形を読む 生物の形態をめぐって (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065185469

作品紹介・あらすじ

「この本では、生物の形態を、一般にヒトがどう考え、どう取り扱うかについて、私の考えを述べた。いままで、形態そのものを扱った本は多いが、こういう視点の本はないと思う。」

生物の形に含まれる「意味」とはなにか? 形を読むことは、人間の思考パターンを読むことである。解剖学、生理学、哲学から日常まで、古今の人間の知見を豊富に使って繰り広げられる、スリリングな形態学総論。ものの見方を変える一冊!

感想・レビュー・書評

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  • 科学は繰り返し検証できるもののみを扱う、としてしまうと進化論などは科学とは言えない。それは地球科学や宇宙論についても同じだろう。そこで、たくさんの具体例に当たって、共通するところや異なるところを探す。そしてその原因を究明する。しかしまた、原因と結果はひとつながりになっていないので手を焼くことになる。しかし、その辺がたぶんおもしろい。魚にも鼻があって、水の中の化学物質を感知するそうだ。で、鼻の後ろは目の前のところで外に抜けている。肺呼吸をするようになった両生類などは、鼻は気管につながるわけだが、それが目にもつながっている。だから涙が鼻の方に流れ出てくることがある。そういえば昔、鼻から牛乳ではなく、目から牛乳を出している人もいた。で、その変化の途中の様子が、シーラカンスやヒトの胎児などに見られるのだとか。魚のエラには血管が6対あるのだそうだが、それが我々では肺動脈とか頸動脈とかになっている。で、一部は退化しているものがあるが、発生異常として退化したものが現れることもある。さらに、ヒトの発生段階の初期にはそういうエラの状態が見つかるのだとか。うーん、調べれば調べるほどおもしろいし、そういう共通点とかに気付いたときは飛び上がるほどうれしいことだろう。「ヘウレーカ」にはどうやら中毒性があるようだ。ところで、ニワトリはともかく、ヒトの発生過程の研究はどのようにするのか。子宮の中にいる胎児を顕微鏡で観察するわけにはいかないだろうし、そうすると何人もの生まれてくることのできなかった命を観察することになるのだろうか。さて、本書は35年ほど前に刊行されている。「唯脳論」や「バカの壁」より前だ。それが昨年文庫化された。でも、どうやら見逃していた。少し前に、布施英利さんの「養老孟司入門」を読んで、そうして本書を手にしたのでした。まったく古く感じられないところがまたすごい。この間に、ヒトゲノムがすべて解読されたりしているのにね。

  • 著者の単行本としては最初の著作を文庫化したものです。東京大学の解剖学教室に勤めていた著者が、「科学とはなにか」「形とはなにか」「解剖学とはなにか」といった問いについて考察するなかではぐくまれた思想が提示されています。

    科学的客観性を信奉するひとは、科学的探求活動をおこなっているのが「自分」であるということを、しばしば忘却していると著者は指摘します。そして、「自分」と「自然」の両方があって科学という営みが成立することを、著者の専門である解剖学から例を引きつつ説明しています。著者が紹介しているのは、解剖学における四つの説明のしかたで、機械論的説明、機能による説明、発生による説明、進化による説明です。そのうえで著者は、生物の形態とその意味を理解するという解剖学の営みについて考察を進めています。

    本書中にすでに「馬鹿の壁」という表現が登場しており、これがベスト・セラーとなった『バカの壁』(2003年、新潮新書)へとつながっていくことになります。

  • 養老孟司の著書で、一冊の本として書かれたものの中では、いちばん最初に書かれた本。形態学が主題となっており、ふつうこうした専門分野について科学者に語らせると、門外漢には珍紛漢紛といったことになりかねないのがオチだが、そうした弊に陥らずに読者を惹きつけられる文章力は、さすがというほかない。それを可能にしているのがおそらく、人並み外れた読書量であろう。行間からその広範なバックグラウンドを感じる。終章はのちの『唯脳論』に結実する思考の萌芽が見られ、著者の理論形成を読み解く上でも見逃せない一冊。
    なお、この本が書かれたとき、養老さんはすでに四十九歳、そこから『唯脳論』までにはさらに三年を要している。それを思うと、人生はまだこれからと、勇気づけられる気がする。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/769041

  • 書名よし、表紙よし、図入りよし、文庫よし。

  • 養老先生が解剖学者として考えてきた生物を対象とした形態学。生物の形を研究する過程でその後の著作につながるアイデアがいろいろ出て来たとのこと。それらは、例えば「唯脳論」「バカの壁」「遺言」などにつながる。

    以下気になったところを記す。

    形は客体のように見えて客体ではない。脳科学的には、情動ですら客観的な基準がない。まして、人の考えや思想に客観的基準があるわけがない。したがい、諸科学に普遍性はない。自分の考えを記すのは個人的作業。

    「多様性は剰余から生まれる」・・・なるほど、すごく新鮮。

    形は、意味を考えなければ、意味がない。
    形の意味は、生物の場合、①数学的・機械的、②機能的、③発生的、④進化的な諸観点から考えられる。

    ①数学的には:幾何、機械的には:構造と力学
    ②機能的には:機能解剖学:「構造」は「機能」を考えるとわかりやすい。
    ③発生的には:発生自体が形の変化そのもの
    ④進化的には:進化の実際がどうであったか

    問いと答え
    ・形に意味を与えるのは形を読みとる人間だとして、どのように意味を与えればよいと養老先生は考えるのか
    →基本は4つの仕切り。主観の数を数え上げたのが上記の4つ。主観の内容は異なれど、主観の「形式」は、しばしば繰りかえす

    ・意味を与える側の人間が異なる見方をするのだとすると見方の違い(バカの壁)はどう乗り越えたらよいのか
    →乗り越えられない

    ・養老先生としては、形にまつわる認識論的見方を生物以外にどう拡張してきたか
    →考え方としては、画像と言葉などを同様に含む

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著者プロフィール

養老 孟司(ようろう・たけし):1937年神奈川県鎌倉市生まれ。東京大学名誉教授。医学博士(解剖学)。『からだの見方』でサントリー学芸賞受賞。『バカの壁』(新潮社)で毎日出版文化賞特別賞受賞。同書は450万部を超えるベストセラー。対談、共著、講演録を含め、著書は200冊近い。近著に『養老先生、病院へ行く』『養老先生、再び病院へ行く』(中川恵一共著、エクスナレッジ)『〈自分〉を知りたい君たちへ 読書の壁』(毎日新聞出版)、『ものがわかるということ』(祥伝社)など。

「2023年 『ヒトの幸福とはなにか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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