噂の娘 (講談社文庫 か 10-5)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062749510

作品紹介・あらすじ

遠いどこかの街で父親が入院し、母は私と弟を、懇意の美容院に預けて旅立つ。50年代のどこか、夏から秋にかけての数日間を女ばかりが暮らすその家で過ごす私は、漠然とした不安に発熱する。おびただしい噂話、錯綜する記憶、懐かしい物が織りなす重層的な映像。時間と感覚を縦横に描く繊細にして強靱な長編。

感想・レビュー・書評

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  • 相変わらず金井美恵子節ともいうべき独特の文体だけれど、『柔らかい~』あたりのような暗さや重さはなく設定自体は目白シリーズなどに通じる印象で軽快さがあり、基本的には最初から最後まで楽しく読めた。

    主人公は小学生の女の子、父親が入院して母親が看病で不在のため(というのは実は表向きの理由で事実は・・・と匂わされているのだけど)近所の美容院モナミに幼い弟と一緒に預けられている。その家の女たち(マダムと三姉妹と祖母と住み込みの見習い美容師二人)、さらにご近所の甘味屋の娘やパチンコ屋で働く娘、小間物屋の娘など、地元の商店街の、とにかくさまざまな「娘」たちが登場して噂話を繰り広げる。ある意味、毎日が女子会というか、永遠に続くガールズトークを聞かされている感覚。

    時代設定は1950年代(昭和30年前後?)だけれど、いつの時代も変わらず娘たちは恋愛やオシャレや映画スターやゴシップに夢中。金井美恵子特有の、まるで枕詞のように執拗に繰り返し描写されるディティールが、しかしどれもガーリィで、たまらない。洋服の生地や素材やプリント色柄、映画スターの髪型やメイク、ハンドバックやアクセサリー、さらにスイーツと、女子の好きなもの満載、レトロ可愛い雑貨屋さんにいるみたい。

    とはいえ彼女たちの日常はただただハッピーなだけれは無論ない。主人公が愛読する「秘密の花園」は、えっ、こんな暗い話だっけ!?と不安になるほど、少女メアリの不穏な生い立ちばかりがクローズアップされてるし、当時はよくある話だったのか、やたらと男たちは「お妾さん」を囲っているし、結婚式を目前にして美しい花嫁は列車から飛び降り自殺をしたりもする。そしてラスト数ページでふいに、少女時代のノスタルジックな回想から現在に引き戻されて、大人になった姉弟があらわれる。子供ながら薄々察していた真実の、その残酷さ。文体、技巧、すべてにおいて金井美恵子を堪能できる1冊でした。

  • 金井美恵子独特の文体をまるまる堪能出来る1冊。短編集ではやや物足りない感じがどうしても残るのだけど、長編なのでその心配はなしw
    女性たちの噂話や、恐らく昭和30~40年代と思われる時代の雰囲気、衣類の描写……その時代を知らなくてもノスタルジーをかきたてる。

  • 母親が遠い街の病院に入院した父親を看病する為、女主人とおばあちゃん、3人の娘、2人の住み込み美容師のいる女世帯に預けられた弟と小学生の「私」。美容院に住む7人の女達による近所の噂や映画に関する会話、「私」の母と父の会話や読んでいるバーネット作『秘密の花園』の「私」の解釈が、時間軸に沿って書かれてなく(それは無意味と作中に書かれている)、ページの中は服装の色や素材や見た景色の克明で視覚的な描写と夥しい会話の洪水。ある年の夏から秋へと移り変わる何日間かを「私」の現在から過去を語るという手法をとらない技巧的な小説。

  • 読み始めたばかりです。
    金井美恵子さん独特の文体が好きなので、またはまりそう。

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著者プロフィール

金井美恵子
小説家。一九四七年、群馬県高崎市生まれ。六七年、「愛の生活」でデビュー、同作品で現代詩手帖賞受賞。著書に『岸辺のない海』、『プラトン的恋愛』(泉鏡花賞)、『文章教室』、『タマや』(女流文学賞)、『カストロの尻』(芸術選奨文部大臣賞)、『映画、柔らかい肌』、『愉しみはTVの彼方に』、『鼎談集 金井姉妹のマッド・ティーパーティーへようこそ』(共著)など多数。

「2023年 『迷い猫あずかってます』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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