生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062882620

作品紹介・あらすじ

「生命の起源」は誰でも一度は抱く疑問で、その謎への挑戦は科学ロマンの一つである。ソビエト連邦の生化学者アレクサンドル. I. オパーリンの著書『生命の起源』(1924)に始まる、生命の起源を探る研究は有機化学の一分野として確立し、タンパク質や核酸がどのような化学反応を経て“非生物的に”合成されたか、を探る研究が積み重ねられてきた。
 しかしながら、こうしたアプローチには「環境の変化と自然選択」という進化論の重要な視点が希薄であり、物理学、化学的にも説明のできない不十分なものだった。
無機工学の専門家である著者は、生命の源となる分子の誕生には、地球に大量に飛来した隕石が深く関わっており、しかも、生命誕生のプロセスは海中ではなく、地中の奥底深くで行われた可能性が高いという。
「生命はなぜ生まれ、なぜ進化し続けるのか?」。きわめて原初的な問いかけに対して、科学的かつ論理的に明晰に答えた、知的好奇心を刺激するエキサイティングな作品。

感想・レビュー・書評

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  • 気軽に読み始めたら未知の世界過ぎて面食らった。自分は化学に弱いことを痛感させられたが、非常に興味深い読物だった。特にホモキラルだのラセミだののあたり、物理界の対称性の話題はお馴染みだが、化学にも左右の概念があったとは。ぜひ覚えておきたい。

    まず、筆者は「生命は海で生まれた」という常識を徹底的に否定する。理由の一つとして、水中では加水分解が進むためむしろ分子進化には適さないことが上げられる。
    筆者の説は独自のもので、広く受け入れられた学説とは言い難いようだ。まだまだ推論を重ねただけという部分もある一方、一部は非常に説得力を感じる。

    ●「生物はエントロピー増大化法則に反している」
    よもやこのパラドックスを説明する論説があったとは。曰く、地球はその誕生以後熱を放出し続けている→全体としてのエントロピーは増大している→地球自体は冷える→地球のエントロピー低下→地球内は秩序化する。つまり地球規模で考えれば生物とは、地球誕生時の軽元素が秩序化した結果である、と。
    もっともこれは「そう考えれば説明できる」というだけで、証明されているわけではないし証明できる事柄でもないだろう。どちらかというと概念的な問題に思える。

    ●初期の生命は細胞内共生による進化があったため、親から子への遺伝子を辿るだけでは、「最初の生命」には辿り着けない。

    ●”有機分子ビッグ・バン説”
    前提:”還元的”環境であればアミノ酸など生物有機分子は発生しやすいが、原始大気は”酸化的”だった。
    筆者説:隕石の後期重爆撃によって生じた蒸気流は一時的に”還元的”になる。この瞬間に生物有機分子が大量生成された。

    ●生物有機分子の地下深部進化仮説
    高分子化は海洋堆積物の地下深部での続成作用による。

    ●プレートテクトニクスの結果、生命誕生。
    ”膜で囲まれた小胞”つまり「個体」の成立→”小胞融合”つまりエントロピー「代謝」→分裂による自己複製つまり「遺伝」
    これで「個体」「代謝」「遺伝」という生物条件を満たした、すなわち「生命誕生」である。

  • 「なぜ、生命が発生して、生物には進化という現象があるのか?」この問いに対して、誰もが納得するような解答を示した人は未だかつて存在しません。それは、「生命は自然に発生して、生物は進化するもの」と私たちは、ハナから思い込んでいるからです。

    「生命の起源や進化に関する”なぜ?”には、生物学、物理学、化学など個々の専門分野の常識では答えられない謎がある」と著者は言います。さて、この「生命の起源」について科学的な説明を試みた一人にアレキサンドル・I・オパーリンというソビエト連邦の生化学者がいます。彼が著した「生命の起源」は、有機化学の知識や成果を用いて「生命の起源」を探り、それまでの生命観を一新するモデルを作り上げました。

    生命は、アミノ酸などの有機分子を含む太古の海で発生したという想定のもと、化学者たちは、タンパク質や核酸が、どのような化学反応を経て、非生物的に合成されたか、水溶液中の化学合成の研究を繰り返してきました。しかし、彼らの研究には生命が進化すること、つまり、「環境の変化と自然選択」という進化論の基本的な視点が抜け落ちていたのです。

  • 約46億年前に誕生した地球において、どのように生命が誕生したかについて考察した本でした。

    本書では、一般的には最初の有機物、及び生命は海底の熱水噴出口の付近で誕生したと考えられていますが、それとは異なり、地理学的な視点からの新たな視点から考察されていました。

    約40億〜38億年前の激しい隕石の衝突である後期重爆撃によって、水が超臨海水から超高温の気体となり、衝撃後蒸気流が発生した。この中で水が水素イオン、酸化物イオンに分解され、酸化物イオンは金属を酸化して吸収されるので、水素イオン過剰の状態となり、大気が還元大気となった。その結果、窒素が還元されアンモニアとなり、海洋中に炭酸水素イオンとアンモニウムイオンが安定して存在するようになり、アミノ酸が生成されたという説が提唱されており、理論的には納得するものでした。

    また、その後の生命の発生については、地中の粘土鉱物の中で起こったと考える、地理学的な新しい発想の説であり興味深いものでした。

    様々な実験データも記載されており、信頼性のある本であると感じました。

  • 宇宙の誕生、太陽系の誕生、地球の誕生、生命の誕生。なぜ、こんな世界が存在しているのかは永遠の謎。生命の誕生と進化は、地球内部の熱の放出に伴うエントロピーの低下という物理の一般法則による必然である、という発想に納得してしまう。いろんな説があるが、確率的に信憑性が高そう。

  • 「生命誕生」読了。
    地球誕生から生命発生にいたるアミノ酸やタンパク質の前駆体ができるまでの課程について、物理的にあり得る経過を考えながらわかりやすくまとめている。
    まず、地球が放熱しエントロピーが減少することによるプレートテクトロニクス機能した。そして、海ができた後の隕石の後期重爆撃が海洋・大気の化学反応を発生させて有機分子ができた。その後、海洋中の粘土物質とともに有機分子が海底に沈殿し、圧密・昇温効果で脱水重合することで有機分子が高分子化した。海底にできた高分子がプレートテクトロニクスにより移動し、小胞を形成することのできた高分子は熱水鉱床のエネルギーを利用して生き延び、その後、小胞が融合して内部のタンパク質が代謝機能を持つようになり、RNA/DNAを形成して種を作ったという仮説である。
    説明の課程は論理的で説得力があり、いくつもの地質学的な証拠や実験による検証などが示されており、明確でないところは明確でないとはっきりさせていて科学者としての態度には好感が持てる。特に水さえあれば、あるいは海さえあれば生命が発生するという安易な考え方はしておらず、生命発生に対してのアプリオリな考え方を廃しすべて物理法則に則っているはずだという考え方にはぶれがない。
    新書としてはレベルの高い内容だと思うが、著者は74歳になり物質科学を研究してきた者として広く生命誕生の研究の最前線を知ってほしいという意気込みと、この本をきっかけに若き研究者が興味を持ってくれるように新書にした気持ちがよくわかる一冊だと感じた。しかし、生命についてここまで具体的に唯物論的な説明がされてくると哲学や宗教はいったい何なのか考え込んでしまう。

  • 背ラベル:461.6-ナ

  • はぁ、やっと読み終わった。生命が誕生するまでの流れを地球で起きたイベントとリンクさせて解き明かそうとする著者の考えを書いてますが、とにかく読みにくい。一番最後に全体をまとめた章があって、それで繋がりましたが、それまで各論が続くので……。
    あと、現在主流の理論とは違う新説だということを強調したいのか、主流説に対する攻撃が多すぎて。皮肉っぽい言い方の箇所もあるのがどうにも好きになれません。
    また、新説とは言っても今は著者のような考えのほうが主流と思うので、そこまで20世紀の説を攻撃しなくてもと思いましたです。

  • 著者の主張する第二章(エントロピーと進化の関係の話)が全く受け入れられず、全体的に斜に構えた姿勢で読み込んだ。第二章のツッコミどころが多くてどうする?
    本当は化学進化における様々な説を知りたくて最初にこの本を手にしたのだが、この本では自説以外の説はほぼ否定する始末。特に後半は持論に沿った仮説の話でお粗末。説を裏付ける物的証拠に触れないまま理屈一辺倒であるため、途中から辟易。
    化学進化についていろいろ知りたかったものの、著者の自説に感化されそうになり、中立的な判断ができなくなりそうだ。
    内容的に★2つぐらいが妥当であるが、参考文献など含め丁寧に書いている箇所もあるので、おまけで★3つ。

  • どうやって地球に生命の元となるアミノ酸等の有機物が生じ、そこから高分子が形成されたのか、どうしてそれらはすべて親水性なのか。
    従来言われていたような有機物の海で雷等のエネルギーからアミノ酸が生じるというようなことは起こりうるが、長い目で見ればいずれ加水分解、酸化分解してしまうはず、というもっともな疑問から、考古学データ、物理化学等を元に全然違う仕組みを当時の地球全体の動きの中で捉えようという視点。
    データが裏付ける太古地球への隕石の衝突時、その莫大なエネルギー下で生じた様々な有機化合物のうち、親水性で海中のコロイド(粘土性鉱物)と一緒に凝集して海底へ沈降していったものだけが海中、海面、外気での分解を免れて堆積していった。それが地球の冷却で生じたプレートテクトニクスの中で高温高圧の還元雰囲気環境下で脱水縮合するものが生じたという見方。
    膨大な量が生じたであろう有機物の中で、様々な条件をたまたまかいくぐって残ったものが今生命の素材となっている。
    この時、堆積していても条件の違いで炭化してしまった有機物(遠い祖先の仲間たち)がダイヤモンドになったというのも心にじんわりと残る。
    その後それらアミノ酸由来の高分子のうち無機の小胞と融合したものが外部との境界を持つことにより、分解を免れ代謝が始まっていったというのが生命の起源としている。
    この辺にはちょっと飛躍も感じるが、複製能力はその後できてきたものであって、まずは外界との間での代謝(他の小胞との融合による負のエントロピー獲得等)が先に始まったとするところはなるほどと思う。
    まず複製ありきでは全く説明ができていないと感じていたのでこの点は目から鱗。
    疑問点もあるがこういう視点にはワクワクする。
    また世界の見方を広げてくれた貴重な一冊。

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著者プロフィール

物質・材料研究機構名誉フェロー、1940年長野県長野市生まれ。元物質・材料研究機構フェロー、元東北大学大学院理学研究科教授、元無機材質研究所総合研究官、同特別研究官、元日本粘土学会会長。著書に『生命の起源・地球が書いたシナリオ』(新日本出版社、2006)。主な受賞:日本結晶学会賞(1978)、科学技術庁研究功績者表彰長官賞(1992)、井上春成賞(1998)、日本発明協会発明賞(1999)、内閣府産学官連携功労者表彰経団連会長賞(2006)
褒章:紫綬褒章(2000)、叙勲:瑞宝中綬章(2011)。

「2014年 『生命誕生 地球史から読み解く新しい生命像』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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