鳥獣戯画/我が人生最悪の時 (講談社文芸文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (304ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065245224

作品紹介・あらすじ

「凡庸さは金になる。それがいけない。何とかそれを変えてやりたいと思い悩みながら、何世紀もの時間が無駄に過ぎてしまった」――28年間の会社員生活を終え自由の身となった小説家。並外れた美貌を持ちながら結婚に破れた女優。「鳥獣戯画」を今に伝える高山寺を興した高僧明恵。父親になる三十歳の私。恋をする十七歳の私。時を超え、主体を超え、物語は旋回していく。語りの力で何者にもなりえ、何処へでも行くことができる小説の可能性を、極限まで追い求めた谷崎賞作家最大級の野心作「鳥獣戯画」。単行本未収録の傑作短篇「我が人生最悪の時」を併録。自筆年譜付きの決定版。

感想・レビュー・書評

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  • 『鳥獣戯画』は単行本で一度読んだのだけれど、文庫化されたのを機に再読しようと思って買った。
    磯崎憲一郎の刊行された小説はすべて読んでいる。しかも繰り返し読みたくなるから、私には珍しくすべて所有している。なぜかわからないけど、彼の文章を読むと力が湧いてくる。
    一度さるパーティー会場でちらとお見かけしたが、声をかけなかったことが悔やまれる。

    彼は小説のプロットをまったく立てずに、一文一文の運動に導かれるようにして文章を紡いでいく作家だが、『鳥獣戯画』は磯崎憲一郎である語り手の「私」が、昔の彼女と喫茶店で待ち合わせしていたら女優が姿を現し、なぜかいっしょに京都でも落ち合うことになってしまう。しかしいつのまにか女優の存在はどこかへ行ってしまって、神護寺の恵果や文覚といった僧の話になり、そこから自分の青春時代の記憶へと旋回し、くだんの待ち合わせ場所の喫茶店へ戻ってくる。

    一見伏線が回収されたみたいになっているところに笑ってしまった。そこだけに注目するなら、あまりにあからさまな展開だが、しかし本作は、そのような凡庸な場面へと、いかに凡庸でないふうに辿り着くかに挑戦しているようにさえ結果的に見える。

    『我が人生最悪の時』は「私」が三井物産に就職してから6年半付き合ったバレリーナの彼女を、ボート部の先輩Aに盗られる話。これはめずらしく事実がベースになっていそうな安定した語りになっている。しかしやはり、エピソードを語るのではなく、小説に自律的に語らせている感じがやはりある。この感じに乗るのが気持ちが良いのだ。

  • 鳥獣戯画の明恵上人だけの話であるかと思っていたら、私小説も入っていた。
     小説の中で芥川賞受賞と書いてあったのでわかった次第である。終の棲家での受賞である。
     赤ずきんちゃん気をつけてという小説があったが、これは、都心の高校生及び大学生の恋愛を語った私小説である。アニメにしても面白いのかもしれない。

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著者プロフィール

1965年生まれ。2007年、文藝賞を受賞しデビュー。『終の住処』で芥川賞、『赤の他人の瓜二つ』でドゥマゴ文学賞、『往古来今』で泉鏡花賞を受賞。2015年、三井物産を退社。現在、東京工業大学教授。

「2011年 『肝心の子供/眼と太陽』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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