静かに、ねぇ、静かに

著者 :
  • 講談社
3.21
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  • Amazon.co.jp ・本 (194ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065128688

作品紹介・あらすじ

海外旅行でインスタにアップする写真で"本当”を実感する僕たち、ネットショッピング依存症から抜け出せず夫に携帯を取り上げられた妻、自分たちだけの"印”を世間に見せるために動画配信をする夫婦。SNSに頼り、翻弄され、救われる私たちの狂騒曲。

『異類婚姻譚』で芥川賞を受賞してから2年、本谷有希子の待望の最新小説!

感想・レビュー・書評

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  • なかなかに皮肉のきいた、独立した三つの短編が収められている。それぞれのタイトルは、「本当の旅」「奥さん、犬は大丈夫だよね?」「でぶのハッピーバースデー」。
    どの話もどこか「相容れない」感じがする。それは登場人物同士のことであったり、登場人物たちと社会全体であったり。それは最後まで拭えない。ついでに私とも相容れない(特に本当の旅の登場人物たちとは…苦笑)。
    それなのにするする読めて、だんだん続きが気になってくるところがすごい。
    そういえば、この三編を収めた本のタイトルが「静かに、ねぇ、静かに」である理由が、読み終わってもよくわからない。全編に漂うこの相容れなさが、社会の中で沈黙されるべきものだからだろうか。社会が彼らに、ねぇ、静かに、と彼らの口を塞いでいるのだろうか…?

    以下それぞれの話のちょっとした感想。
    そんなにネタバレはないと思うけど、念には念を入れて情報仕入れずに読みたいんだ〜という人は本書読了後にでも気が向いたら見てやってください。


    本当の旅:
    専門学校時代の同期で四十手前の男2人女1人がマレーシアに旅行する話。読み進めていくうちに、3人に対して、(えっ、なんだこいつら…)と思ってしまう。なんというか、うさんくさい。うん…多分私とこの人たちとは合わないんだなぁ…主人公の主体性のなさというか、無理してる感がちょっと見てられない。それでいいのか?本当にしたいことは、本当の主張は一体なんなんだ?流されるままでいいのか?そして匂わせな衝撃のラスト。
    奥さん、犬は…:
    主人公である主婦とその夫、そして夫の職場の知り合い夫婦でキャンピングカー旅行に。主人公は旅行に全然乗り気でなかったし、夫とはあまりいい関係ではなさそう。というかない。相手夫婦とも気が合いそうにない。しかしとあるきっかけからだんだんこの旅行にノってきて…(ヤケともいう)。自分が本当に必要としているものはなんだろう?これまた匂わせな衝撃のラスト。
    でぶの…:
    三作の中で一番登場人物にまだ共感というか、主人公夫妻の思いがひしひし伝わってきた話。主人公夫妻は会社が倒産して2人同時に職を失った。主人公で妻のでぶ(会話文でも実際夫にでぶって呼ばれてる。もっとマシな呼び方ないんか?)は歯並びがとても悪い。夫はそれを俺たちの報われない人生の"印"だという。だから変わるために歯を矯正しろと妻に提案。でぶは印だなんてなにさ、といった感じで歯の矯正なんてしないと思っていたが…
    普通ってなんだろう?普通なんて存在するのだろうかと日々思うけど、やっぱり世間の理想とする、誰もが経験してるだろって前提でいる普通ってもんが存在していて、その普通に焦がれて、でもやっぱり自分たちには無縁だと思っていて、でもそのことを世間のやつらが知らないことになんだかモヤモヤするものがあって……そんな2人の人生が、いい方向に向きますようになんて、つい思ってしまった。

  • 三作とも素晴らしかった。
    読みながらずっとうすら寒い話と、ゾッとする話と、何だか泣けてくる話だった。

  • 現代の文芸は刺激が強いな! 「痒いところ」と反対に、「触られると不快なところ」を刺激してくる短編群で、ホラー映画を観る思いで何度も中断しながら読んだ。特に、1作目に溢れるパワーワード群がエネルギーを吸い取るので、共感性羞恥の気があるネットユーザーはしにます。

    いまどきのインターネットサービスに絡め取られてしまったダメな人たちが、そのダメ属性を全開に発揮してなんの希望もなくダメの穴に吸い込まれていく。作者が掃き出し窓からさっさっと処分していく手際が痛快という読者もいるかもしれないけれど、わたしは登場人物たちの打つ手の下手さに憂鬱になってしまったので、読み終えてとにかくほっとしています。今どきの小説をほとんど読まないので、頭に風穴があいた感覚がしたのはよかったかな。

  • 『本当の旅』
     LCCの深夜便でクアラルンプールに向かう専門学校時代からの友人男女3人組。「わかるー」「ウケるー」「ヤバい」ばかりの中身ゼロの会話、【感動。】という題でアップされる雲の形の写真、お金に縛られている人々への蔑み、各々がスマホを弄るだけのホテルでの時間。「うわぁ…」って感じることの連続だが、さらに彼らがアラフォーであるという事実が明かされ、読むのがどんどんしんどくなる。
     が、物語は意外な局面へ。ただただ痛々しさを嘲笑うだけで終わるのかと思いきや、彼らの軽薄さが取り返しのつかない事態を引き起こす。SNSに依存し、自分の心の良い部分ばかりを切り取り続けていると、リアルな危機が起きてもどの感情を発動させるべきかわからなくなるのかもしれない。

    『奥さん、犬は大丈夫だよね?』
     大して仲良くもなさそうな夫の同僚夫婦と行くキャンピングカー旅行。倹約家の同僚夫婦、狭い車内、同行する白い犬、さらに犬の毛が浮くぬるくて不味いコーヒーに対する嫌悪感が、主人公の感情と重なる。
     しかし、この旅行を計画した主人公の夫の目的が、ネット買い物依存症の妻を治すためだったとわかり、登場人物への印象が一変する。子どもができて、「赤ちゃんのものがいくらでも買えるんだ」と真っ先に思うのは、確かに常軌を逸している。そして妻は、ネットショッピングを止めようとする夫に驚きの行動をとる…。

    『でぶのハッピーバースデー』
     仕事を同時にクビになった“でぶ”とその夫。失業後3ヶ月を過ぎ、夫はでぶのがちゃがちゃの歯が「いろんなことを諦めてきた人間だっていう印」なのではと言い出す。二人揃ってステーキレストランで働き始め、物事が好転したとき、でぶは矯正をしようという気になり、まず抜歯をする。が、痛みと腫れに心が折れ、抜糸もせず放置(こればっかりはわかる、辛いよね)。でぶの顔は次第に歪み、夫は諦めてきた印を世界に向かって動画配信しようと言い出す…。

     『静かに、ねえ、静かに』の頭文字がSNSになってるやん。どれもSNSに翻弄される(されそうになる)人々を描いた短編。恐ろしさもあり、身につまされるようないたたまれなさもあり…。ほんと嫌な作品を書くよこの人は(褒めてる)。

  • 短編集。
    意識高いやつの頭ってこんな空っぽなの?
    とイライラしながら、読むかどうか迷って、どうにか読了。
    後味微妙。

  • 怖かった。
    人の弱い部分、見たくない部分、見てほしくない部分に、こんなにもしっくり来る言葉があったなんて想像もしなかったような、そんなぴったりな言葉で表現してくる。わざとらしくなく、淡々と綴る。そこが怖い。

  • 『本当の旅』
    自分に酔って生きる男女三人。インスタグラムにアーティストっぽい写真をアップしていいねを稼ぐ無職。意味不明なTシャツを作って自分にしか作れない一点物、と胸を張る中年女。中途半端に夢を見たけど何もできないまま田舎で農家をやっている語り手。
    いつまでも大人になれず、真面目に生きる人たちを何もわかっていないと嗤い、周りに取り残された中年三人。
    アーティスト気取りでアジア旅行をするが、インスタに夢中で危険が迫っていることにすら気づかない。

    『奥さん、犬は大丈夫だよね?』
    買い物依存症の奥さんは携帯電話を夫に取り上げられている。それでも奥さんはネットショッピングしたくてたまらない。
    (たぶん)夫はそんな奥さんを変えたくて同僚夫婦と一緒にキャンピングカーでキャンプに出掛ける。ケチ臭い旅行に最初から不満な奥さんだったが、お酒を飲んで本性を現し始める。車で踏んだのは夫?

    『でぶのハッピーバースデー』
    失業中の夫婦の話。自分たちが職にありつけない理由は、そういう”印”が押してあるからではないかと言い出す夫。でぶの妻の歯並びを直せば色んなことがよくなるのではないかと考えるが、歯並びを直す前にでぶの妻はウエイトレスの仕事を見つける。やがて夫も一緒に働き出し、生活が好転したかのように思えた。
    でぶの妻は歯並びを直すために抜歯をするが、その後仕事を抜けることができず、歯並びどうこうというより歯が抜けたおかしな人になっていく。夫はそれをどうにかしたいがでぶの妻は仕事を休まないから、でぶの妻の顔はどんどん崩れていく。まるで”印”が押してあるみたいに。

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    怖い、と思わせるために書かれたような三つの話。
    『本当の旅』はインスタで盛り上がる社会に思いっきり皮肉をぶつけてるみたいで気持ち良かった。SNSを眺めていると、芸能人気取ってんじゃねえよこの一般人が、と思ってしまうことがよくある。
    アーティストっぽく振る舞う自分に酔ったまま、SNSでなれ合っている人たちの”痛さ”をここまで的確に表した作品を他に知らない。

  • なんか幸せだったり順調だったり、そんな風に見える奴らに八つ当たりするみたいな話

  • 静かな狂気。
    タイトルの意味とは、、深読みしたくなる。
    怖いもの見たさでページをめくる手が止まらなかった。
    とくに冒頭の「本当の旅」は衝撃。
    SNSに翻弄される滑稽さ、これはわたしにもあるしきっと多かれ少なかれ誰にでもあると思う。
    タイトルをつけると奇妙な余裕が生まれるという感覚はめちゃくちゃ分かる。
    こういう人いる~あるある~と思いながらも異常すぎる展開にゾッとした。

    「じゃがりこを食べている人間によくないことが起こるはずがない」
    笑った。

    個人的には冒頭の話が良すぎて他の2作が霞んでいる感。
    他の作品も読んでみたい。

  • 「あー、あるある」「居るわ~こういう人」と高見の見物のつもりで読み進めるのだが、だんだん自分も「そっち側」なんじゃないか?という思いがつきまとい始める。
    今の時代、自分と、ネットやSNSに翻弄される登場人物達とは違うと言い切れる人は、どれだけいるだろう。
    本谷由紀子という人は、ほんと冷酷だ。これからも、普段は目をそらし続けている、自分の薄っぺらさを、著作を通して思い知らせてほしい。

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著者プロフィール

小説家・劇作家

「2022年 『ベスト・エッセイ2022』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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