怪優伝――三國連太郎・死ぬまで演じつづけること

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (354ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062168137

作品紹介・あらすじ

三國連太郎。八八歳。俳優生活六〇年。出演作の役柄以上に、波瀾に富む人生を歩んできた稀代の俳優の正体は何か?戦後映画界を疾走した「生きたフィルモグラフィー」に佐野眞一が挑む。

感想・レビュー・書評

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  • 恥ずかしい話ですが、僕は三國連太郎のことを『釣りバカ日誌』のスーさんとしてしか知りませんでした。ここには映画界の『生ける伝説』となった彼のインタビューと自選した主演映画を彼自身の解説で追ったものです。

    僕は三國連太郎のことを『釣りバカ日誌』でおなじみの『スーさん』しかよく知らなかったので、今回、佐野眞一さんが彼の生きてきた足跡を自身へのインタビューと三國連太郎が自ら選んだ10本の映画を自身の解説とともに振り返るという、なんとも豪華な内容になっていました。

    ここに取り上げられている映画は僕自身が不勉強なので恥ずかしい話、ひとつも見てはいませんが映画以上に波乱万丈の人生を三國連太郎が送っていることを、改めてこの本から知ることができました。被差別部落出身ということを自らカミングアウトしたことに始まって、両親の『性の営み』を偶然見たことに端を発する女性への屈折したまなざしと奔放な女性遍歴。さらには戦場での体験や、俳優になるまでの『放浪生活』の話。俳優としてのキャリアをスタートさせたらさせたで、撮影時の役作りの鬼気迫るような入れ込みぶりから共演者との常軌を逸したような撮影エピソードの数々。

    ご存知の方にはいうまでもないことですが、『五社協定』を彼が始めて破り撮影所の前に『犬、猫、三國入るべからず』と張り紙までされたというくだりには並々ならぬ起伏に富んだ人生を生きてきたんだな、というある種の畏敬すら覚えてしまいました。役作りにいたっても歯を抜いてしまうのは序の口で共演者の女優を殴る場面では本気で殴り、田中正造を演じた役では鉱毒にまみれた土を喰らい、千利休を演じたときは役作りのために表・裏。両千家のお茶の稽古を一日8時間行い…。などのことが本人の口から語られております。

    今後、どれだけの時間がかかるかはわかりませんが、ここに取り上げられている作品から三國連太郎主演の映画を見て、この稀代の俳優(わざおぎ)がスクリーンに刻み付けた『生き様』を見てみたいと純粋に思ってしまいました。

  • 先日亡くなった佐野真一(2022.9.26)が、亡くなる2年前の三国連太郎とのインタヴュウを交えた本作は、亡くなった後でも残された作品が生き生きと光を放つような力を感じられる。
    特に三国が選んだ出演作10作を見ながら、作品だけでなく三国の人柄や考えの一端、共演した俳優たちの印象を引き出す丁々発止が小気味いい。
    それには佐野の三国に関する資料をよく調査したうえでの取材力を感じさせるものだ。
    特に戦争を忌避した三国の性格、心情、行動が興味深く描かれ、彼の演技に対する徹底した考え方に与えた影響の大きさを考えさせる。
    また緒形拳が三国に三国が釣りバカシリーズに出ている理由を聞いたというエピソードは緒方と三国の役者としての緊張関係が伺えて大変興味深い。
    三国の4度目の奥さんが佐藤浩市(3度目の妻の子)と三国の似た性格の一端を話すところも面白い。父と息子の関係の業の深さよ。

  • 2013年に90歳で亡くなった俳優・三國蓮太郎が自選した映画10本を、ともに観ながらインタビューを行ったという本である。
    その10本というのは、掲載順に書くと「飢餓海峡」、「にっぽん泥棒物語」、「本日休診」、「ビルマの竪琴」、「異母兄弟」、「夜の鼓」、「襤褸の旗」、「復讐するは我にあり」、「利休」、「息子」である。
    いずれも名作と呼ばれる作品ばかり。
    それを出演者である三國蓮太郎と一緒に観ながらインタビューを行うのである。
    なんと贅沢な話であろうか。
    映画ファンからすれば、垂涎もの、うらやましいかぎりである。
    しかし相手は底知れない快優・三國蓮太郎である。
    生半可な対応は怪我の元、返り討ちに合いかねない。
    だが対する佐野眞一も、一筋縄ではいかないライターである。
    これまでにも甘粕正彦、正力松太郎、中内功、孫正義、小泉純一郎、石原慎太郎などといったカリスマたちを、俎上にあげてきたライターである。
    一歩も引かずに踏み込んでゆく。
    そのつばぜり合いはなかなかスリリング。
    そこで語られる出生の秘密、戦争体験、若き日の放浪、女性遍歴、映画界での伝説的なエピソードの数々、そして息子・佐藤浩市のことなどが、時に赤裸々に、時にはぐらかしながら語られていく。
    また時に笑いがあり、和やかな時間もあり、といったインタビューは変化に富んでいる。
    そして当初の予想とは違って、素の三國蓮太郎はいたって穏やかで紳士的。
    インタビューが進むにしたがって親密度が増してゆく。
    かつては映画監督を目指したこともあるという佐野眞一の映画愛を、三國蓮太郎が正面から受け止めたからなのかもしれない。

    ところでこれら10本の映画のうち「襤褸の旗」を除いた他の9本はすべて観ている。
    なのでこの本を読んでいると彼らとともに映画をもういちど観返しているような気分になってくる。
    中でも最初に取り上げられた「飢餓海峡」がもっとも印象に残っている。
    それは著者・佐野眞一も同様で、特別の思い入れをもって書いている。

    この映画が作られたのは1965年、東京オリンピックの翌年、高校3年生のときである。
    圧倒的エネルギーを発散するこの映画を観た時の記憶は今も鮮やかに残っている。
    これほどの衝撃を受けた映画はそれまでにはなかった。
    以来何度も繰り返し観ているが、何度観ても新しい発見があり、感動がある。
    けっして古びることがない。
    昭和27年生まれで私より1歳年上の佐野眞一も、同じような衝撃を受けている。
    それだけに佐野同様の思い入れをもってこの章を読むことになったのである。
    ちなみにこの映画が作られた4年前の1961年、内田吐夢は中村錦之助主演で「宮本武蔵」を撮っている。
    以後1年に1作づつ撮り、5年後の1951年、「飢餓海峡」と同じ年に5部作として完結させている。
    この映画で三國蓮太郎は沢庵和尚を演じており、その存在感は強く印象に残っている。
    ついでに書くと三國蓮太郎は1954年に作られた東宝映画「宮本武蔵」(監督・稲垣浩)にも出演、こちらでは本位田又八を演じている。
    「宮本武蔵」という映画にとって、三國蓮太郎は欠かせない俳優ということになる。
    このことだけでも三國蓮太郎が、いかに幅広い芸域をもった俳優かということがよく分かる。

    「俳優とは?」という質問に対して、三國は「人に非ずして、優れた者」と答えている。
    いかにも三國蓮太郎らしい答えである。
    この本を読むことで、そこに込められた様々な思いの一端に触れることができたように思う。
    またもういちど「飢餓海峡」が観たくなってきた。

  • 以前、三國連太郎が書いた本の方が、生々しかったような気がします。

  • うまい役者でなく、真面目な役者になる。
    全力全霊でやる。
    そうしたら、スカっとする。

  • するすると読み終わりました。だから面白かったんですね。

    どんな本かというと、以前に有線放送か何かの企画で、三國連太郎が自分の出演映画から10本選ぶ、というのがあったらしい。で、その10本について、あるいはその10本を話の入口にして、佐野眞一さんが三國連太郎さんにインタビューした。そのインタビューそのものと、佐野眞一さんの三國連太郎についての考察やルポルタージュ的な記述。そういう本です。

    とにかく、三國連太郎のインタビュー部分が、オモシロイ。
    ぶっきらぼうだったり、役者や監督の批評をしたり、裏話、佐藤浩市について、緒形拳について、そして自分の無茶苦茶な人生について。オモシロイ。

     良くは知らなかったけど、三國連太郎さんは、所謂被差別部落民だった祖父、そこから逃げるために流れ者的な電気工事夫だった父、そして何故か網元のお嬢さんだった母を持っている。
     で、父と母もワケアリな関係で、後年大俳優になってから、母が死んだ後で、父から、「お前は俺の子じゃない」とか言われたりします。ほとんど笑うしかないような生い立ちです。
     10代から不良で、家出、女遍歴、ほぼ最底辺労働者のような流れ者になり、徴兵から逃亡し、だが実母が官憲に告げ口し、連れ戻されて出兵。中国で死線をくぐって終戦。生きるために銃撃戦の中、肥溜めに一晩漬かっていたという。
     中国の収容所でも生きるためにまず、民間人を偽装。夫婦連れの方が日本に帰りやすいと聞いて偽装結婚。そして帰国。その後も流れ者的な破滅人生を歩んでいて、26歳くらいで銀座の路上で松竹の社員にスカウトされて、映画界入り。この映画界入りの挿話は、本当かぁ?と思うんですけどね。あまりに出来すぎというか・・・何か絶対ウラがあるんじゃないかと思うんですが・・・。

     で、映画界入りして以来、木下恵介、市川崑、稲垣浩、内田吐夢、山田洋次、小林正樹、今村昌平、勅使河原宏、山本薩夫、高倉健、渥美清、坂東妻三郎、高峰秀子、田中絹代、有馬稲子、伊藤雄之助、三船敏郎、淡島千景、岸恵子、勝新太郎・・・らと仕事。
     そんな人々についての感想などもあり、そのへん、オモシロイ。
     黒澤と小津は、ないんですね。そのへんについても語ってますが。

     松竹入社から、五社協定時代に東宝に移籍。当時の芸能ジャーナリズムに叩かれた。
     女遍歴も奔放で、太地喜和子との恋愛は当時大きな話題に。
     30代でもう演技派の地位を作って、その後も商業主義的な作品にあまり出ず、ギャラの安い独立プロ系の作品も厭わず出演。
     女性と別れるなどのきっかけで数度、文字通り裸一貫になったり、突然インドやら外国に全てを捨てて行ってしまったり。
     一方で異常に俳優としての役作り、演技の深みにこだわり、負けず嫌いで、執念深い。
     と、言うわけで日本映画史の見取り図や戦後日本史の全体像が分かる人には、するする面白く読めちゃう。多分、そうでもない人も、三國連太郎という異常な人に興味もてば引き込まれると思います。
     その自選10作品について、という切り口で本は作られてるんですけど、佐野眞一さんが、それら映画について、こういう場面、とかって言葉で説明するんですね。その辺の文章が、さすが佐野眞一ですね、面白く読めます。観てなくても観たような気になるし、観てみようという気になりますね。

     ただ、佐野眞一さんの本は何冊目かなんですが、まあ、コレはそんなに深い取材は要らない本だよな、という感じですね。映画業界の経済的な歴史やスタッフワークについての言葉とかは、やや、勉強が浅い(笑)。
     あと、三國連太郎の生涯や仕事を、何かと戦後日本の精神史に関連づけていこうとする言葉も、別に要らないですね。そんなに、説得力ないですしね。
     単純にハードボイルドに三國連太郎という役者の公私を見つめるだけで、テーマ性や社会性は読者が勝手に見出せばいいじゃん、と思いました。

     佐野眞一さんの本って、なんだかんだ言って最大の美徳は娯楽的であることだと思うんですよね。ノンフィクションな分だけ余計に、ドラマチックに語る。単純に面白い。それから、やはりある全共闘世代的なインテリ左翼的方向に微妙に傾いた精神ですね。これはまあ、どっちにせよ完全中立とか有り得ないので、それはそれで僕は嫌いじゃないです。

     ただ、この本は、評伝でもあるけどインタビュー本でもあるわけで、とにかく三國連太郎の言葉がオモシロイので、いっそ「ヒッチコック×トリュフォー」的な、インタビュー本、という形式でも良かったのでは、と思います。

     正直、「あー三國連太郎さん死んだなー」と思っていたらジュンク堂で平積みされてたからフラっと買っただけで。本自体は2年くらい前の本なんで、見事に書店さんの誘導にハマった訳ですが、面白い本でした。

    • koba-aさん
      三国連太郎には興味はあるけど本買うほどではないから、このレビューで十分ありがたい。読んだ気分。
      三国連太郎には興味はあるけど本買うほどではないから、このレビューで十分ありがたい。読んだ気分。
      2013/04/29
    • koba-book2011さん
      うん 三國連太郎のインタビュー部分だけで、半分の薄さになっても面白さは変わらないかもね。

      そうそう、こうやってやりとりができる、ということ...
      うん 三國連太郎のインタビュー部分だけで、半分の薄さになっても面白さは変わらないかもね。

      そうそう、こうやってやりとりができる、ということです。
      2013/04/29
  •  著者の著作である「あんぽん」「枢密院議長の日記」等を読むと、まさに当代一流のノンフィクション作家と太鼓判を押したくなるほど、面白くかつ深い内容で感動したが、「昭和が終わった日」と本書「怪優伝」は、まるで別人が書いたかのように面白くない。
     本書は、「三國連太郎」という多くの「伝説」がある「怪優」を取り上げて、その作品群と時代背景を書き込む中で、人物像をうかびあがらせようと、膨大な調査はしていることはわかるが、本書において「映画・演劇」の特殊な世界を、誰もがわかるように描き出しているとは思えない。
     「面白いノンフィクション」とは、普通人が経験できないような「異世界」を、驚きとともに紹介することが欠かせない条件と思うが、本書はそれができていないのではないだろうか。 
     残念な本であると思う。

  • 一人の魅力ある人物を辿ることは
    その人物が生きてきた
    その時代を写し取っていくこと

    10本の映画を縦軸に
    そのときの時代に生きている
    役者たちのありようを横軸に

    最後まで
    たっぷり
    楽しませて
    もらいました

  • 三國の父親が電器修理の技術を身につけて被差別部落から出ていったのは週刊誌あたりでもオープンで話していること(ただし、テレビには出ない)だが、ここでは実の父は母親が奉公していた先の軍人であることが明かされている。では、「血」からいけば部落とは関係ないじゃないということになる。
    もちろん部落差別に根拠があるわけがないのだが、ますます無根拠になったわけで、それでも差別はあったのだから奇怪な話。
    そういう奇怪さが自分以外になりきる力とつながってくるこのデモニッシュな役者のありようがわかりやすく出ています。
    わかりやすすぎてデーモンは少し薄れていますが。

  • 主に本人へのインタビューがベースになっているせいなのか、何となく遠慮がちな文章になっているような気がする。
    同時代を生きた俳優、女優、監督らについての三国氏の印象が、実に正直でその点は面白かった。

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著者プロフィール

1947年東京生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。編集者、業界紙勤務を経てノンフィクション作家となる。1997年、民俗学者宮本常一と渋沢敬三の生涯を描いた『旅する巨人』(文藝春秋)で第28回大宅壮一ノンフィクション賞を受賞。2009年、『甘粕正彦乱心の曠野』(新潮社)で第31回講談社ノンフィクション賞を受賞。

「2014年 『津波と原発』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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