アスペルガーの館

著者 :
  • 講談社
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感想 : 30
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  • Amazon.co.jp ・本 (226ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062175043

作品紹介・あらすじ

アスペルガーの当事者である私が、言語聴覚士となり、アスペルガー者の妻となるまで。当事者・支援者・家族という3つの立場で「見えない障害」を生きる。

感想・レビュー・書評

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  • 言語聴覚士(医療の専門職)であり、自らがASD当事者である村上由美さんの「発達障害」界隈の感覚や経験を丁寧な言葉で綴った1冊。

    それもご自身がアスペルガー当事者・
    ご主人が同じくアスペルガーという「家族」・
    発達障害の人たちをサポートする「支援者」としての立場
    この3つの視点からの言葉が目から鱗だった。

    近年「毒親問題」や「カサンドラ妻」に関する著作も多く目にするようになったが、こちらに関心のある方も手に取ってみると発見が多いかもしれない。

    ご主人の言動に関する違和感についての描写は、私も「それそれ!」と夫に感じるものに該当することが何か所もあり、溜飲が下がった。

    アスペルガー傾向の人は、現実に目に見えないものや事柄に関する想像力に問題を抱えている人が多く、さらにその欠落の現れ方は人により千差万別とのこと。

    「状況を論理的につなげて推測するという発想を自力ではほとんどしないし、論理的に考えるように私が促しても、彼が組み立てた論理は、状況にあっていないことが多い。」(本文P168)という記述はまさに我が家の夫。

    極めて秀でた分野があるので、日常の家族での生活では、そんなこともわからないのかなと思うのだが、そのバランスの悪さこそ発達障害ということで納得。
    丁寧な説明(「療育」)が逐一必要なのよね…。

  • 「なんて身勝手な」「自閉症では」──違うんです 当事者が実体験語る『アスペルガーの館』: J-CAST トレンド【全文表示】(2012年05月31日)
    https://www.j-cast.com/trend/2012/05/31134001.html?p=all

    アスペルガーの館 講談社|村上由美|note
    https://note.com/yumi_murakami/n/n5b05fba32800

    『アスペルガーの館』(村上 由美)|講談社BOOK倶楽部
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000187263

  • アスペルガーである著者が幼い頃に告知されて育ち、アスペルガーである男性と出会い結婚し、言語聴覚士として発達障がいの子供たちを支援する仕事もしている、そんな日々が綴られている。
    著者が育ってきた時代と現在では、ずいぶん発達障がいへの理解も変化してきているように思える。
    それでも、きっと当事者や家族は、多くの苦労を重ねて日常生活を送っている。周囲の人も、別の意味での苦労をしているかもしれない。
    少しずつ知識と対応方法が広まる事で、お互いが過ごしやすく生きやすくなればいいなと思う。

  • たぶん私はアスペルガーではないと思うが、なんだろうこの既視感…。
    給食が食べられなくて居残りさせられたとか、自分の気持ちを言葉で表現するのが苦手で会話だととっさに言葉が出ないしメールの文章を作るのに時間がかかるとか、ヒカルゲンジと聞いて源氏物語しか思い浮かばない世間知らずな子だったとか。発達障害と定型発達の境目がはっきりあるとは思わないけど、ますます違いが分からなくなった…。
    私も「周囲と折り合いをつけて暮らすすべを訓練によって身につけてきた」という気がしてるし、「細かいルール変更は苦手なので、それだけでも大きな負担だった」というのも私がつねづね感じていることだ。
    “普通に生活できているんだから障害がなくなった、とは思ってほしくない”、と著者が言うのと同じように、障害がないからアスペルガーの人が苦手としていることをなんの苦労もなくこなすことができる、とは思ってほしくない、というのが読みながらふと湧いてきた本音です。
    発達障害か定型発達かに関わらずそれぞれが、それぞれの活躍できる場所で生きていければいいなーと願う。

  • 面白かった!(という表現はふさわしくないかもしれないが)当事者の本のなかでもとくに好き。

    おふたりとも努力家でお互いに素晴らしいパートナー。まさに運命の出会い。ご主人のあとがきがあまりにもあっさりしていて、著者の苦労をより実感できる。正反対なのがまたお似合いなのだろう。

    しかし恋人時代のエピソードが赤裸々で、こんなに詳細に書いてくれなくても…ご家族や周囲の方は困惑しそうで他人事ながら心配である。その辺は読者に対する(積極奇異)なのか?編集者の方、カットしてくれてよかったのに。

  • テーマは重そうに見えるけど、シリアスになりすぎない文章が素敵。落ち着いてる。

    兄弟児の事、私は申し訳なくて考えないようにしてたけど。「母が○○のために10頑張ったのなら私も5くらい頑張った」文(うろ覚えで少し違う。ごめん。)
    もっともだな。でもその日々を返せないジレンマ。どっちも必死だったし。切ないな。

    支援者と母(父)の二足のわらじで当事者を自立出来る様に育てていくって、どれだけ大変なんだろうと思った。母として優しくしたいときもあったろうし。

    遅くに障害がわかるのと、始めに聡い身内にわかってもらって育てられるのどっちも大変なんだろうな。早くにわかった方って、お母さん(お父さん)が細かく考えて冷静に必死に育てておられる様に思う。
    同時に当事者もめちゃくちゃ頑張ってきたんだろうなって思った。
    ご夫婦とも手に職があり、だから安心して読めた。みんな幸せでいてほしい。。

  • 妻が図書館から借りてきて、面白いから読んだらと勧められた本。寝る前にほんのちょっと読んでと思って読み始めたらやめられなくなった。しかし、目も疲れたのでその日は半分で終えたが、とても人を引きつける本である。そもそもこの題名が魅力的である。著者の由美さんはアスペルガーで、表紙に出ている猫を抱えたやさしそうな男性は由美さんの夫。実はこの夫もアスペルガーで、「アスペルガーの館」とは夫である真雄さんの開いていたブログなのである。2人のアスペルガーがこのブログで知り合い、そして結婚するという話だ。そう書くとなんの変哲もなさそうだが、とてもドラマチックな話なのである。由美さんは4歳までことばを話せなかったそうで、お母さんは早くから由美さんが自閉症(当時はそう呼んでいた)であることに気づき、医者の助けも借りたが、自ら「療育士」として由美さんをふつうの人にしようと頑張ってきた。だから、由美さんが講演をすると、「あなたはアスペルガーではない。そんなことを語る資格はない」などと言われるが、ここまで来るまでには親子の涙ぐましい努力があったのである。面白いのは、由美さんは4歳まで話せなかったが、文字認識はできて、声が出るようになってからの読みが人よりは早かったことだ。子どもの場合、文字を一つ一つ拾って読んでいくのだが、由美さんは、文字を塊としてとらえる習性を身につけていたのである(これができないと英語など早く読めない)。これは人の顔の認識でも役に立つ。後に、彼女が言語聴覚士になってから、人の顔をすぐ覚えるのに役立ったそうだ。由美さんは、いじめを受けたりしながらも普通学級で学び、大学で心理学を学んだ後言語聴覚士をめざし「国立障害者リハビリテーション学院」で2年間学ぶ。しかし、卒業を前にしてもなかなか就職が決まらない。そんなときに知ったのが「アスペルガーの館」というブログであり、真雄との出会いであった。実は真雄さんはプログラマーとして自活しているが、自分がアスペルガーと気づいたのは30を過ぎてからだという。こうしてみるとアスペルガーと呼ばれる人にもさまざまな段階があることがわかる。由美さんは最初アスペルガー同士だから理解もしやすいと思ったようだが、実はそうでもなく、3年の同棲、結婚後もさまざまな問題にぶつかる。本書はそんな二人のほほえましい生活の記録である。ぼくがちょっと気になったのは、由美さんとお母さんとの関係で、由美さんにとってお母さんは療育士としての面が強すぎたために、母親として見られないようになってしまったことである。これはお母さんとしてもいたたまれないだろう。また、お姉さんとの関係も気になるところだ。

  • アスペルガーなど発達障害に関心のある方は、ぜひ読んでみて頂きたい本です。
    村上さんがアスペルガーに対して、当事者・家族・支援者という3つの立場に位置しており、それぞれの立場からの体験がつづられています。
    ただ、アスペルガーという話は置いておいて、ある夫婦の物語、として読んでも大変興味深い内容だとも思います。
    表紙の写真がすごくいいですね。魅力的です。
    実は、村上さんの講義(発声方法)は数年前に受講したことがあります。
    大変チャーミング、かつ面白い方だという印象が強くあります。

  • 幼少時アスペルガーと診断され、母から療育を受けてきた筆者の半生記。発達障害の子は、症状が様々で、本人の特性によってどう進むか千差万別なので、どう成長していくんだろうとドキドキしながら読み進めました。
    素敵なご主人と出会い、多くの人の支援に回る現在に、心からの喝采を送ります。

    身体感覚の不器用さ、あるいは対人関係の不器用さ、それにマニュアルで一つづつ対応を積み重ねていく過程に共感できました。

  • 私も当事者だからかもしれないけど、アスペルガーといっても普通の人なんだなと改めて思った。こんな程度の違いも“障害”としなければならないなんて、ね。一人ひとりが自分の脳の特性を理解して、「普通になるため」ではなく「より快適で心地良い毎日を送れるため」に療育の場が設けられればいいなぁと思いました。

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著者プロフィール

言語聴覚士。認定コーチング・スペシャリスト(R)。
上智大学文学部心理学科卒業、国立身体障害者リハビリテーションセンター学院聴能言語専門職員養成課程卒業。非常勤でさまざまな施設に勤務し、全般的な言語聴覚士サービスについて実務経験を積む。この間、第1回言語聴覚士国家試験を受験し、言語聴覚士資格を取得。その後、常勤で重症心身障害児施設で発達障害児(広汎性発達障害中心)、肢体不自由児(脳性麻痺中心)の言語聴覚療法や発達相談業務に従事。
2005年に重症心身障害児施設を退職後はフリーで活動。原稿執筆、自治体の発育・発達相談業務(委託派遣)、テレビ出演、セミナーや講演などを行う。
著書に、『声と話し方のトレーニング』(平凡社新書、2009年)、『アスペルガーの館』(講談社、2012年)、共著に、梅永雄二編著『仕事がしたい! 発達障害がある人の就労相談』(明石書店、2010年)、石井京子・池嶋貫二・林哲也・村上由美『発達障害の人が活躍するためのヒント』(弘文堂、2014年)。そのほか寄稿多数。

「2015年 『ことばの発達が気になる子どもの相談室』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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