地中海世界 ギリシア・ローマの歴史 (講談社学術文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065183441

作品紹介・あらすじ

古代ローマ史の泰斗による、古代地中海世界の歴史。講談社現代新書で好評を博したシリーズ「新書西洋史」全8冊のうちの第2巻として刊行されたが、単なる概説書にとどまらず、古代史への新しく、大きな視座を提供した、定評ある意欲作。
本書は、ほぼ2000年にわたるギリシア・ローマの歴史を扱うが、「ギリシア」と「ローマ」という二つの歴史を扱っているのではない。「ギリシア・ローマ」という一つの世界の一貫した歴史として追及する。
現在の西半球の主要な歴史の担い手とその文化は、地中海世界を母胎として生み出されたものであった。ラテン的・ゲルマン的世界、ギリシア的・スラブ的世界、オリエント的・アラブ的世界は、地中海世界の崩壊の中から生み出された第二次的世界であり、キリスト教的東西ヨーロッパ文明、イスラム的アジア文明は、地中海世界の転生の中から生まれたものだった。地中海世界は、それらすべてのものの出発点であり、母胎であり、故郷なのである。巻末解説を、東大名誉教授・本村凌二氏が執筆。〔原本:『新書西洋史2 地中海世界――ギリシアとローマ』講談社現代新書、1973年〕

感想・レビュー・書評

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  • 帝国として失敗したギリシアと成功したローマの違いは何か。それは獲得した植民地を本共同体と切り離すか、包摂するかの違いである。
     紀元前1200年頃からの一連の民族移動で、ヒッタイトは滅亡した。鉄の浸透でミケーネでは農業の生産性が向上し、貢納王政は機能しなくなっていたことと重なって農民は経済的に独立した。
     このことは貧富の差の拡大に繋がる。台頭した有力者は貴族層となり、貴族主導の共同体としてポリスが成立する。土地を基盤とする社会の常として、世代が進むことによる土地の細分化がある。したがって農民の中には土地を手放して債務奴隷となる者が現れてくる。
     ポリスは植民をその対策とした。だが、植民による商工業の発展は貨幣経済の浸透も影響してさらなる格差を生み出した。共同体の分解は進む一方であり、ソロンの改革や僭主政も十分な役割を果たさなかった。
     ペルシア戦争の頃はスパルタが軍の指導権を握っていた。紀元前478年のデロス同盟(アテネ海上同盟)はその権利をアテネに移すもので、以後両者の争いが激しくなる。ここにはペルシアの使嗾が加わっている。
     アテネの帝国化は商業の活発化を呼び、前述のように格差の拡大を招いた。アテネは市民権を両親がアテネ人である者に限り、土地の分配先を限定する閉鎖的な策をとる。この頃にはもはや経済の成長とポリス共同体の維持は不可能になっていた。ポリスとは無縁のマケドニアが台頭してくるのはこのことと無関係ではないと筆者は述べる。
     ローマでも貴族が身分を封鎖するなど、平民との対立が耐えなかったが、僭主政が登場することなく両者の妥協ができていた(リキニウス・セクスティウス法)。
     したがってローマは南北への植民が可能で、植民地には等級に応じた市民権を付与した。ここに帝国発展の基礎がある。紀元前264年の第一回ポエニ戦争でシチリアを獲得し、その後100年間でスペインから東地中海に及ぶ地域の支配を確立した。植民によって貴族や上層平民は公有地を先占し、属州の奴隷を用いた大農園経営が行われた。
     紀元前130年頃から100年続く内乱の時代が終わるとオクタヴィアヌスは実質的な帝政を始め、96年から180年までの五賢帝時代には守勢を取っていた。
     だが、やがてローマも斜陽期を迎える。広大な帝国は辺境で摩擦を産み、250年から300年の軍人皇帝時代には各地で異民族の侵入が続いた。ディオクレティアヌス、コンスタンティヌス以来の官僚制と軍事力の保有は効果をあげたものの、軍事費増大の必要から貨幣を増産してインフレを招き、西ローマを切り離さざるを得なくなった。
     
     

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/769038

  • 本書の意義は、まえがきにある、ギリシア・ローマ世界を「古典古代」として捉えることは、特定の時代の特定の人びとの時代意識を前提にしたものであって、ただちに我々のものにはなりえない、グローバルな世界史的段階に立つ、現代のわれわれの立場に立って捉えようとするものだ、ということである。
    決して大部の著作ではないが、随所に読み応えのある叙述がある。

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著者プロフィール

1924年、東京生まれ。東京商科大学(現・一橋大学)卒業。東京大学教養学部教授、フェリス女学院大学学長等を歴任。2006年没。著書に、『ローマ帝国の国家と社会』(岩波書店)、『ローマ帝国とキリスト教』『素顔のローマ人』『歴史家と歴史学』(河出書房新社)、『永遠のローマ』(講談社)、『歴史学入門』(東京大学出版会)、『ローマはなぜ滅んだか』(講談社現代新書)ほか多数。

「2020年 『地中海世界 ギリシア・ローマの歴史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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