なぜ院長は「逃亡犯」にされたのか――見捨てられた原発直下「双葉病院」恐怖の7日間

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062175883

感想・レビュー・書評

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  • 3.11の大混乱の中、原発近くの病院に取り残された患者と病院スタッフの真実のお話。
    双葉病院は、精神に異常をきたした高齢者の患者を多く抱える医療機関。
    あの大災害の中、見えない恐怖と闘いながらも必死で患者の命を救おうと走り回る看護師や医師、病院スタッフ。
    待っても待っても来ない救助隊。
    結果、多くの犠牲者を出すこととなる。
    そして、突如マスコミでは「患者置き去り」との報道が。
    なぜそのような誤報が生まれたのか?
    現場では一体何が起こっていたのか?
    想像を超える大災害が、多くの間違いを引き起こしている。
    これからも起こり得る災害に備えるためにも必要な本だと思う。

  • 福島県大熊町。東日本大震災後に事故を起こした福島第一原発の
    立地する自治体である。

    原発事故から間もない2011年3月17日、福島県の災害対策本部は
    大熊町最大の医療施設・双葉病院の患者が自衛隊により救出され
    たが、その場に病院関係者が不在であったと発表した。

    実はそこには連絡の行き違いがあったのだが、一度、マイナス面で
    報道された内容は後に訂正されたとしても最初の報道の方が印象に
    残って
    しまう。

    「患者を置き去りにした」。そう非難された院長をはじめとした双葉
    病院関係者、関連施設の職員、福島県災害対策本部等へ取材し、震災
    発生当日から当初の報道が行われたあとまでを追ったノンフィクション
    である。

    あの混乱のなかで情報や連絡の錯綜は致し方ない部分もあるだろう。
    それにしても町役場への再三の救出依頼、病院を訪れた警察官に
    よる無線での連絡があったのにも関わらず、どうしてこれほどまでに
    患者の救出が遅れたのだろうか。

    同じ地域には他にも医療施設があった。そこでは原発事故発生から
    短時間で患者の搬送が完了しているのに、最大規模を誇った双葉
    病院だけが取り残されてしまったのだろうか。ここが分からないんだ
    よねぇ。

    しかも双葉病院では最初に避難出来たのは比較的症状の軽い患者
    たち。そこへ看護師・介護士が付き添ってしまったから、病院に残され
    たのは重症患者と院長のみ。

    本書は院長を弁護する為に書かれているのだろうけれど、医療関係者
    としてひとり残った院長の行動にも疑問の余地はあるんだよな。重症
    患者ばかりなのにロウソクを調達する為に留守にしていたりとか。

    双葉病院と関連の高齢者介護施設では原発事故から避難後まで
    50人の患者が死亡している。なかには病が原因で亡くなった方も
    いたろうが、過酷な避難行程と医療設備のない体育館への避難で
    命を落とした人の方が多いだろう。

    この双葉病院の問題に関しては素人が考えても検証が必要だと
    思うのだが、福島県の災害対策本部は検証する気はないらしい。

    本書にも収録されている災害対策本部の言い訳を読んでいると
    本当に腹が立って来る。おかしいじゃん、検証しないってさ。

    そもそも重症患者の避難先が高校の体育館って決めたのはどなた?
    死んでもいいとでも思っていたのか。

    原発が深刻になるごとに次々と避難区域を拡大して行った国の責任
    もあると思うのだ。ころころと避難区域を変えたことで避難先の確保が
    困難になったのは確実なのだから。

  •  東日本大震災から早いものでもう一年半以上が過ぎたが,まだまだ心の傷はいえない人も多いと思う。
     そんな中,先日双葉病院の院長が説明会をしたというニュースが流れた。説明会では,病院側が当時の経緯を説明したが,院長は謝罪しなかったと報道されており,参加した患者さんが不満を表明していたというトーンで報道されていた。
     それをきっかけにいくつか検索をしていて,わたしは本書の存在を知った。それで購入して読んでみた。。。。

     少しわかりにくい説明もあったが,全体としてあまり力みすぎず押さえたトーンで淡々と描かれている。読み終わるとこの院長は全く悪くなんかないじゃないかと素直に思う。
     病院の方々が極限状態の中で,世間から忘れ去られ,そしてその後は無理解の中で,不当に貶められたことに対する怒りがわいてくる。それを考えるとこの本の表現はむしろ少しあっさりしすぎているとすら思うぐらいだ。
     家族の安否すらわからない中で,仕事を忘れず勤務地にくる医師や看護師が何人もいるということにとても感動した。しかも患者の大半は,いつ死んでもおかしくないような(という言い方は失礼だが)老人ばかり・・・。しかも感謝すらきちんと意思表示できないような痴呆の患者も多いし,栄養を点滴で補給しなければならなかったり,定期的に痰を求愛んしなければ呼吸すらできないような患者もたくさんいるという。。。。
     そうした中で救助を待ちわびて何度も何度も救援を求めては「今行くから」「もう少しまて」みたいな空手形を何度も掴まされて,院長は医師や看護師に対する配慮との板挟みの中で最善を尽くして数日間奔走した揚句の社会の評価があの報道とそれに伴うバッシングの嵐だとしたら、あまりにもむごい院長への仕打ちである。
     「だれも悪くない」というフレーズを見かけるが,孤独の中で果敢に戦った院長はじめ病院関係者の努力が正当に評価されるような名誉回復が積極的になされないのはやはり間違っていると思う。
     こういうものこそテレビ局はドラマ化してきちんと報道すべきである。
     患者の遺族が不満を漏らしているというが,多くの患者の遺族たちだって自らの命を守ることだけで精いっぱいだった中で,本当にそれは単なる「不満」なのか?
     ネットで口さがない人は「遺族は補償金目当て」みたいな声もある。まぁそういう人もいないとは限らないが,先日,たまたまある遺族の声をネット上でみつけた。
     その人は別に病院に不満があるわけではない。あの状況の中でむしろ良くしてもらったと思っているが,何カ月もしてようやく所在が分かった時は,あちらこちらたらいまわしされた揚句名前すらわからないような状態で思ってもいないようなところに寝かされていて,「どうしてこんなことになったのか」の経緯を知りたいとおもうだけ。と発言していた。
     わたしはそれは偽らざる本心なのではないか感じた。責めているのではなく,問うているだけなりではないかと。
     一年半たって,説明会の報道も相変わらず,糾弾調のマスコミの報道ぶりを見ていると「悪いのはだれか」・・・いやでもわかってしまうのではないだろうか。
     本当に病院関係者のけなげさと報われない哀れさ。日頃社会正義の代弁者のような顔をしていながら,実際には無批判に報道を垂れ流して,名誉回復すらしない報道機関・・・。
     本当の社会正義を社会正義を標榜しているはずの報道機関が踏みにじっている状況・・・・・どうにもやるせなく腹立たしい思いがわいてくるのをどうすることもできない。
     

  • 震災後の壮絶な記録。患者を最後まで見捨てなかった院長に脱帽。命に関わる仕事をしてるとき、自分の命より他人のそれを優先できるだろうか。

  •  原発事故の際に患者を置いて逃げたと誤報されてしまった双葉病院の真実を追ったノンフィクション。

     院長の動きを中心に追っていき真相を伝えると共に、なぜ何日も救援が来なかったのか、やっと救援が来た時になぜ様々な行き違いがあったのかを考察していく。誤報の訂正が誤報以上に大きく伝わらなかった為、本として真相を出版することの意義は大きいと思う。
     情報を集約し分析すべき災害対策本部の機能不足とそれによる自衛隊や警察の混乱が主な原因と感じたが、そもそも原発事故の想定はどれくらいされていたのだろうか? 今回の様な何十キロ単位での避難を想定していたのだろうか? そういった”公”の不手際をたまたまそこにいて奮闘していた個人へ責任転換するようなことはあってはならないと思う。

  • 困った。その報道には問題があったかもしれないけど、悪い人が見当たらない。
    誰も悪くないとすれば、みんながそれぞれ悪いということになるけど、そうでもない。でも、人は死んでいる。

  • この報道が最初にあったときは、なんと酷いことかと憤慨したのですが、誤報であることは随分伝わる力が弱かった気がしますし、内容もそれほど詳しくなかったように思います。
    この本には、その院長が、凄惨な状況のなか、孤軍奮闘に近い状態で対応するさまが書かれています。
    自治体、警察、自衛隊といった頼るべきところが、みな断片的にしか仕事ができなかったこと、そしてその断片を未確認のまま報道してしまったメディア。
    そういう事態に出会った時、自分と周囲を守れるのか、凄い不安に駆られます。
    事実というのはどうやって見つけたらいいのでしょう。

  • 苦しい。
    こういう未曾有の状況下、情報は絶対錯綜する。
    救助が手間取ったこと。
    その状況が誤報となって「置き去りにした」になってしまったこと。
    どうしようもない、と言ってしまうのは、簡単。

    せめてこういった書物で真実を知っていること。
    そして、こういう行き違いをひとつでも無くせるよう、検証していくこと。

    ヒューマンエラーは無くせないけど、減らすことはできるから。

  • 双葉病院事件のルポ。
    地震当時の関係者の動きなどの記載が冗長で、事件そのものに関心がないとちょっと読むのがきついかも。
    電気のない状態で、大勢の寝たきり患者をみる苦労や無理な搬送による多数の死者がでたことなど、もうちょっと踏み込んだ内容であればもっとよかった。

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著者プロフィール

森 功(もり・いさお) 
1961年、福岡県生まれ。ノンフィクション作家。岡山大学文学部卒業後、伊勢新聞社、「週刊新潮」編集部などを経て、2003年に独立。2008年、2009年に2年連続で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を受賞。2018年には『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞受賞。『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』『官邸官僚 安倍一強を支えた側近政治の罪』『ならずもの 井上雅博伝――ヤフーを作った男』『鬼才 伝説の編集人 齋藤十一』など著書多数。


「2022年 『国商 最後のフィクサー葛西敬之』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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