水原勇気1勝3敗12S 超完全版 (講談社文庫 と 43-1)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (298ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062648479

作品紹介・あらすじ

「超」徹底データ主義で野球マンガのヒーロー達が帰って来た。6試合連続セーブの怪記録を超え、夢の1勝を上げた、アッパレ水原勇気。星飛雄馬と番場蛮、"巨人の星"はどっちだ?「野球狂の詩」「巨人の星」「待ジャイアンツ」「すすめ!!パイレーツ」「アストロ球団」「キャプテン」最強のラインナップで贈る感動ファイル。

感想・レビュー・書評

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  • 野球マンガに登場する選手やチームの記録を調べつくしたおもしろオタク本。取り上げられているマンガは、「野球狂の詩」「巨人の星」「侍ジャイアンツ」「すすめ!!パイレーツ」「アストロ球団」「キャプテン」。

    アストロ球団……ありましたねえ。激しいバイオレンス・ベースボールでした。大男の外野手が、センターのポジションから小男をライトやレフトまで放り投げて、投げられたほうが空を飛びながら打球をキャッチしていました。

    アストロ球団に結集した9人は、1954年(昭和29年)9月9日午後9時9分9秒に誕生し、体のどこかにボール型のアザがある9人の超人。里見八犬伝型の「結集ストーリー」でもあったわけです。思い出してきたでしょ?

    アストロ球団について、この本は、試合中の死傷者を徹底的に調べています。負傷者じゃなくて死傷者です。3ページにわたる表で67件。「伊集院大の打球が顔面(右頬)に直撃、意識不明(9針縫う重傷で30分間退場後復帰)」「氏家の死球を左足に受ける。爪も肉もスパイクと混ざって焼け爛れて骨がはみ出す重傷」「本塁一塁間で7人の野手と交錯(人間ナイアガラ!!)、全身にスパイクされて負傷(出血)」 「宇野への投球後、突如老衰。退場」「かげ腹を切り死亡」……めまいがしてきました。

    「かげ腹」って何ですか? 「陰腹」です。人形浄瑠璃や歌舞伎で、登場人物が切腹したのを隠して現れ、苦痛をこらえながら心の内をあかすことだそうです。思い出しました。切腹して打席に立ちながらホームランを打って(ヒットだったかも)死ぬという場面が確かにありました。

    そんなアストロ超人たちの信条は「一試合完全燃焼」。明日から私のテニスもコレで行くことにします。近寄らないほうがいいと思います。

    つぎ、巨人の星。

    私と同世代の人なら、1球投げるのにゴールデンタイムの30分を要する濃密な内面描写に辟易とし、「早よ投げんかい!」とツッコミを入れた記憶があるでしょう。

    なかなか投げなかった星飛雄馬の通算成績は下記の通りです。

    1968〜70(左投) 37試合 27勝3敗3セーブ 防御率0.34 勝率.900
    1976〜78(右投) 29試合 20勝2敗0セーブ 防御率0.97 勝率.909
    通算        66試合 47勝5敗3セーブ 防御率0.63 勝率.904

    でも、ここでみなさんと共有したいのは記録ではなく、「星一徹はソン・チョンイルか」と題した、文庫本12ページにわたる考察です。

    星飛雄馬は1967年に青雲高校の1年生エースとしてチームを夏の甲子園準優勝に導いた。将来を嘱望されたが、暴力沙汰を起こした相棒の捕手、伴宙太をかばい中退した。プロ球団間で争奪戦が始まるが、父の一徹が巨人を逆指名。ドラフトを回避するために新人公募テストを受け、飛雄馬は合格する。

    しかし、当時のプロ野球のルールでは、入団テストで合格した選手でもドラフト会議を待たなくてはならない。他球団が飛雄馬を指名することはできたのである。ところが、飛雄馬はテスト合格の直後、ドラフト会議を待たずに巨人入りしている。そして、「巨人の星」にはそうなった経緯が明確に描かれてはいない。

    このようなプロセスで入団が可能なのは、飛雄馬が外国籍だった場合に限られる。

    漫画ではないリアルワールドでも、1968年夏の甲子園で、静岡商業の1年生エース、韓国籍の新浦寿夫がチームを準優勝に導いた後で中退し、ドラフトにかけられることなく、5球団の争奪戦の後に巨人に入っている。(所長注:「巨人の星」連載のほうが先です。驚くべき符合。現在では外国籍の選手でも日本の学校に在籍した者はドラフト対象となっている。)


    こうして著者は、星飛雄馬が外国籍であったことを示す強固な状況証拠を提示したうえで、あきらかに東洋系であることや、星親子の境遇や性格から推して、韓国籍であったのではないかと推測します。

    星親子のエキセントリックなほど熱血的で感情の起伏の激しい性格、その誇り高さ、逆境における強靭な忍耐力からそう判断するのは差別、偏見につながるだろうか。(118-19ページ)

    68年秋、日米野球で来日したセントルイス・カージナルスの黒人外野手アームストロング・オズマは初対決した飛雄馬に向かって、こう呟く。
    「フフフフ……一目でわかったぜ、キミトオレハ同類ダ……ト!」「野球シカ能ガナイダケニナオ勝タネバナラナイ野球ロボットドウシ! ドッチノ性能ガ上カ! サア コイ!」
    これを被差別者同士の直感であるというのは裏読み過ぎるか。(121-22ページ)


    「巨人の星」の原作者・梶原一騎は自らの作中で飛雄馬らに向けてエールを送っています。こんな詩です。

    みんなが青春を!
    みんなが青春を!
    みんなが青春を!
    はてしなき
    戦いあるのみ!
    栄光のあとにも!
    敗北のあとにも!
    人の生きるかぎり
    なんらの差別なく
    戦いあるのみ!
    (122-23ページ)


    いま改めて読むと、魔球開発の野球マンガにはいささか場違いな「差別」という言葉に目がとまります。いつも忍耐の歯ぎしりが聞こえてくるような重苦しいストーリーであったことも思い出されます。著者は、星一徹がソン・チョンイルであったというのは妄想の類いかも知れない、と謙虚に留保していますが、ほとんど疑う余地はなさそうです。少なくとも私には、ストンと腑に落ちました。

    これ意外にも、「巨人の星」に関連して興味深い指摘が3点ありました。
    (1)韓国の姓氏は約260あるといわれる。珍しいが「星」という姓もある。
    (2)韓国語には日本語の「まいった」に当たる言葉がない。
    (3)韓国の人々の心を説明する「恨(ハン)」という言葉があるが、 これは日本語の「恨み」や「怨み」とは意味がまったく異なり、他者ではなく、自らの内面に深く向けられ留まる「遂げられない無念や嘆き」である。英語の「フラストレーション」に似ているが、自滅しかねないほどの強い感情である点で異なる。韓国人は「恨」を晴らすためにあらゆる努力を惜しまない。

  • 水原勇気意外にもいろいろな野球漫画がリサーチされています。
    アストロ球団の全死傷者とか載ってておもろ。
    職場活性化とか言ってる会社の人たちは「キャプテン」を読んだらいいと思いました。

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