- Amazon.co.jp ・マンガ (248ページ)
- / ISBN・EAN: 9784063878783
感想・レビュー・書評
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良質なSFというものは、現実世界では気付かない幸せを、隠された矛盾を、声にならない嘆きを鮮やかに描き出す。千年に引き延ばされた死の瞬間に愛を見つけ、女性化した男子の健気な恋に男性社会の限界を感じ、絶滅必至の古代生物の生き様に無慈悲な神の御手を想う。
SF好きなら必読の短編集です。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
もう漫画はただの娯楽だけでしかないというのは終わりと言うか更に細分化し、また、新たに進化を遂げているのではないかな。大衆向けに娯楽性を追求したのもあれば、この作品のような独創性をはらんだ作品も出てくる。哲学、宗教、深層心理的であったりしながら骨子は堅固に練り込められたSFで綴られている短編集はどれも濃い世界を覗かせる。一読だけでは終わらす事の出来ない人の複雑怪奇な深遠を持ち、何度も読ませてしまう力強さと思索を促される漫画。
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表紙がなんとなく好きじゃなくて二の足を踏んていたのだけど、思いきって買ってみたらよかった。3つの短編集だか、最初の「辺獄にて」がいちばん好きかな。
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いい漫画だった.テクノロジーによって変容する人間の形を描く仕事は,海外においてはサイエンス・フィクション作家の仕事だが,日本においては漫画家の仕事のようだ.
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ずっしりとしてグレー.なのに,1つあるいはいくつかの明るさが必ず用意してあってどこか安心する.グレーは(黒ではない)迷いに迷って明るさを信じようと色を薄めていく.みたいな感覚のある話だった.
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洗練されていないが、魅力的で安心感を与える作風。
情報量が多く、絵で説明できていないところがあるのが少し残念だが、惹きこまれるストーリ展開で、他の作品も読んでみたいと思わせる。 -
んまぁ、これはあくまで、私個人がこれまで、それなりの量の漫画やら小説を読んできて、ここ最近、抱き始めてる『考え方』なので、「いや、ねーわ」って否定する人もいるのも承知してるんですが、漫画家ってのは「他人と違ってなんぼ」の職業だと思う訳ですよ
十人十色で、同じ考え方をする人はいないってのを前提にした上で、「自分にしか見えない」世界を描き続けられなきゃならない、キツい職業だと思うんです(それを最高だと思えるようになるのも、漫画家を続けられる秘訣なのかな)
ホント、私個人の考えなんですけど、小説家やミュージシャンより、生みの苦しみが強い、と思うんですよ(小説家を志してる人間が、こう考えるのもどうなんだ、とは思いましたが)
ちょっとグダグダ語っちゃいましたが、何を言いたいのか、と言うと、この庄司先生、少なくとも、私が名前を知ってて、作品も読んでる漫画家の中でも、とびっきりに他人と違うモノを観られる眼を持ってると思うんですよね
世界ってレベルじゃなく、違う次元が見えちゃってて、地から足が浮いちゃってるんじゃ、と読んでる最中に不安すら覚えた
庄司先生の代表作と言ってもいい『勇者ヴォグ・ランバ』は世界観の独特さと、台詞の難解さで挫折しちゃいましたが、これはサクサク読めました(でも、今なら『勇者ヴォグ・ランバ』も読めるって気には、残念ながらなれてない)
画そのものは繊細かつ丁寧に描かれている反面、どこか優しい、もしくは慈悲深い
話の内容は脇に置いて、進むテンポだけに注目すれば、軽快とは言い辛いが、躓いている感じは見受けられない
ただ、やはり、内容が突飛・・・いや、未来的だ。『辺獄にて』は世界観も登場人物も現代のイメージが強いし、『パンサラッサ連れ行く』は、哺乳類すらいなさそうな超古代が舞台なんだが、五重は余裕で渦巻いて、逆にミライな感じがしてしまう
短編集ではあるが、一編が重厚なので、短編集って感覚は薄くなる
ただ、こうやって評してはいるが、嫌いじゃない。好き、と断言は出来ないが、共振を感じる点は少なくない
「このマンガが凄い」にランクインしてもおかしくないっつーか、むしろ、入らない方がおかしいレベル
仮に、「どれが面白いの?」と聞かれたら、私は表題作の『三文末来の家庭訪問』を躊躇わずに挙げる
ぶっちゃけ、自分以外の読み手の価値観が崩壊しても構わないって割り切れちゃう猛者でなきゃ、見ず知らずの他人に推薦するのは難しいかな
でも、面白いってのは確定的 -
著者デビュー作を含むSF&ファンタジー漫画。
奇妙な表題に惹かれつつ、
なんとなく読んでみたら好みに合わないかもしれないという
悪い予感を抱きつつ、ともかく借りてみた。
体調に異変を来して生死の境をさまよう間に、
心の奥の蟠りをSF設定の中で見つめ直す男の話,
近未来(?)の家族問題に切り込んだ表題作,
古生代の生物を擬人化して、その興亡を描いた作品――
の、全3編。
着想が見事で楽しめたが、
やっぱり肝心のモノクロ画が今イチ好みのタイプじゃなかったので
申し訳ないけど減点して☆3つ。 -
市川春子は好きだけど普段はあまり読まないジャンルなので私は一度では受け止めきれなかった。でも市川春子同様、何度か読み返そうと思う。
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朝日新聞の書評で興味を持って購入。3つの短編を読み終わる毎に「すごい!」と叫んでいました。
ジェンダー研究者としては表題作も見事ですが、ここは教員養成の研究者として、他の人がほとんどふれていない最後のおまけまんがについて。
たった4ページに「お見事!」と言っていいほどのエッセンスを入れ、しかもディティール(小学校の名前は教員養成関係者には非常に笑える)にこだわり、それでいてさいごはちゃんとおまけらしく笑いで終わる、という、ある意味まんががとして正統な姿も保っていて、非常に感心させられました。
ディティールがよくできているだけに、小学校だから「美術じゃなくて図工」「生徒ではなくて児童」とつっこんでしまいたくなりますが、そこまで専門用語をフィクションに求めるのは酷というものでしょう。
ヒロインの問いを正面から受け止めることができる教師を育てたい...でもそれはそれでヒロインのような個性を伸ばせなくなってしまうか?...いやいや、思春期だからそこまで心配しなくても...などといろいろ考えさせられました。
ヒロインの問いは日本の近代学校が抱える矛盾を鋭く突いており、それを見ている主人公の感情吐露に共感する私は、まさにそばで同級生が叫んでいるとおり、「やっぱりおかしい」やつなのかもしれません。