光をえがく人

著者 :
  • 講談社
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感想 : 27
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065168202

作品紹介・あらすじ

つらいとき、悲しいとき、アートがあるから
浮かび上がる大切なもの

拾ったアドレス帳の持ち主を探しに韓国へ。現代美術作品がきっかけの、女性二人旅の結末は──「ハングルを追って」を含む、芸術が照らし出す5編のショートストーリー集!

「ハングルを追って」
ハングルが書き込まれたアドレス帳を拾った美大事務職の江里子は、油画科の親友に相談し、ソフィ・カルにちなんで韓国へ行ってアドレス帳の持ち主を探すことに……。

「人形師とひそかな祈り」
伝統の御所人形を作り続ける正風は子どもにも弟子にも恵まれず、そろそろ工房を畳もうと考えていた。そんな折、フィリピンからの留学生を紹介され心を開いていく……。

「香港山水」
現代水墨画家の成龍は、コレクターたちのパーティに駆り出される。そこで地元実業家の夫人・美齢と出会い、デモ隊と警察が衝突する混乱のさなかに二人は再会し……。

「写真家」
有名な写真家だった父が、記憶をなくして海外から帰国。娘は世話をしながら、母から写真家としての父の話を聞き、生涯を辿ることになる。知らなかった真実がそこに……。

「光をえがく人」
ミャンマー料理店の店主に、自国の政治犯についての話を聞くことになった。学生のころ反政府運動に加わって投獄され、劣悪な監獄生活のなかでの奇妙な体験とは……。

感想・レビュー・書評

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  • 名久井直子さんの装丁(描いたのはクリス・ヒュン・シンカンという画家で2017年発表の「ボールズ・ムイムイとドゥドゥ」という作品)が美しい、主に海外を舞台に芸術をテーマに描いた短篇集です。
    きりっとした男前の話ばかりだったと思います。

    「ハングルを追って」
    美術大学に勤める主人公と友人が韓国語のアドレス帖を拾い、韓国へアドレス帖に載っている人物を訪ねる旅に出る話です。帰国してその旅をもとに友人が絵の個展を開くと、アドレス帖の持ち主の子どもがやってきて迷惑だと言い、アドレス帖を持ちかえりますが、その人物があることを告げにもう一度訪ねてきます。
    いい話でした。

    「人形師とひそやかな祈り」
    京都で子どもに降りかかる災難を代わりに背負ってくれる御所人形を作っている若柴正風のところにフィリピンからノアくんという青年がやってきます。
    ノアくんはフィリピンに帰国してしまいますが、あとからノアくんは子どもの霊が見えるという秘密の力があり、ノアくんは夢の中で正風の2歳で亡くなった娘の姿を見て日本にやってきていたことがわかります。
    これもとてもいい話でした。

    「香港山水」
    香港にアトリエを持つ水墨画家と有名企業に勤める夫から暴力を受けて逃げ出した妻のアートを通した2回だけの邂逅。

    「写真家」
    写真家として海外へ行って行方不明になっていた父がアルコールの飲みすぎで記憶を失って帰宅します。
    父と出会った頃、写真を撮るのが上手かった駆け出しの頃の父を娘に語る母の自慢話がとてもよかったと思いました。

    「光をえがく人」
    ミャンマー料理店の店主に聞いたミャンマーの監獄で出逢った、Hという政治犯が監獄で絵を描いていた話。
    H「僕みたいに好きなことを好きなように表現しただけで罪に問われる人がいなくなってほしいよ」
    そして、出所してからのHとの再会。
    とにかくHのやること言うことなすことがかっこよく、素晴らしいと思いました。
    これは、一番読んで欲しい話。読んで味わってみてください。

  • 現代アート、人形師、山水画、写真家などを題材にし、日本、韓国、フィリピン、香港、ミャンマーなどを舞台にした5つの短編集。時代の厳しい一面を切り取り、そこに生きる人々の思いを描いているようで、意外と公式的というか紋切り型の描写である。踏み込んだところがないので、読書の喜びも半減する。残念。

  • 読友さん2人のレビュー、「きりっとした男前の話」という感想に心惹かれ「現在と過去を光の糸で紡いで作ったような作品」という言葉に導かれ読んでみました。ありがとうございます!

    5篇のお話…どの短編も淡い余韻を残した結末が印象的で、とても良かったです。韓国、香港、ミャンマー…この作品が書かれた後も国の情勢が揺れ動いていますね。そういう意味でも貴重な一冊と感じました。

  • よかった……。
    やさしく光をえがく、素敵な作家さんと出会えました。

    一穂ミチさんの『スモールワールズ』が好きな人、
    町田そのこさんの『夜空に泳ぐチョコレートグラミー』が好きな人、
    原田マハさんのアート小説が好きな人に、
    ぜひ、おすすめしたい。

    アジア諸国と、芸術を絡めた短編集。
    作品に登場するような、海外にルーツをもつ人が身近にいるからかもしれないが、個人的にすごく心に響いて、琴線に触れる作品だった。
    どの作品も、じんわりとした読後感。
    このじんわりとした感じと、人の感情の機微の描写、とても大好物です。

    一色さゆりさん。初めて知る作家さんである。
    藝大の芸術学科卒業とのこと。美術を学んでいた作家さん。すごい。

    若手画家と韓国、田舎の人形師とフィリピン、水墨画家と香港、写真家とモンゴル、芸術家とミャンマー。
    どれもじんわりとする読後感だった。
    つらいとき、悲しいとき、アートが心の力となる。
    強いて選ぶならば、「ハングルを追って」がすき。「人形師とひそかな祈り」もよかった。

    1話読み終えるごとにじわりと訪れる余韻をじっくりと味わった。すきです。

  • 芸術で物語を描く、全5篇からなる短篇集。

    ① ハングルを追って
    ② 人形師とひそやかな祈り
    ③ 香港山水
    ④ 写真家
    ⑤ 光をえがく人

    どの話も海外が、関係している。
    そして、全てのアートも簡単ではなくて、いくつもの苦難があって、みのりがあると感じた。

    生きてきた時代の歴史を知り、自分らしく日常を見つめるためにある。
    誰かの心を動かすもの。

    人形師は、自分が腹を空かせていても、人の喜びで空腹を満たすもの。

    水墨画では、描かれたものを見るのではなく、描かれたものを通して、自分の心を見ることが大事。

    写真は、たくさん撮らなきゃ、なにも見えてこない。
    一枚撮っただけでは、それはただの音。
    いくつも撮るから、リズムになる。
    リズムがやがて、メロディになって、その人の哲学や生き方をあらわす。

    長い目で見ればいい方向に向かっていると信じたい。

    どれもが心の奥底にある何かを揺さぶり、大切なものとは何かを気づかせてくれた。

  • 現在と過去を 光の糸で紡いで作ったような作品が5編。

    日本を背景にして描かれるのは、いずれも近くの国々です。
    韓国、フィリピン、少しモンゴル、そしてミャンマー。
    紡ぐ糸は、油画、御所人形、写真、そして布に描かれた一枚の絵。
    作品が人々を繋げ、明かりを見いだすところに救いを感じます。
                                                                                     
    ただ、香港の墨絵の話に日本は登場しませんでした。
    それは作者の経歴と深い関係があるようです。
    芸術大学で美術史を学ばれた後、香港の大学に留学されています。
    あの民主化運動「雨傘運動」の直後の留学だったようで、
    『香港山水』の作品には不透明感が漂います。 
                                                                                                   
    アジアの芸術を題材にしたというところに、新しさと
    不安定で危ういものを感じましたが、意欲的な作品だと思います。
    近隣諸国の安定のため、芸術が力になる ことを祈ります。   

  • アートをテーマにした5篇からなる短編集。
    どれも全然違ったテイストで楽しめたけど、中でも「人形師とひそかな祈り」が感動的で、物語ならではの不思議さもあり一番好きだった。
    ハングルで書かれた落とし物のアドレス帳を頼りに、本当に韓国に旅行してしまう「ハングルを追って」も面白かった。

  • アジア芸術を物語に 『光をえがく人』 小説家・一色さゆりさん(32):東京新聞 TOKYO Web
    https://www.tokyo-np.co.jp/article/120766?rct=book

    特別対談 五木寛之×一色さゆり|五木寛之×一色さゆり 特別対談|tree
    https://tree-novel.com/works/episode/580e58518af05d6500824ee345d4718a.html

    『光をえがく人』(一色 さゆり)|講談社BOOK倶楽部
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000324085

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「光をえがく人」一色さゆり著|日刊ゲンダイDIGITAL
      https://www.nikkan-gendai.com/articles/vi...
      「光をえがく人」一色さゆり著|日刊ゲンダイDIGITAL
      https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/book/292816
      2021/08/04
  • アートと物語という、原田マハと同じスタイルに惹かれて購入。

    韓国、フィリピン、香港、モンゴル、ミャンマー。
    それぞれの国の人や土地が短編に出てくるが、
    日本と近いはずの国なのに、いつもニュースを他人事のように聞いていたことに気付かされた。

    「光をえがく人」というタイトルが秀逸。
    どの短編にも、芸術を通して自分の中に宿る光をうつしだす人がいる。

    辛い経験のなかでも、生きる強さや信念を感じさせてくれる、静かで心づよい短編集。

  • アートをつくる人の視点や感情が描かれているのが良かった。
    また、言葉でアートが表現されている感じがするのも良かった。
    どの作品も良かったですが、「人形師とひそかな祈り」は、他の作品とは少し毛色が異なり私好みのテイスト。
    他の作品も読んでみたいと思います。

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著者プロフィール

1988年、京都府生まれ。東京藝術大学美術学部芸術学科卒。香港中文大学大学院修了。2015年、『神の値段』で第14回『このミステリーがすごい!』大賞を受賞して作家デビューを果たす。主な著書に『ピカソになれない私たち』、『コンサバター 大英博物館の天才修復士』からつづく「コンサバター」シリーズ、『飛石を渡れば』など。近著に『カンヴァスの恋人たち』がある。

「2023年 『光をえがく人』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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