キリの理容室 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784065245842

作品紹介・あらすじ

ギリギリの成績ながらも専門学校を卒業し、夢だった理容師への第一歩を踏み出した神野キリ。

しかし、キリを受け入れてくれた理容室はたった一軒。
キリと父を捨てた母・巻子がかつて勤めていた「バーバーチー」だった。

母の師である広瀬千恵子の店で働くことに複雑な思いを抱えつつも、一人前の理容師になって母を見返すために張り切るキリ。
最初は空回りして失敗ばかりで落ち込むも、様々な客と接していくうちに少しずつ変わっていき――。

感想・レビュー・書評

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  • 憧れの理容師への第一歩を踏み出したキリ。でも、実際の仕事は思うようにいかなくて!? あとがき&文庫版のためのあとがき収録。

  • 若いうちに家を出ていった母親の後を継ぎ、理容師を目指して専門学校を卒業した神野キリ。母親が若い頃勤めていたバーバー・チーで働くことになったが、なかなか髪を切らせてもらえない…。

    ちょっと変わった趣向の本である。まあ、キリが色々と苦労をし、理容を任されるようになり、店を拡大し、一方で別れが有り、などというドラマの部分は普通のお話であるため、特に引っかかる話でもないだろう。

    一方でどうも、作者が理容師っぽいし、そこをわかってほしいと思って書いている部分がちょくちょく見られるのだな。

    キリが偏屈だが腕のいいチーに鍛えられ、信頼され、専門学校の優等生アタルとともに新しい店を作っていくあたりは、盛り上がりは薄いものの楽しめるものであろう。

    ただ、結構本は読んできたので、多少の飛ばし読みもやらかすのだが、「あれ?」と戻らなければいけない部分も多々見られた作品であった。話を引っ張ったり、場面転換の合図がなく、突然過去に飛んだり1ヶ月先になったり、さっきまでいなかった人が現れるのだ。このあたりは、ずっとお話を書いてきた人という感じがしない。

    あとがきに「理容師のための小説賞」といったものを受賞したとのことで、やっぱりなあと納得した。

    人物名が「カミノキリ」「マキコ」「アタル」店の名前も「チー」「マキ」「カミノ」と、まあなんと言うか、単純なところも、中高生くらいなら不自然に感じず読めるかな。

    --
    追記。
    文庫本は、カバーを掛けて読んでるんだけど、カバーを外して折り返しのところに「〇〇大学卒、お仕事小説多数」と書かれていて、ちょっとレビューを考え直した。

    プロの作家?「お母さんはKYだから」とかいう文章を書く人が?
    ちょっとなあ。

  • 摂南大学図書館OPACへ⇒
    https://opac2.lib.setsunan.ac.jp/webopac/BB50252567

  • 理容師はお客さんとともに成長し、お客さんの人生を見つめる。

    p.91 チーちゃん「会社勤めでも、同じだろ?自分と合わない上司、高飛車な取引先、頭を下げたくない相手はごまんといるよね?」「そんなときは、自分が誇りを持っている仕事、頑張っている仕事に頭を下げるって考えるのさ。そうすれば、自然とお辞儀が出来る。自分の心を卑しくしないで済む。いやだいやだとおもいながら頭を下げても、本心は伝わるもの。自分の仕事に頭を下げると思えば、嫌な気持ちは消える。大抵のことは我慢できるものさね」「あんまり焦るんじゃないよ。明日は明日の風が吹くと運を天におまかせしてしまえば、あとはなんとかなるもんさ」

    p.97 組長・長谷川さん 長谷川が、その三浦の頬を愛しげにぴたぴたと軽く叩いた。きっとかわいい子分なのだろう。そして、パンツのポケットからアロエの葉を取り出して与える。恐れ入ったようにそれを受け取った三浦とキリの目が合った。三浦が、こちらに向けて葉っぱを軽く差し上げてみせた。キリもポケットから葉を出して見せる。すると、かれがほんの少しだけ微笑んだ。その笑顔がなんともチャーミングで意外だった。

    p.99 遠くから新幹線で通ってくれている・水原さん「最初にチーちゃんの店に入ったのは、全くの偶然からだった。もう30年も前になるかな。いや。北口に鉄鋼会社の工場がある頃だから、もっと前かーー」
    「取引先のその工場に向かう途中だったんだ、大事な商談のためにね。けれど、左のえらに一本ひげの剃り残しが合って、気になって仕方がない。で、目に入ったバーばーちーに飛び込んで、顔を剃(あた)ってもらったんだよ。シェービングが終わると、寝癖がついたからって、チーちゃんはドライヤーとブラシで丁寧に整髪してくれた。襟足にバリカンもちょっと入れてくれてね。すると、いつの間にか私の気持ちもほぐれていたよ。商談を前に緊張していたんだな、と気づかせられた」「客のこわばった心に余裕を取り戻させてくれる、君にもそんなふうになってほしいな」

    p.117 キリとチーちゃん「そうかと思うと、”〜さん、いらっしゃいませ”と、お客様の名前を読んで迎えているお店もありました」「名前を呼ばれたお客様はいい気分だと思います。なんか特別扱いされたみたいで」「でも、常連でないお客様、常連でも名前を知られていないお客様は差別されたようにかんじるかもしれません」「あるいは、いつも名前をつけて”いらっしゃいませ”と岩rているのに、名前を呼ぶのを忘れたら、損した気分を味わうかもしれない」→「いつも、誰に対しても変わらないのが一番なのさ。お客様に接する態度や仕事のやり方にムラがあるのはいけない。こっちに何があろうと、どんな思いをしていようと、そうしたことを全部隠して、常に笑顔。それがプロってもんなの。いつも同じ気持ち、同じ仕事割り振りを心がける。いつもムラなく仕事していると、お客様にも気持ちよく過ごしてもらえるんだから」

    p.148  組長・長谷川さん「いや、つい余計なことを話してしまった。あんた、柔らかくなったなあ。私みたいなものが言うのもなんだが、人はよく泣いて、よく笑うことで心が柔らかくなるんじゃないかな」

    p.173 <コンテスト1位の織部さんにモデルになってもらうシーン>「お願いします」 キリはおもわず織部に向かって頭を下げていた。国家試験のときにこの言葉を発する意味が、ここに至って本当に理解できたような気がした。それは、お客様と自分の仕事に対する敬意を素直に表しているのだ。いつかの千恵子の「自分が誇りを持っている仕事、頑張っている仕事に頭を下げるって考えるのさ。そうすれば、自然とお辞儀が出来る」という言葉が蘇る。

    p.324 その言葉通り、瑛美が実験台になって、為永のシャワータップの練習が始まった。瑛美はさんざん湯をかぶったが、一つも文句を言わなかった。やらないことには腹を立てるが、やることには協力するのが瑛美なのだ、とキリは思う。
    「顔の見えない不特定多数の誰かに向けてやっていたことが学校の授業なの。個々では、わざわざ足を運んできてくれる一人ひとりのお客様に向き合わないといけない」

    p.330  ボーイッシュな少女・カオル「やっと自分が入りやすいサロンを見つけたんです。また行きます」
    瑛美「わたしさ、この髪の毛の色、地毛なんだ」「中学時代にね、男の担任教師から黒く染めろって言われたの。そんな理不尽な話、受け入れられるはずないでしょ?だからね、丸刈りになって学校に行ってやった。以後、担任は一切髪の色のことは言わなくなったけどね」「高校羽、規則の厳しくないところを選んだ。私の髪の毛の色について誰も口出ししないところをね。そのときには、どんな仕事につくかも決めてた。規則でがんじがらめになってる堅物のおじさんに、おしゃれとかかっこいいヘアスタイルって何かを教えてあげるために理容師になろうって」「後数年でよくなるから。こんな状況からもうすぐ出られる。おとなになれば、自分で選択できる。そうして、自分自身の人生を遅れるようになるから」「もう少しだけ我慢して、そしてね、思いっきり前をむくの」「人生が薔薇色だなんて言うつもりはいけど、少なくとも自分自身の人生がそこから本格始動するんだって思って。今はね、近い将来の自立に備えるの。自分の特性をしっかり見つめて、将来就きたい仕事はなにか、そのためにどんな勉強が必要か、それを探るの」

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著者プロフィール

1962年、東京都生まれ。専修大学文学部国文学科卒業。1994年に『恋人といっしょになるでしょう』で第7回小説すばる新人賞を受賞してデビュー。著書に『キリの理容室』『料理道具屋にようこそ』『わたし、型屋の社長になります』『就職先はネジ屋です』『鋳物屋なんでもつくれます』『天職にします!』『あなたの職場に斬り込みます!』などがある。

「2023年 『お菓子の船』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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