死の淵より (講談社文芸文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062901857

作品紹介・あらすじ

死を怯える詩、生死の深淵を凝視する詩、若き命にエールを送る詩、自らの生を肯定する詩-。激動の時代に大いなる足跡を残した"最後の文士"が、人生の最後に到達した、珠玉の詩群。時代を超えた人間の真実がここにある。野間文芸賞受賞。

感想・レビュー・書評

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    愛してやまぬこの詩

    私の臨んだ(望んだ)人生の

    織り成し方を擬えれているかのようで・・・

    これからも この先 永劫に

    奥に真珠を秘めたまま

    果てるが由。

  •  昨日読んだ粟津則雄の『ことばと精神』で、この詩集のことが一章を割いて論じられていた。それを読んで手を伸ばしてみたしだい。野間文芸賞も得ている詩集だが、恥ずかしながら私はまったく知らなかった。

     一般には小説家として知られる高見順(ちなみに、タレント高見恭子の父でもある)が、晩年に食道ガンを病んでから、闘病を素材に作った詩を集めたもの。
     高見がガンの宣告を受けたのが昭和38年。以後3年の間に4度に及ぶ手術を受け、昭和40年8月に世を去る。その間、病床で取ったメモを元に退院後詩にまとめるなどして、命を削るように書きつづけられた作品群なのである。

     講談社文芸文庫のカバーの惹句が、力みかえっていてスゴイ。

    《死と対峙し、死を凝視し、怖れ、反撥し、闘い、絶望の只中で叫ぶ、不屈強靭な作家魂。
     酷く美しく混沌として、生を結晶させ一瞬に昇華させる。
     “最後の文士”と謳われた高見順が、食道癌の手術前後病床で記した絶唱六十三編。》

     この惹句を読むと、「死にたくない!」という思いをむき出しにして叫びつづけるような荒々しい詩集を想像してしまうだろう。だが、実際にはそうではない。技巧を凝らした詩が並び、随所に淡いユーモアさえちりばめられ、むしろ静謐な印象の詩集なのだ。
     そして、そのことこそがすごいと私は感じた。幸か不幸か私は死の淵に立った経験がないが、ガンで死を覚悟したとき、これほど客観的に自分の心を見つめて詩に昇華することは、とてもできそうにない。

     むろん、技巧やユーモアの底には激しい“生への渇仰”がみなぎり、読む者の心を打たずにはおかない。名作だと思う。

     集中、私がとくに感動したのは、「魂よ」「青春の健在」「おれの食道に」の3編。とくに「おれの食道に」は、一編の詩によって人生を総決算するような作品で、すごい。
     以下、3編それぞれから一部を引用しよう。

    《魂よ
    この際だからほんとのことを言うが
    おまえより食道のほうが
    私にとってはずっと貴重だったのだ
    食道が失われた今それがはっきり分った
    今だったらどっちかを選べと言われたら
    おまえ 魂を売り渡していたろう
    第一 魂のほうがこの世間では高く売れる
    食道はこっちから金をつけて人手に渡した(「魂よ」)》

    《ホームを行く眠そうな青年たちよ
    君らはかつての私だ
    私の青春そのままの若者たちよ
    私の青春がいまホームにあふれているのだ
    私は君らに手をさしのべて握手したくなった
    (中略)
    さようなら
    君たちともう二度と会えないだろう
    私は病院へガンの手術を受けに行くのだ
    こうした朝 君たちに会えたことはうれしい
    見知らぬ君たちだが
    君たちが元気なのがとてもうれしい
    青春はいつも健在なのだ(「青春の健在」)》

    《庭の樹木を見よ 松は松
    桜は桜であるようにおれはおれなのだ
    おれはおれ以外のものとして生きられはしなかったのだ
    おれなりに生きてきたおれは
    樹木に自己嫌悪はないように
    おれとしておれなりに死んで行くことに満足する
    おれはおれに言おう おまえはおまえとしてしっかり
     よく生きてきた
    安らかにおまえは眼をつぶるがいい(「おれの食道に」)》

  • 死ぬことへの諦め。でもそれが悲観的ではなく死を肯定しながら諦めている。今までの人生の肯定でもある。鮮やか。

  •  
    ── 高見 順⦅死の淵より 20130111 講談社文芸文庫⦆
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/4062901854
     
    http://booklog.jp/users/awalibrary/archives/1/B000JBF9R4
     
    (20210318)
     

  • 鮮やかな情景。えぐるような詩集。

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著者プロフィール

1907年、福井県に生まれ、1965年、千葉県に没する。小説家、詩人。
本名、高間芳雄。
高校時代にダダイズムの影響を受け、東京帝国大学文学部時代にはプロレタリア文学運動に加わる。
1935年、『故旧忘れ得べき』で第1回芥川賞候補。1941年、陸軍報道班員としてビルマに徴用。戦後も、小説、エッセイ、詩とジャンルを問わず活躍した。
主な作品に、『如何なる星の下に』(人民社、1936)、『昭和文学盛衰史』(文藝春秋新社、1958)、『激流』(第一部、岩波書店、1963)をはじめ多数。
ほかに『高見順日記』(正続17巻)、『高見順全集』(全20巻)がある。

「2019年 『いやな感じ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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