倒叙の四季 破られた完全犯罪 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065145968

作品紹介・あらすじ

犯人はどこでミスをしたのか!?

『最後のトリック』『ミステリー・アリーナ』の
著者だから書けた倒叙ミステリ-の快作!

春夏秋冬と不審死が発覚! 
四人の人物がいずれも〈完全犯罪完全指南〉という裏ファイルに従い、
物的証拠を残さずに遺恨ある相手を殺害したのだ。
警視庁捜査一課・海埜刑事の聴取にも、
物証がなければ捕まらないと否認を続ける犯人たちだが、
海埜は丹念に真相を探っていく。
完全犯罪を目論んだ隠蔽工作の結末は…… 

感想・レビュー・書評

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  • 「完全犯罪完全指南」という裏ファイルを使って完璧な犯行を確信するも、小さなミスや綻びから、暴かれてしまう倒叙ミステリー。

    ドラマ化してほしいくらいよく出来た短編集という感想です。
    ファイルの存在が犯人の気持ちを大きくさせ、緻密な犯行の潜む本心は、胸糞の悪い動機ばかり。辟易とさせられるものの、現実味があり、ちっぽけな犯人共ざまぁという爽快さもあったり。
    些細なミスが決定的証拠となる毎度の展開は、作者が掲げた「簡単に犯行を認めない」というハードルを軽々超えてきた作者の確かな技量をみました。
    それにしてもはずれのない作家ですね…

  • 春夏秋冬4篇の倒叙ミステリーが納められた短編集。
     
    『倒叙ミステリー』というのは、犯人を先に示しておいて、名探偵や警察がその犯人を追い詰めていくもの。
    刑事コロンボや古畑任三郎、といえばわかってもらえるでしょうか。
     
    4つの短編に登場する犯人に共通しているのは、皆『完全犯罪完全指南』というネットで見つけた裏犯罪指南本。
     
    犯人たちはみな、この指南本を参考に完全犯罪を試みます。
     
    しかし、たった一つの綻びから完全犯罪はいとも簡単に……
     
    犯人が殺人を実行するとき、なにが事件解決の切り札になるのか、予想しながら読み進めるとより楽しめます。
    ちなみに『秋』で私の予想、見事的中しました。

  • 物証を完全に消し去り、完全犯罪を成し遂げるための裏ファイル。 春夏秋冬、4人の容疑者、犯人は一体どこでミスを犯したのか? 

    タイトル通りの倒叙ミステリであり、物証が無ければ逮捕されないという前提の下でお馴染み海埜刑事と容疑者の戦いが繰り広げられる。 単なる短編集で終わらないのが深水さんらしいけどもこれはどうなんだろ。 芸術探偵シリーズ読んでからのほうがいいかな。

  • ー〈完全犯罪完全指南〉破れたり!?

    ーこれから殺人を行う。そんな時に〈完全犯罪完全指南〉という、ごく限られた人にしか入手できない裏ファイルを手に入れることができた。それは、独自捜査・違法捜査をやりすぎて懲戒免職となった刑事が書いた極秘のファイルだった。春夏秋冬、4人の人物がそのファイルを利用し、完全犯罪を犯していく。用意周到、完璧な殺人をする4人は逃げ切れるのか、、、。

    短編で、4人の登場人物が様々な手段で殺人を犯します。叙述トリックで、最初から犯人が分かっているので、謎解きみたいな感じはないのですが、犯人目線のドキドキ感は味わえます。
    本当に最後の最後まで読むと、「完全犯罪」が何を意味するのかが分かります。
    1つ1つの短編自体の面白さよりも、〈完全犯罪完全指南〉の存在が面白いです!

    個人的に、ミステリーは探偵の謎解きも大好きなのですが、叙述トリックが一番好きかもしれないです。
    最初に犯人が分かっているからこその、犯罪心理や予期せぬアクシデントとかがハラハラドキドキしちゃいます。
    なので、今回は犯人の心理とかがもっと色濃いとさらに満足度高かったかなぁ!
    深水黎一郎さん人気な方なので、また読んでみたいです!

  • 「春は縊殺 やうやう白くなりゆく顔いろ」
    「夏は溺殺 月の頃はさらなり」
    「秋は刺殺 夕日のさして血の端いと近うなりたるに」
    「冬は中毒殺 雪の降りたるは言ふべきにもあらず」

    『完全犯罪完全指南』を参考に犯罪計画をたてた犯人たちと、捜査一課強行犯捜査第十係の海埜警部補との対決を描く、倒叙ミステリの(連作)短編集。
    作中でも触れられているが、アリバイ崩しによる自供などではなく、明確な物証で追いつめられる犯人たちの様が気持ち良い。
    犯人たちの性格がみな悪いのもその一因かもしれない。
    残念なのが、専門的な知識が必要なことで、読者が犯人たちのミスを推理するのが、やや難しいことか。

  • 〇 総合評価  ★★★☆☆
    〇 サプライズ ★★☆☆☆
    〇 熱中度   ★★★☆☆
    〇 インパクト ★★★☆☆
    〇 キャラクター★★★☆☆
    〇 読後感   ★★★☆☆
    〇 希少価値  ★☆☆☆☆

     いわゆる「倒叙モノ」のミステリ。「倒叙モノ」のミステリの多くがそうであるように,この作品も短編集となっている。本全体の趣向・構成としては,それぞれの短編のタイトルが春夏秋冬になぞらえたものになっている。「春は縊殺 やうやう白くなりゆく顔いろ」,「夏は溺殺 月の頃はさらなり」,「秋は刺殺。夕日のさして血の端いと近こうなりたるに」,「冬は中毒殺。雪の降りたるは言ふべきにもあらず」と万葉集のパロディのようなタイトルとなっている。 もう一つの大きな特徴は,全ての短編の主人公である殺人者が「完全犯罪完全指南」という裏ファイルを購入し,その内容を参考に犯行を実行するという設定である。「完全犯罪完全指南」は,ネット上で噂になっている裏ファイル。不定期にネット上のどこかに現れて数時間後には消える。決裁はウェブマネーのみ。一定時間経過すると自動的に壊れる仕組みである。独自捜査・違法捜査をやり過ぎて懲戒免職になった元警視庁の敏腕刑事が,組織へのルサンチマン(恨み)と実益を兼ねて執筆したという触れ込みの怪しげな裏ファイルだ。この「完全犯罪完全指南」の内容を踏まえて完全犯罪を計画するが,現場の特殊な状況や突発的なアクシデント,状況の変化などに適切に対応できずに犯行が発覚するという展開である。
     そもそも,この「完全犯罪完全指南」を執筆し,裏サイトで頒布している黒幕は警視庁キャリアの母里谷。完全犯罪を裏で操り,また将来的には,一見完全犯罪に見える犯罪を解決することで自らのキャリアアップにつなげる。母里谷は自らの野望のために「完全犯罪完全指南」の完成度を高めようとし続ける。
     全体的に見て,コミカルな要素がある倒叙ミステリ。「完全犯罪完全指南」を使った,全体を通じての趣向もおまけ程度。作品全体に一貫性とちょっとした意外性を付与している程度。この作品の見どころは各作品において,犯人がどのような失敗をして犯行が暴かれるのかという部分である。
     なお,倒叙モノミステリには,コロンボや古畑任三郎などの犯人を追い詰める探偵役がいることが多い。倒叙の四季でも警部補の海埜という警察官が探偵役を務める。地道に犯人を追い詰めていくというタイプでクセは少ないが,そのクセの少なさを逆手にとって,「冬は中毒殺 雪の降りたるは言うべきにもあらず」では,語り手を偽る叙述トリックを使い,探偵役を別シリーズの探偵役の神泉寺瞬一郎と入れ替えている。これもちょっとした読者サービスだろう。
     全体を通じて深水黎一郎らしい,サービス精神と小技に満ちた連作短編集と言える。しかし,これも深水黎一郎らしいといえるのだが,イマイチ突き抜ける面白さがない。どの短編も,しっかりとした物理的な証拠で犯人を諦めさせるという点は工夫がこなされているが,「ふーん。」という程度の犯人のミスによる物理的な証拠ばかりなので,小説としての面白み,意外性がそれほどない。全体を通じた趣向や最後だけ探偵役を代えるという叙述トリックも,読者サービスだと思うのだが,やや唐突で空回り感がある。全体のデキは決して悪くはないが,やや面白みに欠ける作品という印象
     以下,個別に個々の短編を見ていく。
    〇 春は縊殺 やうやう白くなりゆく顔いろ
     政治家の息子が,遊び相手の女性に子どもができたので自殺に見せかけて殺害する。政治家の関係者が愛人を殺害するという設定は倒叙モノに多い気がする。縊殺=首吊り自殺に見せかけるというのは,法医学的にはなかなか難しいものだという印象がある。この作品でも「完全犯罪完全指南」を頼りに多種多様な隠蔽工作を行う。しかし,鴨居に上に向かうささくれがあるという些細な物証から自殺でないことが見抜かれる。そして低反発クッションに残った足型から犯人であることがバレるというもの。これは犯人のミスが分かりやすく,意外性もあり作品として面白い。よくできた倒叙モノだと思う。
    〇 夏は溺殺 月の頃はさらなり
     友人と同じ女性を好きになり,結婚されてしまった男がその男を事故に見せかけて殺害する話。男女関係のもつれも倒叙モノに多そうな動機だが,この作品の動機はひどい。殺人の動機にはならない気がする。まぁ,倒叙モノミステリの動機は,どれも似たり寄ったりかもしれないが。海釣りにいって事故に遭ったと見せ掛けるために多種の工作をするが,些細な一言や細かな状況から殺人が疑われる。決定的だったのは遺体の肺に未消化の食べ物のカスが残っていたことからクーラーボックスなどで殺害したことが疑われ,その水を殺害した小屋の側で捨てていたことから殺害が疑われる。
     うーん。これは一応物理的な証拠はあるのだが,ここまで慎重な犯人がなぜ小屋の側で殺害に使ったクーラーボックスの中の水を捨ててしまったのかが疑問。倒叙モノにはこのように,そんなミスをするかな?というミスから犯行がバレるものもある。やや興ざめ。動機も弱く,物理的な証拠の鮮やかさはともかく,小説としてそれほど面白くない。
    〇 秋は刺殺。夕日のさして血の端いと近こうなりたるに
     遺産をもらうために伯父を殺害する甥の話。これも倒叙モノミステリに多そうな設定。しかし,この作品の決め手となる物理トリックは感心できない。なんとダイイングメッセージである。殺害された伯父はロウソクで「C.J」というイニシャルを残していた。被害者が背中から刺されていること,電気が付いてたことなどから,物取りの犯行ではないことが予測される。床のロウを全て剥がしたあと,もう一度血だまりをつくるなり,被害者の血を擦り付けることをしなかったために,イニシャルが浮かび出てきて犯行がバレるというもの。これだけで犯行を認めるか?というのが素直な感想。そう思ってしまうと倒叙モノミステリとしては弱く感じる。
    〇 冬は中毒殺。雪の降りたるは言ふべきにもあらず
     殺人の動機は子どものころに弟を事故死させた幼馴染を殺害するというもの。雪国で氷を利用した密室をつくり,練炭自殺に見せかけて殺害する。犯罪の動機がしっかり描かれていないので,すっきりしないが短編の倒叙モノミステリでは動機はあまり掘り下げない方が無難。もっとシンプルな動機にしてもよかったように思う。被害者の手にマッチをすった硝煙反応がなかったことから自殺ではないとされる。水の過冷却現象を利用して裏口のドアを凍らせるという密室トリック。
     物語としては,海埜刑事と若手刑事が捜査していると見せ掛けて大村刑事と神泉寺俊一郎が捜査していたという叙述トリックが仕掛けられ,「完全犯罪完全指南」を書いた黒幕,キャリアの母里谷という人物が現れる。短編ミステリとしては叙述トリックがそれほど効果的ではないものの,マッチの硝煙反応がないことから他殺が疑われるところは上手い。密室トリックもそれなりに面白い。

  • 春夏秋冬に起こった不審死。4つの事件の犯人はいずれも、「完全犯罪完全指南」というネットの裏ファイルに基づいて犯行を行っていた。
    完全犯罪を目論んだ隠蔽工作の結末は・・・
    春は縊殺(いさつ)
    夏は溺殺(できさつ)
    秋は刺殺
    冬は中毒殺
    という4つの犯罪が犯人目線で語られる倒叙ミステリー。
    週一でドラマ仕立てにすればいいような軽めのミステリーだけど、エピローグにきて「完全犯罪完全指南」という裏ファイルの正体がわかりぞっとするという趣向。
    それにしても、犯人がどいつもこいつも身勝手で気分が悪いわ・・・

  • 4人がそれぞれ指南書に沿って殺人を犯して、思いがけないとこで失敗してバレる。

    でも、わりと、些細な事でバレる!笑
    探偵役がすごいと言うよりは、おっちょこちょい!笑笑

    最後はなんとなく裏で糸引いてる人いるんだろうなって思ってても、やっぱり、イヤミス!

  • 文庫化で再読。
    ノベルズ版を読んだ時も感じたが、よく、こうも次々とトリックを考えつくものだ。ミステリ作家って凄い。
    春夏秋冬、どれが一番好みか暫く考えていたが、四編の中からどれか選ぶなら『冬』にしたい。『春』の犯人のゲスっぷりもなかなか良かったのだが(魅力的なキャラクター造形だと思う)、『冬』の根深さがイチオシなのだ。

  • 2019年3月16日読了。
    2019年28冊目。

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著者プロフィール

1963年、山形県生まれ。2007年に『ウルチモ・トルッコ』で第36回メフィスト賞を受賞してデビュー。2011年に短篇「人間の尊厳と八〇〇メートル」で、第64回日本推理作家協会賞を受賞。2014年、『最後のトリック』(『ウルチモ・トルッコ』を改題)がベストセラーとなる。2015年刊『ミステリー・アリーナ』で同年の「本格ミステリ・ベスト10」第1位、「このミステリーがすごい!」6位、「週刊文春ミステリーベスト10」4位となる。

「2021年 『虚像のアラベスク』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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