- Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062882729
作品紹介・あらすじ
日本を破滅へと導くことになった陸軍の独断専行という事態はなぜおこったのか?彼らはいかなる思想の元に行動していたのか?日本陸軍という日本の歴史においても特異な性質を持った組織がいかに形成され、そしてついには日本を敗戦という破滅に引きずり込みながら自らも崩壊に至ったかのプロセスを描く3部作の第1巻。少壮エリート軍人層による組織内での下克上、その結果としての満州事変から政党政治の終焉までを描く。
感想・レビュー・書評
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本書は、満州事変前後の関東軍、陸軍中枢、内閣それぞれの動向やその間攻防を中心に、満州事変とその前後の歴史的経緯、さらに満州事変勃発をめぐる中心人物であった永田鉄山と石原莞爾の戦略構想を論ずる本である。
満州事変を引き起こした一夕会の動向が詳しく記載されており、なぜ満州事変が起こったのか、なぜ犬養首相が殺害されたのかが理解できた。また、対米戦争が持久戦となることや国際連盟の無力さを生前に示唆していた永田の先見性には驚かされた。
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先ほど気づいたのだが、私はずっと川田を川北稔と同一人物だと思い込んでいた。おかしいなと思ったんだ。文体の違いよりも漢字の多さが気になった。とにかく漢字が多すぎて読みにくい。川田と編集者はもっと「読んでもらう」ための努力が必要だろう。特に軍事関係は肩書が長くてウンザリさせられる。ルビも聖教新聞並みに振るべきだ。
https://sessendo.blogspot.com/2021/11/1.html -
張作霖爆殺から塘沽協定までを扱い、同著者の『満州事変と政党政治』とほぼ重なる。
関東軍(実際には板垣・石原中心)+永田ら一夕会系中堅幕僚 vs. 若槻+南・金谷ら宇垣系陸軍首脳、という構図で語る。若槻は弱腰だったわけではなく、時に揺れる南らとの連携の維持を図り不拡大に努力する。しかし最終的に内閣崩壊、その影には一夕会から安達内相に働きかけがあった可能性も。
若槻内閣崩壊と宇垣系の一掃による陸軍内権力転換は、組織的な政治介入を行う「昭和陸軍」の始まりとなる重要な意味を持った。
若槻への大命再降下ではない犬養内閣誕生と五・一五事件後の超然内閣には、西園寺が陸軍の意向を念頭に置いたことも一因。また犬養が軍の統制のため天皇に働きかけたことに宮中側近は否定的で、また軍部急進派の憎悪を買い五・一五事件の重要な背景の1つとなる。
永田自身の満洲事変への関わりは、いつかはやるのであり準備が必要だが、全て永田の計画というわけではなかった、というのが著者の評価。
今村均は一夕会系ではないが永田と近く、作戦課長に就いたのも作戦行動を予期する永田の意向とする。しかし今村自身は北満進出反対など不拡大に尽力。朝鮮軍越境後、今村は陸相の承認を得た参謀総長の単独帷幄上奏により事後承認を得ようとするが、軍事課長の永田は閣議なしの帷幄上奏に反対してこれを止める。一見意外だが、著者は永田が陸相ひいては中堅幕僚を通じた政治介入の方針 だったためだとする。
本書後半では永田と石原の構想をそれぞれ解説。この部分は同著者の『昭和陸軍の軌跡』と重複する。両者は満蒙確保の必要性では共通。しかし永田は欧州発の世界戦争不可避論とそれに備える国家総動員を重視。石原は日米最終戦争は不可避だがその前の戦争には不介入が可能と考えていた。武藤は永田を継承し、田中新一は永田の影響下にありつつも石原の影響も。著者はこのことが、日中戦争拡大について石原と武藤、対米開戦について武藤と田中のそれぞれ違いを生じさせたとする。 -
当時日本で最も優秀な頭脳集団の一つだった旧日本陸軍。なぜあの太平洋戦争に至り、その後完全解体という悲劇に至ったのだろうか?本書は全3部作の第1部で、満州事変とその背景について論じている。そしてその原因を、陸軍内部に誕生した一夕会とその他の派閥抗争に端を発するとしている。一夕会が考える陸軍が取るべき方針は、第一次世界大戦を鑑みた国内体制の変革の必要性と満蒙親日傀儡政権樹立の必要性、そして内部にはびこる長州閥の打破と考えていた。そして、陸軍内部で人事介入工作を始め、満州事変に至る。
分からないことがある。一つは、結果的にみれば独断専行した関東軍の狙い通りと言える。しかし、当時は元老西園寺公望も健在で、政党政治が機能していた。陸軍内部でも一夕会は少数派だったようだ。一夕会自体もクーデターまでは想定していなかったようである。当時の実際の天皇の影響力がどの程度だったのかは分からないが、一歩間違えれば賊軍として扱われ、粛清されるリスクも十分にあっただろう。どこにその勝算があったのだろう? -
昭和陸軍の引き起こした満州事変とその背景を克明に追った、陸軍研究の白眉。
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素晴らしいの一言に尽きる。
なぜ日本はかくも無謀な戦争に突き進んでいったのか。
この素朴であるが難解なテーマに対するひとつの見識として、
新書とはいえ、昨今の雑誌のような新書とは異なり、
とても濃厚で読み応えのある内容になっていると思う。
まさに陸軍、いや昭和陸軍の端緒が何なのか、
そして政党政治の終焉というものが、
どのような意味合いを持つことになったのか、
そういった経緯がとても丹念に洗われており、
目から鱗なことばかりであった。 -
昭和陸軍の歴史を再考させられる作品。
本書を読む限りだと、一夕会が陸軍内の主要ポストを握る事で、最終的には内閣の政策決定までを動かすようになったという読める。
だが、なぜ彼ら中堅幕僚はこうした主要ポストに就く事ができたのか? この疑問には答えていないように思われる。 -
一夕会による陸軍内権力の把握経緯という視点を主軸に、満州事変の経過について詳細に記述。
幣原内閣に対しては、国際協調路線を維持するため陸軍へのコントロールに腐心し、総辞職までコントロールを完全には失ってはいなかったと肯定的に評価。
国際連盟脱退について、熱河作戦を理由とする除名を避けるため機先を制したとの説を否定。 -
何故あの戦争に至ったのか。その軌跡を満州事変から辿る。
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第1巻は、満州事変を巡る関東軍の暴走が語られている。陸軍中央においても、中堅将校が勉強会(一夕会など)を通じて派閥を構成し、策謀によって長州閥系幹部を一掃する。政党政治が軍に翻弄され、崩壊していく姿は痛々しい。
永田鉄山の構想はともかく、満州事変の首謀者である石原莞爾は、アメリカが西洋の覇権を獲得し、日本が東洋文明の中心となり「東洋文明の選手権」を獲得した後に「世界最終戦争」が起こり、世界が統一されると考えていたという。しかも、世界最終戦争前に日本の満蒙領有を契機とした「日米持久戦争」が発生し、その戦争経費は満蒙領有により得られる各種税収等で賄えると考えていたという。何て幼稚な構想なんだろう。
全編記録に基づいてドキュメンタリータッチで淡々と語られており、かえって生々しい。