朝鮮戦争(下) 慟哭の曠野 (講談社文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (640ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062779708

作品紹介・あらすじ

半島全土を血で染めながらも、両陣営とも誤算の連続で混迷の度合を深めた朝鮮戦争。米中の初激突、ソ連極秘参戦と熾烈な攻防が続くなか、日本は再軍備を迫られ、さらには民間人が戦火に巻き込まれる――。戦闘の実相のみならず、現代にも及ぶ複雑な世界のありようを真に理解しうる傑作戦記。文庫書下ろし

感想・レビュー・書評

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  • アメリカ・韓国側の動きは、何かと聞いたことはあるんですが、北朝鮮・中国・ソ連側の話はあまり知りませんでした。もっとも、この作品は小説なので、どこまで事実の即したものかは定かではありませんが、なかなか興味深い話ですね。

    それと、一番最後に、内灘の試射場の話があったのですが、驚きましたね。話的には、後の時代の成田闘争を思わせられました。

  •  小説風・朝鮮戦争概史といったところ。朝鮮戦争の経過に合わせて、日本での出来事を組み込んでいるので、その点は有益。「概史」にしては上下二冊と大部になるので、朝鮮戦争について少し知りたいと思っている人は、別の本を読んだ方が効率的だろう。

  • 韓国に縁のある自分としては、この戦争が相当悲惨であったろうというのは容易に想像できたので、本屋で見つけてから購入するまで、かなり躊躇する時間がありました。しかも上下合わせて1200ページの大作であったし。

    韓国と北朝鮮は実は今でも休戦状態にあり、朝鮮戦争はまだ終わっておりません。両国の軍事境界線、いわゆる38度線には、今だ北朝鮮軍と国連軍が対峙しており、その境界線の非武装地帯には、世界で一番多くの地雷が埋まっていると言われています。

    そんな戦争がなぜ起こり、どんな経緯で今日こんな状態になったのか、なぜ今もって終結しないのか、やはり知りたいと思って読んでみました。

    ・朝鮮半島を統治していた日本が、第二次世界大戦で敗北して撤退し、その後の朝鮮半島は38度線を境に、北はソ連の傀儡である金日成率いる北朝鮮、南はアメリカの支持を得た李承晩による大韓民国が統治していた。

    ・しかし朝鮮半島統一の野望を持つ金日成が、ソ連スターリンの了解のもと、ソ連軍の戦車を配備した北朝鮮軍を南進させ、38度線を超えて韓国領内に攻め入る。

    ・この南進が不意打ちであったため、韓国軍は押しに押されて南に下がり、戦争開始からわずか3日でソウルは陥落。北朝鮮の暴挙に国連は直ちに国連軍派遣を決定。最高司令官は当時日本に駐留していたマッカーサー元帥。

    ・しかし急ごしらえの国連軍も装備が間に合わず、北の進撃を食い止めること出来ずで、釜山まで追い詰められる。北朝鮮としては、国連軍を海に突き落とすまであと一歩まで迫ったことになる。

    ・そこから国連軍の反撃。マッカーサー指揮のもと、国連軍は仁川(インチョン)に上陸し、釜山に進軍していた北朝鮮軍を挟み撃ちして撃退。敗走する北朝鮮軍を追って北進し、38度線を超え、後一歩で北朝鮮軍を敗北させるところまで追い詰める。

    ・そこに登場したのが、北挑戦を支援する毛沢東の中国軍と、その中国軍を陰で操るソ連。近代的な武器装備では負ける中国軍は、圧倒的な人海戦術で国連軍を押し流し、再びソウルを奪い返す。

    ・中国軍の装備は全くお粗末ながら、その圧倒的な人海戦術で国連軍を圧倒。中国軍の戦法は100人の部隊に対して10000人の部隊をぶつけ、武器で撃たれても撃たれても、地面から湧き出るように人が突進するというもの。日本の神風特攻隊どころの話ではく、人を人と思わぬ戦法に当初国連軍は圧倒されて敗走。

    ・しかし、人海戦術以外に作戦がないと知った国連軍は、圧倒的な武器弾薬を準備して、再び進撃。襲いかかってくる中国人をなぎ倒して北進して再び38度線まで押し返す。毛沢東はそれでも反撃を指揮するが、他国の戦争でこれ以上の人民の犠牲を強いることに、中国軍指揮官が反対。一方、国連軍(アメリカ軍)もこれ以上の費用(税金)をかけて他国で戦争することに反対。この戦争を陰で指揮していたスターリンは途中で脳卒中でこの世を去り、マッカーサーはトルーマン大統領との不仲から解任される。結局、双方でなんと630万人の犠牲者を出したにも関わらず、全く成果のないまま休戦協定を結び、そしてそれが今日まで続いている。

    ・というのがこの戦争の大雑把な流れのようです。スターリンに毛沢東、マッカーサーにトルーマン大統領と、第二次大戦後の歴史の大物達が朝鮮半島で繰り広げた戦争は、全くお粗末な結末で終わっています。協定に至る過程の話は、全く信じがたく、開いた口が塞がらないとはこのことだと感じてしまいました。

    ・しかし、この戦争によって日本は「朝鮮特需」に湧き、それが戦後日本の復興の大きなきっかけになったと言われております。例えばトヨタはこの時軍事用ジープの生産で経営を軌道に乗せ、小松製作所は大量の弾薬を製造して大手企業となり、船会社の多くが朝鮮半島への物資輸送でフル回転したようです。

    ・そしてこの戦争で日本に駐留していた米軍が朝鮮半島に移ってしまったため、日本国内の治安維持、海外からの武力への対抗措置ができなくなったので、警察予備隊、後の自衛隊が設立され、今日に至っています。

    ・それにしても、例えば、日本と中国が韓国に対して行った仕打ちを比較した場合、第二次大戦前後の日本より、圧倒的に中国の方が残虐で非道であったことがこの本からは読み取れます。それが何故、現代において韓国は、中国と共闘して強い反日運動、反日政策を取っているのか、全く理解できません。

    ・本の中では、上述の大物政治家の他に、この戦争に参戦した韓国軍人や、中国軍人の戦いの記述や、特需に沸く日本企業の姿、祖国を思ってこの戦争に参加した在留朝鮮人の苦境や、知人を助けるために朝鮮半島に密航した日本人の話が詳細に記述されています。たいへんリアリティーある戦記になっていて、作者の調査量、構成力はすばらしいものがありました。韓国に興味ある人にとって、歴史を知るという意味で大変参考になる本です。

  • 半島全土を血で染めながらも、両陣営とも誤算の連続で混迷の度合を深めた朝鮮戦争。米中の初激突、ソ連極秘参戦と熾烈な攻防が続くなか、日本は再軍備を迫られ、さらには民間人が戦渦に巻き込まれるーー。戦闘の実相のみならず、現代にも及ぶ複雑な世界のありようを真に理解しうる傑作戦記。〈文庫書下ろし〉

  • トヨタ自動車や内灘闘争など同時期の日本の状況も描かれているのがいいですね。

  • いわゆる戦記物だと軍隊同士の戦闘がメインの話になるが、本書はそれ以外の部分にも多くのページがさかれており、朝鮮戦争を多元的に捉えている。
    ひとつの戦争が関係各国にどのような悲惨な状態を生じさせるのか、戦争をやりたがっている人こそ、本書を読んでよく考えて欲しい。
    多角的に歴史を知ることこそが、先人と同じ轍を踏まない方法なのだから。

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著者プロフィール

1944年北海道生まれ。金沢大学法文学部卒業。94年『士魂の海――桑名藩戊辰外記』でデビュー。著書に『天命――朝敵となるも誠を捨てず』(講談社)、『隗より始めよ――小説・郭隗伝』、『擾乱1900――混沌の大陸に生きた日本人三兄弟の夢』、『太公望――殷王朝を倒した周の名軍師』、『呂蒙――関羽を討ち取った、知勇兼備の名将』、『河合継之助――信念を貫いた幕末の俊英』、『宝永・富士大噴火』、『江戸の残照――二人三郎奮闘始末』、『小説 王陽明』(上下)、『中国おもしろ英傑伝』などがある。

「2014年 『朝鮮戦争(下) 慟哭の曠野』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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