志賀直哉・天皇・中野重治 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062901390

作品紹介・あらすじ

医師として、遅咲きの小説家として独自の文学世界を築きあげた藤枝静男。平野謙と本多秋五という刺激を与え続けた友人、そして深く傾倒した師・志賀直哉の存在。志賀直哉に関わる作品を中心に名作「志賀直哉・天皇・中野重治」など、藤枝文学の魅力を掬い取った珠玉の随筆選。

感想・レビュー・書評

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  • もともと藤枝静男をどうやって知っただろう、と思い出すと笙野頼子さんの文章がきっかけではなかったかと思う。「田紳有楽」「空気頭」すごくヘンテコな小説を書く人だ、というイメージだった。題に「志賀直哉」とあり、阿川弘之「志賀直哉」を最近読んだところでもあったので、何となく読んでみたいと思った。

    中身はほぼほぼ全編、志賀直哉のことについて書いてある。藤枝静男ってこんなに志賀直哉が好きだったのか・・・と思う。そういえば藤枝静男の小説も「私小説」とくくられるよなあ、と思いつつ自分の近辺を書く作家としての興味が志賀直哉に対してあるのかな、などと思いながら読み進める。

    途中で平板に思えてきて、普段はあまりしないのだけれど、何となく解説から読んでみたりしてみた。解説は何と若手の朝吹真理子さんである。なんとまあシブいものをお好みで・・・と文章を見てみると、なかなか興味深い考察がある。「死人が書く小説があるとしたらこういうものだろうと思った」ふむ、なかなか鋭い気がする。その感覚で藤枝静男の随筆に戻ると、また違って見えてきた。

    そして最後に収録されている表題でもある「志賀直哉・天皇・中野重治」という文章。途中「ここはとても大事なことが書いてある」という感覚に何度かなり、幾度も行きつ戻りつして読んだ。この本はこれを読むだけでも価値があると思った。それぐらい面白い。

    志賀直哉と中野重治が喧嘩をするのは阿川弘之氏の「志賀直哉」でも読んでいたので何となく予備知識がある状態だった。その手紙のやりとりを挙げながら、冷静に分析していく藤枝静男の文章が非常に鋭いのである。ちょっと異様に感じるぐらいである。けっこうな部分が引用に費やされているが、その引用のされた文章がずっと流れていく様も、何かこう被験者をじっと観察する医者のような(藤枝静男は眼医者だった)迫るものがある。「敬意を感じた」とか「よく理解できた」といった言葉が非常に慎重な手続きを持って繰り出される様もまるで実験をする研究者のような雰囲気を感じさせた。ううむこんな作家だったか。

    また再読したい人が増えてしまった。

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著者プロフィール

1907年、静岡県藤枝町生まれ。本名勝見次郎。成蹊実務学校を経て第八高等学校に入学、北川静男、平野謙、本多秋五らと知り合う。このころ志賀直哉を訪ね、小林秀雄、瀧井孝作を知る。1936年に千葉医科大学を卒業、医局、海軍火薬廠共済病院などを経て妻の実家である眼科医院に勤め、1950年に浜松市で開業。1947年『近代文学』9月号に本多秋五らが考案した筆名・藤枝静男で「路」を発表。その後も眼科医のかたわら小説を書く。1993年、肺炎のため死去。 主な著作に、芥川賞候補となった「イペリット眼」「痩我慢の説」「犬の血」などがあり、『空気頭』が芸術選奨文部大臣賞、『愛国者たち』が平林たい子賞、『田紳有楽』が谷崎潤一郎賞、『悲しいだけ』が野間文芸賞を受賞している。

「2012年 『田紳有楽』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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