這い寄る混沌 新訳クトゥルー神話コレクション3 (星海社FICTIONS)

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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (480ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065141977

作品紹介・あらすじ

怪奇小説作家H・P・ラヴクラフトが創始し、人類史以前より地球へと飛来した邪神たちが齎す根源的な恐怖を描いた架空の神話大系〈クトゥルー神話〉。
その新訳コレクション第3集となる本書では、古代エジプトの影の中より現れた不吉な興行師の脅威を描く「ナイアルラトホテプ」、その異名を冠する表題作「這い寄る混沌」をはじめ、平原に蠢く邪神の恐怖にまつわる「イグの呪い」、邪神像の犇めく館で異形の神への礼拝が響く「蝋人形館の恐怖」、そして異端教派〈星の智慧派〉に深入りしてしまった怪奇作家の運命を描く「闇の跳梁者」と、ラヴクラフト自身が手がけた“原神話”から、彼の悪夢と筆から生まれた神々を巡る10篇を収録。
宇宙の深奥、冒涜的な笛と太鼓が響く中、無貌の神が嗤笑する――!
〔収録作品〕
・ナイアルラトホテプ Nyarlathotep
・這い寄る混沌 The Crawling Chaos
・壁の中の鼠 The Rats in the Walls
・最後のテスト The Last Test (元作品「科学の犠牲」併録)
・イグの呪い The Curse of Yig
・電気処刑器 The Electric Executioner(元作品「自動処刑器」併録)
・墳丘(雑誌掲載版)
・石の男 The Man of Stone
・蝋人形館の恐怖 The Horror in the Museum
・闇の跳梁者 The Haunter of the Dark

感想・レビュー・書評

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  • 表題作ほかクトゥルー神話を構成するラヴクラフトの小説集。
    クトゥルー神話大系が新訳されたようで、偶然目に止まったこちらを拝読。次に目に止まったらちゃんと「クトゥルーの呼び声」を読もう。
    短編〜中編の小説集なのだけど、連ねて読むとラヴクラフトの世界観の作り方や神話としての成り立ちが分かって、小説以外の部分も面白いです。怪奇と妄想の「電気処刑器」が好き。

  •  様々なキャラクター(化身)を保有する"無貌"にして"混沌"、自身の敗北すらも娯楽に過ぎず、主君であるアザトースを含む全ての存在を嘲笑う道化、クトゥルフ神話におけるトリックスター、ナイアルラトホテプ。3冊目はそのナイアルラトホテプの名前やその化身が登場する作品など10篇を収録。
    ---------------------------------------------------------
    『ナイアルラトホテプ』
     それは、数ヶ月前のことだった。突然、人々が謎の不安に襲われるようになる。そんな時にあれがエジプトからやって来たのだ――。(ラヴクラフト自身が見た夢を元に書き上げられた、「這い寄る混沌」の二つ名に相応しい悪夢的な内容。この話を絵にしたら、ベクシンスキーに似た構図になりそう。)

    『這い寄る混沌』
     病による苦痛を和らげるために、医師から処方された薬を服用したわたしは、名状しがたい幻惑的なヴィジョンを目撃することに――。(米国の詩人である友人との共作(共同で作ったもの)。『這い寄る混沌』という題名は音の響きが気に入ったために使われただけでクトゥルフ神話とは無関係の作品。薬物の副作用による悪夢を散文詩風に描写した掌編。)

    『壁の中の鼠』
     かつて陰惨な事件が起きた館を引き取り改修した、その犯人の子孫に当たるわたし。飼い猫がしきりに壁の奥を気にすることから、息子の友人らと共に探索に出かけると――。(這い寄る混沌の名が出ることから、これも神話の一端になるのか。終盤、流れで一気に読み終えると、その不条理な結末に二度読みしてしまった。)

    『最後のテスト』
     カリフォルニア州の刑務所で謎の熱病が発生する。マスコミの報道で人々がパニックとなる中、妹は、刑務所の医療部長である兄とその助手の間で交わされた不穏な会話を聞いてしまい――。(原作が別にあり、原作者からの依頼によりラヴクラフトが改作(脚色などして新しい作品にすること)した作品。悪い話ではないのだが、展開がC級映画っぽい。原作準拠で映像化したら間違いなく大コケすると思う。しかし併録されている原作がはっきり言ってD級で、かろうじて読める代物にしたラヴクラフトの手腕を称賛すべきだろう。作中(1920年代)でのマスゴミの捏造のやり口が現代(2000年代)とほぼ変わらなくて草だった。なお、ナグ、イェブ、そしてシュブ=ニグラスの名前が初めて登場するのがこの作品である。)

    『イグの呪い』
     蛇神の伝説が色濃く残る地にある精神病院で、ある異形を見せられたわたしは、院長からその異形にまつわる話を伺うことに――。(ヒールドの草稿を元にラヴクラフトが代作(その人に代わって作品をつくること)した作品。起承転結が素晴らしい。「そうだったのか」と思わせてのまさかのオチ。)

    『電気処刑器』
     社長の命令で不本意ながらも人探しにメキシコに行く羽目になったわたし。しかも道中の電車内で一緒になった男に、自作の器械の実験体として殺されそうになり、製作の経緯を訊いたり書類の作成を勧めたりして、なんとかこの危機から脱しようとするのだが――。(『最後のテスト』と同じく、原作者からの依頼によりラヴクラフトが改作(脚色などして新しい作品にすること)した作品。殺されまいと時間稼ぎに必死になるわたしと男との攻防がメインだが、頭の中で絵にするとなんだかコントっぽくなった。)

    『墳丘』
     オクラホマにあるインディアン由来とされる墳丘は、幽霊の目撃談や探索者の失踪や発狂、異常死など、怪奇譚に事欠かない。それゆえに好奇心から墳丘を訪れた新たな探索者――私は、墳丘の土中から奇妙な金属筒を発掘する。中に入っていたのは、十五世紀に同じように墳丘を訪れたスペイン人による、墳丘の内部に広がる異世界と、そこでの生活を綴った自伝だった――。(1集に収録されたものの雑誌掲載版。1集の解説にもある通り、やや長すぎるオリジナルが紆余曲折を経て短く再編されている。)

    『石の男』
     友人が消息を絶った地で、非常に精緻な犬と人の石像が発見される。彼が彫刻家であったことから、その報を知ったわたしとベンはその地へと赴くと、更に二体の石像を発見して――。(これもヒールドの草稿を元にラヴクラフトが代作(その人に代わって作品をつくること)した作品。犯人が相手を殺害する手段として「石化」を用いるのだが、このネタ、「神話生物の仕業と見せかけて」というミスディレクションでTRPGに使えそう。)

    『蝋人形館の恐怖』
     ジョーンズは悪趣味な博物館の主人の不興を買ってしまい、猟奇的またはグロテスクな作品が展示される博物館の中で一晩を過ごすことになってしまう。なんとか心を落ち着けて耐え忍ぼうとするジョーンズに襲いかかってきたものとは――。(ヒールドの草稿を元にラヴクラフトが代作(その人に代わって作品をつくること)した作品。登場人物が神話生物をたわごと――フィクションと認識しているという、メタフィクショナルでセルフパロディな内容になっているのが異色で、かつクトゥルフ神話的ホラー作品として成立しているのが面白い。浅黒い肌の助手なんか明らかに「這い寄る混沌」っぽいし。あと「次元をさまようもの」の正体は、原作がっかり神話生物ランキングでベスト3に入ると思う。)

    『闇の跳梁者』
     とある男性が自室で変死体で発見される。彼が遺した日記と客観的事実を元に表された、彼の最後の数日とは――。(ラヴクラフトの遺作。神話作品では王道の、好奇心から身を滅ぼす話。執筆年で見ると、晩年の作品は「乗っ取られる恐怖」というテーマが続いている。)

  • 本当に思うがよくもこんな話が書けるものだなと。
    恐怖はすぐ隣にあるという気持ち悪さとゾッとする気持ちを引き起こす。

  • 星海社のクトゥルー、第3弾。
    相変わらずカバーの絵が今時の画風でちょっと面白いというか、妙に親しみやすいクトゥルー神話になっているような気がする(邪神ってもイカ・タコの類だからいいのだろうか)。

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著者プロフィール

ライター、翻訳家。TV アニメやゲームのシナリオ/小説の執筆の他、各種媒体の作品で神話・歴史考証に携わる。クトゥルー神話研究家として数多くの著書があり、翻訳者としてはS・T・ヨシ『H・P・ラヴクラフト大事典』(日本語版監修、エンターブレイン)、ブライアン・ラムレイ『幻夢の英雄』(青心社)、H・P・ラヴクラフト作品集「新訳クトゥルー神話コレクション」(星海社、既刊5 冊)などがある。
http://chronocraft.jp/

「2022年 『グラーキの黙示2』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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