作品紹介・あらすじ
世界史をほんとうに動かしてきたのは、地球上のどの国、どの地域なのだろうか――。七つの地域世界と「優位勢力」の移り変わりを分析の視点として、世界史の大きな「図式」を描き、「流れ」をつかむ。
世界史とは、アジア、中東、ヨーロッパ、アフリカ、北アメリカ、ラテン・アメリカ、オセアニアの七つの地域世界が、時代によって「支配する側」と「支配される側」とに分かれ、両者が攻防を織りなす過程のことである。
世界各地で国家とよべるものが登場した当初は、地域世界はそれぞれ自立的だった。アジア、中東、ヨーロッパの三つの世界が鼎立していたのである。そしてまず、イスラーム国家の誕生とともにランド・パワーを拡大させた中東地域が優位勢力として世界の文明をリードした。その後、大航海時代にシー・パワーを展開し、世界を植民地化したヨーロッパが、さらに20世紀には、エア・パワーを手にした北アメリカが、世界各地の紛争に介入して覇を唱えるようになる。
ではなぜ、中東、ヨーロッパ、北アメリカの3つの地域世界は「支配する側」になり、他の4つの地域は「支配される側」であり続けたのか。今後、その関係が逆転することはあり得るのか。地理的関係や自然環境も視野に入れ、今後の展望までも語る。「図式」から入る、「世界史再入門」。
感想・レビュー・書評
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内容的には、マクニールの時のような感動はなかった。
巻末の引用文献集の中に次に読みたい本が何冊かあったのは良かった。
優位勢力の考え方は著者のオリジナルではないのかもしれないが、それに基づく世界史の整理は面白かった。
内容も各論は飛ばして、極めて概論的なことにしか触れていないので、世界史の知識が無くても問題ないし、
知識が少ない状態で読んだなら、各時代の世界史の中心を意識できて、世界各地の歴史の連動を掴みやすい(歴史を地域と時間の二次元が複数ではなく、空間(世界的な広がり)と時間の三次元で掴める)かもしれないと思った。
最終章の、次の優位勢力(今後の世界)については著者とは完全に意見を異にしている。
著者の並立の世界観は間違っており、・・というより、著者の考え方ではこれまでの優位勢力の考え方を全く踏襲していないと言え、これまでの内容は何だったのか(自分でまとめた内容を理解できていないのか?)となった。
著者の考え方は新たなパワー(技術的ブレイクスルー)の登場を全く考慮に入れておらず、現在の状況が質的には変化しないと思っている。
これではこれまでの優位勢力の奢り(?)と一緒ではないか。観察者たる研究者が同じ穴にはまってどうする。
「陸→海→空と来たら、次は宇宙だろう」と思っていた私としては拍子抜けで、とても残念な気持ちになった。
宇宙空間(まずは衛星軌道)を抑える事になれば、従来のパワーをより高空から抑えることとなる。宇宙空間からの地上攻撃能力があれば、核を搭載した弾道弾でも発射直後に敵の国土内の地表近くで爆発させることもできる。
他国の打ち上げを宇宙からの攻撃により不可能にする事もでき、人工衛星を使ったシステムもすべて手中に収めることが出来るので、衛星軌道を掌握すれば次の優位勢力への道が開けるだろう。
そういった考えから、次はスペース(サテライト)パワーの時代だろうと私は考える。
旧来のパワーが"地球を狭くする"方向で動いていたのとは別の要素が現れてくるだろう。人類は地球を飛び出そうとしているのだから。
現在、宇宙探査に力を尽くし、猛烈に成果を上げているのは中国である。先行するアメリカを猛追しているのは間違いない。次世代の優位勢力は資源的にも恵まれ、単独でマンパワーも内需もすさまじい中国かもしれない。
また、
衛星軌道、月での争いが膠着すれば、次は太陽系内の資源探査、宇宙での大航海時代・他惑星での植民地争奪が起きるだろう。
そういう意味では、サテライトオービットパワー、スペースパワー、やがてはディープスペースパワーへと遷移していくことになるだろうか。
自国に資源が無くても他惑星から供給できるならば地政学的なパワーバランスは崩れる一方、太陽系内で人間が安定して居住できるのは地球だけであるので地球の価値は変わらないはずだ。
人間の「楽をしたい」という欲望が完全に満たされない限り「皆で平等に」などという気持ちにはなるまい。「他人が苦労しても楽をしたい」のが人間の本質で利益がないのに「苦労をともにする」ことはあり得ない。
次のフロンティア(=楽の源)を探す駆動力は消えず、優位勢力に押し上げる力はよほど将来まで消滅しないと私は考えている。
著者プロフィール
元アジア経済研究所地域研究第一部主任研究員
元拓殖大学国際学部教授
「2023年 『現代アジアの「民主主義」』 で使われていた紹介文から引用しています。」
岩崎育夫の作品
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