つの会によって、「大向う」が歩みはじめた。発足当時の「寿会」のメンバーは次の通りだった。森正次、水谷謙介、田中嘉一、堀江伸彦、阿部佳之、中川邦夫、吉垣精一、桜井潤二、山川静夫、以上9名」p151
    「(勘三郎の「鏡獅子」の隈取)私は、この隈取を見るたびに、人間が努力してやっとつかんだ、短い頂点を思い、感動する」p194
    「大向うの掛声は、本当に好きな役者に、そして名優にこそ与えられるべきものであろう」p213
    「声を掛ける側で気持ちがいいのは、花道の出の合図の電気がつく直前をとらえるか、あるいは揚幕がチャリンと引かれる音に合わせて掛ける大向うである」p213
    「キッカケをあやまると、まるっきり効果がない。そのかわりうまくいけば、役者と観客を同時にあやつる演出者になったような錯覚さえ覚える」p214
    「花道から花形役者が出るときは、なんといっても掛声がほしい。掛声があると役者の格があがり、華やかさとときめきを、ひときわ強く感じさせる」p216
    「役者が目玉をむいて大見得をきったときに声を掛けるのは、さほどむずかしいことではない。「バタン、バッターン」と2つ入るツケの2つ目をねらって屋号を言えばよい。大向う入門の第一歩だろう」p216

  • わりとエッセイ選ぶ時の目安にしている講談社エッセイ賞受賞作。本作もそのリストから手に取った一冊。良くも悪くも作品紹介通りの内容と印象。歌舞伎興味なくても読めます。

  • 歌舞伎は全く見たことが無かったので、大向こうの人ってなんだろうと思って興味を持ったのがきっかけ。歌舞伎ってこういう楽しみ方もあるんですね。何だか行ってみたくなりました。

  • NHKの元アナウンサーの山川静夫氏が回想する「大向こうの人々」の思い出。役者と観客の幸せだった時代の話です。芸能について、非常に示唆に富む指摘もたくさんあって、ためになりました。

  • 歌舞伎座三階、大向うに通い詰めた学生時代の日々がいきいきと描き出されている感じかな。こんなにも何かに夢中になれる青春時代を送ったとは少しバンカラな感じがして羨ましい。そこから「通」な人々と知り合ってふれ合って交流が広がっていくのも読んでいてまた楽しい。これぞ人情だよなあ。歌舞伎につきもののあの「かけ声」。あれってタイミングを外すとすっごくマヌケなんだけどそれにも「会」があるとは知らなかった(笑)あのかけ声があるから歌舞伎が締まる感じがしますね。また機会を見つけて歌舞伎を見に行きたいものです。

  • 元NHKアナウンサーで歌舞伎通でもある山川静夫氏による大向うの人々にまつわる歌舞伎のエッセイ。ご自身も「大向う」である山川氏により、大向こうのの人々を通して歌舞伎の世界のあまり目には触れない部分について書かれてあり興味深く大変楽しんで読むことができた。
    歌舞伎や伝統芸能、市井の人々の文化に興味がある人にお勧めしたい。

  • とても興味深く、面白く読みました。歌舞伎につきものの「大向う」の掛け声。こんな人たちが掛けていたんですね。山川さんが歌舞伎好きとは聞いていましたが、こんなに一筋のかただったとは・・・歌舞伎への熱い思いや、一緒に歌舞伎を楽しんだ「大向う」の人達との交流が生き生きと語られていて、大変面白かったです。それにしても「大向う」の人達の熱心なこと。毎日のように足を運び、芝居のみならず、日本舞踊、長唄、三味線を勉強し、せりふを暗記し名優の声色までできて、すごい精進です!一朝一夕にはできないことなんだ。そして歌舞伎は役者さん達とこういう観客とが一体となってつくりあげているものなのだと、つくづく感じ入った次第です。粋でイナセな「掛け声」を聞きに歌舞伎座に足を運びたくなります!!

  • 著者の歌舞伎に対する並々ならぬ愛を感じる。
    次に歌舞伎に行った時は舞台のみならず、大向うの"言葉"と"間"も楽しんでみたいと思った

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著者プロフィール

エッセイスト

「2013年 『歌舞伎は恋 山川静夫の芝居話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

山川静夫の作品

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