おいしいごはんが食べられますように

著者 :
  • 講談社
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  • / ISBN・EAN: 9784065274095

感想・レビュー・書評

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  • 皆様のレビューで、後味悪い系の本だとわかっていて、読んだ本。
    想像以上に後味悪過ぎて食欲減退レベルだった。現実にもありそうな内容に…ページを捲る手が止まらなくて一気読みしてしまった。
    芥川賞品受賞作品……やっと読めた!

    中心的な登場人物は、三人。
    芦川さん。あまり仕事ができない上に、頻繁に体調悪くなって早退したりする。
    そしてその翌日は手作りお菓子を持ってきて配るような人。
    あざとくても、か弱くて周りから守られてしまうような可愛いタイプの女性。(私も読みはじめからイライラさせられてしまって、ちょっと苦手なタイプに感じた。)
    押尾さんは仕事ができて少し位、自分の体調悪くても頑張ってしまう、タイプの女性。
    芦川さんを好きになれない気持ちを持っている。(私は押尾さんのそんな気持ちには共感できてしまった…。ちょっとやりすぎなのも否めないが…。押尾さんのサバサバした性格は良いなと思った。最後にした挨拶はスカッとしたから…!)
    二谷さん、芦川さんと付き合っているのだが、職場では隠していて押尾さんとも、ちょっと良い感じにもなっているような嫌なタイプの男。
    二谷さんは「食」に対する考え方などが、芦川さんと合わないのだが、それを言わずに隠している。
    芦川さんは二谷を好きなのだから、健康的な手作りの食事を食べてほしいと当然のように思っている。
    でも二谷は「おいしいごはん」なんかいらない、カップラーメンでいい!腹が膨れればいい…という考えの持ち主。
    仕事が忙しすぎてゆっくり食事をする時間も惜しい…。

    食事に対する考え方も、いろいろあるなと考えさせられた。
    1人で食べるより大勢で食べれば美味しいのか?手間隙かける料理がどんなときも良いことなのか?美味しい、美味しいと、言い合って食べることはいつでも楽しいことなのか?…好き嫌いについてなどの考え方など…。

    二谷は会社では仕事も、そこそこうまくやっている、事無かれ主義のような感じでいて、内心には深い闇を抱えている感じでもあり不気味に思ってしまった。
    職場で空気を読むというか、周りに合わせて言いたいことも言わない感じなのは仕方ない。でもなぜか恋人にすら本心を言えないドロドロとしたところがあって、本当に理解に苦しむ。
    職場恋愛でもあるし、職場の人間関係って難しいのは、わかるのだが…。他人の心の内側なんて外側からはわからない!最後の1行も驚いてしまった…。



    • チーニャ、ピーナッツが好きさん
      naonaonao16gさん、こんばんは♪

      この本に出てくる人は皆変わっている人ばかりでしたね。中でもいちばん嫌なのは…二谷みたいな人かな...
      naonaonao16gさん、こんばんは♪

      この本に出てくる人は皆変わっている人ばかりでしたね。中でもいちばん嫌なのは…二谷みたいな人かなとおもいましたって私の周りにはいない気がして、ちょっとびっくりしました…
      おいしい食事はいらなくて、お腹が満たされればそれで良いっていう人はいると思いました…。

      芦川さんを可愛いと思って付き合っていても好きではない感じ…が謎ですね。しかも結婚まで考えてる感じ……??理解に苦しみます(*´・д・)

      naoさん、
      男性を選ぶ時は本心がどこにあるか……気を付けてくださいね~!

      夕飯後に録画ドラマ観ながら、
      ドーナツまで食べてしまいました…バク
      2023/04/18
    • チーニャ、ピーナッツが好きさん
      あー、文章乱れてますね!(>_<)

      酔っぱらってもいます…スミマセン!!
      あー、文章乱れてますね!(>_<)

      酔っぱらってもいます…スミマセン!!
      2023/04/18
    • naonaonao16gさん
      チーニャさん

      おはようございます!

      いいですね~!どんどん酔っ払いましょう!!

      わたしの周りにも、食に興味ない人はいても、二谷みたいな...
      チーニャさん

      おはようございます!

      いいですね~!どんどん酔っ払いましょう!!

      わたしの周りにも、食に興味ない人はいても、二谷みたいな人いないので、これから芦川さんのような人と付き合っている男性には注目していこうかと思っています笑

      わたしはとにかく変な男についていく習性があるので気をつけたいです…
      まともな男はつまらなくて爆
      2023/04/19
  • レビュー書いたのにミス操作してしまい消えてしまいました。
    読了感もザラっとした気持ちが残りモヤモヤから切り替わらずにいました。

    芦川さんと、押尾さんは同じ会社で働く女性社員。
    上手くやってるのは、自分の痛みに敏感で早退や定時退社をしても手作りお菓子で懐柔して社内営業にたけた芦川さんの方でした。
    押尾さんは、頭痛がしても仕事を優先して残業する生真面目なタイプで、同様にできない事から芦川さんに対して不満を持っている。そんな態度は周りにも伝わったり、誤解も受けてい場所もなくなる。

    もう一人、そんな二人に二股かけてる二谷って優柔不断な男性社員も出てくるのですが、底の部分では深い闇を抱えているのに、蓋をしたままやり過ごす奴です。もうこれは人として見るより、場の空気と思った方がいいかも。マイナスイオンなら浄化してくれそうなんだけど、どんよりとした妖気。

    「職」と「食」を巡る生存戦略の話のように見えてきて、
    植物の生態系で考えたら、環境に適合しないものは淘汰される訳で、そうなるよねって納得できる感もありました。

    で、何に感動したら良いのかわからず仕舞いでした。
    てか、もっと気むづかしいこと考えないといけないってことなのでしょうか?

  •  ついに読みたかった高瀬隼子さんの作品を手にすることができました!ちょうどタイミングよく、別の作品も手にすることもできたんで、高瀬隼子さんの作品を並べてみることにします。

     「おいしいごはんがたべられますように」という表題ですが、同じ会社に勤務する二谷さんという男性と2人の女性、芦川さんと押尾さんという3人の独身男女が主な登場します。二谷さんは今どきの男性ですよね、おいしいものを食べるということに対して絶えず疑問を持ち続け、食事は仕方なくコンビニやカップ麺などで手軽に済ませる派かな。芦川さんは、お料理上手でお菓子作りも得意、そして誰からも守ってあげたいと思われる存在…。そして押尾さんは、チアリーディングの経験者で正義感が強く間違っていることが嫌い、おいしいものを訪ねて歩くのは好きなタイプ…。

     なぜ、二谷さんのような煮え切らないタイプの男性がモテるのかなぁ…??芦川さんの作るお菓子、いやならいやだといえばいいのに…!だから私は押尾さんの方が好きだし、二谷さんとの未来があるのは押尾さんだと思ってたのに…なぜ?なぜ??それに芦川さんタイプは個人的に好きではないし、私自身も押尾さんタイプであることを自負していますんで…。ボリューム少な目ですが、読了後は語りたい気持ちにさせられます…。

    • かなさん
      そうそう、それでいて、
      男性はみんな芦川さんのような女性が好きなのか??
      これは、世の男性に聞いてみたいですよねっ!

      まずは、ヒボ...
      そうそう、それでいて、
      男性はみんな芦川さんのような女性が好きなのか??
      これは、世の男性に聞いてみたいですよねっ!

      まずは、ヒボさんにこの作品を読んでもらって
      そしてレビュー拝見してみましょうか(*'▽')
      また袋たたきにならないように、
      レビューの際は気を付けてくださいね(^_-)-☆
      2024/03/22
    • チーニャ、ピーナッツが好きさん
      かなさ~ん、ヒボさ~ん
      おはようございます♪

      楽しみですね〜
      ヒボさん…早く読んでほしいなぁ(笑)
      (⁎⁍̴̛ᴗ⁍̴̛⁎)フフフ~
      かなさ~ん、ヒボさ~ん
      おはようございます♪

      楽しみですね〜
      ヒボさん…早く読んでほしいなぁ(笑)
      (⁎⁍̴̛ᴗ⁍̴̛⁎)フフフ~
      2024/03/22
    • かなさん
      ヒボさ~ん!
      チーニャさんからもご指名入りましたよ!!

      高瀬隼子さんのこの作品と
      チーニャさんのおかげで
      秘かな楽しみができまし...
      ヒボさ~ん!
      チーニャさんからもご指名入りましたよ!!

      高瀬隼子さんのこの作品と
      チーニャさんのおかげで
      秘かな楽しみができましたっ( *´艸`)
      2024/03/22
  • 『まあ、でも、そういう時代でしょう、今』

     上記の言葉が本書の全てを表しているような、何をしても、「そこには何かしらの、その人にしか分からないものもあるんだよ、きっと」、と言われている、納得できない感じがありながらも、無理矢理納得せざるを得ない感じというか。でも、本当にそうなのかといった不満が溜まりに溜まると、途端に露わになる、人間の本性のやるせなさには、仕事という、特殊ながらも、その一生の殆どを懸けてしなければならないものから何故か発生する、自然ならざる違和感があったのも確かである。


     高瀬隼子さんの作品は初めて読んだが、とても器用な方だなと感じたのが、まずは印象深い。

     それは、芦川さんだけを得体の知れないものとして書いているわけではなく、二谷や藤に押尾さん、パートの原田さんも含めた、主要な登場人物全てを、そうした闇の部分も含めて書いている点に、改めて、人間なんてというよりは、やはり人間って、みんなそうなんだねといった安心感を抱いたのは、私だけだろうか。

     実際にその職場にいたら、こうは思えないのかもしれないが、私も似たような職場にいた事があるので、その『空気を読んで感動してみせるしかない』といった、本来あるはずが無いのに、手作りのお菓子を食べる時のマナーのような、時には自分の意思とは反した言動をしなければならない状況の発生する職場というのは、いくら生活させてもらっているとはいえ、何かおかしいと感じさせるのも、確かな気がしてならない。

     しかし、そう感じさせる要因の一つとして、本書の言葉を借りると、『誰でもみんな自分の働き方が正しいと思っている』ことがあるように、そこには人それぞれによって、解釈の仕方の異なる部分もあるのではないかと思い、上記の手作りのお菓子にしても、芦川さんの普段の仕事へのそれがあることがプラスされるから、そのような印象を抱くのであって、そうでなければ、好き嫌いはあるにしても、作ってくれた事への感謝は言った方がいいのではといった、そうした人に対する思いやりが、仕事の上では欠けやすいのかもなんて思ったりもしたが、反対に時にはそうした気持ちを無くさせるものがあるのも確かだと思い、そこには、中々自分の本性を表に出せない、職場という閉塞感の漂う本音と建て前が同居した共同体として、辛いのは自分だけではなく皆そうだからと、自分を押し殺さざるを得ない状況も、きっとあるのだと思う。

     そして、そんな状況だから、仕方ないよねというわけでは決して無いのだろうけれども、そうした状況の中で展開される、それぞれの闇の部分に共感めいたやるせなさを感じたのも確かであった。

     それは、二谷の、現在の職場で本音を隠しながら上手いことやっているその裏には、『本当は文学部に行きたかった』という思いとは裏腹に『男で文学部なんて就職できない』という言葉を真に受けて、経済学部に入ったが、実際には彼の職場に文学部出身の男もいたことから、『おれは好きなことより、うまくやれそうな人生を選んだんだな』と自己嫌悪とも思える、その言葉には、まるで若いときのたった一度の選択が、現在の彼に反映され続けているかのような、変わりたくても変われない、いくら抜け出したくても囚われたままの姿があり、そこに感じられた、彼の持って生まれた部分の普遍性に、世の不条理さを垣間見たような気がした。

     また、押尾さんに至っては、『ほほ笑んで言ったというよりは、その言葉を言うために唇を動かしたら目じりや頬も一緒に動いた、という感じのほほ笑み方だった』という、本書のタイトルに最も合致しそうな気持ちになりながらも、その末路は複雑なものであったりと、食事が先にあるというよりは、その仕事に於ける鬱屈した不満ややるせない思いを、食事というフィルターを通すことで、どのように反映され変化していくのかを物語っているようにも思われた。

     けれども、その結果には、心の奥底で残り火のように燻りながら、今日まで何とかやってきたのに、時に現実は容赦なく冷たい仕打ちを与えてくる、そんな点に、それぞれの感じ方は異なっていても、その場にはいない読み手が、客観的に眺めることで感じられる平等性はあるのかなと思い、あの芦川さんにしても、その人生に於いて、誰からも下に見られているような立場にあったりする上に、しかもそれが人間だけで無いのは、ある意味、最も切なく、更に終盤のあの言葉には内心グサリと突き刺さるものも、きっとあったのだろうと思われた、そんな非情な平等性が。

     だからなのだろう、本書には矛盾したものを求める描写もあり、『あの偽物の真剣さがほしかった』や、『かわいそうなものは、かわいければかわいいほど虐げられる』は、まだしも、『お腹が減らなければ何も食べなくていいのに、お腹が空くから何か食べなければいけない』に至っては、もはや禅問答に近い、哲学的な領域にまで達してしまったのには、いったい何がそうさせたのかと、そこにあるのは一種の狂気性にも近く、これは仕事がそうさせたのか、食事がそうさせたのかというと、おそらく両方であり、彼自身の行動自体が既に矛盾に充ち満ちている、その陰には、そうした非情な平等性が無意識に彼自身を支配しているようにも思われた、ゆっくりと確実に人が壊れていく怖さがあったが、決して他人事とは思えない。何故ならば、正当な答えを求めても、まともに返ってきやしない、そんな状況は確かに世の中に存在するのだから。

     そう考えると、本書は、日本に於ける仕事の問題点や闇の部分、それとも、そうした環境で生まれるであろう人間の怖さを訴えたかったのか、おそらく、それに関しては、本書のどの部分に共感するのかで変わってくるとは思ったが、あくまでも仕事を起因としているのは確かではないかと思い、仕事があるから、人はこうなってしまうというのは、何か言い訳めいて聞こえそうな気もするが、そこには、日本人特有の文化や伝統に根ざした固定観念や価値観、多様性とが混在した、現在ならではの複雑な問題もあり、だからこそ、やっかいなんだと思う。

     そんな思いに達すると、改めて、そのタイトルには切実な願いが込められているようにも感じられ、それが、小林千秋さんのシンプルな装画と合わさると、却って、その鍋に映る人影のやるせなさが、殊更に強調されるようで、なんだか切なくなるが、そこに宿るのが、おそらくあの人なのだろうと思うと、今度はそのシンプルさが、得体の知れない闇の部分を浮かび上がらせているようにも見えた、その両極端に捉えられる構図には、誰しもが持つ人間の複雑さと怖さを垣間見たようで、つい見入ってしまう素晴らしさ。

     それとは対照的に、どうしても分からなかったのが、名久井直子さんの装幀であり、その、まるで有名な洋菓子店の包装を模したような、凹凸感のあるザラザラしたオシャレな見返しから透けて見える、別丁扉と、それぞれが異なる紙質の拘りには、まるで彼女のような、下心なのか素なのか判明し難いものが見え隠れして怖いものを感じつつも、心を真っ新にして捉えれば、その豪華さは、そのままタイトルの願いに優しく寄り添ってくれているようにも思えてきて、ならば、きっと後者なのだろうと、たとえ根拠が薄くとも、強引であろうとも、そこは信じたい気持ちを抱きたくなる私がいたのであった。

  • 読後何だかモヤモヤ、すっきりはしないなぁというのが個人的な感想です。食を通して今という時代を反映している所はドキッとしました。

    食べるのは生きるためだけ、おいしいもの健康に良いものに頓着せず夜中にカップ麺を流しこむニ谷。
    人と「おいしい」を共有しながら食べるのが苦手な押尾さん。仕事するよりもおいしい料理、菓子作りに邁進する芦川さん。この3人、ほんと現代風。

  •  「不公平感」が生み出す不満や「価値観の相違」からくる不快感。それらが人間関係にもたらす軋轢と捻じれを描くヒューマンドラマ。

     物語は若手男性社員の二谷と、同僚で若手女性社員の押尾の視点から交互に描かれる。第167回芥川賞受賞作。
             ◇
     若手社員が参加して開かれた社外研修会の帰り道。二谷は押尾を誘って居酒屋に寄った。入社7年目の二谷と5年目の押尾。ともに独身だ。
     ご飯のおかずのような料理を注文し、やたらビールのおかわりをする二谷をおもしろがっていた押尾だったが、酔いが回ってくるにつれ不満を口にしだした。

     押尾の不満の原因となっているのが、隣席に座る芦川という女性の存在だ。
     芦川さんは入社6年目だが、仕事ができる人ではない。特に精神的に負荷のかかることはできない。無理をすれば伏せってしまう。だから自然、少し責任の重い仕事は後輩の押尾がカバーすることになる。

     芦川さんは前の職場での人間関係でメンタルを傷めたとかで同情はする。するけれど、自身へのハードルを低く設定したままの芦川さんに対しても、芦川さんへの「配慮」を暗黙の了解事項にしている直接の上司をはじめ部署内の空気に対しても、押尾は納得できないと言うのだった。

     やがて適度に酔いが回った押尾は、自分の不満を頷きながら聞いてくれる二谷にこんな企みを持ちかけた。
     「わたしと一緒に、芦川さんにいじわるしませんか」

         * * * * *

     作品の中心人物は3人の若手社員。二谷(7年目 )と押尾(5年目 )という主人公の男女2人。それに「芦川さん」という1人だけ「さん」付けで記される入社6年目の女性です。

    二谷は30歳前の男性で、この春に東北支店から埼玉支店に転勤してきたばかり。人当たりがよく仕事もそつなくこなす有望株です。
    押尾は20代半ばの女性で、仕事を的確にこなせる高い処理能力を有しています。
     2人とも一定以上の規模の会社なら必ずいる、優秀な若手社員と言えるでしょう。

     実はこの2人、どちらも「食」に関して問題を抱えてはいるのですが、普通はそんな問題など仕事には差し支えないもので、二谷も押尾も職場にとっては仕事のできる使い勝手のいい社員のはずでした。
     なのに「芦川さん」というキーパーソンの登場で、2人の会社勤めが大きく揺らぎ出すことになるのです。

     そのキーパーソンの「芦川さん」。清楚で可憐な雰囲気を持ち、柔和で控えめな性格。繊細そうでありながらも殊勝な言動は好意的に受け止められるという、いわゆる「守ってあげたくなる」女性です。特に目上や年上の人の保護本能をくすぐるタイプと言えるでしょう。
     そんな芦川さんの趣味プラス特技は「料理」です。この1点が二谷・押尾の嫌悪感を刺激することになり、芦川さんへの陰湿な「いじわる」へと発展していきます。

     高瀬隼子さんの作品を読むのは、『水たまりで息をする』に続いて2作目ですが、どちらの主要登場人物も人間的に少し歪みがあり、それが悪い目に出てしまう展開も同様でした。
     その人物像にモヤモヤするのは「なに、これ ⁉」と感じるような奇異な展開になるにも関わらず、「でも、こういう人は確かにいる」と思える人物設定になっているからです。

     『水たまりで〜』の主要人物の2人。

     主人公の衣津実は、幼い頃から見守るだけの人でした。
     水たまりに打ち上げられた魚を保護して家の水槽で飼ってやるけれど、水を替えてやるなどのケアはしません。やがてエサやりさえ親まかせになります。
     なのに、水が濁って中の見えない水槽で棲息する魚の存在を感じるということは続けているのです。このスタンスは、夫に対しても変わりませんでした。

     夫の研志は、誰かに負の感情をぶつけることができない心優しき人でした。
     性格的に向いていない営業職、うだつの上がらぬ成績で居心地も悪かったはず。なのに妻にさえ愚痴ったり八つ当たりしたりできない。自分を侮り頭から水をぶっかけた後輩にも怒りを見せず、水を嫌いになることでストレスに耐えようとするのです。

     読んでいるこちらが病みそうな設定ですが、こんな人たち、現実にいるはずがないとは思えない。


     本作の3人もそうです。

     芦川さんタイプはいます。闘争心がないところは研志と同じですが、弱者なりの身の処し方、いわゆる防御本能は身につけています。できないものはできないと割り切り、得意なフィールドでのみ勝負しようとします。

     二谷タイプもいそうです。仕事も人付き合いも如才なくこなす。
     ただ「食」に対する思い入れがなく、栄養面を考えることはおろか、味わうことすら面倒だと感じてしまう。そしてカップ麺のような濃い味のものを食べ、ビールを際限なく飲み、満腹感を味わえればそれでよしと思う。だから、恋人付き合いをしている芦川さんが心尽くしの手料理をごちそうしてくれるのが鬱陶しくて仕方ない。
     私には理解できませんが、食べられれば何でもいいという人は確かにいました。

     押尾タイプもいます。個人のスキルを上げることで仕事を次々と片付けていきますが、別の仕事が回されてきたりします。それでも淡々とこなしはしますが、フラストレーションを溜め込むのです。
     「食」については、雰囲気や感想等を大勢の人と共有することに嫌悪感を感じてしまう。食べることは好きなので、好きな人や気の合う人とならいいのですが、宴会などの場で食事を楽しむことはできないという閉鎖的な面があります。
     だから、芦川さんが ( 弁当を持ってきているのを言わずに ) 部署内でランチに出かけて楽しそうにしていたり、手作りスイーツをオフィス内で配っているのが気に食わない。さらにはスイーツをもらった人たちが美味しいと言って和気あいあいと食べているのも気に障るのです。

     どちらかと言うと自分も大勢が苦手な押尾タイプなので読んでドキッとしました。
    ( でも、人にイジワルしたりはしません。念のため…… )

     こういうモヤモヤが高瀬さんの作風なのかなあと、本作を読んで感じました。


     二谷や押尾が実行した「いじわる」はやりすぎだと思うし、芦川さん親衛隊に押尾が吊るし上げにあったのも自業自得だと思います。 ( 食べ物を見せしめのように捨てるという時点で人間失格です )

     ただ二谷は人間的に許せない。芦川さんと交際中であるのにあの卑劣さ。妹にまで看破されていたあの幼稚性と器の小ささ。 
     押尾が1人で罪を被ってくれたので1年での異動で済みましたが、芦川さんと結婚しそうなエンディング、おいしい ( と思って ) ごはんが食べられる ( ようになる ) かなあとぼんやり考えているところには、呆れるばかりでした。

     
     高瀬さん独特の、軽くサラッとしたタッチなのにモヤモヤ感満載のテイストで、いろいろ考えてしまう作品でした。

  • 短編と思えるほど、あっという間に読み終わる。芥川賞というだけあって、何ともスッキリしない感じ。
    二谷と押尾という会社の男女の同僚で、二人の視点で書かれているのが分かりにくい。先まで読んで、あ、こっちの人かという感じ。また二人の性格や関係も難解。一人の女性に反発し合いながらも付き合ったりとか。
    タイトルは美味しい料理のイメージながら、どんどん不味い食事になって行く。彼女の作ったお菓子を捨て、駄目だと言われるジャンクフードをムキになって食べる。
    終わり方も不思議な終わり方。皆んな、あれでハッピーということなのだろうか?

  • netgalleyにて読了

    タイトルとは裏腹に、胃の底の辺りがゾワゾワするような小説。
    読むことをやめてしまいたいのに、手はページをスクロールし続ける。

    なんだろう、この感覚は?
    「おいしいごはん」それは時間も愛情も込められた出来立ての、湯気が上がるような暖かいもの。
    誰もが求めるホッとするひと時…であるはずなのに…。

    誰もが求める、健全で健康的な生活。
    しかし、ほぼ全ての社員が不健全な労働を強いられる中で、1人だけ悪気なく健全な労働を実行すれば、それはある種の憎悪の対象になる。
    憎悪だけならばある意味対処しやすいのかもしれないが、この小説の主人公二谷は、無自覚のうちに羨望を抱いている。

    定時で上がることは、権利であり当たり前、正しいことのはずなのに、大多数がそれに与れない場では、あたかも不正を働いているように見えてしまう。

    読み手は一番誰に共感するのだろうか?
    二谷か?押尾か?芦川か?

    一つだけ引っかかるところがあった。
    パートの存在だ。
    パートのおばちゃんは芦川の味方だったが、今時のおばちゃんはそうだろうか?
    おそらく私と同世代、私だったら押尾を応援したくなる。
    2021.4.21

    • naonaonao16gさん
      ロニコさん

      パートのおばちゃん、もうちょっと一癖ほしかったかもしれません!!

      あと、結局残業は仕事ができる独身に集中するのが納得いかない...
      ロニコさん

      パートのおばちゃん、もうちょっと一癖ほしかったかもしれません!!

      あと、結局残業は仕事ができる独身に集中するのが納得いかない、と思いつつ、そこで「できる」と言ってしまう独身も罪深いなとロニコさんのレビュー拝見して思いました。
      2023/04/17
    • ロニコさん
      naonaoさん

      お久しぶりです。
      コメントをありがとうございます^_^

      naonaoさんのレビューも頷きながら拝読致しましたよ!
      そう...
      naonaoさん

      お久しぶりです。
      コメントをありがとうございます^_^

      naonaoさんのレビューも頷きながら拝読致しましたよ!
      そうでしょそうでしょ、naonaoさんは押尾系でしょう!と思いながら。

      この小説では、パートのおばちゃんはことを助長するための存在なので、あの感じで仕方ないのかなぁ…と思いましたが、おばちゃんってもっと洞察力あるんだよ〜とチラッと言いたくなりましたね-_-

      年齢層によって読む角度が変わる小説なのかもしれませんね。

      これからもnaonaoさんのレビューを楽しみにしてます!
      2023/04/30
    • naonaonao16gさん
      ロニコさん

      わー!お久しぶりです!!
      お返事ありがとうございます!!
      お元気ですか??
      レビュー見に来て下さりありがとうございます!!

      ...
      ロニコさん

      わー!お久しぶりです!!
      お返事ありがとうございます!!
      お元気ですか??
      レビュー見に来て下さりありがとうございます!!

      押尾系のわたし、実は転職しまして明日から新しい職場になるのでドキドキしております(眠れない)
      変わった人に出会ったらこの作品のことを思い出してみようと思います笑

      パートのおばちゃん、こういう風ではなくても、職場に流れとか空気とか作っちゃう人っていますよね…それが良き方向(押尾さんの味方になるような雰囲気)にいけばいいのだけれど、芦川さん寄りになっちゃうと辛いですよねー

      改めてコメントありがとうございました!
      また是非よろしくお願いします^^
      2023/04/30
  • 今年読んだ本で一番面白かったかも!
    この窮屈な時代に、みんなぼんやり感じてるけど口に出せないようなことを、くっきり言語化してるのがほんとにすごい。
    M-1でウエストランドが圧巻の優勝をした時も思ったけど、人を傷つけないコンプライアンスの時代の揺り戻しがきている気がする。

    芦川さんは、体調を崩して早退しがちで、でも気遣いができて可愛いので、なんとなくみんなに許されている。
    それに対して、押尾さんは
    「体調が悪いなら帰るべきで、元気な人が仕事をすればいいと言うけれど、それって限られた回数で、お互いさまの時だけ頷けるルールのはずだ。結局我慢する人とできる人とで世界がまわっていく。」
    と感じる。
    芦川さんはだんだん休むお詫びにスウィーツを作ってくるようになるが、もちろん押尾さんはよりイライラする。

    でも芦川さんは私は仕事は苦手で体は弱いけど、別のところでみんなの役に立っている、ときっと思っているのだろう。
    完全に押尾さんとは、自分の中で設定しているルールが違うのだ。
    それと、精一杯努力した、我慢した、と思えるレベルが全然違うんじゃないかと思う。そこを揃えるのは、各自の育ち方や体の強さの問題もあるし、なかなか難しい。

    そして、多様性の時代では、
    「正しいか正しくないかの勝負に見せかけた、強いか弱いかを比べる戦い」になり、
    「当然、弱い方が勝」つのだ。
    多様性っていいことだという文脈でばかり言われるけど、いろいろな人が同じ職場で働くって、やっぱり簡単なことじゃない。

    二谷さんのパートでは、徹底して芦川さんの作るごはん、スウィーツが否定され続ける。
    二谷さんがおいしいごはんを食べるのが嫌いなのは、体によくておいしい手作りのごはんをどんな時も食べるのが幸せ、男の子は友達といっぱい食べれれば幸せ、おとなしくて家庭的な女の子と結婚するのが幸せ、というような固定概念に違和感を感じているのに、うまく日常を過ごすためにそういう価値観に沿っている自分が嫌いだからかもしれない。

    あと、押尾さんが
    「力強く生きていくために、みんなで食べるごはんがおいしいって感じる能力は、必要じゃない気がして」
    と言うセリフが印象的だった。
    ネット環境やテレワークが発達し、コロナの影響で給食まであまりおしゃべりしないように、となっている現代、本当にそうなのかもしれない。

    これからどんどんいろいろな価値観の後輩が入ってくる中で、どうやったらみんなを尊重できるのだろう。
    対話しかないとは思うけど、自分とはすごくルールの違う人を、ちゃんと理解できるのだろうか。
    すごく考えさせられる作品だった。

    • 111108さん
      ロッキーさん、akikobbさん、こんばんは。

      しつこくコメント返しちゃいます♪

      押尾さんが二谷さんをぶん殴らなかった!ところ、akik...
      ロッキーさん、akikobbさん、こんばんは。

      しつこくコメント返しちゃいます♪

      押尾さんが二谷さんをぶん殴らなかった!ところ、akikobbさんがロッキーさんの引用箇所でうなづかれたところもそうですが、押尾さんって「共感」とか信用してないんだろうなと思いました。「こうするのが一番いい」とか「普通こうでしょ」とか決めてかかる人と距離を置きたがってるような。そういう風に思わないことをいちいち主張しない。個人主義の先鋒的な感じでいいかどうかわからないけど、私はこんな押尾さん好きです。自分はこんな風にカラッとできませんが。

      あと、二谷さんがこのまま芦川さんと結婚したらゾッとしますが、案外世の中そういう夫婦多いかもなと思いました。おしどり夫婦風でありながら腹の中は‥みたいな。

      『おいしいごはんが〜』読書会楽しいです♪
      2023/01/05
    • akikobbさん
      こんばんは、ご返信ありがとうございます♪

      押尾さん(や他の主要登場人物)は他人にあまり干渉しない、というお二人のコメントから、二谷を殴りた...
      こんばんは、ご返信ありがとうございます♪

      押尾さん(や他の主要登場人物)は他人にあまり干渉しない、というお二人のコメントから、二谷を殴りたかったのは単に私の感情で(^_^;)、作中の押尾さんの身の振り方としてはあれがしっくりくる気がしてきました。
      『「共感」とか信用してない』という111108さんの表現も、なかなかのパワーワードっすね!

      あの二人の結婚は…こわい…
      2023/01/05
    • ロッキーさん
      111108さん
      押尾さんは「こうするのが一番いい」とか「普通こうでしょ」とか決めてかかる人と距離を置きたがってるよう、という考察、なるほど...
      111108さん
      押尾さんは「こうするのが一番いい」とか「普通こうでしょ」とか決めてかかる人と距離を置きたがってるよう、という考察、なるほど…!!すごく面白い〜
      押尾さんと二谷さんの間でもルールが違う中で、安易に二谷さんにつっかかっていかない押尾さん、ある意味優しかったのかもしれませんね。

      akikobbさん
      なんやかんや言いつつも、わたしももし押尾さんの立場だったら、二谷さんにはブチ切れです笑
      akikoさんのレビューもめちゃ面白かったです、仕事の後ゆっくりコメントさせていただきますね!

      『おいしいごはんが〜』読書、お二人のおかげで三倍楽しくなりましたー!本当にありがとうございます♡
      2023/01/06
  • 芥川賞(候補作含む)って結構おもしろいのだなって改めて思った。
    第166回(2021年下半期)ものだと『ブラックボックス』とか『school girl』とか読んだけど、ミステリ脳・エンタメ能の自分には高尚すぎるかなと思いつつも、中々に没入できる作品ばかり。
    今後も読まず嫌いせずに時々チェックしてみようと思った。

    さて、本作はとある職場の人間関係を綴ったもの。
    物語的には悪意のある嫌がらせをちょっとやり過ぎちゃった人物が退場することで決着がつくような話なのだけれど、それはもう予定調和で、その過程が面白い。
    というか読ませる。

    もうこの職場に居る人、全員が好きになれないのだ(押尾さんですら)。
    あぁ確かにこういう人いるなぁ、この人のこういう部分何か嫌だなぁと思わせる。
    でも100%嫌いかというと、やっぱりいい部分もあって、完全にシャットアウトできないし、していたら仕事にならないから折り合いをつけてやっていくしかない。

    たぶん、好きになれない理由は自分のルール・ポリシーと違う生き方をしているから。
    それはある意味「自分の生き方が一番正しいのに」という傲慢さからくるものだとも気付かせられ、ちょっと胸が痛む。

    また、それが現実世界の職場で感じていること(Aの技術的な知識をひけらかしてマウント取ろうとしてくるとこ嫌いだ。Bの大声でゲラゲラ笑う下品な態度嫌いだ。Cの興が乗ってくると自分のことばかりキンキンまくしたててくるとこ嫌いだ。って愚痴ばかり。。。)ともリンクして、すごくリアルに感じるし、そこから抜け出す術がないことに愕然とする。
    結局どこへ行っても人とは関わらなきゃいけないし、その人は自分ではないのだから、いずれどこかしら波長の合わないところが発生するだろう。
    この話の中では芦川さんというぶりっ子さんが引き金になってごたごたが起きるのだけれど、そこで渦巻く人間模様に、そんな逃れられない日常を感じた。

    話の筋とは全然関係ないこととして、この単行本の装幀がとっても素敵で気になった。
    ナナメ格子のギンガムチェックのような柄をあしらった見返し、蝋引き加工というのでしょうか、ちょっとつやつやした透け感のある真っ黄色な扉と呼応する表紙・裏表紙のアクセント。

    文庫本や新書(主にハヤカワミステリ)のようなばかり読んでいるので、装幀というものをあまり気にしたことはなかったのだが、とてもセンスを感じたので奥付を見ると、「名久井直子」さんの名が。
    あれ、この方の名前最近どなたかのレビューで見かけた気がするけど何だったか思いだせない。。。
    でもあまりにも心打たれるデザインだったので、ググっていたらブクログのアカウントがあることに気付き、すかさずフォロー。
    装幀から追う読書もありかもなぁ。

    • 111108さん
      fukayanegiさん

      名久井直子さん、いいですよね!大好きです‼︎
      いろんなの装丁されてます。木下龍也さん『オールアラウンドユー』や穂...
      fukayanegiさん

      名久井直子さん、いいですよね!大好きです‼︎
      いろんなの装丁されてます。木下龍也さん『オールアラウンドユー』や穂村さんの『にょっ記』のデザインとか、書ききれないです!
      自分がいいなと思った本が名久井さんのだと、やっぱりねと自分の感覚を褒めたくなります。
      2023/03/21
    • fukayanegiさん
      111108さん、こんにちは

      えぇ〜!!
      あの本達も名久井さんの装丁だったのですね。
      知らずに通り過ぎてしまっていて反省です。
      これからは...
      111108さん、こんにちは

      えぇ〜!!
      あの本達も名久井さんの装丁だったのですね。
      知らずに通り過ぎてしまっていて反省です。
      これからは装丁も要チェックです!
      2023/03/21
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著者プロフィール

1988年愛媛県生まれ。東京都在住。立命館大学文学部卒業。2019年「犬のかたちをしているもの」で第43回すばる文学賞を受賞しデビュー。2022年「おいしいごはんが食べられますように」で第167回芥川賞を受賞。著書に『犬のかたちをしているもの』『水たまりで息をする』『おいしいごはんが食べられますように』『いい子のあくび』『うるさいこの音の全部』がある。

「2024年 『め生える』 で使われていた紹介文から引用しています。」

高瀬隼子の作品

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