黄砂の進撃 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062938631

作品紹介・あらすじ

不死身の義和団と列強の激闘! 驚愕の真相が今、明かされる。

中国近代化の芽生えと、人民の秘めたる強さを見よ。―ジャーナリスト・評論家 田原総一朗推薦
義和団の叛徒にも信頼された明治の武人がいた。列強の部隊を率いた反骨の駐在武官・柴五郎だ!―外交ジャーナリスト・作家 手嶋龍一

清朝末期、満州人に辮髪と纏足を強要されていた漢人は、宣教師にも生活を蹂躙され不満は頂点に達していた。彼らは扶清滅洋の旗印のもと蜂起し、駐在武官・柴五郎らの立て籠もる北京公使館区域に攻め入る。中国近代化の萌芽となった「義和団の乱」の内幕を描く、『黄砂の籠城』と対をなす面白さ抜群の歴史小説。

感想・レビュー・書評

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  • 面白かった!
    「黄砂の籠城」と対をなすエンターテイメントストーリ!
    義和団側の視点で描かれた物語
    残念なのは、「黄砂の籠城」を読んですぐにこれが読めればよかった。「黄砂の籠城」で描かれた内容が清国、義和団側からも描かれているので、間をあけてよんじゃうと面白さが半減かなっと。

    ストーリとしては
    義和団ができるまでの背景が描かれています。
    満州族に支配され、キリスト教の宣教師にも生活を踏みにじられていた漢人達。そんな民衆が決起している中、成り行きで指導者になってしまったのが張徳成。
    義和団はある意味宗教団体。
    修業すれば不死身の体になるという民間信仰。
    まったく知りませんでした。
    そういった意味では宗教戦争でもあるのかも
    そんな一般市民・農民たちが北京公使館へ攻め入ったことになります。
    義和団が蜂起する背景が理解できました!

    しかし、結局は朝廷に利用される形に
    そして、クライマックスへ...

    良かった!!
    とてもお勧め
    「黄砂の籠城」の上下巻と合わせて、一気に読むことをお勧めします(笑)

  • 清朝末期の1900年、欧米と日本による国土分割への危機感、窮迫する貧困に手を打たない朝廷の無策、キリスト教による生活蹂躙への反発の中、「扶清滅洋」のスロ-ガンを掲げた排外主義勢力「義和団」を、駐在武官・柴五郎らの立て籠もる北京公使館区域へ進撃する義和団側から描かれた、松岡圭祐著『黄砂の籠城』と対をなす歴史小説。 〝光緒帝が控えめに告げる 「大清帝国の現在の兵力と財力では、日本およい欧米列強と戦うことなど、とても・・・」 その時、西太后の低く重い一言が響いた 「皇帝」 張り詰めた空気が漂う。 光緒帝は、それきり黙りこんでしまった...西太后の声が響いてくる 「民衆が力をつけておる。 人心こそ国家を支える。 仮に人心を失ったとすれば、なにゆえ国家が存立する」...「今こそとき至れり。 皇太后陛下、皇帝陛下、大清帝国に栄光あれ!」 〟

  • 「黄砂の籠城」で敵対していた清国・義和団の視点で描かれた物語。

    元舟漕ぎの張徳成は、取り立て屋に襲われていた若い娘、莎娜を助けるが、追い払った取り立て屋が官兵たちを連れて来て取り囲まれてしまう。そこで李来中と名乗る男の機転により難を逃れた。そして、その中年男との出会いがきっかけで、義和団という組織が誕生する。

    張徳成は義和団の天下第一壇大師となり、莎娜は十代の少女揃いの部隊である紅灯照の黄蓮聖母として、共に義和団を導く立場にあったが、清国軍の陰謀や義和団の暴走により追い詰められていく。

    元々、日清戦争敗戦後キリスト教が清国内に広がり、宣教師だけでなく漢人クリスチャンまでが横暴に振る舞い始めた。それにより苦しめられていた農民たちの悲痛な叫びが「扶清滅洋」の旗印のもと、平和を取り戻すため拡大していったが、清朝の企てによって利用され、各国公使館VS義和団という構図に書き換えられてしまう。

    各国を出し抜こうとした清朝であったが結局失敗し、義和団が次々と倒されていく中、権力者たちは保身のため変装して逃走。
    絶望的な状況の中で、仲間の死に心を痛める張徳成は、莎娜に全てを託して進撃する。





    個人的には黄砂の籠城に負けないぐらい面白かった。籠城の裏側で、張たちが義和団や清国の未来について考え奮闘する姿は、柴中佐や櫻井たちと同じように誇り高く、そして彼も優れた見識を持っているが、状況を好転させるほどの力は無く、理不尽な結末が決まっているだけに少し切ない。

    また、漢人クリスチャン救出や、クルップ巨大砲の建設など、黄砂の籠城での場面を思い出しながら読める点も良かった。

    そして、本作の主人公である張徳成は実在し、紅灯照の黄蓮聖母である莎娜も林黒児という実在した人物がモデルになっているようなので驚いた。

    漢字の地名や、読み方が特殊な名前は流して読んだが、内容は考えさせられる事が多く、心に響く作品だった。

  • 義和団事件を清国人の側から見た小説。
    日本人視点の「黄砂の籠城」は事件の概要がドラマチックに描かれているのに対して、こちらは義和団に参加した人の心理を通してなぜ蜂起したのか、どういう戦いだったのかがよく分かり、読んでよかった。
    どんな事件でも双方に事情はあって、それぞれの中でも人によって思いは様々だと後からなら想像できるけど、なかなか当事者がすぐにそこまで考えられないと思う。だから直後にそれを知ろうと行動する柴五郎はすごいなと思ったし、そんな軍人がいたのにその後の日本が大陸支配を強めていったのは悲しいと思った。

  • 今年の1冊目。毎年恒例の松岡先生の作品から。昨年読んだ『黄砂の籠城』の続編で義和団事件を中国側から描いた作品。

    “無知の農民蜂起団が国家の軍団にのしあがり、列強に立ち向かっていく物語”ではない。自らの暮らしを脅かす洋人を倒すために立ち向かった“数”だけが頼りの集団を、清国が巧みに操り特攻兵として利用し、結果国家諸共に粉砕していく物語である。義和団の一兵卒は知識を得、兵隊となることに無垢な喜びを得る。本主人公である張たちリーダーたちはこのカラクリを知りながらも流れに身を任せるしかないその苦悩に焦点をあてている点が興味深い。

    「“自分たちでも立ち上がれれば国を変えられること”に自ら気づけただけでも指導した意味がある」と悟った張の思いが、まさに後記に書かれている義和団事件の最新の再評価を表すのだろう。

    個人的感想としては、張という存在(人物造形)に物足りなさを感じた。あっという間にリーダーに祭り上げられていくのは張自身の戸惑いを描くのに必要だったと思うが、読者としては?の連続であった。

    また、作中で妖術や奇跡を当然のように受け入れる人々が描かれる。知識を得ている我々からすれば衝撃的だったが、これが1900年の中国の実情だろう。日本が明治維新で急速に近代化できたのは農村の識字率の高さにあったということに改めて気付かされる。

    最後のシーンで莎娜が柴中佐に日本も義和団の二の舞にならないようにと忠告する。皮肉的にも日本は太平洋戦争下で劣勢にも関わらず勝利を喧伝し奇跡にすがっていく姿はこの事件と全く同じ構図である。歴史は何度も繰り返す。朝廷のシーンは一部であったが、次は朝廷側を主人公としたスピンオフ作品も見てみたい。

  • 横暴な外国人や宣教師達を許し一貫した国家思想に統一できない複雑な国内事情を背景に、困窮する清国国民の怒りがどうやって爆発したのかが分かった。
    そして蜂起した義和団も実態は脆い大集団で、誰も止められない壊滅への選択には、儚い気持ちになった。

  • “不死身を信じた者たちの猪突猛進、おびただしい頭数、それらふたつだけが武器だった”。 義和団がなぜ興ったか。なぜ大きな戦いに発展してしまったのか。「黄砂の籠城」では描かれなかった義和団側からの物語。義和団、紅灯照については「籠城」読了後にざっと調べたけれど、今作を読んで実際はこんな風だったのじゃないかと思った。大帥に祀り上げられた男、黄蓮聖母を名乗る女。宣教師の横暴から自分たちの暮らしを取り戻したい、ただそれだけだったのに。国に利用され、いつの間にか戦いのただ中に立たされる。義和団事件とはなんと虚しい戦いであったことか。いや戦争というもの自体がどんなものだって虚しいのだ。立場を変えて物事を見る。それだけで戦いのいくつかは起こらずに済むのではないか。少なくとも個々の間では。120年前の事件を通して、いま一度考える時ではないかという著者からのメッセージを感じた。

  • 背ラベル:913.6-マ

  • 20210612

  • 「黄砂の籠城」の対としてとても興味深い本だった。個人的には、日本人なので感情移入ができるせいか「黄砂の籠城」の方がめちゃくちゃ引き込まれたけど。解説でドイツ公使だかが言ってたとされる、「私が清国人だったら義和団に参加するだろう」ていうのが印象に残った。私もそうするだろうと思ったから。私は結構、「国」にロマンを感じ、アイデンティティを求めるタイプなのかも。

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著者プロフィール

1968年、愛知県生まれ。デビュー作『催眠』がミリオンセラーに。大藪春彦賞候補作「千里眼」シリーズは累計628万部超。「万能鑑定士Q」シリーズは2014年に映画化、ブックウォーカー大賞2014文芸賞を受賞。『シャーロック・ホームズ対伊藤博文』は19年に全米翻訳出版。NYヴァーティカル社編集者ヤニ・メンザスは「世界に誇るべき才能」と評する。その他の作品に『ミッキーマウスの憂鬱』、『ジェームズ・ボンドは来ない』、『黄砂の籠城』、『ヒトラーの試写室』、「グアムの探偵」「高校事変」シリーズなど。

「2023年 『高校事変 16』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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