自死の日本史 (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (704ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062920544

作品紹介・あらすじ

意志的に選び取られた死=自死。記紀と『万葉集』にある古代人の殉死に始まるこの風土の自死史。道真の怨霊、切腹の誕生、仏教と自死の関係を問う。『葉隠』『忠臣蔵』に表出する武士道精神と近松、西鶴が描く心中とは何か?そして近代日本が辿った運命を、芥川、太宰、三島らの作品に探る。自殺大国の謎を西欧知性が論理と慈愛で描く「画期的日本文化論」。

感想・レビュー・書評

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  • よくここまで調べ上げたものだと感心する。土産物屋に売っているハラキリではなく、長い歴史の中で実践し描かれてきた日本の思想潮流を浮彫りにしていると言えるのではないか。時には高潔さとして、時には濫用された卑小さとして、自らを裁く行為の数多を見ることができる。

  • 感想
    死は美しい。文学で、演劇で描かれている。なぜそうなのかは考えたことがない。此岸が儚く彼岸への想いが強いからか。自死は禁止されるべきか。

  • これはすごいな。フランス人が日本人の自殺について論じている。さまざまな自殺者の分析から日本人特有の死生観をうまくみつけている。最後をかざるのが三島由紀夫で、ここに極まったというか一つの収束点をみたということか。圧巻という内容でした。これ日本語訳した人もすごいと思う。とても読みやすい訳だと思います。

  • 立て続けに理数系の本を読んできて、次にこの本を読み始めてみたら、あまりにも「人文学人文学」していて目眩がした。理数系の学者の文章はあまりにも簡潔・スピーディーすぎてわかりにくいのだが、それに比べてこの文章の「のろい」こと。たぶん社会学に分類されるだろう本だが、アカデミックな雰囲気でなく、極めて平易に書かれているだけに尚更だ。
    西洋人のキリスト教的禁忌としての「自殺」と比較して、より自然で時宜を得れば必然的・常識的でさえある日本の「自死」(とりわけ「切腹」が注目されているようだ)を、浩瀚な歴史的資料を背景に描写を試みる。
    とてもボリュームがあり読み応えたっぷりである。なかなか面白い。けれども「読み物」っぽいので、すっかりのんびりと読んでしまった。
    著者がとらえた「日本人らしさ」は一応的確なものだろう。日本人というか、そうした特性は遺伝子によるものではないので、日本の言語や文化・社会が綿々と維持している傾向だと言えるだろう。
    この本を読み出したとき、ちょうど東京に旅行していたのだが、以前とは違ってこの大都会の人々も「結局みんな、日本人的なんだろうなあ」という感慨を抱いて雑踏を眺めたものだった。
    本書の最後の方、芥川・太宰・三島という、文学者の自殺のエピソードを記述するのだが、この辺りは「社会学的視点」を離れてしまい(たとえ文学者が時代・社会の刻印を強く刻まれた人間だとしても)、あまりにも個別特殊的な事例に接近しすぎているのではないかと思った。

  • 著者:Maurice Pinguet (1929-1991)
    原題:La mort volontaire au Japon (1984)
    訳者:竹内信夫(1945-) 

    【書誌情報】
    発売 2011年06月10日
    価格 定価 : 本体1,900円(税別)
    ISBN 978-4-06-292054-4
    判型 A6
    頁数 704頁
    レーベル 講談社学術文庫
    http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062920544

    【一応めも】
    ・第一章タイトルにある「カトー」とは、日本人の加藤さんではなく、ローマ人のCatoさんを指している。
    ・日本語wikiでのパンゲの記事では、著者についての記述より本書についてのそれの方が多い。

    【目次】
    学術文庫版への訳者まえがき(二〇一一年四月一六日 竹内信夫) [003-006]
    日本版への序(一九八六年二月 モーリス・パンゲ) [007-019]
      〈意志的な死〉 mors voluntaria/パリサイ的偽善/歴史と哲学、歴史と社会学/いじめ自殺/選ぶ自由
    献辞・題辞 [020]
    凡例 [021-022]
    謝辞 [028]

    第一章 カトーの《ハラキリ》 029
    自死のコード/諦めと憤り/隷属者の自由死/奴隷の絶望/隷属から倫理へ/賢者の尊厳/形而上学の優位/不幸な意識/内在の国、日本/有は時なり

    第二章 自殺の統計学 059
    自殺の波/戦争の傷跡/自殺死亡率の低下/自殺死亡率の変移/意志のただなかに

    第三章 自殺社会学の歩み 072
    心正しき人と心やさしき人/医学愚行集/個人主義からニヒリズムへ/ニヒリズムの治療法/社会主義の未来像/〈意志的な死〉の尊厳/フロイトとデュルケーム/自殺類型学の試み/デュルケームの心配

    第四章 兆候としての自殺 092
    階級闘争と企業闘争/コンクリートと森/老人の自殺/青年の自殺/もっとも気がかりな兆候/未来という重荷/挫折の償い/超自我の目覚め/オイディプスの転調/母親とのきずな/超越する善、内在する善/役割ナルシシズム/責任をめぐるかけひき/宿命感/親子心中/自殺兆候説のかなたへ

    第五章 歴史の曙 141
    死と《神道》/供物と生贄/殺される生贄から意志的な生贄へ/献身的自殺/三日目の復活/愛に死す/古墳時代/埴輪の発明/殉死

    第六章 暴力の失効 172
    殉死の禁止令/暴力の後退/加持祈禱と迷信/死者の復讐/〈意志的な死〉の衰退/自殺未遂、二重の成功/満ち足りた生活の憂愁

    第七章 武芸そして死の作法 199
    皆殺し/合理的な死/敗北のなかの栄光/夫に殉じる妻/幼帝安徳の死/死の演出法/腹と真実/切腹の制度化/機略/集団切腹/〈意志的な死〉の饗宴/《切腹》批判/生きることへの義務

    第八章 捨身 237
    戦いの人、宗教の人/「中」なる道/キリスト教による自殺の排斥/希望と絶望の狭間で/不動の中心/自己埋葬/犠牲の回帰/禁欲の修行/仏教の両義性/阿弥陀信仰の慰め/不動の慈悲心/狂言入水/ある強情な男の話/皮と芯/苦行者と竜

    第九章 残酷の劇 290
    暴力から意志へ/腹を切るという特権/新しい秩序/名誉と奉仕/自己処罰/儀式/非公開の舞台/剣の扱い方/刑罰の恐ろしさ/支配者階級を支配すること/君主の報復/城下の暮らし/太平の矛盾/《武士道》とは死ぬことなり/死は武士道なり/殉死の衰退/忠臣たちの仇討ち/我ら、人殺しにあらず/四十七士批判/死と演劇空間/武家体制の衰退/絶対主義の動脈硬化/蒸気船と大砲/理性の策略/「サムライ」は死に同意する/「サムライ」の死

    第十章 愛と死 355
    嫁いびり/悲嘆と同情/父権の絶対主義/色を好む男/快楽の組織化/幻影と真実/愛と記憶/遊女の愛/悔恨と亡霊/虐げられた者たちの最後の手段/紙屋治兵衛の悲嘆/一切廻向/姦通の苦難/擬装心中/愛欲から解脱へ

    第十一章 自己犠牲の伝統 432
    ナショナリズムの高揚/万世一系の/武士階級の終焉/天皇万歳、政府打倒/末期の痙攣/偉大なる西郷/暴力と政治/軍隊の屈従と偉大/ある兵士/反戦の歌/やがて彼らは死ぬ、彼らはそれを知っている

    第十二章 奈落の底まで 479
    テロリズムの正統/テロと徳義/〈意志的な死〉の悪用/越権問題/暗殺者の時代/青年将校/中国戦争/思想の最前線で/虚無への跳躍/自己犠牲の歯車装置/秘密兵器/〈意志的な死〉の三段論法/二十歳の死/ある公正な殉教者/奈落を前に/民族自殺の期限/天皇の意思表明/いかに死ぬか/嵐は去った/第二の波/歴史の審判

    第十三章 ニヒリズム群像 549
    思想の論理的帰結/理性という名のガードレール/あるロマン主義者の運命/青春の躍動/自殺という社会問題/高貴なる行為/ある上流名士の絶望/何も本気にしないこと/虚無の郊外にて/ブルジョア病/熱情の人

    第十四章 三島的行為 592
    薄明のとき/生への目覚め/悲嘆と困惑/だいなしの人生/我思う、ゆえに我もはや生きてはあらじ/才能にめぐまれた青年/太陽と夜/悲劇への意志/楯の会の誕生/精神の贖罪/計画と準備/実行/存在とはすべて迷宮なり/時代精神/カタルシス、そして至上性

    原註 [641-679]
    典拠一覧 [681]
    訳者あとがき(一九八六年四月 訳者識) [683-690]

  • この書は東京日仏学院院長であったモーリス・パンゲが1986年に出した、自死(意思的な死)をフェーズにとった日本精神文化史である。

    安徳天皇を抱いて海に身を投げた二位尼。
    鎌倉幕府滅亡時の武士の集団切腹-6千人余という(太平記)。
    秀吉に疎まれて自死した千利休。
    浅野内匠頭、大石内蔵助と四十七士。
    西郷南州隆盛の死と士族の終焉。
    乃木希典の殉死。
    2.26事件。
    芥川龍之介。太宰治。川端康成の自死。
    カミカゼ特攻隊の若者の心情。
    昭和軍閥領袖の死に方。
    市ヶ谷自衛隊の三島由紀夫。

    多くの自死を挙げながら日本の文化を語る。
    自死・自殺は決して日本だけのものではない。著者の広い学識は古今東西の歴史にも目を配る。

    日本の自死を特徴づけるものは「切腹」の様式化であるとする。
    為すべきこと何も無く、何も生産しない侍(サムライ)が階級として存続し得たのは、常に切腹の覚悟に裏打ちされていたからだという。
    この儀式化された様式は敗戦時の阿南陸相、昭和の三島にも踏襲される。

    パンゲは哲学者であるが、これだけ歴史を論ずれば社会科学者でもあらざるを得ない。
    自殺の統計、西鶴や近松の演劇、明治維新政府の天皇制教育など多岐に踏み込む。
    しかし或る行動を、或る集団を、或る思想を糾弾することはしない。
    底に、日本文化に対する深い愛情が溢れている。

    これを読んでいま私が思うのは、何も為さず、何も生産しない年金生活者はいかに生き、いかに死ぬべきかということである。

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