- Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062882057
作品紹介・あらすじ
いま必要なのは、正社員の賃上げよりも、ハケン・バイト・パートの時給アップだ!アベノミクスの成否を分けるポイントとは?
生活ダメージを抑えてインフレ目標を達成する方法とは?
「景気刺激策としての賃金格差是正」、「都市部の不動産バブルを受け皿に!」、「人口の都市部集中こそ最高の成長戦略」・・・。豊富なデータをもとに、日本の景気を回復するためにほんとうに必要な「三本の矢」を、人気エコノミストが説く。
感想・レビュー・書評
-
P:302 推定文字数:193280(32行×40字×P)
抜き書き:1436字 感想:340字 付箋数:6
(対ページ付箋:1.98%、対文字抜き書き:0.74%、対抜き書き感想:23.6%)
データとグラフの引用が多いので、直接本書に当たると具体的な数値の見方がとても参考になります。
・平均寿命は先進国中でいちばん長く、乳幼児死亡率は先進国中でいちばん低く、肥満率も先進国中でいちばん低い。世界一の健康大国といえるのが、日本です。
肥満は生活習慣病などの根本原因となりますから、肥満率が低いことで、日本の医療支出は低く抑えられるはずです。実際に、GDP比で保健医療支出の大きさをみると、日本は欧米の主要先進国より低い保健医療支出で、いちばんの長寿を達成しています。
>>/> 医療費は問題になっているけれど、それでも他の先進諸国よりはいいのか。知らなかった。
・「現金給与総額」の動向は1997年から2011年までのあいだ、年平均0.92%のペースで下落している。ちょうど、消費者物価(コア指数)の4倍のスピードで下落したことになります。物価について、多くの国民がインフレを嫌い、デフレのほうがよさそうだと感じるのは、ふつうなら、デフレによって所得が実質的に増えるからです。
>>/> これを知らないと、デフレとインフレのどちらが良いものか論じても意味が無いと気付けない。
・(日本銀行で)ふつうに業務をしているだけで、それに応じて日本経済のなかにおカネがたくさん流れるときも、日本経済からおカネがたくさん回収されてしまうときもあるのです。日本経済に流れるおカネの量を「湖の水位」にたとえるなら、日本銀行は、あちこちから水が流れ込んだり、流れ出したりする湖の水位を、できるだけ安定させる仕事を日々おこないながら、長期傾向として、水位を上昇させようとします。
>>/> イメージで捉えると僕には分かりやすいな。今の問題は出て行く量が滞ることだろうけれど、湖の水位調整だけでそれを何とかするのも限界がある。
・今日は水曜で、たまたまA銀行でおカネが不足したとします。するとA銀行は、明日の木曜までの一晩だけ、不足したおカネを借りようとします。明日はあまるかもしれませんから、とにかく一晩だけおカネを借りるのが基本になるのです。B銀行が貸してくれることになったとします。このように銀行間で短期の貸し借りをする金融市場のことを、日本では「コール市場」と呼びます。アメリカでは「FF(フェデラルファンド)市場」と呼びます。
…コール市場では、数日おカネを借りてもいいのですが、一晩だけ借りるのが基本で、これを「翌日物」と呼びます。(アメリカではオーバーナイトと表現する。これが「政策金利」と呼ばれるもので、日本銀行は必要に応じて民間銀行におカネを回したり引き上げたりして、この金利の調整を図る)
こうして、たった一日(一晩)だけのおカネの貸し借りの金利を誘導する目標を設定するのが、金利面での金融政策です。
とても地味な政策にみえます。しかし、一日の積み重ねが一週間になり、一ヶ月になり、一年になります。だから、政策金利であるコール金利(アメリカならFF金利)の誘導目標を設定し、その目標を上げたり下げたりする政策は、ときに10年とか30年とかの長期の金利に影響を与えたりします。
>>/> 小さな事の積み重ね。基本、根本に近い事は更に小さな、地味な、事の積み重ねなのかも知れない。
・何度でも強調します。日本銀行がどんどんマネタリーベースの供給を増やせば、資産価格のインフレ、すなわちバブルが世界のどこかで起きる可能性は十分に高い。1980年代以降の経験では、日本銀行の金融緩和は、消費者物価には直接影響をせず、世界のどこかで資産価格のバブルを起こすことで、日本の景気を左右してきました。
>>/> 円キャリーで、原油など資源高が更に日本に跳ね返ってくる皮肉。
・日本では、勤続年数が15~19年になると、最初の4年よりも44.5%高い賃金がもらえます。20~29年になると73.4%も高い賃金、30年以上になると93%も高い賃金がもらえます。これが当然だと思っている日本人はたくさんいるのでしょうが、ヨーロッパの主要先進国ではこれほどの格差はみられません。
たとえばフランスでは、勤続年数が15~19年でも20~29年でも30年以上でも、賃金はほぼ同じです。しかも最初の5年での賃金より25%高いだけです。
>>/> 著者は、男・大(大企業)・正(正社員)・長(長期勤続)グループに日本では既得権が大きいと主張している。組織が腐りそうなインセンティブだ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
●低所得層の方が不況と戦う能力が高く、高所得者は不況を深刻化させる原因になりやすい。ただし、多くの企業やお店にとっては、高所得な顧客の方が売り上げや利益に貢献しやすいはずです。だから、財界人は、高所得グループの人たちを重視する考え方をしやすい。しかし国全体の景気を、個々のの企業経営の感覚で論じてもらっては困ります。
●景気や経済対策について考えるために、1番大事な事は、心理的な要因がとても大きな影響及ぼすと言う点です。安倍政権の経済政策は、この心理面をとても重視しています。
●国によって景気判断の基準となる経済成長率には大きな差がある。アメリカは3%、中国なら10%など。だから日本の0.5%と言うのも深刻なものであったと感じる。
●物価下落による不況(デフレ不況)よりも、賃金デフレによる不況の方が深刻。
-
アベノミクスを違った観点で再検証できる本。賃金格差、賃金デフレという切り口で、アベノミクスが本当に効くのか再考させてくれる。結論としては、一般に聞かれるアベノミクス議論では、細かい部分の説明が不足していて判断できないというところ。金融緩和が資産バブルにつながった過去事例の再現とならないことを祈るのみ。日本の内需は大きいことを認識させてもらったことは大きな収穫だった。
-
アベノミクスの金融緩和政策や公共事業拡大は前提として、その方向性(お金の使い道)を変えることで、日本の不況を改善しよう。という提案。
賃金格差に注目し、それをいかに解消していけばいいのかが模索されている。
金融緩和政策によってデフレが発生してしまうならば、海外の資源バブルではなく、国内の不動産バブルに誘導する。不動産価格の上昇と、公共事業の都市部への集中で、サービス業に従事する人の賃金を上げ、それによって、賃金デフレを脱出する、というシナリオのようだ。
公平性の問題はとりあえず横に置いておき、経済学の観点のみから論じられている。
人口の集中が、サービス業の売り上げに影響を与えるのは確かにそうだろうと思う。人の数が少ない地域では、サービス業をやっていくのはなかなか難しい。ただ、不動産バブルがそのまま派遣やアルバイトの非正規雇用の賃金上昇につながっていくというのは、素直に頷けなかった。
人口が増えて、サービス業がたくさん出現すれば、人手が足りなくなり、時給が上がる。しかし、人口が増えているのだから、働き手も多くなっている。需要と供給どちらが勝つのだろうか。
サービス業が売り上げを作れるのは、たとえば食事を作るのが面倒な人、クリーニングに時間を使えない人がたくさんいるからだろう。人がたくさんいても、全員が暇していて、自炊しているのならば、外食業はなりたたない。(もちろん、小売業は成り立つが、生み出している付加価値の大きさは小さいだろう)
もちろんサービス業に従事している人が、他のサービス業を利用することは多々ある。ただ、それ以外の産業に従事して、忙しく働いて(しかも給料をたくさんもらっている人)の数がそこそこないと、サービス業は成長していかないのではないだろうか。
もしかしたら、まったく的外れな理解なのかもしれないが。
あと、都市部に人口を集中させることについては、仮に大きな地震が発生したらどうなるか、という点が気になった。 -
◆賃金が上がらなければ、景気は良くならない。ここにストレートに切り込んでいかないアベノミクス・三本の矢の功罪、景気浮揚面での得失を、多様な数値とデータを元に解説◆
2012年刊。
著者は関西大学会計専門職大学院特任教授。
第二次安倍内閣発足の頃までの長期不況の実と、それを生んだ日銀の政策に対する批判を軸に、景気回復の処方箋を開陳する書である。
著者は本書で、賃金下落、特に低所得者層の顕著な下落(現象的には賃金格差の拡大)の解消と、現代日本では、雇用吸収力の高いサービス産業に軸足を置き、従事者の賃金上昇を伴う役務提供価格の上昇を達成する政策的手当てが必要だ、と言う。
つまり、現状は供給過剰という実態ではなく、またそれが長期不況の要因というわけではなく、数的多数派たる中間・低所得者層の購買力低下による需要不足が長期不況の主因とみている。
ここで注目すべきは、まず再分配政策で子育て世代の相対的貧困率が上がるという、理解し難い状況を放置してきた政治の現実である(ただし、この指摘は本書の専売特許ではない。貧困研究の労働政策学の著作には必ず出てくる)。
そして、円安という、製造業、特に輸出関連企業に対する恩典付与の政策は必ずしも国内景気を良くするわけではない。仮に、得られた利益から投資が海外に向けば、国内的には全く意味はなく、滞留するならば金銭的な廻りが良くなることにはならない。
換言すれば、人件費増額や国内投資を推進する政策的パッケージとの併せ技が不可欠なのである。
他方、円安政策は輸入原材料価格が増大し、価格転嫁が困難な業態の人件費圧縮に繋がる。すなわち消費不況につながるというのだ。
この観点でアベノミクスを見ると、公共事業を拡大した点は+。しかし円安誘導政策は-。5年で実質賃金が1年間を除き下落し続けており、景気回復の面では、より罪が大きいと言わざるを得ない。
結局、蔓延するブラック企業を労働者が忌避し、また生産人口減という他律的要因で、漸くサービス産業の人件費が上昇。購買力が改善し始めたのであれば、労働者側の我慢の限界が超えたことで漸く市場規律が働いたという、何とも評価し辛い事態が推移しているといえる。
もっとも、かような分析を展開する本書は、方向性を含め、十分納得できるものなのだが、その具体的処方箋となると、資産バブルと都市(もっと言うと関東圏)一極集中を許容し助長する向きがある。
平成バブル崩壊とその後遺症に長期間悩まされてきた現状を考えると、「また同じ過ちを繰り返すと気づかんのか」とは正鵠?。
ところで、働き方改革。時短推奨、労働生産性向上推奨=賃金下落の方向性ではないか?。本書の目指すべき方向性とは逆行していないか?。
そもそも同一労働・同一賃金の原則は、本来であれば労基法上は理念的には当然視されていたもの。それを罰則も賠償責任も負わない状況を良いことに、勝手に雇用主が都合よく運用していただけである。 -
わかりやすくかつ説得力もある経済書である。
本書は2013年4月の発行だが、この内容は2016年9月現在でもいまだ賞味期限は切れていない。アベノミクス関連の経済書では稀有な存在であると思う。
データも豊富に活用されていて、最終章での主張はアベノミクス以降の日本の経済方針がどうあるべきかとも読める優れた提言とも思えた。 -
建設業、飲食業で人手不足になって賃金上昇している現状は、いいことなのかなと思う。
筆者の現状分析が読みたくなった。 -
丁寧なアベノミクス解説本。
【メモ】
・所得と賃金は別物では? -
高所得者は不況を深刻にするが、低所得者は不況を退治できる。高所得者は、消費の下方弾力性が高いので、不況になるとお金を使わなくなる。低所得者は消費の上方弾力性が高いので、所得が増えると消費が増える。
男性、大会社、正社員、勤続が長い、と
女性、小会社、非正規、勤続が短い、との賃金格差がある。
スタグルフレーション(インフレ下の不況)もあるので物価が上がったからといって好況とは限らない。