生涯弁護人 事件ファイル1 村木厚子 小澤一郎 鈴木宗男 三浦和義・・・・・・

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (522ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065189030

作品紹介・あらすじ

村木厚子事件(厚労省郵便不正事件)、小澤一郎事件(陸山会政治資金規正法違反事件)、鈴木宗男事件、マクリーン事件、クロマイ・クロロキン薬害訴訟、医療過誤訴訟、三浦和義事件(ロス疑惑)など、日本の戦後刑事司法史に残る大事件を手がけてきた、伝説の弁護士、弘中淳一郎。「絶対有罪」の窮地から幾度となく無罪判決を勝ち取ってきた「無罪請負人」と呼ばれるその男は、歴史的なそれらの裁判をどのように闘ったのか? 受任の経緯から、鉄壁といわれる特捜検察の立証を突き崩した緻密な検証と巧みな法廷戦術、そして裁判の過程で繰り広げられるスリリングな人間ドラマまで、余すところなく書き尽くす。稀代の弁護士による、法廷を舞台にした唯一無二の思考の指南書にして、類稀なる現代史。

安部英医師薬害エイズ事件、野村沙知代事件、 中森明菜プライバシー侵害事件、加勢大周事件、中島知子事件、「噂の眞相」名誉毀損事件、痴漢冤罪事件、カルロス・ゴーン事件などを扱った「事件ファイル2」も同時刊行。

感想・レビュー・書評

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  • 筆者の弘中さんはベテラン弁護士。1945年10月生まれなので、現在76歳。大学卒業と同時に弁護士になられているので、弁護士業務を50年以上続けておられる方だ。弘中さんは、世間の注目を浴びた事件での弁護人を数多く務められている。本書で取り上げられているのは、村木厚子氏・小澤一郎氏・鈴木宗男氏・三浦和義氏のケースであり、2分冊の第2巻で取り上げられているのは、安倍英氏・野村沙知代氏・カルロスゴーン氏のケース等である。2分冊の第1巻にあたる本書は、500ページを超える大部の作品であるが、一気に読んだ。
    筆者の著作としては、「無罪請負人」という本を読んだことがあり、このブログにも感想を書いている。「無罪請負人」で、筆者は、日本の刑事司法の国際的に見た場合の後進性について、強く訴えていた。本書でも、各事件で同趣旨のことを訴えられているが、本書は、基本的にそういった司法の後進性を訴える本ではなく、ご自身が担当された事件についての事実関係をレポートする本である。本書の中で、そのようにご本人も述べられており、だから、題名が「事件ファイル」なのだという説明もされている。

    私は本書を抜群に面白いノンフィクションとして読んだ。村木氏・小澤氏・鈴木氏の事件、筆者はそれらを検察特捜部による「国策捜査」と呼んでいるが、それらの事件の弁護人として、事件の細部まで知り尽くした筆者が語る事件の真相と裁判の経緯・結果は手に汗握ると言っても大げさではない。ジョン・グリシャムやスコット・トゥローが描くリーガル・サスペンスも面白いが、本書はそういった面でも、それに匹敵する、あるいは、それ以上に面白い話が続く。
    第2巻を読むのが楽しみだ。

  • 興味深い、読みにくいかと思ったが途中から引き込まれる。

    カルチエ・ラタンの暴動が日本に飛び火し、学生闘争の炎となる

    312〜

  • 生涯弁護人
    事件ファイル1
    村木厚子 小澤一郎 鈴木宗男 三浦和義・・・・・・

    著者:弘中惇一郞
    発行:2121年11月30日
    講談社

    弘中惇一郞弁護士が日本の最強弁護士の一人であることは、法曹界に疎い僕でも知っている。これまで、重大事件で驚くような無罪判決を勝ち取ってきた。アメリカのように、お金をたくさん出せばこの人のような優秀な弁護士が雇えて無罪になれるのか、というイメージもあったが、どうやら違うようだ。本のカバーのそでに書かれたコピーにある「無罪請負人」というのも、中身を読んでみると違うように思える(つまりいいコピーではない)。何百人もの弁護士軍団を率いる弁護士法人というより、どちらかというと町弁っぽい純粋な弁護士(決してそうではないのだろうけど)の印象を持ってしまったほど。

    500ページ以上もある分厚い本で、しかも、この本はファイル1であり、ファイル2も同時刊行されているという。守秘義務もあるし、過去の話を表層的に扱っている本だろうからつまらないのではないか、という思い込みは、読み出してすぐに吹っ飛んだ。非常に面白い本だった。構成ライター(昔ならゴーストライター)が入って書いているのでとても読みやすく、飽きることもない。

    ただ、僕個人としては、薬害エイズの安部英が無罪になった許せない一審判決の担当弁護士がこの人だから、それについては絶対この本には誤魔化されないぞと思っていたけど、残念ながら薬害エイズ裁判についてはファイル2に書かれている。現在、図書館予約中。

    ドラマや小説と違い、決定的な証拠を見つけてどんでん返しの無罪勝ち取り!などという事例は出てこない。この人の身上は現場を知ること。必ず現場に足を運んで細かなことも調べ上げていく。そして、小さな状況証拠を少しずつ積み上げて材料に。その意味では我々の人生や仕事のありようにおける大きな参考にもなる本だ。

    第1章は国策捜査との闘いとして、厚労省の村木厚子事件、小澤一郎事件、鈴木宗男事件を紹介。個人的には村木さん以外の2人は好きではなかったので有罪かもと思っていたが、小澤氏は報道されているなかで段々と無罪に思えた。鈴木氏は有罪だろう(有罪になれ)と思っていた。結果はその通りになったが、著者はもちろん全員無罪、裏に大きな理由がある冤罪だと考えている。民主党政権誕生目前となる2009年、村木事件は民主党の有力議員である石井一氏からの圧力で不正が行われたとの検察ストーリー、小澤事件は民主党代表選の最有力だった小澤氏を陥れ、政権交代~小澤首相誕生を阻止する目的(小澤は検察改革を強く主張していた)、鈴木事件は小泉政権による田中真紀子外相Vs鈴木宗男の両者を排除したい総理の意向により行われたものと読む。折しも検察による5億円裏金づくりが発覚し、世間でそこから目を逸らすために村木事件、鈴木事件の逮捕、起訴を行ったというものだ。

    それにしても検察の「人質司法」はえぐい。鈴木事件では、彼の事務所でかつて会計担当をしていた当時66歳の女性が突然逮捕された。単に帳簿をつけていただけの人。逮捕2ヶ月前に子宮全摘手術をし、放射線治療中だったのに独房に拘留した。記録的猛暑だった年の真夏、独房にはもちろん冷房もない。逮捕を知らされた鈴木氏は病気だからと人道的な扱いを訴えたが相手にされなかったため、「俺は有罪になってもかまわない。嘘の内容でも認めていいから検察官の言うとおりにして出してもらい、病院へ行け」と彼女に伝言をした。彼女はそうした上で、公判で供述を否定したが、信じてもらえなかった。翌年、彼女はがんが転移して死亡した。

    村木事件では、検察官自らによる証拠フロッピイの改竄事件、小澤事件では、元秘書で当時議員だった被告に関するデタラメ調書でっち上げ(彼が忍ばせたICレコーダー録音によりバレる)なども発覚している。

    著者は東大法学部在学中に司法試験に合格し、大学出たてのころから弁護士への道を歩み始めた。憲法の教科書に必ず載っているらしい「マクリーン事件」は、彼がまだ右も左も分からぬ段階で同期と担当した事件だという。外国人記者にとって非常に重要な判決が1978年に出た。英会話講師のマクリーン氏が、ベトナム戦争反対の発言をしていたためにビザの再申請で拒否された事件。滞在ビザの延長は認められなかったが、滞在外国人にも日本国憲法による基本的事件の保障がおよぶことを認めた判決だった。

    この事件を含め、第2章は著者が若い頃のことを中心に、国家権力へと立ち向かった事例がまとめてある。著者は1945年生まれなので東大闘争を経験している。1970年に弁護士登録後、在学中の先輩や友人たちが逮捕された弁護を引き受ける。司法研修所時代には、民生寄りの「青年法律家協会」を出て、30人ぐらいで「反戦法律家連合」を作って活動したらしい。当時は何でも「反戦○○」とつけるのが流行っていた。

    第3章は、クロマイ薬害事件、クロロキン薬害事件といった薬害事件を担当(もちろん被害者側)した話。また、非常に壁が厚い医療過誤事件も4つ紹介している。

    最後、第4章は「悪人」弁護として、三浦和義事件について詳しく書いている。これが社会問題化した当時、僕も常に報道をチェックし、珍しく週刊誌報道にも目を通して追っていた。そして、殴打事件は有罪だったものの、銃撃事件が無罪になったことは衝撃だったことを覚えている。さらに、21世紀になってから、日本で一度無罪になった三浦氏がアメリカで同じ罪状で逮捕され、なんと留置所で自殺するという悲劇的な結末を迎えた。確かに僕も彼を「悪人」のようにイメージしていたが、これを読む限りは決してそうではなかったようだ(もちろん全面的にそうイメージを変えたわけではないが)。当時、著者も、「なぜあんな悪人の弁護をするのか」と抗議され、いくつか仕事を失ったそうである。

    この三浦事件に関しては、とにかくマスコミがひどかったこと。そして、やはりこちらも捜査当局の自己都合による犠牲という面が明かされている。ロサンゼルスで重体になった妻をヘリコプターに乗せて日本に運んだ三浦氏。あの時、発煙筒を自らたいてヘリを誘導した映像を思い出す。あれを見て「芝居がかっていて怪しいやつ」という印象を持った人は少なくないが、実はあれ、その場を取り囲んでいたマスコミから言われてやったことだそうだ。恐らくテレビだろう。その方が絵になるからと言われ、素直な彼がやったそうだ。

    殴打事件で逮捕された際、彼はマスコミが勢揃いするまで時間稼ぎをするため車で連れ回され、建物から30メートルも手前でおろされ、歩かされた。手錠や腰縄も隠さず、配置された警察官全員腰をかがめて写真撮影がしやすいようにした。多くのマスコミがその姿を報道した。人権侵害も甚だしく、起こした国賠訴訟に実質的に勝利したため、以後は手錠を見せなかったり、モザイクをかけたりするようになった。

    なお、同じ1984年にはグリコ・森永事件で犯人を取り逃がすという失態を見せた捜査当局の失地挽回の犠牲になったのも彼だった、というのが著者の主張だ。

    殴打事件は有罪。銃撃事件については、一審は有罪、二審は無罪。しかし、これは決して一発逆転無罪ではなかった。その点は本を読むとよくわかる。一審でほとんど検察側の論理は崩れており、二審無罪はその段階でほぼ確定していたようなものだった。裁判とはこうして闘うものだと、教えてくれる力強い本だった。

    一審では、三浦被告が銃撃を依頼したとされるO氏は無罪になった。しかし、三浦被告は氏名不詳の人物に依頼したと有罪になった。そして、検察と被告双方が控訴した。ここに検察の破綻があった。公訴理由もふくめ検察はO氏が実行犯だとしている。一審で裁判所が、被告が氏名不詳者に依頼したと断定したのは、訴因変更の手続きを取らないままの判決であり違法である、と弁護側は主張した。確かに、O氏が実行犯なのか、氏名不詳者が実行犯なのか、どちらかしかないわけで、どっちを前提にしているか変更なしに有罪にすることはおかしい。二審はそれが「違法」であるとして無罪を言い渡した。裁判所が「違法」なことをするわけである。

    *********

    村木事件:
    村木氏に不正をお願いにいった人物は、公判で、厚生省では彼女とデスク越しに話をしたと証言したが、彼女のデスク前には大人の背丈ほどのついたてとスチール製キャビネットが置いてあり、事前に調べていた著者たちによりそれが嘘であることが明かされた。検察に暗記させられたままのデタラメ証言だった。

    大阪地検の案件だったため、事件関係者は東京から呼び出され、取り調べを受けた。検察のストーリーを認めないと、また来てもらいますと帰す。交通費は自費、時間もお金も大変な負担。だから、これぐらいなら認めてしまおうと、言われるままに認める。それが積み重なって村木氏を追い詰めていった。

    論告で村木被告を懲役1年6ヶ月に処すよう平然と求刑したのは、後にフロッピイ改竄がバレて実刑をくらった前田主任検事だった。

    小澤事件:
    元秘書、石川被告に関する嘘の調書をつくった田代検事。ICレコーダーの内容と違うことを指摘されると、「捜査報告書はこの日の取り調べ直後に作成したものではなく、数日かけて思い出し、思い出し記録した。記憶違いで混同して事実に反する供述になった」と言い訳をした。

    国策捜査は、時代との関わりのなかでなされる。GHQの駐留予算を削減した石橋湛山は公職追放、日ソ国交回復を推進した鳩山一郎、日中国交正常化をした田中角栄、中国・北朝鮮に近かった金丸信や加藤紘一、沖縄の普天間基地は「最低でも県外」と言ってアメリカから猛烈な反感を買った鳩山由紀夫らは、いずれも政治の表舞台から引きずり降ろされた。
    一方、日米安保を締結した吉田茂、「核抜き本土並み」を骨抜きにして沖縄返還を実現し、日米安保を延長した佐藤栄作、日米関係を修復・強化したロン・ヤスの中曽根康弘、アメリカ一辺倒だった小泉純一郎、集団的自衛権の安倍晋三。この5人は歴代内閣総理大臣在任期間ランキングの戦後トップ5である。

    マクリーン事件:
    著者ともう一人の弁護士が受け取った弁護料は〝労役による支払〟だった。マクリーン氏は豊かではないため、「英会話学校の先生なんだから英会話を教えてよ」と持ちかけ、タダで英会話のレッスンを受けた。

    東大闘争裁判:
    加藤一郎東大総長、大河内一男前東大総長を含む多数の教授、坂田道太郎前文部大臣、秦野章前警視総監をはじめとする警察幹部など、今では到底考えられないような証人を申請して認めてもらった。

    医学部中央館グループの公判で、元医学部長を証人尋問した際に裁判長から「尋問は今日中に終えるように」と言われ、「今日中なら何時まででもいいんだな」と、夜9時間で尋問した。

    大菩薩峠事件:
    板橋区の派出所で警察官から銃を奪おうとした青年が逆に射殺された事件の直後に開かれた「大菩薩峠事件」(派出所とは別の事件)の公判、被告人が立ち上がってそのことを問題にし、「非常に残念なので黙祷したい」と発言した。「黙祷!」と彼が呼びかけると、被告人16人と傍聴席にいた支援者が全員立ち上がり、1分間の黙祷を捧げた。裁判長は2度ほど「やめなさい」と軽く制止しただけだった。終わると裁判長は「もうしませんか?」と声をかけ、「しません」と答えると「では続けましょう」と何事もなかったかのように審理を続けた。大らかな時代だった。

    明治公園爆弾事件:
    警察官37人が怪我をし、全員の診断書が証拠提出されていたが、結審近くになり、再診断した結果として新しい診断書が出された。全治期間が大きくのびたり、後遺症が残るという診断書に変わっていたり。しかし、著者ら弁護団はそんな診断書の証拠採用にあえて同意した。そして、2回目の診断書にある怪我の原因が1度目の怪我と同一であるとは立証されていない、本件と関係ない、と主張した。その主張は認められ、求刑無期懲役に対して17年判決となった。検察側は墓穴を掘ったことになる。

    司法修習における検察修習で、著者と同期の22期では取り調べ修習拒否者が続出した。著者も拒否したが、それでも指導の検察官にひどく可愛がられ、飲み歩いたうえ、自宅に泊めてもらったこともあった。拒否するなら卒業させないと脅されたが、それならそれでしょうがないと思っていた。

    クロマイ裁判:
    何度も裁判長が交代した。非常に難しい専門的な内容であるため、文献類や準備書類が理解できない裁判長が多く、引き継ぎで渡された書類がひもで縛ったまま和解室におかれていたこともあった。

    証人尋問で統計学者を証人として呼んだとき、「疫学とはなんぞや」からはじまったが、内容が難しく、延々と難解な統計学の話がつづく。居眠りしている人が続出、裁判官も寝ている、被告側の弁護士も寝ている、さらにはこちら側の弁護士も眠ってしまった。後日、一人の裁判官に会ったので、居眠りのことを抗議したが、こちら側も寝ていたので強く言えなかった。

    長崎大学クロロキン薬害訴訟:
    控訴審の裁判長が無能で、まったくとんちんかんなことしかいわない。嫌になった著者は、国の代理人である検事に対し「こんなひどい裁判長で裁判をやることはない。もうやめよう。一審どおりでいいじゃないか」と説得したところ「確かにあの裁判長はひどい」と同意してくれた。

    異型輸血死亡事件:
    愛知県選出の衆議院議員で国土庁長官や労働大臣などをしたN・H氏が、1990年10月21日に名古屋市内の陸上自衛隊駐屯地で行われる創隊祈念式典に来賓出席した際、地元のM精神病院に措置入院させられていた男Kに刺されて意識不明に。地元のY病院に救急配送され、本来ならO型の血液をB型で輸血してしまい、そのあと手術のために運ばれたA医大病院でもB型の輸血が行われた。
    この事件は、僕が70年代まで住んでいたところの近く。N・H氏は丹羽兵助、M精神病院は守山荘病院、自衛隊は守山駐屯地、Y病院はヤトウ病院、A医大は愛知医科大学。地元が出て来て懐かしい。なお、丹羽兵助の弟も衆議院議員で丹羽久章。北区大曽根時代の小学校の先輩。

    医療過誤の被害者や被害家族の怒りと悲しみ、とりわけ子供を亡くした親の嘆きは深い。そうした人たちに納得してもらい、感情の落としどころを見つけていくプロセスと、裁判で勝ちを取っていく、あるいは和解に持ち込んでいくプロセスは、必ずしもイコールではない。

    三浦和義事件
    三浦氏はのちに、テレビ局や週刊誌などを相手に名誉毀損の民事訴訟を約530件起こしている。そのうちの多くは弁護士に依頼せず、自分で提訴している。

    三浦氏は女性にはもてたが生活は地味で、生活費もそんなに使わず、貯金もたくさんあった。妻が死んで受け取った保険金にもまったく手をつけず、貯金や国債購入にあてた。だから保険金目的の犯行動機がないと主張した。ところが一審では「金に困っているわけでもないのに保険金殺人をしたのだから、非常に悪質で許せない」という珍妙な理屈が判決文にはあった。

  • 郵便不正事件、大物政治家の絡む国策事件、ロス疑惑、ゴーン事件等、刑事弁護の世界で華々しい活躍をしている筆者が、国家権力と対峙して人権抑圧されている人の側に立ち、その人の権利を擁護するのが弁護士の本来的な存在意義であるとして、筆者の半世紀にも及ぶ弁護士人生において挑み続けた国、メディア、メディカルという三つの権力との闘いの記録を綴ったもの。筆者の担当した事件は、どれもまさに「時代の風」を受けたものばかりで、それぞれの事件を追うだけで当時の政治状況や社会のありようを歴史的に検証することができる点が本書の醍醐味だ。そして、その中で暴かれていく、郵便不正事件の前後に起きていた国策事件のあまりの不条理に驚愕せざるを得ない。
    筆者は、あまり後続育成の場に登場されているイメージがなく、担当されている事件も、村木厚子さんの手記の他、記者会見やニュースからしか得られる情報がなかったため、本書を読んで筆者へのイメージがいい方にかなり変わった。これまでは有名事件ばかりを弁護されているのもあり、ご本人自体も政治家のような、近寄りがたいイメージだったが、本書を読んでみると、いかにあたたかく、情熱的で、人間味があり、そして人とのつながりをとても大切にされているかがわかった。事件の選球眼が群を抜いて優れているというイメージはそのままだが、その事件の筋の良さは、筆者と依頼人との心と心のつながりと、事実に対する強い探究心からきているのだと感じる。修習中から、東大裁判の弁護人になることを決められていたこと、内ゲバやリンチ等を機に学園闘争から離れられたこと、マクリーン事件が弁護士一年目のペアで行われた裁判だったこと、薬害エイズ事件を担当されるまで10年以上の長期にわたる医療訴訟や薬害訴訟をかなりの件数受任され、専門的に集団訴訟をされていたこと等知らないことも多く、それぞれの事件の経緯や弁護活動などは当時の熱量がそのまま伝わるものばかりでとても刺激的だった。また、マクリーン事件学園闘争や薬害訴訟・医療訴訟等弁護士としての経歴が浅い時期にも、なんとか状況を打破できないか、と試行錯誤した結果が、最高裁判決として今でも有名な事件として誰もが知る結果を出していたこと(マクリーン事件、米子強盗事件等)も驚きだが、それを反省すべき事件として振り返り、現在の入管の裁量権濫用や警察の権限濫用等のその後の社会的影響という点から正の面ではなく、負の面を強調する形でかかれており、今もまだ戦い続けているそのエネルギーに感服。なお、薬害訴訟で国に対する国賠訴訟で国からの全力での反発を受けたことが依頼者の利益に必ずしもつながらなかったことに対する反省が、現在の福島原発訴訟での被告を東電だけに絞った理由として挙げられていたのも納得だった。
    途中に挿入されているコラムもそれぞれ読み応えがある。司法修習中に入管法の勉強をしていたのに刑訴の勉強をあまりされていなかったことや、集団訴訟の土曜日の朝ミーティングを10年以上続けられ遅刻防止の罰金制度で飲み会をしていたこと、お連れ添いのエピソード等、筆者の意外な一面が垣間見れる。最後に個人的な感動ポイントは、全ての事件のテーマが明確で、本件は〜という事件である、という書き出しや問題提起がある点。難解・複雑な事件でも筆者の事実整理と問題意識が明確で、読者を引き込ませる魅力がたっぷり。

    今もなお続いている、筆者の特捜事件初の再審事件である鈴木宗男氏の再審と(筆者の事件ではないと思うが)先日美濃加茂市長として再選された藤井浩人氏の再審についても今後注目したい。

  • クロマイ薬害訴訟で因果関係を証明するのに、研究の進んでいた米国から資料・証言を取り寄せた両親の執念に頭が下がる。また逸失利益について死亡した娘さんの姉は東大法学部を出て司法試験と国家公務員試験に合格したから、そのベースで生涯収入は計算すべきとの主張に対して、裁判所は平均賃金でしか認めないという話は印象に残った。

  • 村木厚子、小澤一郎、鈴木宗男、三浦和義。
    薬害事件、医療過誤。
    著者自身が戦ってきた幅広い分野の実録。

    国策捜査の恐ろしさ。
    医学と過失と罪の難しさ。
    刑事被告人は圧倒的弱者。
    メディアのヤバさ。

    ふと東京五輪汚職事件が思い出された。
    「悪人」など本当にいるのだろうか?
    自分の頭でちゃんと考えないとな…

  • 順番が逆になったが、Ⅰを読破。Ⅱの感想で、
    「日本の司法制度の問題点を炙り出す小説はかなり読んできたつもりだが、当事者の経験と視点によるノンフィクションの前には沈黙してしまう。たとえ弁護人という一方からの独善的な偏りがある立場だとしても。それほど重く深い作品だ。国策捜査の闇を暴いた佐藤優氏の「国家の罠」と共に多くの日本人に読んでもらいたい作品。図書館で借りている都合で事件ファイル1は未読なので、早く読みたいと思っている。特に村木厚子事件は丹念に読みたい。」
    と書いたがほぼ同じ感想。中身の濃さとして村木厚子事件はそこまででもなかったが、改めて酷い事件だったことがわかる。政治の季節と医療被害の章も興味深い内容だった。

  • Audible で聞きました。村木厚子さんの事件はこの本で詳細を始めて知った。どの事件も時代を反映していて、とても興味深く読めます。

  • 分厚い本だ。村木厚子さんの事件は確かに無実だと思うし、弁護士の主張にも共感できる。国策で対立する勢力を嵌める、みたいなことも実際あるとは思う。ただ、鈴木宗男も小沢一郎も、クリーンな立場の人とは思えない。私もマスコミの戦略に乗せられてるようだ。正義の味方のように喝采を浴びる検察官が、自分の思い通りに事件の筋書きを作ってしまう。これも、あり得る話と納得。裁判や弁護士、検事の仕事というものがよくわかり、そういう意味では興味深かった。中身が濃くて読み疲れて、途中で一時中断した。また、時期が来たら手にとってみたい。

  • 弁護士としての著者が携わってきた有名な事件について非常に赤裸々に書かれた本で面白かった。特に村木厚子さんの事件については、一般人が突如冤罪になったことが共感から非常に勉強になった。

    ただ、後半になるにつれて政治事件など専門性が高くなり読止めてしまった。

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著者プロフィール

弁護士、法律事務所ヒロナカ代表。一九四五年、山口県生まれ。東京大学法学部在学中に司法試験に合格。七〇年に弁護士登録。クロマイ・クロロキン事件などの薬害訴訟、医療過誤事件、痴漢冤罪事件など弱者に寄り添う弁護活動を続けてきた。三浦和義事件(ロス疑惑)、薬害エイズ事件、村木厚子(郵便不正事件)、小澤一郎事件(「陸山会」政治資金規正法違反事件)など、戦後の日本の刑事訴訟史に残る数々の著名事件では無罪を勝ち取った。

「2021年 『生涯弁護人  事件ファイル2 安部英(薬害エイズ) カルロス・ゴーン 野村沙知代・・・・・・』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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