彼女がエスパーだったころ (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 30
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062938945

感想・レビュー・書評

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  • もっとオカルトな内容でぶっとべる話かと思えば、いたって冷静な静かな小説。
    同じテーマで短編を並べるスタイルは嫌いじゃない。語り手が作者本人なのか否か、読み手からすれば混同するような感じもディック的で悪くない。あくまで多分作者本人ではないが。
    ちょっと、自分で期待値を別な方向に上げてしまってから読んでしまったかなあ。
    ただ、ラストは微かに光が見えるような感じで良かったけどね。

  • 一人の記者を語り部に、事件の当事者のインタビューで構成されたモキュメンタリー風味の連作短編集。起こる事件はどれも超能力や不思議な水、代替医療など、ニセ科学のオンパレードで、一見すると荒唐無稽なものばかりだが、それを支える設定や仮に現実に起こった場合の驚異的な予見力、大衆の反応などは実にリアルで、現実と虚構の境目が曖昧になっているかのような感覚を覚えてしまった。

    火の使い方を覚えた猿の話である「百匹目の火神」は「猿の惑星、征服」のようで、世間の右往左往とする感じや遅々として進まない対策、政治家の失言によるバッシングなどがスラップスティックで実に面白かった。

    表題作「彼女がエスパーだったころ」は超能力少女というファンタジックな題材ながら、一般人のそれに対する猜疑心や世間の受け入れ方、科学との距離感などが絶妙で、現実に超能力少女が現れた場合の周囲の反応と消費のされ方というのはリアリズムに満ち溢れている。超能力がメタル・ベンディング=スプーン曲げという些細な何の役にも立たない能力というのが実によく、オカルトに対してなんとか暴いてやろうとする声や、超能力ビジネスと宗教団体の違いは母体となる組織の有無であり、信者のその後をケアしないという、マジックである手品側からの超能力に対する批判なども興味深い。

    まさに超能力者がもし現実に現れたら?のシミュレーションとしては完璧であり、このへんのリアリティには文句のつけようがない。作者の目指した偽科学を肯定も否定もせず、また希望を寄せたり絶望と遊ぶわけでもなく、冷徹に見据えて境界を不明瞭にした筆致は見事ではあったが、その反面、SFとしては十分でもミステリとしては存外に弱い部分もあり、また圧倒的な現実性と地に足の着いた印象のせいか、ロマンのようなものは感じなかった。人間の業とでもいうべき弱さは伝わってきたのだが、事件は違うとはいえ全編通して同じトーンの作風だったので、食傷気味というのが正直なところである。ただこの語り口は素晴らしく、夢中になって読んだ短編集でもあった。

  • 私は好きだけど、「これが世界水準だ」と謳われちゃっても???

  • 疑似科学というテーマは、思ったより僕らの身近なものらしい。
    かなり好き。

    たまたま最近読んでた『謎解き カラマーゾフの兄弟』に、匿名会(AA)についての話が少し出ていて、思わぬシンクロ。

  • 擬似科学やオカルト的なモノをテーマに、そこに縋る人の心理面を描いていて、面白いです。
    上手く表現出来ないけど、新しい感じ、不思議な読了感がありました。

  • 初宮内悠介作品。
    とっつきにくい部分もあるが、興味深いテーマが取り上げられた一冊。
    最後の「沸点」はうらぶれたサンクトペテルブルクに希望が灯されて好きなエンディングでした。

  • いまいち入りきれずに終わった感じ。

  • 彼女がエスパーだったころ (講談社文庫)

  • 「わたし」が似非科学と対峙する連作短編だ。
    と言っても、「わたし」は決してその似非科学を暴いてやっつけるようなヒーローではない。
    ただそれを「見る」だけだ。

    SFともミステリーとも言い難い本作。
    スプーン曲げや代替医療など扱う題材は面白い。
    しかしながら、どうにもうまく表現できないが、私にとっては読みにくく、そこまで厚いとは言えない文庫本を読むことにいささか難儀した。
    著者と私との波長が合わない、それが最もぴたりとはまる表現なのだろう。

    シンクロニシティと崇拝、言霊と水質浄化、プラセボと終末医療......。
    どれもこれも弱った心にするりと入り込んで狂信的とも言える信仰を集める。
    それゆえに私の心はその描かれた疑似科学を拒んだのかもしれない。
    知れば洗脳されてしまうかもしれない。
    第六感、それも似非科学だろうか、本能が危険だと知らせた。
    これは作り話、そう思っていても、簡単に人の心は流されてしまうものだから。

    そんな考えこそが、いや、真実を突いているかも、いや、それも科学じゃない、いやいや、科学だって万能じゃない、仮定の話ばかりだ.....。
    堂々巡りが、「かも」が、私の頭を埋め尽くしていく。

  • 【疑似科学シリーズ】と銘打たれた超常現象が題材の連作短編集で、フリーライターである主人公の視点を通して事件の顛末がルポタージュ調に語られる展開が何とも新鮮。序盤はライターという立場から事件を俯瞰していた主人公だが、中盤から徐々にその渦中に巻き込まれていく。前半二作品にはブラックユーモアの要素も感じたが、全編通してSFというよりも超常現象を題材にしたミステリーという印象。お気に入りは「ムイシュキンの脳髄」と「水神計画」の二編。エピローグ的扱いの「沸点」は特にそうだが、全体的に哲学的要素の強い作品でもあった。

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著者プロフィール

1979年生まれ。小説家。著書に『盤上の夜』『ヨハネルブルグの天使たち』など多数。

「2020年 『最初のテロリスト カラコーゾフ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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