明日なき身 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 45
感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062903394

作品紹介・あらすじ

離婚を繰り返し、生活に困窮した作家、生活保護と年金で生きる老人の日常の壮絶。高齢化社会を迎えた今、貧困のなかで私小説作家は、いかに生きるべきか・・・。下流老人の世界を赤裸々に描きつつも、不思議に、悲愴感は感じられず自分勝手を貫く、二十一世紀の老人文学。

感想・レビュー・書評

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  • 私小説。ホームレス一歩手前の凄絶な日常を淡々と描いている。読みながら終始、出版社と著者と読者、この三者結託して織りなす悪趣味な事業に自分も今まさに荷担しているかのような居心地の悪さを感じ続けた。現代が舞台ということもあるだろう。大正昭和の私小説ならば、金銭感覚や生活様式の違いからフィクションと変わらない心持ちで読むことができるだろうから。280円の鉢植えを買うことも躊躇う作家が書いた私小説を、1650円払って読む人がいる。しかも著者は行方知れずなので、出版社から著者に利益が回ることは無いのだ。

    「作品」としては、「ムスカリ」が良かった。青い小さな花の存在が鮮やかで、救いがある。次の「ぼくの日常」はしっちゃかめっちゃかで、ちょっとよく分からない。「明日なき身」「火」は出来が云々という以前に内容が壮絶すぎて…しかしこれも紛れもない現代の現実なのだ。私自身、もしかしたら何十年か後にこの様な身の上となるかもしれない。最後の「灯」は生活保護ビジネスに呑み込まれてしまった著者の、諦めまじりの空虚な日常。作品としてはこれも良い。しかし文字通りこれが最後なのだと考えると、言いようのない寂しさを感じる。

  • スペースでお話をしていた時に知りました。3度の離婚の末、生活に困窮し、生活保護と年金で生きる日々。その生活はあまりにも壮絶だ。けれども彼の筆からは悲愴感は感じられず、淡々と描かれている。ここに書かれた貧困は決して著者だけの苦しみではなく、今の日本社会に蔓延する病だと感ずる。生活保護の問題、貧困ビジネスなどの問題が透けて見える。その点に置いても本作は究極の「私小説」だと
    思う。現在、著者は消息不明とのこと。一体何処で何をしているのだろう。彼の無事を祈る。

  • 「ムスカリ」
    生活保護を受けて暮らす後期高齢者
    前立腺がんの疑いあり
    妻に去られて一人暮らし
    自炊できないので、主にコンビニのおにぎりを買う
    あと外食
    もちろん経済は苦しい
    しかしあるとき、街の花屋の店頭で
    青い花(280円)に心を奪われてしまう

    「ぼくの日常」
    生活保護を受けるようになった少し前の話
    週刊誌ライターをやりながら、おんぼろの一戸建て団地に住む筆者は
    便所のつまりを直すお金もままならず
    きわめて不潔な環境での生活を余儀なくされている
    脚本家で、文学仲間の田波靖男に援助を受けつつ
    長編小説を書き始めるが
    どうも濡れ場に自信が持てない

    「明日なき身」
    たとえどんなに貧乏な老人で
    生活保護を受ける暮らしなどしていても
    民主主義の国家では、人権が尊重されるべきのはずだ
    しかしこの複雑に入り組んだ現代社会には
    人権を盾にとるようなヤカラもいるし
    わざわざ他人の痛みや悲しみを想像するのが多数派とは言えないもんで
    法の影では、暴力の嵐が吹き荒れることになる
    そこで選択肢はふたつにひとつ、孤高を気取るか?卑屈になるか?だが
    これもいずれにせよ、貧乏な老人であることに変わりあるまい

    「火」
    不眠症で朦朧としており
    また、貧乏ゆえに暖房が不十分で、寒い正月だった
    それで
    室内に火をおこすことを思いついたのだけど

    「灯」
    火災ですべてを失いはしたものの
    各地の養護施設を転々として、彼は生きていた
    心配した旧友たちの訪問を受け、中華料理をおごってもらい
    再会を約束して別れるのだが
    2010年、この作品を最後に岡田睦は失踪
    以後、消息不明であるらしい

  • 私小説といえば西村賢太、と言いたくなるくらいもうイメージが定着してしまったわけだけれども(あの人はああ見えてやはりかなり賢くイメージ戦略をしている人だと思う)、あの濃厚な文体、文学臭みたいなものは、この人の筆致からは全く感じられない。
    しかし、その淡白すぎて文学的でないとさえ感じられる文体で、書かれる内容は壮絶だ。
    妻にヤクザを雇われて家を追い出され、生活保護を受け生活する。そんな日々が淡々と書かれるが、徐々に日常が破綻していく。しかしあくまで主人公=作者は動じないのだ。それは依存症になっている薬物故なのか。
    その動じなさ、そんな絶望的な環境にいる自分を客観的に描き出す筆致は、まさしく「私小説」なのだろう。
    作者は消息を絶ったらしい。一体今どこで何をしているのか。

  • 生活保護受給高齢者の日常。結構凄絶だが飄々とした文章。コンビニ店員への執着、段ボールを燃やしてボヤのインパクト。現在消息不明とあるがどういう経緯でそうなのだろう。

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著者プロフィール

一九三二年一月一八日、東京生まれ。慶應義塾大学文学部仏文科卒。同人誌「作品・批評」を創刊。一九六〇年「夏休みの配当」で芥川賞候補。私小説を書き続けるも、三度目の妻との離婚以降、生活保護を受けながら、居所を転々とし二〇一〇年三月号「群像」に短編小説「灯」を発表、以降消息不明。

「2017年 『明日なき身』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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