怪獣記 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062767309

作品紹介・あらすじ

本物かフェイクか それが問題だ!

トルコ東部のワン湖に棲むといわれる謎の巨大生物ジャナワール。果たしてそれは本物かフェイクか。現場に飛んだ著者はクソ真面目な取材でその真実に切り込んでいく。イスラム復興主義やクルド問題をかきわけた末、目の前に謎の驚くべき物体が現れた! 興奮と笑いが渦巻く100%ガチンコ・ノンフィクション。

感想・レビュー・書評

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  • 青春の書でもある『幻獣ムベンベを追え』の単行本が出てから16年目(2006年)のある日、もはや「怪しい探検家」じゃない「怪しいもの専門探検家」に成長した高野秀行は、ワンコじゃないワン湖に生息するとして一部では有名なUMA(未確認不思議動物)ジャナイじゃない、ジャナワール情報の真偽を確かめるべくトルコに飛んだのです(すみません、後は真面目に書きます)。十数年の冒険で鍛えられた彼は、一般に知られているビデオ映像はフェイクだと疑っていたが、トルコでの出版物の中に目撃証言者が48人もいただけでなく顔写真と住所まで載っている本の存在に注目したのである。

    イスラム復興主義やクルド問題、或いは金儲けとか観光客誘致とか、マスコミの無責任な報道とか、ネットの無節操な伝達など、怪しげなベールを一枚一枚はいでいった時点で、高野秀行は初めてこのUMA探索にやる気を見せます。
    「今、ちゃんとした情報を握り、客観的にジャナを調査できる人間は世界でたった1人しかいない。もちろん、私だ。やっと出番が来たという気すらする。ジャナは今まさに既知の未知動物から未知の未知動物になったのだ」(103p)

    軽くて調子が良い読み物を装ってはいるけれども、高野秀行の視点は鋭い。信頼に足ると思う。文章がとっても気持ちいい。それに、『ムベンベ』から経験を積んで、視野が広がっている。目的のUMAよりも、クルド民族の日常や、ワン湖周辺の自然や、何より日常的な食べ物の描写がとても美味しそうで、ついつい観光で行ってみたくなる。現在、難民流出が止まらない大変なところではあるのだが。

    さて、高野秀行はUMAをビデオに収めることが出来たのか?結果は、あっと驚く‥‥ごめん古かった。

    高野秀行著作物、記念すべき読了10冊目でした。

  • ”本の雑誌40年特集"から、かな。それは置いても、筆者の他作品はとても楽しませてもらったし、本作も読んでみたい度は高い。そしてUMA。一時期かなり興味あったな~、みたいな感傷に耽りながらも、そういえば最近はめっきり縁遠くなったもんだ、と思いつつ読み進めた次第。8割方読み進めるまでは殆どがスカで、すったもんだはあったけど、結局見つかりませんでした的な、バタバタ劇を楽しむ本かと思い始めたところで、核心に迫る事態が出来する。遭遇を抜きにしても十分楽しませてもらったし、笑わせてもらったけど、クライマックスで興奮もひとしお。怪獣っているんですね。ワクワクする。

  • いやー、すごく面白かった。最初の書き出しから事件の匂いがして惹き付けられた。最後まで面白かった。絶対に自分が行かないところにいって、絶対にやらないことに時間を使ってくれる人。

    自分の目で、確かめたい!という気持ちがすごい。夢のある怪獣を追っているはずが、すごくホットな政治やいざこざの話に直面してしまったり、異文化の暮らしに感銘を受けたり、ものすごく人間くさいところを「意図せず」拾ってしまっているのも、彼の信念がそうさせているのだろうと思う。

    なんかそのお土産が、今回すげーでかくね、って思ったけど、それだけでかい獲物だったのだろう、ジャナ。

    そういう、未確認生物っていうのは、なんかそれだけ人の想いというか、そこに人的な意図は絶対あるかもしれない、意図というより、社会の視点というのは。生物の発見というより、そういう社会的な視点の発見でもある気がする。

    ジャーナリズムについても思うところはあったなあ、報じる内容以上に報じること自体への意図が、そこにジャーナリズムがある限り、存在するのだから使い方というのが問われる。エセなジャーナリズムを働く人や利用して権力を得ようとする人たちがいるというのは、他の犯罪と同じように、やっぱりその社会全体の体制や構造の歪みが出てるんじゃないかなと思う。

    そういう不正、端から見たら何やってるんだか、という茶番にしか見えなくても。そういう意味では怪獣より人間の方がよっぽと滑稽であった。それが、著者の立ち場が怪獣探し、というお題目ゆえに自由にどこまでも表現したり追いかけたりすることができる、ということのメリットだなあと思う。著者は本当に怪獣探しだけがしたいわけじゃなくて(したいとは思うけど)、社会的なニーズ(義務)に応えようとするバランス感覚もきちんと持っている人で、それでギリギリ、完全なる変な人を免れている。

    どんなに奇妙な生き物がいても、獲物を見つけても、「見てー!」って言って喜んでくれる人たち、伝える人たちがいなくては意味がない。

    見て、ここにこんな変なおっさんがいる!って、いうのでまず元気が出る。怪獣っていうのは、その生き物自体の有無よりも、安定した社会基盤なくしては、登場しないものなのだろう。

    で、いるの?いないの?はっきりして!
    ということではない。つまりこんな変なおじさんと、私たちとまったく違う暮らしを当たり前のように営む異国の人たちがいるということ、それは本当に存在するものなのだから。そんな変なおじさんも、異国の民族の暮らしも、すごくすごく貴重で怪獣なんかよりも絶対に、あって欲しいものだと思った。

  • ひょうたんからコマが出てくるお話。
    展開が読めずに面白い。

  • 著者の文庫は集英社か講談社に大別される。そして本書は講談社だ。いきなり巻頭カラーページが充実! 並々ならぬ力の入れ具合は、果たして妥当であったと巻末で納得した。著者のこだわりである未知の未知生物を探すトルコの旅は、いつものように現地の人達との交流の面白さと、民族問題に対する洞察に唸らされた。ワン湖一周の探査を終えようとしたその時、未確認物体(生物であるかも今のところ不明)を目撃するとは驚きだ。解説には、あの宮田珠己氏だったのも最高!

  • 今回の旅はトルコ最深部、もうイランとの国境に近いクルディスタンの地にあるワン湖。パックツアーは当然、個人旅行者でもめったに行かない所だ。もっとも、著者の高野氏は、この前年に家族旅行で行ったというのだから、根っからの辺境好きだ。それにしても、早稲田探検部時代にはコンゴの奥地にムベンベを追い、今また、いい年をして(不惑にもなって)ジャナワールの正体を求めてワン湖へ。なんとも破天荒な人生。幼児用のビニールボートで湖に漕ぎだすところなどは、もう抱腹絶倒。そして、ジャナワールは今もUMA(未確認不思議生物)なのだ。

  • UMA(未確認動物)探索を語るのは難しい。その歴史と分類を小辞典風に纏めたものならJバルロワの『幻の動物たち』等の秀作がある。フィクションなら作家の想像力次第では如何なる世界でも紡ぎ出せる。但、自らが関わった探査行を描く場合、発見できなかったという事実が先にあるのが普通である。万が一発見されていたら当然大ニュースになっている筈。発見のない探検を如何に描くか?『幻獣ムベンベを追え』は眩いばかりの青春群像だった。『怪魚ウモッカ~』ではカフカの城的不条理な手法を使った。本作では?何と筆者は未知と遭遇してしまう!


    『さていよいよ出発だ。勝負だ。本年四十歳の私は、Tシャツにビニール袋をまきつけ、下は短パンに裸足、右にパドル代わりの板切れ、左にカメを抱えて、水辺に浮かべた幼児用ボートに乗り込んだ。』φ(.. ) ジャナワ―ルの潜み住むというワン湖へと漕ぎ出す筆者。これぞ男のロマンかな?(2013年04月01日)

    ”~記”のつく題名でざっと思い付くのは、古くは「方丈記」、海の向こうでは我が偏愛の「さすらいの記」(ヘルマン・ヘッセ)、近くは直木賞作家・葉室麟氏の「秋月記」及び「蜩ノ記」。このラインナップに並べるとひときわ異彩を放つ高野秀行氏の「怪獣記」。いやあ、実にシュールで良い。^^;2013年03月28日

  • トルコ東部のワン湖で目撃されているUMA、”ジャナワール”の真偽を確認するため、現地に飛び、目撃者に取材を試み、湖周囲の村々を全て周り目撃情報を探し求め、その過程でイスラムやクルド人問題などにも遭遇しつつ、最終的には「いないんじゃね?」という結果に落ち着きそうになったその時! というノンフィクション。とにかくそのスタンス、内容、文章全て真面目に取り組んでいるのに面白いというのが一番の謎。

  • UMAってものには実は興味はあまりないんだけど、読んでみてすぐ引き込まれた。

    UMAの探索のはずなのに、民族問題や政治思想まで踏み入れて、最後にはなぜか立場逆転!?みたいなことになっていて、冒険記としてたいへん面白かった。

    ジャナワールという真偽不明で、地元民からはほぼ確実にオワコン認定されているものを通して見る人間模様、というのがとても不思議な感じがしたのと、それに加えて景色の浮かぶ文章が良かった。トルコに行きたくなった。

    2007年刊行なので、その後がとても気になる。結局、正体は何だったのか!?

  • 2020/10/01

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著者プロフィール

1966年、東京都八王子市生まれ。ノンフィクション作家。早稲田大学探検部在籍時に書いた『幻獣ムベンベを追え』(集英社文庫)をきっかけに文筆活動を開始。「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」がモットー。アジア、アフリカなどの辺境地をテーマとしたノンフィクションのほか、東京を舞台にしたエッセイや小説も多数発表している。

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