身体の哲学/精神医学からのアプローチ (講談社選書メチエ)

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  • Amazon.co.jp ・本 (268ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062583763

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  • 心身の病理現象の根底にある患者の「存在のあり方」について考察している本です。

    著者によれば、精神病理学は、患者の精神状態を客観的に観察し記述する自然科学的立場と、現象学的・実存論的な立場に分けることができます。本書では後者の立場が採用され、とりわけ「身体」にかんするメルロ=ポンティの議論を参照しながら、その可逆性に注目することで、病理現象の意味を解明しようとする試みがなされています。

    著者はまず、フロイトとともに「エス」という概念を考案したグロデックをとりあげます。彼の考える「エス」は、われわれの心身の根底にある「何ものか」であり、時空を超えて万物に偏在する根源的な力とされています。そのうえで著者は、こうしたグロデックの発想を具体的な臨床の場面に着地させようとします。「私」は心身の統一体として自己の生を生きているものの、この統一を完全に見通すことはできません。こうした「私」自身にとって不完全な身体的生に生じた問題が症状として現われたのが、いわゆる摂食障害や解離性人格障害、境界例といったさまざまな精神疾患だと、著者は考えます。

    われわれは胎児のころに、環境世界と自分自身とがたがいに浸透しあう世界を生きていたと考えることができます。著者はこのことを、個別的な「私」の「ハイマート」(故郷)ととらえ、そうした根源的なナルシシスムの状態から、「私」と「物」、あるいは「私」と「他者」の対立が、一方が他方に裏打ちされつつたがいに反転しあうようなしかたで成立すると著者は主張します。この構造は「キアスム」と呼ばれており、自分にとっての自分のイメージと他者にとっての自分のイメージが交錯する場面になっていると論じられています。

    現象学的な精神病理学の立場からの議論で、「実存」という局面にあらゆる問題を回収してしまうことに若干の疑問もあるのですが、全体を通じておもしろく読みました。

著者プロフィール

2020年11月現在
のまこころクリニック院長

「2020年 『メンタルヘルス時代の精神医学入門』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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